オーク力士ですが、なにか?   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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1 プロローグ

「おはよう」

「おう、(りき)! 今日もデケェな!」

「誉め言葉として受け取っておこう」

 

 友人という程でもないが、それなりに仲の良いクラスメイトである夏目(なつめ)健吾(けんご)の言葉にそう返す。

 実際、デカいというのは相撲取り(・・・・)にとって誉め言葉だ。

 俺は身長190センチ、体重150キロ。

 高校生としてはかなりの巨漢だし、高校相撲の中でもかなりデカい方である。

 相撲は大きく重い者が絶対有利。

 将来大相撲を目指す者として、夏目の言葉は普通に嬉しい。

 

「いや、デカいっていうかデブ……」

篠原(のはら)さーん!? それ以上はダメだって!」

 

 失言しかけた篠原(しのはら)の言葉を、焦りながら草間(くさま)が止める。

 草間はお調子者で空気を読めない事もある奴だが、意外とこういうのには敏感だ。

 なんというか、天然で空気を明るくする天才なのだ。

 それ故に、空気が悪くなりかねない事に敏感なのかもしれない。

 

「草間、別に構わないぞ。今の俺にとってはデブも誉め言葉だ」

「いや、士道(しど)っちメンタル強くなりすぎじゃね!?」

 

 確かに、高校で相撲を始めてから俺は変わった。

 それまではデカすぎる身長と、どれだけダイエットに励んでも減らなかった体重がコンプレックスだったが、それを才能に変えてくれた相撲には感謝だ。

 この才能のおかげで、高校相撲ではかなりの成績を残せた。

 自分で言うのもなんだが、今年は高校横綱すら狙える仕上がりだと思っている。

 そう思えば、女子にデブと言われるくらいなんだというのか。

 

 そんな話をしてる間に授業開始のチャイムは鳴り、今日の学校生活が始まった。

 今は相撲に熱中しているとはいえ、高校入学前までの俺は勉強くらいしか取り柄のなかった陰キャデブ。

 その頃の名残で、勉強は真面目にやる癖がついている。

 別に悪い事じゃないし、むしろ良い事だ。

 学生の本分は勉強である。

 

 そうして時間は進み、古文の授業の時間、それは起こった。

 

 篠原がスマホを弄って岡崎(おかざき)先生に怒られ、それを笑った夏目も怒られ、二人揃って問題に答えられずに恥をかき。

 そんな日常の中で、何の予兆もなく、あったのだとしても俺に気づく事はできず。

 

 唐突に襲ってきたとてつもない激痛に意識が飲まれ、気がついたら……

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 気がついたら、俺は豚に転生していた。

 ただの豚ではない。

 二足歩行の豚だ。

 俗に言うオークというやつかもしれない。

 陰キャ時代にその手の異世界物はよく読んでたし、最近も稽古の合間の息抜きに少しは見ていた。

 だから、今の状況を客観的に分析する事はできる。

 

 俺は豚。

 飛べない豚だから、ただの豚。

 生まれたてホヤホヤなのか、体は小さい。

 周りには、今の俺をかなり大きくしたような二足歩行の豚の集団。

 まさにファンタジー作品のオークそのものって感じだ。

 どうやら、俺は彼らの内の誰か息子として転生したらしい。

 力士視点で見て、皆いい体をしている。

 全身に付いた脂肪と、その下にある屈強な筋肉。

 誰も彼も、技を鍛えれば大相撲で通用する立派な関取になれるだろう。

 って、豚が力士になれる訳ないやないかーい。

 ハッハッハ。

 

 ……キャラに合わないボケをするくらいには俺も混乱してるらしい。

 何が起きた?

 唐突に意識失って、気づいたら豚とかどうなってんだ。

 神様でもなんでもいいから説明を要求する。

 

 だが、俺には説明どころか、考える時間すら与えられなかった。

 

「ブォオオオ!」

 

 オークの群れの中で一回り大きい個体が鳴き声を上げ、それに従って他のオーク達が動く。

 豚が何言ってるのかなんてわからない筈なのに、同族だからか何故か大体のニュアンスは伝わった。

 要約すると「狩りの時間だ。行くぞ野郎ども」という感じか。

 そして、何故かその命令に逆らえずに動き出す俺の体。

 おい!?

 俺はまだ生後数分だぞ!?

 オークだからか普通に動けはするが、こんな赤子を狩りに連れ出すなよ!?

 というか、なんで体が勝手に動く!?

 そういう魔法なりスキルなりで縛られてるのか!?

 

 内心で滅茶苦茶混乱しながらも、俺の体は勝手にリーダーオークの命令に従って、大移動する群れについて行った。

 ここに至って抵抗を諦め、俺はとりあえず情報を求めて周りを見渡してみる。

 どうやら、ここはどこかの洞窟のようだ。

 かなり広大で真っ暗な闇が広がっている。

 にも関わらず、何故か俺の目は暗闇をある程度見通していた。

 オークは夜目が効くのか。

 初めて知った。

 

 そうして洞窟の中を突き進む内、俺は出会った。

 どこか現実感がなく、妙な夢でも見てるんじゃないかと思っていた俺を、一発で現実に引き戻した存在に。

 それを一言で言うのなら、『恐怖』だった。

 

 群れの先頭を堂々と歩いていたリーダーオークが、超高速で突撃してきた何かに踏み潰されて死んだ。

 鼻を貫く血の匂いが。

 肉体が潰されるグチャリという湿った水音が。

 そして何よりも、目の前にいる死そのもののような存在が、俺の心を恐怖一色に塗り潰す。

 

 それは、巨大な蜘蛛だった。

 

 全長15メートルはあろうかという、黒色の巨大な蜘蛛。

 それが踏み潰したリーダーオークの死体を、その鋭い牙で噛み砕いて補食する。

 他のオーク達は即座に動いた。

 リーダーを殺された恨みを晴らす為か、それとも目の前の脅威をなんとか打倒する為か。

 全員で一丸となって蜘蛛に向かっていく。

 

 そして、意外な事に俺の体も即座に動いていた。

 リーダーオークが死んだからか、もう体を勝手に動かされるような感覚はない。

 にも関わらず、俺の体は俺が何かを思う前に動いた。

 敵に背を向けて逃走するという形で。

 

 怖い。

 恐ろしい。

 なんだあれは?

 なんなんだあれは?

 あんなのがこの世に存在していいのか?

 あんなのと当たり前のように遭遇するなんて、俺はなんて世界に転生してしまったんだ。

 怖い。

 ただただ怖い。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV1』を獲得しました》

 

 何か大事な事が聞こえた気がしたが、それを気にする余裕もなく走り続けた。

 蜘蛛の姿が見えなくなるまで、走って、走って、走り続ける。

 

 そうして、俺の異世界生活は最悪の幕開けを迎えた。




『オーク(幼体) LV1 名前なし(士道(しどう)力也(りきや)
 ステータス
 HP:150/150(緑)
 MP:22/22(青)
 SP:22/60(黄)
   :50/75(赤)
 平均攻撃能力:125
 平均防御能力:165
 平均魔法能力:20
 平均抵抗能力:100
 平均速度能力:45
 スキル
 「HP自動回復LV1」「暗視LV9」「恐怖耐性LV1」「力士LV1」「n%I=W」
 スキルポイント:80000』


[固有スキル]力士
スキルレベル×100分、HP、平均攻撃能力、平均防御能力、平均抵抗能力にプラス補正が掛かる。また、レベルアップ時にスキルレベル×10分の成長補正が掛かる。


{Dからの一言}
相撲でとても頑張っていたあなたにはこのスキル。
地上最強生物とまで言われる力士の圧倒的パワーとタフネスが、その世界でどこまで通用するのか楽しみです。
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