諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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第60話 また会う日まで

 

 

 

「お疲れ様でーす! おや、鍵が空いているから誰かいるかと思ったのですが」

 

 電気もつき、鍵も開いていたのだから誰かいると思ったのですが、誰もいませんでした。ただ違和感を感じるところがあるとすれば、部屋が少し整頓されているように見える、ことですかね?

 きっと誰かが掃除をして、今ゴミ出しに行っているところなのでしょう。多分几帳面なスカーレットさんか、整頓好きなシャカールさんでしょう。いやあ、物が片付いているとなかなか広々としていますね! 私の持ち込んだラッキーアイテムも一纏めになっていて安心です!

 

「おや、手紙......?」

 

 ふと、机の上に紙が何枚か置かれていることに気がつきました。ルーズリーフを三つ折りにした物が何枚かあって、それを真新しいもので挟み込んでいます。その一番上にある宛先は『スピカのみんなへ』、差出人は......字から察するに、トレーナーさんですか。無事に退院していたんですね!

 まったく、少し用事があるなら連絡アプリでもメールでも構わないと言うのにここまで形式ばったことはしなくてもいいでしょう。勝手に岩手に行って怒られた時から勉強したんでしょうけれど、流石に律儀過ぎますよう!

 もしかしたら、ラッキーアイテムが手紙だっただけかもしれませんが、それはそれで万々歳! やっと占いを信じてくれるようになりましたか......っと。せっかくなので開けちゃいましょう!

 

......そんな軽率な判断をすべきではなかったのです。

 

そういえば、今日の占いでも『思いつきで行動すると凶!』なんて言っていました。すっかり部屋が綺麗なことに気分を良くしてしまって、まさか、こんな事になるとは思わなかったんです。

 

 

 

◇◇◇

 

 

ゴールドシップ。

 君の奇行には何度驚かされたことか。だが、あの支離滅裂な言動の中にも、優しさや思いやりがあることを知っている。

 自分を貫き、忘れることなかれ......と言ってもそんなことはよく知ってるだろうから、残す言葉はひとつだけだ。

 焼きそばのソースはもう少し甘めの方が売れると思うぜ。

 

ウオッカ。

 スカーレットとよく張り合っている姿を見かけたよ。ただ、気を張りすぎると倒れる時もきっとあるだろう。だから、たまには隣の騒がしいライバルを頼っても良いと思う。人を頼るのはけっして『カッコ悪い』ことじゃない。時に泥臭く、時にカッコ悪くても......最後にカッコよければ、それで良いんだ。

 

トウカイテイオー。

 私のことを勘づいてる君が私を嫌いなのはよーーーーーくわかる。とはいえ、今までそのことについて言いふらさなかったことについては礼を言いたい。ありがとう。それと『無敗の三冠バ』の夢応援してる。けど、それが叶うことがなくなった日が来ても決して折れたり腐ったりしないでくれ。というより、こう言った方がわかると思う。私のようにはなるなよ。

 

メジロマックイーン。

 あんまり関わりがなかったが、ゴルシに振り回されてること見逃してごめんね。アレは災害みたいなものだから諦めた方がいいと思う。けど、アレはアレで彼女なりの思いやりだ。家名やプライドなんかで固まってる君の緊張を柔らかくしようとしてるだけなんだ......と、思う。

 怪我にだけは気をつけて。メジロの夢、応援してるから。

 

エアシャカール。

 データ収集やら使いっ走りやら、お使いばかり頼んで担当らしいことは何一つできなかったね。ごめん。

 三冠の夢、君が自分で言うように叶えるのはとても難しいことだ。私の予想でも三冠は叶わない。だから予想の先を行け。自分の、トレーナーの、ライバルの、みんなの予想を飛び越えて行け。君の信念とやり方は、間違いじゃない。

 

スペシャルウィーク。

 次会った時殴りつけても構わない。弁明はしない。ただ私は間違ったことをしたとは絶対に言わない。あの事件の責任は、全て私が持ってくから背負い込まないでね。

 君に言うことはない。ただ前を向いて走り続けてほしい。君の夢に向かって、ただ真っ直ぐに、一直線に。ブレなければ、君の夢は必ず叶う。君の走りは必ず誰かに勇気と夢を与えてくれるはずだから。

 

ダイワスカーレット。

 道半ばで去ることをどうか許してほしい。君の1番になるための助力が叶わなかったこと、謝らせてほしい。私は1番にこだわり続けられるほど、根性が無いんだ。

 だけど、君ならそれは叶う。少し頑張りすぎるところがあるけれど頑張れるのは才能だ。自分に厳しく、努力を惜しまないその姿に私は惚れ込んだんだからね。

 先頭を譲るな、1着を譲るな、1番を諦めるな。

もし、もし仮に心が折れそうになったら......きっと君のライバルが、力を貸してくれるはずだ。

 

サイレンススズカ。

 君の脚がどうなったのか、今の私にはわからない。走れるのか、走れないのか、全盛期の走りを取り戻せるのか、そうでないのか。すまない。故障の原因は、多分私のせいだ。いくら恨んだっていい、罵声を浴びせてくれたって構わない。それだけのことをした自覚はある。

 

......それでも、レースだけは嫌いにならんでくれよ。あの秋天を一緒に走ったライバルたちを、目の前で自由に走るチームメイトたちを絶対に羨んだりしないでくれよ。あの走りに憧れて背中を追いかけたみんなを裏切るようなことだけはしないでくれよ。

 

君の走りは今もなお誰かの憧れで夢なんだから。

 

 

沖野さん。

今だけは昔のようにトレーナーちゃんって呼ばせてもらうね。急にいなくなって、急に戻ってきて、散々迷惑をかけたと思う。私もこんな形でここを去ることになるとは思わなかった。

だけど、トレーナーちゃんは何にも悪くないよ。悪いのは全部、私だ。

 『スピカ』は良いチームになったね。きっと、私がいなくても、トレーナーちゃんならうまいことまとめ上げられるはずだから。だって私みたいな変なウマと3年間駆け抜けてきたんだよ? 自信持ちなって。

 

 

マチカネフクキタル。

 不甲斐ない私についてきてくれて、不甲斐ない私にG1の栄光を届けてくれて、どうもありがとう。君の後ろにいる『シラオキ様』にもお礼を言わせてくれ。貴方がいなければ、フクキタルがG1を取ることは決してなかった。

 フクキタルと過ごした日々は、とっても楽しかったよ。トラブルメーカーなところも、変に自分に自信がないところも、占いが好きなことも、実はおっちょこちょいなところも、他人を思いやる優しい心を持っているところも、好きだったよ。

 怪我を強いてしまった事だけが、唯一の心残り。菊の名誉と引き換えに私は貴方の脚と未来を奪ってしまった。そのことを恨んでくれても構わない。勝てずとも長く走る道はあった。でも、それを選ばなかったのは私だ。だから、私のせいなんだって思ってくれて良い。

 

引退するのか、まだ走るのか、結局聞けなかったね。

 

どちらを選んでもきっと後悔する日が来る。だからその時だけは、後悔しない方を選んで。

 

 

 

さようなら。

貴方のトレーナーだったカツラギエースより。

貴方の走りを遠くからずっと見守っています。

 

 

 

 




「心変わりはしないかい?」
「しない。99%シービーがルドルフに勝つと思ってないし」
「酷い言い草だねぇ。でも100%じゃないんだ?」
「レースに絶対はない。だから、もしかしたら勝てるかもしれない、そう思う時もある」
「素直じゃないねぇ。じゃあ、絶対がないことをまた証明しないと。君のようにね」
「JCならともかくWDTじゃあキツいと思うけど? 絶対にマークされるし、レース巧者の集まりのあそこじゃ追い込みはキツいよ」
「我に秘策あり、ってね」
「?」
「ともかく参加申請はルドルフにごねて取り付けたからあとは当日までに仕上げるだけ。私のトレーナーは引退しちゃってるし、面倒みてよね」
「......無計画というか図々しいな。さて、着いたよ」
「うーん、一面真っ白。さっすが東北」

降り立つは東北、岩手県。

「トレーナーさーーん! 久しぶりっス!」

一面が真白の雪国、中央から遠く離れた地方の片隅で、

「......っと、こっちは誰っスか? 知り合いですか?」
「私を知らない? なら教えてあげようか」

皇帝を倒すための逆襲の花火が上がる。

「私の名前はミスターシービー」

最高のレース(ショー)をご覧あれ。

皇帝(シンボリルドルフ)を倒しにきた、おおバカ者さ」


「シンボリルドルフって誰っスか? ......あ、足元滑るから気をつけた方がいいっスよ。凍った地面には足を垂直に入れるようにすると転びにくいから、次からそうした方がいいっス!」
「レッド、そういうことで転んだんじゃない」
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