林間学校から戻り、遂にやって来た夏休み。
とは言ったが俺は御堂の陸上部の朝練の手伝いに参加し、その帰り道だった。
響也「今日はそうめんか、柚子胡椒のめんつゆで爽やかに行きたいなぁ」
汗を拭いながら家に向かう、その家の門の前では……
金髪の少女がまた行き倒れていた。
響也「おい!!カレン、しっかりしろ!!」
意識の朦朧とするカレンを俺は家に運んだ。
1時間後。
カレン「うう……」
響也「ようやく目覚めたか、気温34度の中で門の前に居たらそりゃ倒れるぜ」
カレン「ありがとう、助けてくれたんデスね……」
俺はカレンの様子に大事が無かった事に胸を撫で下ろした。
響也「大事なのはどんな形であれ水分補給だ、これ飲めよ」
カレン「なにこれ、炭酸飲料?でもいい香りがする」
響也「ご近所さんから頂いた柚子を絞ってはちみつと一緒に無糖炭酸に混ぜたものだ。爽快感があるぞ」
カレンは柚子炭酸を飲み干すと響也に頭を下げる。
カレン「何かすみません、遊びに来たのに迷惑かけて……」
響也「気にすることねーよ、この暑さじゃ倒れて当然だしな。それより、助けた時一緒にキャリーケースもあったんだがどうしてだ?」
カレンは凄く申し訳なさそうに事の成り行きを話す。
カレン「私の居る屋敷が今エアコンの修理中で、パパとママは暑さに耐え切れず日本の旅館に、私も流石に屋敷には居られなくてヒビヤの家に……」
よりによって九条家が灼熱の屋敷とは……だが見捨てるのも何だか可哀そうだな……
考えて末、俺は決めた。
響也「わかった、泊めてやってもいいが一つだけ条件としてカレンは今いるこの部屋で寝てもらう。間違っても俺の寝室には入るなよ」
カレン「わかりました~☆」
語尾に若干不安要素があるが一応は信じておこう。
PM 15:00
響也「今日は客人がいるからな、ちょっと奮発するか」
タイムセールのシールがついたお刺身パック、ネギ、ワサビ、ショウガ、ゴマ味噌、ある程度買った後、俺は家に帰るなり、厨房に着いた。
机の上に冷たい渋茶、氷の入ったボウルで冷やした手作り出汁、4種類の薬味に爽やかな青の器に盛られた刺身。
華やかな食卓を目の前にカレンは目を輝かせる。
響也「今日は海鮮冷やし茶漬け、病み上がりの身体に丁度いいぞ」
カレン「いただきます!!」
ご飯の上に鯛とサーモン、ネギとショウガを乗せ、渋茶をかける掻き込むカレン。
頬に米粒がついてるのも気にせず一杯目を完食した。
カレン「ヒビヤの日本食、最高~」
響也「喜んでもらえて良かったよ、二杯目行くか?」
カレン「どんどん行きますよ~」
食事を終えて、俺はいつもの様に風呂に浸かると明日の朝の食事の事を考えていた。
俺にとって生活のウェイトを占める一日の献立は朝市での食材によって決めている。
風呂から上がり、和服姿の俺は自分の寝室へと戻っていった。
布団に入るな否や、眠ろうとする瞬間。
背中を謎の何かが重く圧し掛かる。
響也「約束はどうした?何故、ここにいる?」
カレン「ごめん、わかっていたけど……やっぱり、気持ちが抑えきれなくて……」
女の子と布団で眠るのは悪くない訳じゃない、ただ、忍を裏切ってるような気がする。
カレンを責めるつもりは無い、だがそれでも、俺は忍の事を好きだと伝えて振る勇気もない。
結局、どちらにしても俺は断れない主義だ。
響也「なあ、カレン。俺と居て、そんなに楽しいのか?」
カレン「楽しいに決まってるよ、私が大事なのは4人でいる事、ヒビヤもシノもアリスも、皆大事な友達だよ、ただ私達が望むのは、ヒビヤに私達から誰か一人を選んでほしい事、それがたとえ私じゃなくても、それがヒビヤの望んだ幸せなら私は諦めて祝福したい。それが、林間学校で私が二人に約束した事。だからヒビヤは何が大切なのか、ちゃんと考えてね」
ああ、そっか。忍たちの関係は、俺が思った以上に強いんだな。
俺は誰か一人を選んで関係を壊すぐらいなら諦めた方が良いと思ってたけど、あの3人は心から俺の幸せを願ってくれている。
俺の想う幸せ、それがあいつらの幸せだったんだな。
響也「ありがとう、カレン」
カレン「待ってるから」
二人で眠りについた俺の手を、カレンはずっと握り続けていた。
翌朝、俺は目を覚ますとその横にカレンはいなくなっていた。
リビングに向かうと、そこでは……
響也「カレンちょッ!!」
カレン「おはよ~、キッチン借りてるよ~」
勝手にキッチンで朝食を作るカレン、目の前にはベーコンエッグとトーストが並んでいた。
響也「わざわざやってくれたのか?」
カレン「私の母国の朝食だけど、ダメ?」
俺はため息をつくことは無く、寧ろカレンの気持ちを素直に受け取った。
響也「それじゃあ、頂こうかな?」
カレン「さあ、食べよう!!」
一汁一菜の食生活だった俺からしてみれば洋風の朝食は割と不思議な気持ちだった。
そして何より、俺が抱えていた悩みに真っ向から向き合ってくれたカレンには感謝しないとな。
そして、閃光の様な日差しが、今日も窓を熱していた。