諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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題名変えました

インパクトって大事じゃん?


第4話 幸運を運ぶウマ娘?

 

「ムフフ、やっと、やっと出会えました!」

 

 ハイテンションに私の周りをぴょんぴょんと飛び回る栗毛のウマ娘。何を見つけたか説明もなしに跳ね回るお陰でこっちは置いていかれるばかりだ。

 

「やった、やった! これもシラオキ様のお導きのおかげです!」

「説明を要求する」

「ほえ?」

「何をどう見て私が運命の人なのか説明してくれ!」

「ムフフ......よくぞ聞いてくれました」

 

 理解不能だと白旗をあげた私に対して待ってましたと言わんばかりに耳と指を立てる栗毛のウマ娘。彼女は胸を張り誇らしいことの様に、ことのあらましを語ってくれた。

 

「トレーナーさんが実家の神社を継ぐことになり、学園をさってからはや半月。私は新しいトレーナーを探して日々学園を彷徨っていました。しかし頼み込んでも忙しい、考えておくと断られてばかり。

 しかし! 失せ物探しには神頼みが1番ですっ! それに気がついてから、毎日ここに放課後のたびお祈りに来ていたのです。そこに奇跡の様に現れた貴方っ! 自分をトレーナーだと名乗り、あまつさえ、ウマ娘をスカウトしていると来ました!

コレを天命と呼ばずしてなんと呼びましょう!

まさに貴方は運命の人、私のトレーナーになるべくして現れた、神からの御使い! かもしれない!」

「確信持ってるわけじゃないのね......」

「シラオキ様は気紛れですので!」

 

 嬉しいのか身体を左右に揺らしながらもこちらをジッと見つめる目はキラキラと輝いていて、言葉の割には私をその『運命の人』とやらと信じて疑わないのは明らかだ。

 私をトレーナーとして認めてくれるには嬉しい限りだが、実力で認めてはくれない様子だ。それを見て改めてその心境を聞こう。

 

「私はトレーナーとしてまだ新米。軽率に物事を焦るのは良くないよ」

「一目惚れとも言うじゃないですか! 前のトレーナーさんはそうでしたっ」

「私は自分にそこまで自信はないからね。それで、前のトレーナーさんはどんなことを教えてくれたの?」

「神社をきれいにすることです!」

「......はあ?」

 

 私の疑問に答えるべく彼女がどこからともなく取り出したるは、なんの変哲もない竹箒。それをバトンの様にクルクルと回しながら、ダイワスカーレットが残していった土や葉っぱを払い除ける。

 

「心の乱れはレースの乱れ、との事でしたので、毎日朝昼夕晩の4回、掃除用具を背負って石段を駆け上がり、時間をかけて綺麗にしていました、ずっと!」

「そ、それ以外は?」

「精神統一だったり、社の補修だったり。なんでもまだ実績がないとのことだったので、場所を借りるのにも苦労しました。ですので、常在これトレーニングと銘打ち、荷運びや言伝などをそれはもうたくさん!」

 

 体のいい雑用じゃないかな、という言葉を喉元で飲み込みつつどう彼女を宥めすかすかと言葉を探していると、ふとある言葉が引っかかった。

 

『毎日朝昼晩の4回、掃除用具を背負って石段を駆け上り』

......そういえばさっき、似たようなトレーニングをしていたようなウマ娘がいたような。

 

「それだっ!」

「なんと!?」

「そこなウマ娘、トレーナーになって欲しいと言うのなら少し手伝って欲しいことがあります!」

「はいっ、なんなりと!」

「あとはルドルフあたりに話を通しておけば誰かいい人材に話が回ることでしょう!」

「おおう目が輝いています、シラオキ様は正しかったんですね!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

「スカーレット。少しいいだろうか」

「エアグルーヴ先輩......?」

「昨日、何時に寝た」

 

 放課後、下校する彼女を引き止めたのは生徒会副会長のエアグルーヴだった。女帝と言わしめる圧倒的実力からなる威圧感と少し硬い雰囲気が特徴的なウマ娘だ。何故私に、と首を傾げつつ彼女は質問に慌てて答えた。

 

「12時、位ですけど」

「嘘だな。目の下のクマが隠せていないぞ」

「っ!」

「図星、か。それにフジキセキからも聞いている。ダイワスカーレット。毎晩、寮を抜け出しているようだな?」

「そ、それ......は......」

「届け出もなしの夜間外出は校則違反だ。優等生ならばわかっているはずだろう」

「......はい、すみません」

 

 消え入りそうな声で返事を返すダイワスカーレット。実際言い訳することも不可能な......もし、デビュー後であればしばらくの出走禁止も言い渡されかねないことだ。しかしエアグルーヴはため息をつくと、こう続けた。

 

「おおかた、トレーニングといったところか?」

「ど、どうしてわかるんですか?!」

「その顔、歩き方。見ればすぐにわかる。それほどに疲れているということを自覚した方がいい。これ以上無茶をすれば、取り返しのつかないことになりかねないぞ」

「......」

「まだデビュー前だ。いくら選抜レース時期とはいえ、焦る必要はない。ゆっくりと強くなっていけばいい」

「駄目なんです」

「......」

「1番じゃ、なかったから......」

 

 ゆっくりと話を始めたダイワスカーレット。エアグルーヴはそれを見て聞き手に徹することを決めたらしい。彼女に任せるまま、続きを無言で待った。

 

「アタシ......レースで、2着だったんです。目指してたのは『1番』だったのに。『1番』じゃなきゃ、いけなかったのに」

「......ターフに膝をつく瞬間は、あらゆるウマ娘に訪れる。

無敗の皇帝と謳われるシンボリルドルフ会長であっても、敗北したことがある。

挫折は悪いことではない。挫折からいかに立ち上がるかが重要だ。敗北を恐れるな」

「だけど、だけど、違ったんですっ!」

 

 ダイワスカーレットが突然声を荒げた。

 

「アタシはずっと『1番』だった。そうあるために全力を尽くして、『1番』になってきたんです!

でも、違ったんです。ここは本当に『速い』ウマ娘がいるんです。アタシのように地元で少しだけ早くて、調子に乗ってるウマ娘じゃなくて、あいつの......ウオッカのように、本当に速い子が。

ここで、1番になろうって、アタシには」

「スカーレットっ!!」

「っ!」

 

エアグルーヴが肩を掴む。そして俯きがちだった彼女の目をじっと見て、静かに告げた。

 

「言うな」

 

「......それ以上、言うな」

 

「戻れなくなるぞ」

 

エアグルーヴは、ダイワスカーレットに何を重ねているのか。

いつか競い合った......そして、折れてしまった、学園を去ってしまったウマ娘の仲間たちを重ねているのだろうか。

 

「アタシは......アタシはっ!」

 

 彼女はそれでもエアグルーヴの手を払いのけ、どこかへ走り去ってしまった。その姿を追うこともなく、エアグルーヴはその場で立ち尽くすばかり。

 背中も見えなくなったところで、彼女がこちらに振り向いた。

 

「コレでいいのか?」

「いやあ、助かりました。私じゃ警戒されてますし、一度腹を割って話す機会が欲しかったんですよね」

 

 にゅ、と茂みから顔を出す。ここの植木は校門前の広場を覗き見するにはうってつけの広さと角度であり、よく友達を冷やかすネタを掴むのに利用したものだった。一度もここの存在を話した相手はいなかったが綺麗になっている辺り、誰かが自力で見つけて使っているらしい。

 

「......彼女、かなり重症ですね。家族からも期待されているでしょうが、それ以上に自分で自分を追い込みすぎです。どうにかしたいのですが」

「いやあれは無理でしょう。どうしようもないくらいの信念の硬さです。ゆっくりと『次の1番は譲らない』なんて言える心の強さを獲得すべきだと思いますね」

「......それを自分で伝えるべきでは?」

「私には無理ですよ」

 

 木の葉を払い、立ち上がる。

私にはできない。なんせ私も彼女と同じで1番になれなくて。

そして、膝をついて、立ち上がる事が出来なかった。

 

「言ってしまいましたから」

「そうですか。では、私は仕事に戻りますので」

「すまないね」

「いえ、会長からの指名でしたから。『君なら彼女のことをよく見ているだろう?』と」

「相変わらずおっそろしい視野の広さだことで」

「それと、言付けも頼まれています」

「あら」

「『まだ、折れたままでいるつもりか』と」

 

それだけ言って、彼女は走っていった。

ウマ娘たるもの、学園内でも走るべしという校訓は昔から変わらずのままらしい。

 

「さて、最後はセッティングだけだ」

 

 

 携帯を取り出し、トレーナーさんにかける。

 

 確かに彼女の走り込みはオーバーワーク気味だ。ただ走り込みという基礎トレーニングは自分を絶対に裏切らない。万策尽きてどうしようもなくなった時に助けてくれるのは、走り込みや筋トレなどの日々の努力だ。

たった数日であれ、彼女はしっかりとそれを行なってきた。

 それを行うだけの行動力と負けん気がある。そして挫折から立ち上がったなら......それを踏み越えただけの、根性も。

なら、それを見せてやろう。

リベンジマッチと洒落込もうじゃないか。

 

「あ、トレーナーさん? ちょっとばかり話があるんだよ。

 

少しばかりレースのセッティングをお願いしたいんだ。

芝2000mで右回り。

対戦するのは、ダイワスカーレットと、ウオッカだ」

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