PM3:00 小路家
緑のTシャツとジーンズでアイスボックスを手に小路家にやって来た一人の男。
御堂修は息を吸い込むとインターホンを鳴らした。
ガチャッ
綾「御堂君、いらっしゃい。暑かったでしょ?」
修「暑さは慣れっこだけどな」
綾「とりあえずあがって、お茶出すから」
リビングに上がり、グラスに冷えた麦茶が注がれる。暑さで上がった体温が飲み干すと同時に冷えていった。
修「それじゃあ、例の奴。渡さないとな」
綾「今日はどうだったの?」
修「まあ、微妙と言った所だ。でも案外食えそうな物は色々取れたぞ」
御堂の持ち込んだアイスボックスには大量の氷で保存されたクロダイ、アジやイワシなどが詰め込まれていた。
綾「いや、十分豪華でしょ?これのどこが微妙なの?」
修「本当だったらいつも40匹釣れるんだけど今日は18匹、ついてねーよ」
修「十分釣ってるよね、それ……」
読者の皆に説明しておこう。
御堂はシーズン問わず釣りに出かけるほどの熱烈な釣り好きであり、いつも近所や俺の家に魚のおすそ分けしたり、時には友人を集めて釣った魚を使って料理するなどしている。魚料理の時は俺と御堂の共同作業になる為、御堂は専用の刺身包丁を持ってたりしてる。(ただし、フグは捌けない)
修「それじゃあ、好きに調理してくれ。俺はここで失礼するぞ」
綾「ま、待って!!」
修「?」
御堂を引き留めた綾は一瞬口籠るも伝えた。
綾「折角暑い中、来てくれたから。ご飯位、食べていってよ」
御堂「おお、良いのか?」
綾「響也君みたいには出来ないけど」
修「いや、全然良い!!綾が作ってくれるなら喜んで食うぜ!!」
綾「あ、ありがとう……」(ちょっと気合いが入りすぎてる気も)
綾が御堂に対してここまで積極的な理由、それは響也とのある会話だった。
響也「なあ、綾は中学の事、まだ引き摺ってるのか?」
綾「御堂君が私を庇ってくれた事、嬉しかったけど、凄く悪いって思ってて、ちょっと遠慮してるのはある。いつかはちゃんと謝らなきゃって思ってて、でも、出来なくて」
俺は少し、薄い笑いをする。
綾「どうしたの?」
響也「林間学校前の俺も、そんな感じだったなって、今思うと情けなくてさ」
綾「もしかしてしのたちの事?」
響也「俺とあの3人は特別な出会いがあって今がある。そして何より純粋に俺の幸せを考えていてくれた。俺は気付いたんだよ、あいつらが俺を選ぶんじゃない。俺があの3人から一人と結ばれるのを望んでいた。そして選ばれた誰か一人を、妬むんじゃなくて祝福すると言っていた。俺は、俺の気持ちに従う」
綾はその言葉の真っ直ぐさと心に決めた決意の視線に驚いていた。
響也「過去に未練があって、それにケジメがつけられるなら、悔いは残さない方が良い。綾も、後悔だけはするなよ」
夕食を終えた御堂と綾は食後の紅茶を飲みながら、その時を待ち続ける。
静まり返った部屋の中で、綾は御堂に告げた。
綾「御堂君、実は伝えたい事があって……」
修「何だ?」
綾「ごめんなさい」
修「え?な、なにが……?」
綾「中学時代の花瓶の事、御堂君は何も悪くないのに、助けてくれた事、すごく嬉しかったのに、ずっと、罪の意識があって、御堂君と少し距離を置いちゃった。本当に……」
だが、帰って来た回答は意外な物だった。
修「謝るのはこっちの方だよ」
綾「え……」
修「俺、その事についてはもう知ってたんだ。俺が綾になりふり構わず話かけてたのは、綾を心配させない為でさ、綾が思い詰めてるの、ずっと知ってたんだ」
綾「御堂君……」
修「綾の事ぐらいわかってるよ。陸上大会に優勝できたのが綾のおかげだからこそ、俺は綾を不安がらせちゃダメだって気付いたから。俺もいつかは言わなきゃダメだって思ってても、言い出せなくて」
御堂は席を立ちあがり、深く頭を下げた。
修「気付いてたのに、黙ってて悪かった。ごめん、この通りだ」
御堂は頭を上げると視界に映ったのは……
涙を流して、辛そうな顔をする綾だった。
修「綾……」
綾「ずっと……私の為に……」
修は綾の頭を自分に押し当て、優しく撫でる。
修「お前の為に俺が泣かないようにしてやったのに、泣かれたら、辛ェじゃねえか」
綾「ごめん、ありがとう……」
修は綾を抱きしめながら、誓った。
修「もう、綾には辛い想いはさせない、俺が、ずっとそばに居てやる」
綾「絶対、自分も大切にして」
修「ああ、約束する。
過去の過ちを正した二人に幸せな日々が続く事を、俺はずっと祈っている。