諦めはウマ娘を殺しうるか?   作:通りすがる傭兵

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第94話 SDT:願いを乗せて

 

 

 

「いつもと雰囲気が違いますね、トレーナーさん」

「なんだ、スペはドリームトロフィーは初めてか?」

「いえ、テレビでは何度も見てきたはずなんです。でも、皐月賞とも、ダービーとも、天皇賞とも、宝塚記念とも、なんだか雰囲気が違います。みんな楽しそうというか、空気がふわふわしています」

「お祭りだからな。普段のレースとはだいぶ違う」

「お祭り?」

「ああ、お祭り。今日はそういう場所なのさ」

 

 いつものように観客席最前列に陣取っていたスピカメンバー。パドックに誰1人として顔を出さなかったのは、ひとえに観客が多すぎる上に身動きが取れなかったためだ。

 

「ドリームトロフィーってのは、幻の対戦カードが叶う場所なんだ。活躍する時代の違い、運命のいたずら、古い制度、怪我。どうしても現役時代には叶わなかった夢がこの場所では叶う」

「つまり生徒会長(シンボリルドルフ)さんとサブトレーナー(カツラギエース)さんが戦えるのもここだから、ってことですか?」

「その通りだ」

 

 首を傾げるスペの疑問に答えたのち、観客席で1番わかりやすいであろうはずのジャージ姿の集団(スピカ)を一瞥することもなくゲートに向かうカツラギエースのほうを見やる。

 髪の毛にもツヤがあり、トモも充分に張っている。パドックのアイツはまさに走れるウマ娘だった。控え室での態度はちとやる気がなさすぎるが、アイツは走ってるうちにやる気を出すタイプだから問題ねぇ。

 

「トレーナー、勝てるのかしら」

「んだよスカーレット。自信ねえのか?」

「会長が勝つに決まってるもんに!」

「チームメンバーなのだから少しは応援する姿勢を見せるべきではなくて?」

「ボクあの人嫌いだもん」

「テイオー、貴方というひとは」

 

 テイオーは当然自分の憧れかつ目標とするルドルフの応援、マックイーンはそれに呆れて頭を抱えてたが最初の珍しく自信のないスカーレットの言葉が気がかりだ。

 

「なんだ、自分のトレーナーが信じらないのかスカーレット」

「ずっと勝てる気がしないって言ってるんだもの。不安にもなるわよ」

「心配すんな、スカーレット。エースは昔っからそういう奴だよ。負けるかもしれない勝てないかもしれないってずっとうるせーのに、勝ったら勝ったで浮かれすぎて次のレースは惨敗する。浮き沈みの激しい気分屋で地力があるってわけじゃねえ。潜在ポテンシャルで言うならお前らの方がハッキリ言って上だ」

 

 アイツの課題はメンタル面だった。走りはスタートセンスと高い先行力、最低限あたり負けしねえ身体と人一倍回るオツムがあったが、どうにも前に行きたがる癖があり、バ群に飲まれたり長距離のレースともなると身体と心がチグハグになってうまくいかない。

 

「けどあいつの気持ちは上向けば誰よりも強い。自分と向き合い、自分がしっかり強いことを理解して、それでも敵わないかもしれない相手がいるとわかっている時のアイツは強いんだ」

「それがハマッた時がジャパンカップか」

「だからこそあいつの気持ちが上向いているかどうかが試される。もう一度だ、エース。もう一度皇帝に勝って見せろ。最後の晴れ舞台、教え子にいいカッコみせる場所だぜ?」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

『スタートしました! 全員出遅れなくいいスタートを切りました。先頭争いはまずアイネスフウジンが行きます、その後ろをピッタリつけてマルゼンスキーとハードパンチャーでしょうか』

 

 スタートは悪くない。今回私が選んだのは『先行策』。そも逃げウマ娘が3人いる時点での大逃げは成功しない。単騎逃げこそ大逃げの独壇場、それが出来ないならいつものやり方で勝ちに行くしかないだろう。無策な以上レースの後半からは全部アドリブで対応しなくちゃならないし、全体をコントロールしやすい先行が1番だ。

 ルドルフは私の左後ろから動かない。内枠に誰かいる気配は感じるんだがそれは......誰だ? 私の内側にいるのはエアグルーヴかフジキセキだと予想してはいるが2人はやや後ろ。もとよりあの2人はティアラ級育ちとジュニア級で怪我引退してんだから2500m以上の経験は皆無。スタミナ温存策で少し後ろにつけることを選んだらしく、これであの2人は位置取りを向正面までは気にしなくていい。これで狡く私を風除けにしてくるんだったら非常にやばかった。

 せりあい筆頭候補のあの2人が下がり競りかける奴がいなかったからポジションは悪くなく、するりと先行集団の先頭につけられた。あとはこのまま、3コーナーまでこの位置を渡さない事が最善、ベストは4角先頭から残り300mで先頭を捉えたい。

 

『バ群を形成しつつ1周目のスタンド前を通過して行きます。

先頭はアイネスフウジン。マルゼンスキーは2番手これは意外。3番手にはハードパンチャー。ここまでが逃げウマ娘か。

 先行集団の先頭は初挑戦カツラギエース、勝ちレースにジャパンカップと宝塚記念があります。その背後にはおおっとこれもまた予想外の位置に三冠ウマ娘ミスターシービーがいます。その後方には女帝エアグルーヴか、並んでフジキセキがここ、1番人気皇帝シンボリルドルフは先ほどから少し下がったこの位置を──』

「ダニィ!?」

 

 実況に驚き顔を振って後ろを見ればあのシービーが私の背後にいた。しかも目のあったことを見てかにっこりと笑顔まで浮かべて見せるシービー。なんで、お前そこにいる、これじゃもうなにが起きるのかわからんぞ!?

 

「キミの走りを近くで感じたくてね」

「一足で並びかけてくんな、クソ!」

「そんなこと言わないでよ」

 

 拗ねてるっぽい言い方をするシービーは余裕そうだが私に余裕はない。最内に陣取られた。ここから最内を取ろうと思うと進路妨害になりかねないし、少し飛ばしてしまえばいいが3番手のハードパンチャーに近すぎる。先を譲ってもシービーは前に行かないだろう。ルドルフも同じくだ。勝ちに行くのであれば今の位置をキープするしかない。スタミナはもつかどうかは五分って感じか。

 

「ねえ」

「なにさ」

「楽しい?」

「全く」

「えー、なんでさ」

「なんで、って?」

 

 喋りかけてきたシービーに対して、正直今自分は凄まじく嫌なヤツな顔をしてるだろう。それくらいイライラしている。

 

「なんもかんも思い通りにならないからだよ。大逃げしたかったけど逃げウマ娘3人もいるし、追い込み予想のシービーは隣にいるし、背中に感じるルドルフの目線と足音で悪寒がする。

体調だって良くない。身体だって仕上げきれなかった。作戦だって実はなにも考えられなかった。全くもってクソだ」

「あはっ、キミらしいや」

「......それでも、だ」

 

『バ群は向こう正面へ差し掛かります。先頭変わらずアイネスフウジンは少し苦しいか。マルゼンスキーは不気味に息を潜めます。1000mの通過は平均ペースか、ハードパンチャーはかなり苦しそうだがどうか?

 中段バ群はミスターシービーとカツラギエースが横並びで先頭、その背後に1番人気シンボリルドルフ、フジキセキは若干遅れ出しているか? エアグルーブは虎視眈々と皇帝の背中を狙っている。後続はメジロライアンが前に進出を始めています、マーベラスサンデーはこの位置です。隣ゴールドシチーが落ち着きなく周囲を見回しているようですがどうしたのでしょうかナリタブライアンはバ群の中央、最後方には脚質自在のトップガンが控えます。さあ、先頭は第3コーナーに差し掛からんとしています、残り1000m、後続の速度が上がり出しました!』

 

「私は背負って楽しむなんて出来やしない。期待なんぞ背負って走るのなんて大っ嫌いだ。

 誰かの想いなんて背負わず身軽にして、頭と身体と根性を最後の一欠片に至るまで全部捻り出して、やっと勝負の舞台に上がれるんだよ」

 

 私は夢を背負うほど器は大きくはない。数人、十数人が関の山。何千、何万人ものファンの期待を背負って戦うなんて到底そんなことはできない。

 

「......だから、ついて来い」

 

だから、私にできるのは魅せることだけだ。

辿る道を、レースを、想いを。勝手に託させて貰うだけだ。

 

「私の背中を、追いかけて来いよ、後輩どもっ!」

 

ゲートから飛び出す時以上の集中力で、身体を少し沈めてスパートをかけた。3コーナー、残り1000mからのスパートなんて上手くいきっこない。その盲点をついて、このレースをめちゃくちゃにしてやるだけだ。

 

 シービーは私の無茶苦茶な走りに絶対についてくる。アイツは勝ち負けなんて二の次なんだし、どんな展開だろうと自分は勝てると思っているし実際勝てる。

 あとはルドルフだ。私は文字通り『なんでもやる』。奇策上等、半ば玉砕のような走りでもマークして上がってきてくれるかもしれない。そうなれば上位ワンツーの実力者を動かせる。1番2番人気が動き出せば、レースも動き出すってのがセオリーだ。たとえそれが勝利のためのベストから外れるとしても、心理的に動きたくなるもの。

 

 シービーはピッタリついてくる。この弾くような重い足音はきっとルドルフだ。後続の足音は一瞬揃わなかったけどペースは上がったのは確かだ。その中でもほとんどペースが変わらないやつも何人かいる。誰までかはわからないが、抜け目のないやつもいるらしい。

 

『さあ先頭が直線を向いた! アイネスフウジンはここまでか、ここで先頭はマルゼンスキーに変わったか! ハードパンチャーはバ群に沈んでゆく!』

「む、むーりーなのぉ〜」

「くそ、くそぉっ!」

 

 顔を上げてズルズルと位置を下げていく私と同じサンバイザーをつけたウマ娘と、何度も悪態をつきながらそれでも前を見ることをやめなかったタンクトップのウマ娘を追い越した。

 そして未だ先頭に立つ赤い勝負服を着た怪物の背中に、手が届いた。

 

「......ここまでね」

『ここで先頭が、マルゼンスキーからカツラギエースに変わるか! 変わるか! 変わったぁ! かつての日本総大将が先頭に立ちましたっ!』

 

坂の頂点を踏み切って、跳ね飛びそうになる体を無理やりに沈めて押さえつけたときガクン、と身体が思う以上に沈んで一瞬だけ意識が飛ぶ。バチッと火花が飛んだように一瞬だけ目の前が真っ白になった。

 

シービーがなんか言ってら。なんだろう、何かぶつかったのかな、頭が痛くて、熱い。大丈夫、今度は最後まで諦めない、折れない。というかお前がずっと隣にいるレースなんて初めてじゃないか。せっかくの機会だ、楽しまなきゃ損だろ、シービー? だからさ、そんな泣きそうな顔するなよ。もっといつもみたいに笑えばいいじゃないか。

 

『シンボリルドルフがカツラギエースを抜き去った、やはり強いのは強い、絶対はやはりここにあるか! ミスターシービーはやはり伸びない、後方からナリタブライアンが迫ってくるが中山の直線では届かないか!』

 

どうやら、トップ争いというのは我々に絞られているらしい。

 

1番に抜け出し逃げウマ3人を早々に捕まえた私。

私に並走し最内に滑り込んだシービー。

私を後方でピッタリとマークして、たった今ギアを上げ抜き去っていったルドルフ。

 

 後方集団はもう届かない。ゴールドシップなら届いたかもしれないけれど、実況の言う距離では並のウマ娘はもう届かないのだろう。後ろを振り返る暇もないからもう見ない。横槍を入れられたらそこまでだ。

 

大丈夫、よく見えている。

 

少しずつ遠ざかっていくルドルフの背中を見てああ、これはもう届かないな。と直感した。視界の端を通り過ぎて行ったのこり200mのハロン棒、もうすぐレースが終わってしまう。ルドルフの背中まで数mもないはずなのに果てしなく遠く感じる。

 

あの時と同じだ。あの私が折れた有記念と同じ。

この場所で、このタイミングだ。

ちょうど今、過去のルドルフは過去の私を追い抜いて行った。

 

でも今は違う。孤独じゃない。

 

 

大丈夫、よく見えている。

 

 

トレーナーちゃんが声を張り上げる姿。

フクキタルの拳を突き上げる姿。

スカーレットが私に向かって何か言っている姿。

シャカールが短くハッキリと告げる姿。

ウオッカが叫ぶ姿、ゴールドシップが意味不明に錨を振り回す姿、マックイーンが柵を叩いて大きな声を上げる姿、スペが吠える姿、スズカが胸元で拳を握りしめて呟く姿。

 

大丈夫、よく見えている。

 

スピカのみんなの声が、よく見える。

 

「行けェェェェェェェェェェェェ! エースゥゥゥゥ!」

「トレーナーさん、やっちゃってください!」

「トレーナー諦めないで!」

「......行けるぜ」

「いっけー!!!!!」

「ウオオオオオオオオッ! やっちまえーーーッ!」

「いける、いけますわ!」

「サブトレーナーさん、頑張ってください!」

「......頑張って」

 

大丈夫、よく見えている。

 

最大のライバル、最大の壁。

立ち塞がる三冠ウマ娘2人の声も確かに見えた。

 

『アタシについておいで! エース!』

『先輩なら来れるはずだ。我々と同じ、高みへ!』

 

「ついて来い、って?」

 

大丈夫、見えている。感じている。

今日はもう、折れない。

私はまだ、諦めていない。

 

「お前らが、私についてくるんだよ!」

 

『なんとなんとまたしてもカツラギエースが差し返す、皇帝破り再びか! いや、ミスターシービーも遅れない! ピッタリと横一線! シンボリルドルフも抜かせない! カツラギエースが粘る、ミスターシービーがまた伸びる! 三者がまだ入れ替わる! 先頭はこれはもうわからないぞ! あと100m!』

 

坂はもう登り切った。アイツはまだ隣にいるのか、きっといるだろう。

 

見えていたはずのものがもう見えない。

視界がどんどん狭くなる。

 

自分がつけているサンバイザーのツバすらもう見えなくなり始めていた。アドレナリンが打ち止め、か。

 

キレすぎたな。ちょっとばかり調子が良すぎたのかもしれない。

もう息が上がりそうで、気が抜けたら、もう顔が上がって一杯になってしまいそうだ。

3着でも十分じゃないか? このメンバーで3着だって誇れるはずだろ。そう、弱い自分が顔を出す。

 

そうかもしれない。もうやれることは全部やった。

行けるところまで、行けたように思う。

最後の最後まで負けるのも私らしくてイイじゃないか。

けど、最後の最後まで頑張ってみよう。

気概だけでも、負けないように。最後の一瞬まで。

 

「負けるなぁああああああああああ! トレーナーーーーーーーっ!」

 

いつのまにか俯いていた。顔を上げて声の主を観客席に探す。

 

赤いメッシュが揺れる。

栗毛の、小柄な、傷だらけのウマ娘が叫んでいた。

かつての教え子が、叫んでいた。

自分の実力を知り、それでも足掻き、苦しみ、今までの経験を捨てて新しい道を選ぶことを決めた、

とびっきり諦めの悪い教え子が、さけんでいた。

 

「最後までっ、諦めるなぁあああああああっ!」

「......は」

 

そうだった。

 

最後まで諦めるなと教えてきたのは誰だったか。

諦めの悪いのが取り柄だと、言ってきたのは誰だったか。

 

一歩を、踏み締める。

 

ヨレる暇すら惜しい。ロスなく、只一直線に。

 

前へ。

 

前へ、前へ、前へ、前へ、前へ!

 

「二度もっ......」

 

闘志を奮い立たせろ根性を出し切れ。凡人は全てを使い切らねば天才には追いつけない。なら、使い切るしかないだろう。

 

劣るならば振り絞れ。足りないのなら掻き集めろ。

 

一度は、届いた領域だろうっ......!

もう一度だ。もう一度、あの高みへ!

 

「同じ相手に、負けられ、ないんだァッ!」

 

一歩前で私を待つ2人は笑っていた。

一歩追いかける私も多分笑っていた。

やだなぁ、本当に嫌だ。

お前らと走るのが悔しいけどやっぱり楽しい。

この時間が終わることが本当に嫌だ。

いつまでも走っていたいし、早く終わって欲しくもある。

苦しい、けど楽しい。楽しい、けど苦しい。

もう、きっとこれ以上の同世代の仲間を得ることは出来ないだろう。そう実感するほど、私が一度振り切ったはずの青春は輝いていたんだ。

 

『過去の有記念の再演いやそれ以上だ! これはもうわからない! 三人がもつれるようにゴール板を飛び越える! 今、ゴールイーン!!!!!!!!!!!!』

 

 ゴール板を走り抜けた。

 

 バタバタと格好悪く転びそうになりながら走って、膝に手をついてやっと止まれた。もしこれがレースじゃなきゃすぐに倒れ込んでしまいそうで、今すぐに顔から遠慮なく倒れ込みそうなほどに全力だった。全身が痺れて足先の感覚がない。視界は酸欠でフラフラするし、サンバイザーもへんに斜めにズレてるせいで格好がつかない。

 顔に伝う汗を拭うと、手の甲についてきたのは赤い血だった。道理で息がしにくいわけだ。頭に血が上りすぎて鼻のどこかが切れてしまったらしく、鼻水が出てるような鼻詰まりの感覚と口の中の鉄臭さで最悪の気分だ。

シービーが驚いたのはこれか。レース中に頭に血が上りすぎて鼻血が出るなんて、全く頑張りすぎだよ。

 

「......ひどい顔だね」

「お互い様」

「......」

 

シービーの言葉に顔を上げられなかった。上げられないほどに私は疲れていた。

シービーも顔を上げない。ターフに仰向けでぶっ倒れたから、上げる必要はなかった。

ルドルフは何も言わなかった。多分何もいえないほど息が上がってるんだろう。

 

もう何分も経ったかわからないくらいに長い時間を使って息を整えて、1番先にシービーに手を差し伸べたのはルドルフだった。遅れて、私も手を差し伸べた。

シービーがその片手ずつを掴んで、ゆっくりと立ち上がった。

 

歓声が、場内を包み込む。

 

「やっぱり」

 

熱気立ち込める観客席が揺れている。レース場中央のターフヴィジョンはここ(ゴール板すぎ)からは見えない。

 

「最悪だ。やっぱり最悪だ」

「最悪ぅ? 最高だったじゃない!」

「最悪か。私もそんな気分です」

「ルドルフまで?」

 

ゆっくりと、お互いに肩を貸し合いながら、歩みをすすめる。

 

おめでとう、と祝福する声がする。

惜しい、と同じように悔やむ声がする。

次は勝てよ、と背中を押す声がする。

 

その歓声ひとつひとつを背にうけ、一歩一歩を踏み締める。

 

「こんなレース二度とやらん。鼻血が出た。頭も痛い。足も痛い。明日は筋肉痛で仕事ができなくなる」

「私も、明日は休養日だな」

「そうだね、たまには休まないとね」

「お前はいっつも休んでるだろ」

 

シービーに軽口を吐き、言い回しの固いルドルフに苦笑いして。そしてターフビジョンを見上げる。

 

空白の1、2、3着の液晶にやっと数字が灯った。それを見た場内からはどよめきと歓声があがる。

 

「......本当に、二度とやりたくない」

「まだ言いますか」

「あたりまえだ。こんなこと何度もやったら頭も身体もおかしくなる。だから」

 

 ああ。だから、だからだ。結果を噛み締める。項垂れそうになる絶望を前にして、それでも前を向くのが、私だから。

 

「だからもう一回だ。しっかり勝ってケジメがつくまでやる。私が勝つまで、2人とも待っててくれるよね」

「エースは負けず嫌いなんだから。あーあ、有終の美を飾ろうと思ったのに、引退できなくなっちゃった」

「ええ、ええ、ええ。何度でも、何度でも走りましょう。何度でも、勝っても、負けても、ずっと......!」

「ああ。勝つまで、何度でも挑戦してやるさ」

 

 

『写真判定の結果はシンボリルドルフの1着! 皇帝の復活です! しかし2位争いはわずか数センチの大激戦! 4位以下に大きく差をつけるレースになりました! 2着にはハナ差で先輩三冠ウマ娘ミスターシービー! その同着にはなんと現役時代にその2人と鎬を削りあったカツラギエースが入りました!』

 

1着 シンボリルドルフ

2着 ミスターシービー ハナ差

3着 カツラギエース   同着

 

 

 

 

「......絶対に、諦めんからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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