日が沈み、辺りの視界は既に数メートル先も見通せることもできなくなっている。横島と夕莉、二人が持つ懐中電灯の光のみが、彼らの進む道を照らしていた。
冬陽が探していた少女、百々瀬春河。夕莉と横島は、冬陽が「春河はここにいる」と言っていた場所である形代神社へと向かっていた。
昨夜、日上山を彷徨っていた冬陽はすでに救出し、今は夕莉の居候先である骨董カフェで体を休めてもらっている。
冬陽自身も今回の春河の捜索に最後まで参加したがったっていたようだが、横島はそれを留めた。
彼女は、大切な友人である春河が行方不明になったことで精神的にも疲労が蓄積しており、不安定だったからだ。また、冬陽が巫女に誘われる可能性も考え、横島は骨董カフェに急造ではあるが結界を施し、彼女自身にもお守りとして文殊を渡してある。
込められた想いは『護』。その文殊は冬陽を悪意から護るだろう。そして、もしも文殊が発動することがあれば、横島に伝わる仕組みになっているのだ。
□
不知の森を抜けた先にある形代神社へと向かう途中。禊ヶ淵の滝壺で運良く、残したと思われる『春河のメモ』*1を拾うことができた。
禊ヶ淵の滝は絶えることなく日上山の上流から流れてきている。春河のメモに限らず、水の流れに乗って様々なものが上流から流れてくるのかもしれなかった。
夕莉は、これを寄香として春河の行方を追うことができるかもしれないと思った。
「春河ちゃんは何で山に入ったんやろうか」
「どうしてでしょうね……伝承では、死に魅入られた人は夕日に誘われるとあるみたいですが……」
「もしも、春河ちゃんが巫女に遭遇してたら命が危ない。少しでも早く見つけてやらんと……」
そうですね、と夕莉は続けた。
2人は春河が残したメモを目にする。内容は夕日が春河を日上山へと誘うといったもの。どうやら、彼女は集団自殺を試みた際に見た夕日に魅入られていたようで、日上山の伝承にある通りだった。
日上山の頂上にかかる夕日を見てはならない──山に、死に誘われてしまう、と。
しかし……
(水に融ける? あの巫女さんも何か融けるとか言ってたな……3人の思いを受け取ったってのも気になる)
春河は冬陽とともに、学生時代に集団自殺を図った一人だったという。三人の最期の思いというのは、彼女たちが自殺を図ったときのことかもしれなかった。
冬陽の話では、春河は勘が鋭く、考えていることをピタリと言い当てることもあったという。そうした直感を持つものは得てして、霊感に優れていることも多い。
霊感に優れているということは、その分、普通の人よりも死者の世界に近づきやすい。死者の姿も見えやすいし、何よりも死に惹かれやすいとも言える。
もしかしたら、春河は集団自殺の際に、死んだ友人たちの最期の思いを視たのかもしれない。
夕莉もそうだが、日上山周辺の霊能者は精神感応の素養がある者が多いように横島は感じた。
水は染まり、溶け、伝えるもの――この地域にある水への信仰が特殊であるように、この地域に住む人達はその信仰を反映したような異能を持ちやすいのかもしれない。
想いを受け取ったから、水に融けるのが正しい──その目的は何なのか。まだこの山には秘密が多い。
□
苔むした石の灯籠。それはとても歴史を感じさせるものだ。
暗い森の中、仄かに灯る明かりは、なんともいえない幽玄な雰囲気がある。
灯籠が等間隔で並ぶ道端には、ひっそりと隠れるようにして道祖神が配置されている。
古来、道祖神は集落と神域を分ける境界の要として、無闇に人が神域へと迷い込まないよう、また禍を人の生活空間へと招き入れないための結界とされてきたが――
これら道祖神たちも、この日上山を神域とした信仰の一部だったのだろうか。
形代神社へと向かう道中、血塗れの巫女に遭遇したが、横島の術により退けることができた。しかし、今回遭遇した巫女は、前に遭遇した巫女とは様子もその姿も異なっていた。
全身が水濡れで、巫女の装束をまとっていた所は同じであったが、全身が血塗れとなっており、身体の至る所に刃物による痛々しい裂傷がみられていた。
そして、特に特徴的だったのは、巫女の怨霊は目を潰されており、その恨みからか怨霊と化していたということ。
横島は生前は綺麗だったと思われる巫女に対して、力づくで調伏させる術の行使を躊躇った。霊体で、怨霊となり正気を失っているとはいえ、女性に力を振るうことになるからだ。
前日に行使した術は何故か期待した効果を果たさず、ついにはその霊にも逃げられてしまった。だから、他の方法で調伏すべきなのだが……生憎と横島が他に師から学んだ術は矢鱈と物騒なものばかりで、ここぞというときに使えない。
「五雷使者 五丁都司 懸空大聖 霹靂轟轟 朝天五嶽 鎮定乾坤 敢有不從 令斬汝魂」
しかし、今は夕莉の安全のことも鑑みて内心、泣く泣くその一端の術を行使した。クソッタレ、男の霊なら全然心が痛まないのに、と。
横島が呪文の後に甲高い猿のような声を発し、声に含まれる霊力が怨霊の魂を無理矢理に縛り付け、霊の顔が苦痛で歪む――
「ごめんな――」
その隙に、横島は断腸の思いで、ペイっと破魔札を投げつけると、その札はまるでダイナマイトが爆破したかのような大きな霊的な衝撃を生み、怨霊の霊気を吹き飛ばすのだった。
「横島さん……」
夕莉はそうした横島の様子をみて、怨霊となった霊を憐れんでいると勘違いしたのだった。
そして、巫女は横島に調伏され、崩折れた霊に触れることで夕莉は巫女たちの最期を視た。
日上山の秘密を知るため──そして、救われず、今も苦しむ者達の最後を看取ることで、悲しみや苦しみを共有するため。
死に惹かれている夕莉には、それが自身の孤独を癒やす方法にも思えていたから。
『終わるときはみんなひとりなんだ』
『ひとりで終わる』
最後はみんな一人で死んでいく。
それはとても悲しいことのように思われたから。
ならばせめて、最期を看取ってあげたい、という想いは夕莉の優しさでもあった。
くしくも、その夕莉の想いは濡鴉の巫女たちと同じ死者の最期を看取り、水へと還すという信仰に通じていた。
夕莉が日上山に導かれたのも偶然ではなかったのかもしれない。
そうして、夕莉の視た巫女たちの最後とは――
それは巫女たちが山を見回っている際、後方から剣鉈を持った男に追い回された挙句、切りつけられ、めった刺しにされるという凄惨な最期の記憶。
剣鉈を持った男は『見るな』と──何かを恐れるように、切りつけられ苦しむ巫女たちの目を潰していったという。
わかっていても、恐ろしい血濡れた巫女たちの最期の記憶。その記憶を夕莉は忘れることができそうになかった。
あまりにも現実感のある死の直前の記憶。
恐怖に怯え、肩を震わせる夕莉を横島はそっと気遣うことしか出来なかった。
□
形代神社――
辰砂が剥げ、色褪せてしまった鳥居をくぐる。
日上山中腹、不知ノ森の中央にある、多くの人形が祭られた神社である。その来歴ははっきりしておらず、古くから無人の社に、多くの人形が祭られていたと言われている。
その後の観光地化に伴い、一時期は「人形供養」を行う神社として改修されたが、地滑り後には参拝客も減り、現在は再び無人となっている。
暗い闇に沈んだ境内では、遊んでいる子どもたちがいた。その体は白く靄がかかっていることから、霊体であることがわかった。
「なぁ、お前ら。ここらへんでボインな姉ちゃん見なかったか?」
「よ、横島さん……?」
あっ、ちゃうちゃう! と慌てて弁解するが夕莉の訝しげな視線は変わらない。
『ボイン? おっぱいのこと? お山の巫女さまたちはみんなボインだよ!』
「あー……巫女さんじゃなくて、こうフワフワした髪の、今風の女の子なんだけど……」
横島は子どもたちへと写真を見せる。人探しの依頼書に添付されていたものだ。写真にはどこか沈んだ表情の女性が写っている。
ワラワラと子どもの霊が集まってきた。その様子に夕莉は少したじろぐ。
横島は当然のように人を尋ねていたが、尋ねた相手は子どもの霊に対してだ。当然ながら、普通ではあり得ない。
退魔師ならありなのかな、と夕莉は思ったが、横島はその中でもぶっ飛んでいる部類であることを夕莉は知らない。
『見たよ? この人、柱になったんだ』
『祭司さまが連れてきた人だよね』
『フラフラしてたねー』
祭司? が春河を連れていたらしい。春河のメモには夕陽に誘われたと書かれていたはずだが……
「柱? このねえちゃんはここにいる? どこにいるんだ?」
横島が子どもたちに春河の居場所について尋ねた。
『えー、どうしよっかー』
『柱になった人だよ? おしえたら駄目じゃない?』
『うーん……』
ザワザワ。複数集まって、あーでもないこうでもないと相談しているようだ。
『教えてもいいけど、にいちゃん遊ぼうよ』
『さいきんは人がこなくて暇なの』
『いたずらもできないしねー』
この子どもの霊たちは暇らしい。話を聞く限りでは、形代神社でいつも遊んでいるらしいが、最近では人が訪れることもなくなって、つまらないと言う。
しょうがねーなー、遊んだら教えろよ! と遊ぶことを横島は決めた。
『じゃあ、にいちゃんが鬼! ぼくらを見つけてね』
そう言い残すと子どもたちは、すーっと透けて消えてしまった。夕莉の常識は横島と出会ってから破壊されまくりである。
□
形代神社。中の作りは意外としっかりとしている。伝統的な木造に、汚れた障子の戸。
長く人が立ち入った形跡はないのに、たくさんの並べられた蝋燭に火が灯され、意外と明るい。
そして、外に並べられた人形の数以上のものが、中には飾られていた。
なかには人間の子どもを模ったような、等身大の人形もあり、今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出している。
更に、人形によっては更に異様な雰囲気を持つ人形もある。横島はそれに何かが埋め込まれていることを察した。
埋め込まれた物は、子どもたちの遺骨や遺髪だろう、と。
「……」
どこからともなく感じられる視線は、まさしく人形たちからのものだった。
並べられた人形のどれかから実際に視線が向けられているような気が夕莉もしていた。
横島は並べられた人形の中から一つ、むんずと霊力を込めて掴みあげる。
『あーあ、見つかっちゃったー』
「わーはっはっは、霊能者ナメんなや! 楽勝、楽勝!」
「横島さん、よくわかりますね……」
先程の子どもの一人だったらしい。一番最初に見つかってしまい、どこか不満げだったのが夕莉は印象に残った。
『こっちだよー』『こっちー』と、どこからともなく子どもたちの笑う声が聞こえてくる。
あまりに遠くにいると早く見つけて欲しいと呼び掛けて来る癖に、近くに寄ると見つからないように黙り込んでしまう。スリルが楽しいのは分かるが、その様子が実に子どもらしいと言える。
先程、捕まえた子どもの霊が横島に話しかける。
『ねーねー、にいちゃんは、マレビトなの?』
「ん? マレビトって何なんだ?」
冬陽を助けた時に相手取った巫女もそんなことを言っていた気がした。
『知らないのー? マレビトは巫女さまのお婿さんだよ』
『にいちゃん、いい人っぽいけど、スケベそうだから選ばれなさそう!』
『みんなお婿さん待ってるんだよー』
(横島さんが巫女の婿? でも、幽霊とだなんてあり得るの?)
口々に言いたい放題。色のない瞳で話す子ども霊の声音は、どこか切実な響きを含んでいた。
「なんだと!? 婿かぁ、美人の巫女さんならエエかな〜。あ、でも、幽霊だし、あ〜んなことや、こ〜んなこともできねーし……」
呟く横島。
「……」
そんな横島のズレた感性に呆れる夕莉。
横島が育った世界では幽霊だけではなく神魔まで人が見える形で存在している。さらには前のアルバイト先には元幽霊の同僚もいたし、この手の話には正直慣れていた。
その後――隠れんぼをしていたのに何故か襲い掛かってきた人形をいなし、それを操っていた子ども霊を捕まえた。
『ちぇー』
不貞腐れ、隙あらば脱走しようとする子ども霊を霊気の縄でふん縛って連れ回す。
『暴力はんたーい』
何とも生意気な奴である。
神社内を探索している内に、形代神社についての文献を見つけた。
縁起ははっきりとしないが、ここは山頂の大禍境にある「形代奥社」の分社のようで、「ヒトガタミ」を納める神社だったようだ。
ヒトガタミ──それは亡くなった人、子どもの遺品が籠められた人形達のことだ。
だから、誰かの形見や寄り代という意味を込めてのヒトガタミなのだろう。
記録によれば、この日上山では、古くから山に流れる「水」を御神体としており、命はその水から生まれ、水へと還るとされていた。
この形代神社は、御澄川という川を挟むように建てられており、その間には廊下が渡されている。
過去に観光地化に関する調査がされた際には、川の底や下流から多くの人形が見つかったこともある。
観光地化され多くの人形が奉納されるよりも以前の時代、ヒトガタミに込められた魂たちは、この形代神社の廊下から川へと還され、供養されていたと推測されている。
かつてのこの神社は、亡くなった子どもの魂を、ヒトガタミ──人形に込めて納める役割を持った神社だったということだろう。
また、形代神社の拝殿から繋がる社地下には胎内洞窟という大きな空洞があり、そこには大量の人の骨が沈められていることが記されている。
洞窟に敷き詰められた人骨は、全て水底に横たわっていたという。これらはおそらく、「命を水に還した」結果として残されたものだろう。
ヒトガタミが納められるようになる時代よりも昔。この神社の縁起は、人形を納めに来たのではなく、「人」を納めに、つまり、捨てに来ていた場所だったことを由来としているのかもしれない。そして、後に人形に変わったのではないだろうかと言う言葉で記録は締めくくられていた。
まだ見つけられていない子どもは、あと一人。
神社の中は一通り探し終わり、最後の一人を見つけたのは首を吊った人形が大量に吊るされた木々のなか。
その中の一つ。首を吊った人形に隠れていたのを見つけたのだった。
「趣味悪すぎだろ……」
『見つかっちゃった』
げんなりと横島が呟く。
聞く話によれば、死体ごっことかもよくやっていたというので、おそらく、木々に首を吊られた人形たちも子どもの遊びによるものだろう。
子ども故の純粋さであったが、おそろしさを感じさせるものだった。
最後の一人を見つけて、横島と夕莉はようやく見つけ終わったと、安堵の溜息をついたのだった。
□
『あーあ、みんな見つかっちゃった』
『見つかっちゃったね』
『ねー』
子ども達の霊を探し出すことに成功した横島と夕莉。二人は子どもたちの案内で、形代神社の拝殿に戻ってきていた。
捜索の時から気にはなっていたものの、明らかにこの拝殿だけ雰囲気が異なっている。
部屋にはたくさんの大小の人形が並べられている。更に赤い布の雛壇が用意されており、そこには視線を感じさせる人形が配置されている。おそらくヒトガタミだろう。
『この下の洞窟におねえちゃんがいるよー』
雛壇の裏に、下の洞窟へと通じる道があると子ども霊が示す。
確かに、雛壇に掛けられた赤い布を捲り、中のを覗いてみれば、床には鍵付きの鉄格子がはめられていた。
『おねえちゃんは柱になって匪に入ったんだよ。溢れた夜泉からお山を守っているんだ』
「さっきも柱って言ってたなそれってもしかして、人柱か?」
『そうだよ。柱を立てて夜泉から守るんだ』
『でも、今はどんどん夜泉が溢れてくるのー』
『たいへーん』
「あの、横島さん人柱っていうのは?」
人柱の存在を聞いて横島は焦るが、夕莉は聞き慣れない言葉にピンと来ていない様子だ。
横島は夕莉に説明する。
人柱──いわゆる災害を治めるために捧げられる生贄のようなものだ。
古くは、橋や城などの重要な建造物を建てる際に、その建物をより強固にし、破壊されないことを神に祈願するとして、壁や地面の中に人を埋める風習があったとされる。
そして、その多くの場合は、埋められた人々が生き続けて建物を支えるという考えのため、生きたまま埋められたと言われている。
神への祈祷などで供される人身御供についても、犠牲となって人の世や、ある種の封印自体を守り支えるものとして「柱」という言葉が使われることもあった。
「横島さん……春河さんはもう」
夕莉は人柱の意味を知り、春河が生存しているのか不安になった。
「ま、まだだ! まだわからん! おいっ、春河ちゃんは無事なんだろうな!?」
『さぁ? でも、匪に入れられた柱はずっと生き続けるんだってさー』
人柱となった春河は、匪と呼ばれる箱に入れられているらしい。
人柱として捧げられた生贄は命を代償とすることもあるが、ここでは命を代償とするものではないようで、むしろ匪に入れられている間は生き続けるのだという。
それを聞いても、横島は焦りを隠せない様子だった。
子どもの霊曰く、夜泉から守ると言っていたことから、春河は何らかの結界の要になっている可能性もある。
『それより、溢れちゃった夜泉だよ。どうするんだろ?』
『どうだろうねー夜泉が溢れてから変な人もたくさん出てきたもんね』
『このまえ、変な人におっかけられたよ!』
『うーん……にいちゃんなんとかしてよー!』
子ども霊の一人が横島にせがんだ。変な人というのは夜泉によって怨霊と化した者のことだろうか。
そして、どうやら異変の元凶は夜泉というモノにあるようだ。
春河を救出した後で夜泉について詳しく調べなくてはならないと横島は手帳にメモをした。
『あなたたち、新しい柱のこと勝手に教えたら駄目じゃない』
『あっ、白菊ちゃん』
『白菊ちゃんどこいってたのー』
『内緒よ』
『えー』
横島にじゃれつく霊が言った。
新たに現れたのは、黒い着物に、白い肌、銀色の髪、赤い目と、アルビノの特徴を持った少女だった。
少女の名前は白菊というらしい。
『白菊ちゃん、にいちゃんが夜泉をなんとかしてくれるってー』
既に子どもたちの中では、横島が何とかしてくれることになっているようだ。
『この人が? ……あなたは誰?』
「俺? 俺は横島忠夫。退魔師みたいなもんかな」
ニッと笑う横島をジッと見つめる白菊。
『……あなたから大きな力を感じるわ。温かくて、包み込むように優しい……』
『あなたなら、みんなを慰めてあげられるかもしれない……』
何故か白菊は寂しそうな顔だった。横島はなんとなくの直感で、前の世界にいたタマモに似てるなと思った。クールで気まぐれ。そして仲間思いなところとか。
『でも……私のマレビトは……私が待ってるのは、あなたではないの……』
イマイチ状況が飲み込めないでいる横島と夕莉。白菊もマレビトという婿を探しているらしい。
『……ねぇ、私のマレビトを探して。私の寄香を持つあの人……』
『それまで……できるだけ御澄を守ってあげる……』
「ちょっ、おいっ!」
そう言って、白菊を含めた子どもたちは背を向けて霞のように消えてしまった。
姿は見えないが、どこかから子ども特有の高い声で唄われた歌が聞こえる。
──匪は柱を守る
──柱が夜泉に融けないように
──柱が夜泉を清める
──水が夜泉で澱まぬように
──山の土に夜泉が籠もらぬよう
──夜泉を鎮め御澄を守るの
きゃはは、と子どもたちの遊ぶような声を聞こえたあとは、何も聞こえてくることはなかった。