諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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G2 毎日王冠 東京レース場 1800m 芝・左 晴 良
出バ表
1枠 1番 プレストシンボリ
2枠 2番 サイレンススズカ
3枠 3番 テイエムオオアラシ
4枠 4番 エルコンドルパサー
5枠 5番 ランニングゲイル
6枠 6番 グラスワンダー
7枠 7番 サンライズフラッグ
8枠 8番 ワイルドバッハ
  9番 ビッグサンデー



第51話 10月11日 毎日王冠

 

秋の中距離、マイル戦線を占う前哨戦G2『毎日王冠』。

 

 普段ならば調子を見たりするために最大枠数12人、例年でも少なくても10人以上が出走を選ぶ中今年は異例の9人でのレース。しかし、レースに出場する面々は例年以上に豪華だ。

 

宝塚記念を勝ったサイレンススズカはもちろんのこと、

NHKマイルカップを圧勝、ダービーでスペと同着1位の熱戦を演じたエルコンドルパサー、朝日杯FS(フューチュリティステークス)をレコード勝利しその後に怪我はしたものの未だ無敗なグラスワンダー、

この三強がレースを引っ張る事になるだろう。

 

6月の鳴尾記念でエアグルーヴの3バ身差の圧勝を見せたサンライズフラッグも侮り難いし、スズカの同期で弥生賞を勝ったランニングゲイルも忘れてはいけない。そもそも9人中8人が重賞勝ちの経験があり、G2の中ではハイレベルな出走メンバーになる。

 

「私的には京都大賞典の方が気になるんだが致し方なし。金がない!」

「最近遠征に行ってないから溜まっているはずでは?」

「出費が待ってるから節約なんだ......シルクジャスティスにステイゴールド、シニア戦線を占うならあっちを見たかったんだがどうして出走時間まで丸かぶりなんだ!」

「運が悪かったな」

「恨むぞURA......!」

「そこまで言うかヨォ?」

「言う。最近レースが面白すぎるのが悪い! ファンとしては嬉しい限りだがトレーナーとしては腹立たしい!」

 

柵前で拳を震わせ不満をぶちまける。ええい、せめて土曜日にずらしてくれればいいものを!

 

「今日はスズカさんの応援ですよ!」

「まぁまぁ、落ち着いて下さいな」

「ごめんごめん」

「むー」

『今日の東京レース場、G2毎日王冠は大観衆で溢れかえっております!』

 

 スペとフクキタルに嗜められたので大人しく従っておく。にしたってただのG2のはずなのに、G1レベルの観客の量で観覧席がごった返していた。レース実況もG1でよく見る赤坂アナウンサーとなれば、URAの注目度も高いことは明らかだ。

 

『やはり注目はチームスピカのサイレンススズカ。彼女をはじめとしてチームスピカは絶好調!

王者であるチームリギルはどのように立ち向かうのか、そのリギルからはエルコンドルパサーとグラスワンダーの2名が出場しています!』

「スズカ先輩はどういう作戦を渡したんだ?」

「特にない」

「またそれ」

「いーのいーの、何も言わなくても」

「あいつは好きな方に走らせるのが1番なんだよ」

 

ウオッカが不満げにトレーナーの方を見上げているが、走りのスタイルが確立してるやつにとやかく言ってもブレるだけだ。そうこうしている内に出走ファンファーレが場内に鳴り響くのと同時に、ウマ娘のゲートインが始まる。

 

『さぁ、展開は分かりきっております。リギルの2人がサイレンススズカについていけるかどうか!

 6枠6番にはグラスワンダーが入ります。

無敗のジュニアチャンピオン、10ヶ月ぶりの復活はなるか。

4枠4番、これまで全戦全勝、エルコンドルパサー!

目指す世界を前に、国内で負けるわけにはいきません

 

そして、2枠2番にはサイレンススズカ、1番人気です!

今日も華麗なる逃走劇を見せてくれるのでしょうか!』

『以前より闘志にあふれているように見えますね。非常に楽しみです』

 

実況の声に、会場のボルテージも最高潮へ。

 

『さぁ、何が起きるがわからないのが真剣勝負。G2毎日王冠! 今、スタートしました!』

 

 

出だしはスムーズ。いや、1人出遅れたか?

 

『グラスワンダーやや出遅れたか、しかし落ち着いています! そのままペースを上げて集団に追いつきました。サンライズフラッグは最後方へ控えるようです』

「グラスちゃん......」

「呑まれたな」

「呑まれる?」

「怪我明けとか久しぶりのレースの雰囲気に浮き足立つというか、気持ちが作れないウマ娘も少なくないんだ。そういう時は大抵出遅れる。ただ、すぐ立て直せるあたり冷静だったな」

 

 ただマイルでこの出遅れは少し痛い。スズカをマークできる先行集団につける作戦で追いついたはいいが、ここで使った脚は後々響いてくる。冷静だったが、控えるレースにしても良かったはずだ。

 

「いや、スズカのハイペースでは後方からは追いつけないか」

『サイレンススズカは当然のように先頭。しかしその問題はペースです。

2番手集団最内にはエルコンドルパサー、外に続いてランニングゲイル、ビッグサンデーと続いています。おそらくは人気の2人をマークする形。集団の背後にはテイエムオオアラシその外にはグラスワンダーが虎視眈々とサイレンススズカを狙う!』

「あまり離しませんねぇ。いつもの大逃げじゃあありません」

「後続がスズカを捕まえてるんだ。普段ならもう2バ身は離すペースなんだが......っと?」

 

 スズカの足運びが微妙に変わった。いやギアを変えてきたみたいだな。緩やかな下り坂を利用してペースアップし3コーナー差し掛かろうとするときには後続と4、5バ身はついた頃だろうか。しかし好位差し型ならコーナー、直線の長いこのレース場ならまだ飛ばす必要もない。

 

『それほど後続と離れていませんが800m通過タイムは45秒後半から46秒、かなり速いペースでレースは進行しております。先頭はやはりサイレンススズカ、そろそろ仕掛けどころかもしれないぞ。さぁ、バ群が東京レース場名物の大けやきの向こう側へと消えてゆきますがおおっとグラスワンダーはここで仕掛けるのか、前に上がってきています!』

 

2番手集団の後ろにつけていた4番ゼッケン、グラスワンダーが外をまくってペースを上げてくる。ここからでも必死な表情が窺えるグラスワンダー。だがしかしエルはピッタリと後続2番手をマーク。ここで仕掛けどきは早すぎると判断したか。東京レース場の直線は長いからな。

 

「......スズカのプレッシャーってすごいんだな」

「どうしたんですかサブトレーナーさん」

「グラスはあと100mは先で仕掛けるつもりだったのに仕掛けさせられたな。外側を回らされてるし、仕掛けが早すぎるから末脚が足りないのはわかってる、だがここで仕掛けないと勝てないって思わせたんだ。実際はどうかはさておいて」

「なるほど」

「作戦が違っても、他人のレースに無駄なもんなんてないからな。全部盗んで自分のものにしろ」

「盗みは犯罪ですよ?!」

「......頭が固いな田舎娘。勉強しろってことだよ」

 

戦局は最終局面。

最後のコーナーを抜けて、長い坂のある500mの直線勝負。

 

『残り600mのハロン棒を通過していきましたタイムは1分と10秒、さぁ、真っ向勝負! サイレンススズカと後続の差は3バ身、追いつくのか、追い越せるのか後続は!』

「サイレンススズカの真骨頂だな。ここでタイムが落ちてねェ」

「......マジ?」

「後続より刻みがいいぜトレーナー。このペースでいけば3ハロン35ジャストだ」

「おっそろしいことで」

『ここで府中の坂に差し掛かるがおおっとエルコンドルパサー外に少しよれたか、グラスワンダーは伸びが苦しいか!?』

 

 エルコンドルパサーが一瞬よろめき、グラスワンダーが苦しそうに下がっていく。その間隙をついて後続ウマ娘も差を詰めるが、エルコンドルパサーとサイレンススズカの頭ひとつ抜けての一騎打ちだ。

 

「絶ッ対に、勝ァつ!」

『エルコンドルパサーのラストスパート! まだ伸びる、まだ伸びる、しかし──』

 

......訂正する。一騎打ちにもならなかった。

 

『差は縮まらない、縮まらない! サイレンススズカが逃げて差す、なんというウマ娘か!』

 

ん、スズカが一瞬こちらを見て......? いや、これはスペを見てるのか。普段はよそ見厳禁と言うところなんだが、今回はいいだろう。

 

『異次元の逃亡者サイレンススズカ、今1着でゴールイン!』

 

 

 

 




1着 サイレンススズカ  1:44.9 ー    あがり3ハロン 35.1でタイム2位。
2着 エルコンドルパサー 1:45.3 2.1/2 バ身
3着 サンライズフラッグ 1:46.2 5 バ身
────────────
5着 グラスワンダー   1:46.4
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