ハルウララ奮闘記 ~有馬記念を勝ち抜くまで~   作:新人トレーナー

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叱責

 トレーニング開始初日。これから始めるぞという前に、トレセン学園所属の全員が体育館へ集められていた。

 

 今日から生活が変わるうんぬんかんぬん。優しく話を進めていく生徒会長だが、一区切りつくと顔つきと共に雰囲気が変わる。昨日のあれだ。

 

「先日スカウト期間が終了したわけだが、一部トレーナーによる不適切な発言がウマ娘にあったと情報があった。ここから先は学園長にお任せしようと思う。ではよろしくお願いします」

「うむ!」

 

 マイクなしでも全体に響く声で返事をして理事長が登壇する。それまでの間、トレーナーウマ娘問わずざわついていた。僕とハルウララだけが知っているというのはなんだか不思議な気分だ。

 

「清聴ッ! ……先ほどシンボリルドルフが言ってくれたように、不適切な発言があったと聞いた。なんと、トレーナーがウマ娘に対し『速く走れないからいらない』などと言い放ったのだ! ウマ娘を導いていくトレーナーにあるまじき発言! わたしはとても悲しい! そしてこれは到底許されることではない!」

 

 語気が強いなぁ……。周りのざわめきが大きくなる中そんなことを思っていた。ハウリングが起きるほどの声量だが気にならないほどに場が荒れ始める。

 

「今回は犯人の追及はしない。だが二度目はない! 次に発覚した場合は当学園におけるトレーナー資格を剝奪する! 各トレーナーは今一度ウマ娘に対する態度を考え直すように! ウマ娘たちは万が一そのような発言を受けた場合、私かたづなまで直接言いに来てほしい!」

 

 理事長の毅然とした態度と発言で空気が引き締まった。目の前にいないのに怒りが伝わってくるようだ。こんなこと言わなくてもわかるはずなのだが、どの業界でもよくない輩はいるものだ。

 

「以上、解散! 各自勉学トレーニング共に励むように!」

「理事長まだです! ウマ娘の皆さんは教室、トレーナーは共同指導室へ。伝達事項がありますのでそこで待機をお願いします。スタッフの方は通常通りの業務に戻ってください。これで解散です、移動をお願いします」

 

 たづなさんが慌ててフォローを入れ、人の波に沿って移動を始める。周りからは終始信じられないという声が聞こえてきていた。

 

「富原さん、富原さん」

 

 気が付くと横に女性と一緒に歩いていた。確か名前は桐生院葵といったか。胸章の緑色が示す通り僕と同じ新人トレーナーだ。

 

 資格試験でばったり出会ったのをきっかけに話をする仲になった数少ない同期。成績は堂々のトップだそうで、どうあがいても勝てそうにない。

 

「さっきの話信じられないですよね。いらないなんてひどすぎます」

「……そうですね。一体何のためにトレーナーになったんだか」

 

 まさか目の前の人の担当が言われたなんて思ってないんだろうな。別に明かす必要もないためこのことは黙っておこう。下手に話して周りに聞かれてハブられる、なんてのは避けておきたい。

 

「あんまり話せてませんでしたけど、担当決まりました?」

「なんとか。ハルウララの担当に」

「えぇ!? あの娘、転入生ですよね?」

 

 桐生院はハルウララのことをあまり知らないらしい。言葉を選びながら、なかなかトレーナーが見つからなかったことときっかけを話した。移動と時間までの暇つぶしにちょうどいい。

 

 一方の桐生院はというと、やはりというべきか期間の初日に担当が決まったようだ。ハッピーミークというウマ娘らしい。彼女曰くとても愛らしいとのこと。なんだかどことなく親バカのような感じがするのは気のせいだろうか。

 

「もうすっごく素直ですっごく可愛いんですよ! 私トレーナーになってほんとよかった! もちろんレースだって真面目にやりますよ、ミークにはいっぱい勝ってもらいたいですから!」

「そ、そうですね……」

 

 こっちもこっちで熱がすごい。人はいいが、火が付くと全然止まらないタイプとは話すのが苦手だ。僕もこれぐらい口が回ればいいものの、生憎そのようには生まれてない。

 

 扉の開く音で全員の話が一斉に終わった。たづなさんが両手で束になった書類を抱えて入ってくる。トレーナー登録をしているのは全部で三桁に迫ろうかというほど人数がいるため膨大な量だ。これほどの学園のNo.2はさぞ大変だろう。

 

 そしてもう一人、理事長がたづなさんの後に続いて入ってくる。横一文字になった口元を見る限り今回のことが相当気に入らないようだ。端的に言えば普通に怖い。

 

 その場にいる全員の背がすっと伸びるような感覚と共に理事長の話が始まる。

 

「諸君らには改めて伝えておく。ここはなんだ、何をする場所か? 我々はウマ娘の支えとなるべき存在だ。背中を押してやることであって決して足を引っ張るものであってはならない! 私やたづなの顔に泥を塗ったとしても、それがウマ娘を想ってのことならいくらでも許そう。しかし! ウマ娘のことを考えない自己中心的なトレーナーがいるのなら私は絶対に許さない! もはやトレーナーと呼ぶことすらおこがましい! 私と諸君らのウマ娘を想う気持ちは大なり小なり違うかもしれん。だが絶対、絶対だ! 何があろうとウマ娘の未来を閉ざすような行為だけはしないでもらおう! ここには100人ほどか。これだけいるのだ、全員優秀で私が誇れるトレーナーだと思いたい」

 

 圧が、すごい。入学式の時の理事長は一言二言で終わるような感じだったのに、今は感情が爆発したかのようだ。理事長の言葉が終わっても気圧されたかのように誰一人として動かない。

 

 僕としてはこんなことにさせた奴が気になるところだ。今一体どんな気持ちで聞いているのだろう。というかここにいないかもしれない。個人的な感情だが担当を持ってもらいたくはない。

 

「理事長、言いたいことは言えましたか?」

「うむ! 私からは以上だ! トレーナー諸君の今後に期待している!」

 

 ぱっと理事長の顔が明るくなり、先ほどまでの鬼気迫る雰囲気がなくなった。扇子を取り出しぱたぱたと仰ぐ姿からは到底同じ人とは思えない。

 

「ウマ娘たちのスケジュールと注意事項等を書いた書類を用意してます。基本は例年通りですが、今年度からの変更点もありますので必ず目を通すようにお願いします。以上です。それでは皆さん、ウマ娘達のことをよろしくお願いしますね」

 

 トレーナー陣へ一礼すると理事長とたづなさんは部屋から出ていった。一瞬おいて空気が緩み、二人が来る前のような雰囲気へと戻った。

 

 肩肘張るような感じは嫌いだ。特に何もしてないのに体を動かすだけで関節がバキバキなっていく。試験勉強を何時間かやるほうがよっぽどましだ。

 

「さてと。私たちも動きましょうか」

「えぇ」

 

 桐生院の後に続いて机に置かれた資料を取りに行く。学園スケジュール、登録した全ウマ娘の簡易的な情報、トレーニングの際の注意などいっぱい書いてある。寮に帰ってから読んでおこう。

 

 ぞろぞろと部屋から出ていく波に乗り校舎の外へ出る。レース場に行くにしろウマ娘の教室に行くにしろここは必ず通る場所だ。そこまで一緒だったトレーナーが蜘蛛の子を散らすようにバラバラになっていく。

 

「それでは私はここで。お互い頑張りましょうね」

「えぇ、頑張りましょう」

 

 会釈を交わし、桐生院はレース場へ、僕は教室のほうへと向かう。スケジュールを伝える暇がなかったので、面倒だが顔を出しに行かなくてはいけない。

 

 教室がある校舎へ入ると周りは女の子だらけ。男子禁制のような雰囲気が漂う中を堂々と歩いていく。以前おどおどしながら歩いてからかわれたことがあるので、その二の舞だけは嫌だ。まあ、今日に限って言えば他のトレーナーもいるのでそこまで浮いているわけではないが。

 

 ハルウララは中等部2学年ということらしいので東校舎へと歩いていく。最初に高等部の校舎を通ったせいかウマ娘が全員幼く見える。

 

 昨日寮で調べてわかったことだが、トレセン学園とはいえ中等部のデビューはそんなに多くないそうだ。あの生徒会長が少し渋ったのも納得いく気がする。そもそもシンボリルドルフ自身が高等部に入ってからだというから年齢の壁は大きいのだろう。ただあの会長なら中等部でデビューしたとしても何もかも制覇しそうではある。

 

 うまくやれるか一抹の不安を抱えながら教室へたどり着いた。扉をノックして開けると、大勢の中に混ざってピンクの髪がひょこひょこと動いている。近くにいる友達と話しているようだ。

 

「ハルウララ、迎えに来たぞ」

「あ、トレーナー! じゃあねセイちゃん!」

「はいはーい、がんばってねー」

 

 ふんわりした返事に送られハルウララが走り寄ってくる。少し心配をしていたが、あの娘との関係は良好のようだ。いい笑顔をしている。

 

「よし、トレーニングにいこうか」

「うん! 何すればいいの?」

「それは後でな。とりあえず練習着に着替えて昨日のレース場においで」

「はーい!」

 

 元気のいい返事をして教室を飛び出しあっという間に姿が見えなくなる。何というか体も感情も常に爆発してるような娘だ。学園に来てから僕の周りにはやたらとテンション高い人が多いような……気のせいか。

 

 息を入れなおして僕もレース場に向かうことにする。いくら今日からがトレーニング開始日とはいえ、先に所属が決まっている娘なんかは既に見えないところでいろいろ進めている。なら、僕らは遅れた分もっと頑張らないと。

 

 デビューは半年後。それまでにどこまで仕上げられるかは僕の頑張り次第だ。

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