それは理解不能な1日の始まりだった。
https://twitter.com/co2earl/status/1375458142549512195?s=19
このツイートを元にした作品です。
不思議な出来事というのは、いつだって突然に起こる。それは誰にも予知が出来ない。
優雅で華美な、メジロマックイーンと破天荒で自由奔放なゴールドシップ。正反対な二者は学園の角で衝突した。原因はゴールドシップが小松菜とほうれん草を間違えて購入し、店にクレームを入れようと走った事にある。メジロマックイーンは完全なる貰い事故だった。
目を覚まして視界が回復し、初め互いはそれを鏡だと認識していた。無理は無い。そこにあるのは自分の顔なのだから。しかし、それは顔ではなく自分の体そのもの。そして、その顔を見つめるのは自分ではない自分の体。
驚きの余り、声が出せない。やっと声を出せばさらなる驚きがやって来る。それは疑う余地も無く体が入れ替わっている証拠となった。
「おお〜! これはマックイーンの体じゃねえか! 毎日神様にお祈りしたおかげだな!」
「なななななな! これはどういう事ですの!」
「へ〜、改めて見るとアタシ……び・じ・ん……」
「ご、ゴールドシップさん! 説明してくださいまし! な、何故こんな事が……!?」
「答えは自分で見つけるんだ! 探せ……この世の全てをそこに置いてきた……!」
「た、確かにそうですわね。い、いいえ違います! 感心している場合ではありません!」
ゴールドシップが丁寧語を使い、もだえ苦しみ悩む姿はある意味いつもの姿である。
「まあ、よく分からねえけどそのうち治るんじゃねえの? とりあえず、今日はこのままで!」
「ほ、本当に治るのでしょうか?」
「まあ、細けえ事は気にするな。ゴルシちゃんに悩みごとは似合わないんだからね!」
「と、とにかく。今日は1日おとなしくしてくださいまし! わ、私の体なのですからね!」
「おう、分かってる分かってる!」
こうして、それぞれはそれぞれの姿で理解不能な1日を過ごす事になったのだ。
「マックイーン! 今日も併走してよ!」
無邪気な笑顔で、トウカイテイオーがいつもの様にメジロマックイーンに併走を頼んでいる。しかし中身は似ても似つかないゴールドシップだ。
「ええ、よろしくってよ。それでは放課後に」
「わーい! ありがとうマックイーン!」
「メジロ家の令嬢として当然の事ですわ」
「あの、マックイーンさん」
「あらスペシャルウィーク。どうなさったの?」
「実は私……色々あって、今日の宿題を忘れちゃっいまして…お願いします写させてください!」
「え、宿題? そんなのあったっけ?」
「全く、貴方達は。仕方ありませんね。答えを写させる事は出来ませんが、最低限の解き方は教えて差し上げますわよ。友の頼みですから」
「マックイーン!」
「マックイーンさん!」
感動する2人。宿題は見事に完成したのだ。
ただし、見た目メジロマックイーンでも中身はゴールドシップ。宿題を教えられるはずも無い。
【吾輩は猫である】の作者を問う、という問題に対してワーガ=ハイワーネ=コーデアル三世と答えた2人は、放課後に職員室へ呼び出された。
可哀想で、悲劇的だが、それは別の話である。
一方の中身メジロマックイーン。いつものように授業前の準備を始めようとしたのだが、鞄の中から出てきた松ぼっくりに思考を停止させた。
そして、ゴールドシップがいつものように忘れている宿題の存在に気づいてしまうのだ。
逡巡するうちに授業が始まってしまった。苦渋の決断を決め、中身メジロマックイーンは初めて教師にこう告げたのだ。宿題を忘れましたと。
返答は教師のすすり泣く声だった。
「ご、ゴールドシップ。俺は嬉しいぞ! 君がこの世には宿題というものが存在する事に気づいてくれて。あとな、試験というのもあるんだよ!」
「意味が分かりませんの……ダゼ?」
その後、中身メジロマックイーンは席に座っているだけで褒められ、授業中に黙っているだけで褒められ、教科書でパルテノン神殿を作らなかったという理由で褒められた。
しかし、これだけで苦難は終わらない。
「結局……お昼まで気が休まりませんで……タヨ?」
「あの、ご、ゴールドシップさん……」
「な、なんでしょ……カナ?」
「ええと、今日は具合が悪いのかな? それとも具合が良いのかな? どっちなの?」
「ど、ドウユウイミナンダロウカネダゼカナ?」
「ゴメンね、なんだか口調がおかしかったし授業は真面目に受けているし、何かあったのかなって思っていたけど。良く考えたらいつも通りだね」
「え? チョットマッテクダサイマシダゼ!?」
自分を消せない中身マックイーンは、この後も日常のゴールドシップに苦しめられるのだった。
なんだかんだで、元に戻った両者。理解不能な1日を終え、互いに疲れ切ったようだ。
これは悪夢だったのか、現実だったのか、答えは寝ても覚めても分からない。
とりあえず、2人に出来る事は廊下を可能な限りゆっくりと走るだけであった。
「タキオン? さっきから何を書いているの?」
「おや、トレーナー君。どうしたんだい?」
「貴方がゴールドシップとメジロマックイーンをずっと観察しているから気になったんだけど」
「大した事はないさ、ただの実験記録だよ」
「実験記録?」
「ウマ娘同士の衝突による筋骨組織への影響と脳神経における混乱の実態及び発展、だよ」
「いや全く分からないわよ」
「じゃあ試してみるかい? 向こうからこの廊下の角へ走るだけでいい。さあ、実験を始めよう」
理解不能な1日がまた始まるのだ。