我輩は蜘蛛である。
名前はまだない。
古文の授業中に突然激痛に襲われ、気づいたら蜘蛛の魔物に転生してから早……どれくらい経ったんだろ?
ここは太陽の光なんて届かない迷宮の中だから、正確な日付なんてわからない。
わかったとしても、今の私には転生してからの日付なんて気にしてる余裕はないけどね。
何せ、私は何日か前に元々居たエルロー大迷宮の上層で人間に追い掛けられ、必死に逃げた先で縦穴に落っこちて、化け物がそこら中に蔓延る下層に来ちゃったんだから!
いやー、この下層ないわー。
マジでないわー……。
だって、化け物だらけなんだもん。
だって、化け物だらけなんだもん。
大事な事だから二回言った。
それくらい、このエルロー大迷宮下層の人外魔境っぷりは極まってる。
最初に縦穴で遭遇して、私に盛大なトラウマを刻んだ地龍アラバしかり。
見かける魔物はみーんな、私が百匹いても文字通り虫けらみたいにプチッと潰されそうな化け物ばっかり。
今目の前にいる六本腕の蟷螂とか、私が蜘蛛の巣という名のマイホームを要塞化してやっと対抗した蜂の群れを相手に無双してる。
あの蟷螂つえー。
とか思った次の瞬間には、その蟷螂が私の超進化形態と思われる大蜘蛛、グレータータラテクトにプチッとやられた。
おおう。
糸も使わずに牙だけで殺したよ。
強すぎじゃない?
私、何回進化したらああなるんだよ。
とか思った次の瞬間には、今度はそのグレーターが胴体をひしゃげさせながら吹っ飛んだ。
え?
今何が起きたん?
なんか気づいたらグレーターが吹っ飛んでて、気づいたらグレーターの居た場所にデッカい二足歩行の豚が居るんですけど。
『ハイオーク LV15 ステータスの鑑定に失敗しました』
鑑定してみたら、あの豚オークだった。
上位種っぽいけど、まごう事なきファンタジー定番モンスターの一角、オークだった。
そっかそっか。
オークかー。
あれがこの世界のオークなんだねー。
アホか!?
強すぎるやろ!?
気配もなく現れて、あの化け物グレーターワンパンとかなんやねん!?
なんじゃ、あのスーパーオークは!?
というか、インフレ激しすぎやろ!?
ふざけんな!
私なんて、あのスーパーオークより弱いグレーターより弱い蟷螂より弱い蜂相手ですら、マイホームがないとどうにもならないってレベルやぞ!
ホントマジでいい加減にしろ!
「!」
やべ!?
なんかスーパーオークがこっち見てる!
索敵性能まで高いとか反則でしょ!?
私は逃げた。
生まれてからずっと鍛え続けてきた自慢の速度で逃げた。
あんなのがゴロゴロいるなんて、下層怖い!
下層ヤバい!
早く脱出したいよーーー!
蜘蛛子さんはまだ『叡智』を持っていないので、鑑定で前世の名前を閲覧する事ができませんでした。