諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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第46話 ターニングポイント

 

 

 

「話が二転三転としすぎです佐々木部さん。来るなと言われたり来てくれと言われたり、結局どっちなんですか」

「こちらも態度をコロコロと変えてしまっているようで申し訳ないです。ですが、オペラが言うなら間違いはありませんよ」

「メイセイオペラが?」

「ええ」

「スゴイだろう」

 

 ふふんと少し自慢げに胸を張るオペラの頭を撫でながら、佐々木部さんは話し始めた。

 

「彼女にはトレーナーとしての才能があるんです。我々のように何をどう鍛えたらいいか、と言うのは別ですがね」

「才能、ですか」

「ええ。わかりやすく言えば『観察眼』、それが非常に優れているらしいんです。先代が彼女を見出したのもその目を見抜いたからなんですよ」

「観察眼......」

「何か?」

「今日のレース運びが上手かったので。これで腑に落ちました」

 

 観察眼がどれほどのものというわけでもないが、ウマ娘の観察眼といえば同じレースを走るウマ娘の様子からその力量、スタミナ残量やクセを推し量ることができることを指す。トレーナーもウマ娘の走りを見てその癖やスタイル、スタミナ量を見極めるわけだから確かに才能があると言ってもいい。優秀なウマ娘が優秀なトレーナーになるとは限らないが、優秀なトレーナーであれば優秀なウマ娘にはなれるだろう。メイセイオペラはトレーナーの資質があり──それ以上に幸運な事に競走バとしての才能がある。

 

「といっても、この子の場合才能のあるなしはわかるんですけどどこにどんなものがあるのか伝えるのが苦手でして」

「才能はあるぞ、ぴょんぴょんするところだ」

「確かに普段ぴょんぴょんしてますけど」

「たくさんとぶといい」

「たくさん......?」

 

ダンサーか何かになれというのだろうか。確かにダンスは上手いが、言いたいことがさっぱりとわからない。

 

「オペラの言うことはともかく、盛岡の方は地方では珍しく芝コースもありますし、他所と比べて砂も深いですからパワーもつきます。高低差も高い方ですから、レースで身体を鍛えるにはもってこいですよ」

「確かに、地方レース場の殆どが高低差が低い若しくはほぼ無いと聞きます。砂についてはダートは聞き齧ったくらいですから分かりませんが、所属するトレーナーがそう仰るなら間違いはありません」

 

佐々木部さんの言葉に頷いた。

本当なら勝つ方が望ましい。トレーナーなら、勝って欲しいと願うのが正しいんだろう。

けど、レッドの将来を考えるなら、ここがいい。

負けてもあの子が諦めないなら、勝利のための転機は必ずここにある。

ここに決めよう。

 

「うちの子を、レッドキングダムを、よろしくお願いします」

「......お力になれたようで何よりです」

 

佐々木部さんの差し出した手を、握り返す。

この握手はレッドのトレセン学園での終わりを意味している。次走は決まっているが、それに関わらず私はレッドを地方に送るつもりだ。残酷だと言われてしまうかもしれない。けど、これが最善の選択だったと胸を張るのがトレーナーとしての役目だ。

 

そう、そうであるべきなのに。

 

「......本当なら、本当なら地方に、行かせたくはなかったんです。ずっと、最後まで一緒に走っていたかったんです」

 

胸が締め付けられる。

フクキタルに憧れて、彼女を育てた私を信じてついてきたあの子になんて残酷なことをしているのか。そんなことをさせてしまう自分が、情けない。G1を2つも勝って、トレーナーとしてもG1を獲得して栄光を手に入れたのに。

 

担当ウマ娘を怪我で将来を棒に振らせて、もうひとりは地方転籍を強いることになった。

 

「何より、スターに、勝利に憧れていたあの子に、1着を一度も取らせてやれなかった自分が、情けないです......!」

 

私はトレーナー失格だ。

 

それでも。

 

それでも前を向くことの大切さを、私は知っている。

 

唇を噛み締め、もう一方の手を握りしめる。

 

「お願いが、あります。あの子に1着を、取らせてあげてください。トレーナー失格の、情けない私の代わりに......!」

「トレーナー失格じゃないぞ、鏑木。私たちの事をこんなに想ってくれるトレーナーはいない。小野には劣るけど、いいトレーナーになれる」

「特にその思いを本人にちゃんと言えないあたりが駄目ですかね」

「......精進、します!」

 

涙は流れなかった。不器用なウマ娘が、不器用なりに私の背中を叩いてくれたから。

 

「......ありがとう、メイセイオペラ。それに佐々木部トレーナーも、ありがとうございます。

中央所属の新米トレーナーですが、何かあったら力になります」

「トレーナーは助け合いですよ」

「ウマ娘も、だぞ。ところで......」

 

 メイセイオペラは私の方、ちょうどお尻をあたり指さしてこう言った。

 

「尻尾が出ているが、隠さなくてもいいのか?」

「あ」

 

 お尻を触り、ふさふさでサラサラな毛がある事をしっかりと目視でも確認して、ゆっくりと振り向く。

......もしかして、最初っから全部?

 

「そうだぞ。ついでにいうとレース終わりからずっとだ」

「や、やらかしたっ!!!!!!!こっここのことは他言無用でお願いしますなんでもしますから!」

「アッハッハ、そこまで隠さなくても」

「私にとっては死活問題というか隠し通したいことなんですっ!」

「ウマ娘でもトレーナーになれるんだな」

「試験に通れば誰だってなれるよっ!」

「それはいい事を聞いた」

 

フンフンとうろ覚えの歌を口ずさむメイセイオペラ。やっぱり強いウマ娘というのは、どこかぬけているものなのだろうか......

 

 

「へぷちっ」

「会長、どうされました?」

「すまない、少しクシャミが......」

「えー! 会長風邪ひいたの!?」

「テイオー貴様どこに隠れているんだッ! そこは天井裏だぞ!」

「だって机の下だとすぐつまみ出されるんだもん。ここなら追いつかれないもんねー」

「この、貴様っ! ブライアン脚立を持ってこい!」

「放っておけばいいだろう」

「そういう問題ではないのだっ!」

 

 

 




と、言うわけで岩手編始まるよ
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