諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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第44話 北の国から

 

 

 

 

 

『暫くよろしくお願いしますだなんて不穏な置き手紙を残すな!』

「トレーナーウマホ見ないから手紙の方が伝わるのが早いし。あ、レッドの出走登録お願いしますね。9月2週目のレート500下のやつです」

『わかったわかった。んで、今どこにいるんだ? みんな心配してるんだ、どこに居るかだけ教えてくれ』

「ああ、今盛岡駅です。そこからバスの乗り継ぎで」

『盛岡ァ?!』

「......色々ありまして。これから乗り継ぎですから切りますよ」

『わかった。んで、どこに行くんだ?』

「盛岡レース場へ」

 

 府中から電車を乗り継ぎ、新幹線に乗り換え、電車に揺られること3時間ほど。

都会の喧騒から遠く離れた東北の山奥。

そこに岩手ローカルシリーズ、盛岡レース場はある。

 

 

「中央とは大違いだ......」

 

 地方ではここ唯一だと言うダート、芝コース両方がある見慣れた風景だが、その背後や周囲に広がるのは建造物ではなく一面緑の山ばかり。周囲でかわされる言葉も訛りがひどくて聞き取りにくいし、焼き鳥も何故かやたらデカい。

 しかし、客入りについては今日ばかりは中央にも引けを取らないほどに熱気が立ち込めている。なにせ今日のメインレースはなんといっても名高いG1レース。それも話題のウマ娘が出走するとなれば尚更だ。

南部杯。正式名称を『マイルチャンピオンシップ南部杯』と言い、中央、地方の交流を目的に設置された地方G1のうちの一つであり、1着になったウマ娘には中央G1への出走権も与えられる格式あるレースだ。

 

そしてもう一つ。

『南関の帝王』アブクマポーロ『岩手の英雄』メイセイオペラ。この2人が出走することだ。

 第二のオグリキャップを発掘するために設置された今回の南部杯のような交流重賞。しかし現実を言えば上澄みと落ちこぼれ。オグリキャップのような奇跡はそう起きることもなく、開始当初は地の利を活かしたローカルらしい戦い方で何回か勝ちを拾うことがあれど、年が経てば研究が進み今では殆どがURA所属バが勝利を総なめにして()()。それに待ったをかけたのがこの2人と言うわけだ。昨年ごろから交流重賞に勝ち、そうでなくとも掲示板には残り地方の底力を見せつけたのがこの2人だ。地方中央の格差がだんだんと大きくなる中、地方所属ウマ娘として意地と根性を持ってして立ち向かい、勝鬨をあげた。

 

その2人の直接対決は何度かあった。

帝王賞とその前哨戦たる川崎記念ではアブクマポーロの勝利、場所はアブクマポーロのホームグラウンドたる大井と川崎での開催だった。しかし今度の対決はメイセイオペラのホームである盛岡レース場になる。

 

三度目の正直が叶うか、王者が実力を知らしめるか。

ローカルファンには堪らないことであると。

中央の『黄金世代』なんて比でもないほどに。

 

......と、言うのが移動中にローカルの記事を読みつつ自分なりに分析した結果だ。驚いたのは、デビュー年がちょうどフクキタルと全く同じことだった。何か良い話聞けるかもな。

 

「さて、そろそろ出走か」

 

3枠3番メイセイオペラ。

8枠12番アブクマポーロ。

 

『スタートしました、ハナを切ったのはトウヨウシアトル......』

 

 機材が古いのか、実況担当の喉の調子が悪いのか掠れた声で実況が始まった。

ゲートが開き出遅れはなく全員が一斉に飛び出した。バ群はまとまって長い向こう正面のストレートを進むが、内からいつのまにかメイセイオペラがひとり抜け出しハナを進んでいた。

 

「......」

 

そのまま3コーナーを回り最終コーナー。中央所属タイキシャーロックが競りかける中、一度も先頭を譲ることなく最終直線に入る。

 

驚くべきはその勝負勘と冷静さ。脚質は先行から逃げ、最終直線で突き放すタイプ。こういったタイプは先頭付近で競りかけられてしまうと焦ってペースを乱してしまうことが多々ある。また、後続を焦らせようとして自分がかえってペースを崩すこともしばしばだ。

しかし動じず、かと言って先頭を譲らない勝負根性と勘。

 

圧倒的ではなく、すぐにどこが優れているかと分かるものではないが、強い。彼女はそのまま後続を寄せ付けず、3バ身と突き放し1番にゴール板を駆け抜けた。

 

『メイセイオペラ。彼女に会いに行くと良い』

 

「......彼女に聞けと、言うことだろうか」

 

中央所属のトレーナーバッジ。

あまり悪用したくはないが、使えるものは使わせてもらおう。

 

「すみません、良いですか?」

「はぁ、どうなされたんです?」

 

 近くにいた初老かと思われるレース場係員に胸のバッジを見せ、こう言った。

 

「私、中央所属のトレーナーなのですが......メイセイオペラに会うことは可能でしょうか?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ウイニングライブも終わりひと段落したところで、案内された控室の前に来た。なんだか緊張するな。なんてことはないただのウマ娘なんだからそこまで肩肘張らず気楽に気楽に。

 

「あどうも初めまして中央の方から来ました鏑木と言いますよろしくお願いしまへぶぅ?!」

「だ、大丈夫ですか?」

「なんたる失態......」

 

痛む鼻を抑えつつ差し伸べられた手を借りて立ち上がる。大の大人なのに緊張しちゃってもう。いつもと違うちゃんとした格好なのでしっかりと服についた汚れを払い帽子を直して、と。

 

「改めてご挨拶。中央所属トレーナーの鏑木です。よろしく」

「メイセイオペラです」

 

失礼だと思うが、握手をしながら彼女を観察する。中央で言えば今年でシニア級、と考えると成る程、身体付きは引けを取らないほどに仕上がっているか。トレーナーの腕がいいのか、彼女の生まれ持った才能か、おそらく後者だろう。中等部か高等部かと言われたら体格的に高等部か......?

 

「っと、トレーナーさんは?」

「取材中、すぐ来るって言ってました」

「じゃあ待たせてもらいましょうか。椅子お借りしますね」

 

よくあるパイプ椅子があったのでそれを出して座った。地方だけあってか控室といえばそこまで広くないし、鏡や荷物置き場の数からして何人かで共同で使っているのだろうか。またダート競争が多いからか、床も若干砂っぽい。

 

「......」

「......」

 

 というより、そんなことでも考えてないと沈黙が痛い。なにせこちらから『知り合いに会いに行けと言われて』といっても見ず知らずの他人だろうし、何よりずっとコッチを凝視するもんだからなんというか怖いんですよ。

 

「いやあすいません遅くなりましたぁ! と、何か......?」

「た、助かりました」

「何が......とは?」

「いえこちらの話ですなんでもありません!」

 

それはさておき。

 

「中央から来ました鏑木です」

「これはどうも、水沢所属の佐々木部です」

「いえいえそんな畏まらなくとも、私はまだトレーナー歴2年の新人ですから遠慮なさらず!」

 

深々と頭を下げられると困ってしまう、というか佐々木部?

確かトレーナーの名前は別だったはず、私のようにサブトレなのかな。

 

「あの、申し訳ないんですけど。彼女のメインのトレーナーは確か小寺さんという方とお聞きしてるんですがどちらにいらっしゃるのでしょうか。そちらからもいろいろと話を伺いたいのですけれど」

「小寺はいない」

「いない、今日はここにはいらっしゃらないと?」

「いえ、亡くなっているんです」

「それは、すみません」

 

辛いことを聞いてしまったと慌てて頭を下げると、佐々木部さんが慌てたように、

 

「いえ、もう1年以上前のことですし気にしないでください。それに東京の方からわざわざ観戦にいらしてくださったのでしょう、ありがとうございます」

「いえいえいえいえただ友人に勧められて! ローカルにすごいウマ娘がいると! 今回初めて直に観させてもらって実感しましたよ!」

「そうですか、それは良かったです」

 

それを言った途端に俯いてしまった佐々木部さん。とてつもなく深刻な顔をしているが、まさか。

 

「私スカウトじゃないですよ。メイセイオペラさんをどうこうというわけじゃなく本当に個人的な用事で」

「それは良かった......」

 

 安心したように胸を撫で下ろす佐々木部さん。やはりこれだけの戦績を残したウマ娘、中央移籍の声がいつかかるかと不安だったのだろう。オグリキャップの時は急な引き抜きだとか中央の暴挙だとか新聞で散々叩かれたし、そのイメージが強いのだろうて。あれは口下手だったルドルフが全部悪いし......

 

さて、本題だ。

 

「個人的というか、相談事があってという話なんです。

私の担当するウマ娘を地方に移籍させなければならないという状況にありまして、何かいい情報はないかと友人に聞いたところ『メイセイオペラ』彼女に会いに行けと、ということなんです」

「なるほど、つまり担当ウマ娘をこちらに移籍させて欲しいと言うことでしょうか?」

「まだ岩手トレセンの方は詳しくないのですが、ゆくゆくは」

 

 アイツは地方トレセンの例としてここを挙げたという可能性は絶対にない。交通の利便性だけでいえば南関東のどこかに移籍を勧めるはずだ。あそこは中央移籍を多く受け入れてるし、距離も近い。元クラスメイトと会いやすいということもありメンタルケアの面からも優れている。

 それを差し引いても、勧めた理由があるはずだ。アイツの言葉に間違いはない。昔のように頼ることにはなるのは癪だが、言葉は信じられる。

 

 「......いえ、彼女1人の担当で手一杯ということであれば他のトレーナーさんを紹介していただければ大丈夫ですので、何もそこまで悩まずとも」

 

 

 

 

「鏑木さん。それは少し難しいかもしれません」

 

 

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