「難しいってそんな、受け入れ自体は問題なくできるはずでしょう」
「ええ、受け入れることは簡単です。規則ですから......ですが、あまりお勧めはしません」
「それは一体なぜなんです?」
「......ユキノビジン、と言うウマ娘をご存知でしょうか?」
「ユキノビジン。数年前に騒がれた、確か岩手出身の」
「ええ。実は私の担当だったんですよ」
あまり聞かない名前だが、新聞で騒がれたことは覚えている。デビューからジュニア級を岩手で過ごしクラシックから中央転籍。桜花賞、オークスでは2着に食い下がった重賞ウマ娘として......結局どうなったんだかは知らない。
「学園祭のたびに岩手の名物を売るからって張り切っていて、たまに連絡も来ています」
「そうなんですか。それで、彼女が何か?」
「......長い間、怪我で療養中なんです。レース後に骨折が判明して以来、1度も出走登録も行えていないと今の彼女の担当トレーナーから聞いています」
「は、はぁ」
相槌をうってはいるものの全くもって話が見えてこない。ユキノビジンと受け入れを勧めない理由になんの関連性があるのかさっぱりだ。
「元々頑丈な脚でないことは共有していましたし、中央で勝つのであればそれなりに代償を支払うことは覚悟していました。彼女も納得していますしもうすぐレースに復帰できると聞いています。
ですが、周りはそうは思いませんでした」
「......」
「中央では過酷なトレーニングがなされていると。その結果私達のユキノビジンは
「そんなことありません!」
「ですがここではそう思われているのです」
「っ......」
「中央の試験に落ちたウマ娘も少なからずいます。それはトレーナーも同じです。だからこそ中央に対する負の感情というのは少なからずありました。その結果ユキノビジンの怪我療養以降それが悪い方向に作用してしまい」
「今の現状があると」
「お恥ずかしながら」
申し訳なさそうに頭を下げられてもどうしようもない。訳がわからない。中央も地方も同じくレースの舞台には変わりない。なのに、どうしてこうも......
「最近から行われている交流重賞の影響もあるかもしれません。中央所属のウマ娘たちが、今までは我々のものだったレースで勝利している......中央との実力格差に奮起するウマ娘も多いですが、ほとんどはあまり良い感情を持ってはいません。
我々の領域に土足で踏み込んでくるような行為だと、私自身思ったことはあります。
今はオペラや大井のアブクマポーロが活躍して収まりを見せてはいますが、そこに油を注ぎ込むような行為はやめておいた方がいいかと」
中央と地方との格差というのは理解していたつもりだった。しかし、そこに薄暗い感情が付随しないはずがないというのは流石に私の想像力が足りなさすぎだ。
「......せめて、せめてウチの子の走りを見ては貰えませんか?」
スマホを取り出し、この一言を絞り出すだけで、精一杯だった。
折角だからという事で、山裾にあると言う盛岡トレセン学園の方に案内してもらうことになった。ここは水沢トレセン学園とも提携しており、お互い所属が違うとしても施設を利用できるそうだ。
「地方ですから、お互い助け合いです」
とは佐々木部トレーナーの言葉だ。
......どうして中央だけ学校がひとつなんだろうか。折角だから関東と関西で分ければ良いのにと思ってしまったが、トレーナー養成学校の方が関西だったな。色々あるんだろう。
「視聴覚室はこちらです。AV機器などはありますので、DVDなどがあればプロジェクターで見られますよ」
「すみませんウマホの映像なんですけど」
「あら、じゃあ対応してませんね」
「そろそろ賞金で新しいの寄付しようかな......」
メイセイオペラが不満げにぼやくように、校内は年季が入っていて機材もまた同様に古臭い。来る途中に眺めていた練習風景も機材が古かったりサビの目立つ練習用発バ機は油の差しが悪いのか動きも悪かった。
「言い方は悪いですけど、設備かなりボロボロですね」
「買い換えるお金もないですからね。地方はどこも似たようなものですよ」
「は、はぁ......」
「映せないという事でしたら、大人しくウマホでみましょうか」
諦めたように笑う佐々木部さんの言葉に従う事になりそうだ。ウマホの画面を横になるようにして佐々木部さんに見せようとすると。
「君も見るのかい?」
「中央のレースは見たことがない。楽しみだ」
「ええ......?」
なんつー無頓着な。帝王賞だって中央勢の対策をするなら見るはずだし、そもそも中央開催のレースなんだぞ。向上心がないはずないのに中央のレースを見ないなんておかしい、という疑問は胸の内に秘めつつ画面を操作していく。
「とりあえず先日の未勝利戦。あとは5月のが2本ですね。先日のはダート1700。その前のが芝2200、2400です」
「両方走れるのか、すごいな。私は芝は苦手だ」
「バ場を苦にしないのはある種才能なんですけどね。中央でも芝専門のウマ娘は多いですから。あ、そろそろ流しますよ」
お互いほぼ何もいうこともなく、3本のレース動画を見終えた。時折ゼッケン何番が担当しているウマ娘である、とか3ハロンのタイムなどは伝えたが、佐々木部さんは何も言うこともなくジッとレース動画を見ていた。
「確かに実力としてはあまり目を見張るものはありませんね。ただ楽しそうに走るのは良いところです」
「でしょう? 終わった後も次のレースはいつだと催促してくれるかわいい子なんです。自慢の担当っ子ですよ」
「......そうですか」
悩んでいる佐々木部さん。もしレッドが地方で走るとしたらどれくらいの位置にいるのか考えているのだろうか。私としては今日の南部杯は出走条件を満たしても出走するかは五分だな。メイセイオペラや中央勢に届く実力はない。
「佐々木部、取ろう」
「オペラが言うなら取ろうか」
「......はい?」
「レッドキングダムちゃん、ウチで預からせてください」
「はいい?!」
急転直下、天地鳴動。
シンボリルドルフがいたのならそんなこと言うんだろうなあ、なんて意味不明なことしか思い浮かばなかった。