「スズカさんスズカさん、一緒にまわりましょう!」
「そうね。でも先にこっちからいった方が効率がいいわ」
「行くわよウオッカ!」
「おう、どっちが速く回れるか勝負だぜ!」
「んじゃマックイーンは借りてくからな」
「ちょっと、わたくしはチームの皆さんと一緒に回るんですのよ〜!」
「じゃあ僕はカイチョーのところに行こうっと」
「ハメ外しすぎんなよ〜」
三者三様、予想通りというべきかなんというか。手を取り合い、いがみ合い、連行されたりとテンでバラバラに学園祭の舞台へ散っていくスピカの面々。
「さあて、私はどうしようかな」
リギルの執事喫茶を冷やかしに行くのもいいし、屋台に行って腹ごしらえをするのも悪くない、始まってすぐはイベントも少ないしそれまでは展示を回って時間を潰すのもいいだろうか。と、歩き出そうとしたところで、
「さあ、どこに行くっすかトレーナー!」
「おやぁ?」
レッドがフンスフンスと鼻息荒く、財布を握りしめてこちらを見ていた。
「焼きそばにお好み焼き、たこ焼きイカ焼きにんじん焼き、スイーツにはたい焼きにカステラにクレープも、よりどりみどりっすよ! 何を食べましょう!」
「スペちゃんとかと回らなくていいのかい?」
「トレーナーさんと回りたいっす!」
「......しょうがないなぁ」
キラキラとした目で、ワクワクしたようの両手と財布を握りしめ、嬉しそうに尻尾を振って耳をピコピコと動かして。そこまでいうなら仕方ない。学生に戻ったみたいに、私も祭りを楽しんでみるとするか。
『あそこの屋台に飛び入りで参加しようよ、ーーー』
『何故作る側に......?』
『作りたい気分なのさ』
『あ、ちょっと!』
「いい焼き鳥の屋台があるよ。カノープスがやってるんだ」
「じゃあまずはそこに行きましょう!」
ひさしぶりの学園祭は騒がしい奴と2人で、なるほど昔に戻ったようで退屈することはなさそうだ。
「やあネイチャ、オススメは」
「おやスピカの。お客さんソイツはタダじゃあ教えられないねぇ」
「ふむ、じゃあねぎま4本で手を打とうじゃあないか」
「毎度あり。実はとり軟骨のいいのが手に入りまして。トレセン最寄り商店街精肉店のお墨付きってやつなんですよ」
「じゃあソイツを2本......塩で」
「毎度あり」
「「へっへっへっへ」」
「何してるんだろ」
「さぁ? 庶民のやりとりはよくわからないわ。とりあえずねぎま4本、軟骨が2本で......700円かしら」
「はーい」
ちょっと焦げたネギと、こんがりと焼けた鳥もも肉。そして程よく効いた塩味とコリコリとした軟骨の食感を楽しみ、
「ヘイヘイ大盛況だねぇ。たこ焼き1つ」
「おお、今朝のトレーナーはんやんけ、ひとつとは言わず2つ買うてくれや!」
「うーん、そこまでいうなら仕方ないなぁ。もうひとつ」
「毎度! 無茶聞いてくれたし、そこの腹ぺこウマ娘に免じてオマケつけといたるわ!」
「やったぁ!」
葦毛のウマ娘が焼いた外はこんがり、中はトロッと半熟で大ぶりなタコが入ったアツアツの関西風なたこ焼きに舌鼓を打ち、
「ヘイおきゃくさーん、どうしましょう!」
「ファイン先輩ちっす麺固め大盛りチャーシューマシマシ紅生姜抜きで!」
「忙しい時に面倒な注文を......!」
「じゃあ私も同じやつで。紅生姜は抜かなくていいよ」
「ふざけんなよクソトレーナーっ!」
「お客さんにそんなこと言わないの、めっ」
昔ながらの移動式屋台で、趣味でラーメンを極め始めた
「ここまで会ったが100年目、今日が年貢の納め時ぞゴルシ大名、このトレーナーバッジが目に入らぬカァ!」
「そうは問屋が下さねぇ! 啖呵が切れるんならこのゴルシ屋の焼きそばを食ってからにしなぁ!」
「じゃあ焼きそば2つ!」
「あいよぉ800円!」
「千円からぁ!」
「テンション高いねトレーナーさん」
「訳の分からないノリが伝染してますわ......」
「マックイーン、早くお釣り出せよ」
「急に正気に戻らないでくれます?!」
ゴルシのところに行って無駄な寸劇を披露しつつ焼きそばを食べた。助っ人の手伝いもあってかソースもムラにならず、具と麺にしっかりとソースが染み込んだ食べ応えのある古風な焼きそばに仕上がっていた。学祭では滅多にお目にかかれないぐらいの仕上がり具合だが、日頃から焼きそばを焼いてるゴルシには朝飯前ってか? 確かに。
そこからいくつかの屋台をめぐりって甘味やジャンクフードを食べ、高知と岩手で張り合うよくわからない地方物産展を冷やかしに行ったり、大食い選手権を見て葦毛の怪物の本気を見て恐れ慄いた。どこにあんなに入るんだマジで。
そうこうしているうちにお昼ごろ、一般の人たちも増えてきたところで時計を見たレッドがいそいそと手に持っていた食べ物を片し始めた。ぽいぽいと持っていたスチロール容器の中身を流し込み、買っていたお茶で一気に飲み込む。
「ダンス大会の準備とかあるんでここで!」
「応援に行くからね」
「だったら百万バリキっすよ! 目指せテッペン!」
デザートのチュロスを齧りながら器用に人の間を抜けて走っていってしまった。レースでやってくれれば、勝てたかもしれないというのは悪い癖かな。
「さて、フクキタルの占い部屋でも寄ってくか」
確か近所だし。
マップを思い浮かべつつ歩けばすぐだった。
『表はあっても占い』と書かれた手書き看板。怪しげな濃紺の垂れ幕で仕切られた小屋と布で仕切られた出入り口から漏れ出す仄かにオレンジ色を帯びた光。なんともセンスが古いというかおどろおどろしいというか、私なら進んで踏み入ったりはしない。
......その割には、ちょっと繁盛しているらしい。何人かの生徒やお客さんがが嬉しそうに話したりしながら小屋から出てくるのをみかけた。
「次の方どうぞ」
自信がなくて少し小さな声が小屋の中から聞こえた。フクキタルの声じゃないから件のメイショウドトウさんだろう。
「じゃ、お邪魔するよ」
「ようこそ、マチカネフクキタルの占い小屋へもぎゃーっ!?」
「ど、どうしました?」
「久しぶりに聞いたな、フクキタルのとんちきな悲鳴」
「うう、来るなら言ってくださいよう......」
驚いてどんがらがっしゃんと椅子ごとひっくり返ったフクキタルが立ち上がって座り直した。机には蝋燭を模したランプとチーム室でよく見た水晶玉やカードなどの占い道具が並んでいる。
「どうも、メイショウドトウさん」
「紹介しましょう、私のトレーナーさんですっ!」
「ど、どうも〜。メイショウドトウです〜」
猫背で自信なく腕を身体の前で抱いているウマ娘。中等部の割には体つきはがっしりしているが、体格と走れるかどうかはアテにならないのはよく知っている。......にしてもでかいなぁ、スカーレットといい年齢詐称な中等部め。
「と、ご用件はなんでしょう? 差し入れは大歓迎ですよ」
「占い以外にある?」
「......何を占いましょう」
「将来について。それと、今後の運勢も頼むよ」
「では、こちらですね。占ってしんぜましょう」
フクキタルはタロットカードを手に取り、裏向きのまま無造作に広げた。
「しっかりと混ぜてください。カードの上下もしっかりと入れ替わるように、手に念を込めながら」
いう通りにゆっくりとカードを混ぜる。しばらくしたところでやめると、フクキタルがカードを揃えて山札にした。
「では、占いましょう。トレーナーさんの将来と運勢。絞った方が正確になります。どれくらいの期間を?」
「じゃあ、ここ1年で」
「わかりました」
では、とフクキタルがタロットカードを捲った。
「
「
「
「
「そして──
意味はわからないが、フクキタルの表情を察するにあまり良い運勢ではなさそうだ。
「力の正位置。これは有言実行を求められる、強い決断を迫られるという意味になります。
大きな決断をする時が来るでしょう。
塔の逆位置。何かがダメになる、という予感があるならそれは現実になるでしょう。緊張感を保たなければいけない日々が続きます。
これには崩壊という意味も含まれていますから、何かが砕け散ってしまう、のかもしれません。
隠者の逆位置。誰かと胸の内を共有したい、感情を分かち合いたいと思っていますが、それよりも孤独を選ぼうとするでしょう。また好きだという気持ちを認められないかもしれません。
......独りよがりにならず、誰かを頼るべきでしょう。
正義の逆位置。客観的に状況を見られなくなってしまう時が来るでしょう。だからといって真剣に向き合えば余裕を失います。
二兎追うものは一兎も得ず。選択を中途半端にしてはいけません。
そして、最後の一枚。
これは今までのものを総括した、あなたの運命を示します。
運命の輪の正位置。これは大きな変化を表すものです。問題を抱えているなら、それを解決する大きなチャンスとなります。
しかし、それは一度きりです。機会は逃さぬように。
総括すると、何か大きな決断を迫られると思います。
それは貴方自身の決断であり周囲もまた同じです。
ゆめゆめ間違えることないように。後悔のない選択を」
「す、救いは〜? 救いはないんですか〜?」
「ありません。こればかりは、貴方自身が決断すべきことです」
いつのまにか伏せていた顔がゆらりとこちらを向いた。
光ない瞳が、こちらを覗き込んでくる。
「悔いなき選択を。貴方の過去とも、向き合ってください」
彼女が一枚引いて見せたのは『
「そうかい」
「っと、すみません。少し眠くなってしまって......おや、占いはしっかり出来ていたようですね!」
そう言ったがげ、と思わずカエルが潰れたような声。
「前向きなものが全くありません! お祓いにいきましょうトレーナーさん!」
「いや、大丈夫」
「とりあえずこの塩味フライドポテトでも!」
「もが」
机の下からフライドポテトを引っ張り出し私の口に押し込んできた。塩が振ってあるから塩撒いているのと一緒とでも思っているんだろうか。
「もがもが......食べ物を粗末にしない。あと、占い結果については私がよくわかってるよ」
「で、ですがこのような占い結果を見た事は初めてです。悪いようなことを予感するカードばかりですが、関連づけてしまうと幸運なものとは......」
「心当たりしかないね。元から予想できてたことだし、腹がくくれたよ」
私はジャージについた食べカスを払い、立ち上がろうと机に手をついた。
「じゃ」
「待ってくださいトレーナーさん!」
その手を、フクキタルががっちりと掴む。
「......私を置いてどこかに行ったりなんか、しませんよね?」
星のような形の虹彩がこちらをじっと見つめて、揺れていた。
『君も私を置いていくのか、私を独りにするのか!』
その瞳は、昔の誰かとよく似ていて。
『......すまない』
「そんなことは絶対にしない」
後悔は、もう沢山だ。
「最後まで見届ける。必ず」
見届けるのも、見送るのも。最後までやり遂げてみせる。
それがどんな結末になっても。
「それが、トレーナーってもんさ」
私は決意を示すように、帽子を深く被り直した。
「んじゃ、レッドの応援行ってくるよ。ゆっくり行っても間に合うけど、どうする?」
「可愛い後輩の晴れ舞台です、是非行きましょう! ドトウも行きますか?」
「お、お供しますぅ〜」
「いいね。じゃ、せっかくだし奢ってあげよう」
「おお、思わぬ幸運が転がり込んできました! これもシラオキ様のおかげ?」
「だといいですねぇ〜」
屋台で時間を潰しつつ、特設ステージへ足を運んだ。
ウイニングライブ会場は狭いが、大きな舞台でブレイクダンスを披露するレッドキングダム。キレキレのダンスを披露しながら、楽しそうに飛び跳ねる彼女の姿はレースの時よりも輝いて見えた。
審査員(リギルのオペラオーやフジキセキ)による厳正な審査の結果、優勝ということで安っぽいトロフィーを貰っていた。それを抱えて涙を流して喜ぶ姿を見て思わずにはいられない。
もし、これがレース場であったのならば。
あれが重賞トロフィーだったならば。
......結局、この夢が叶うことは無かった。
少なくとも、私の手では。