ああ、またか。
グレータータラテクトを仕留めて進化した場所から続く一本道を進んで辿り着いた場所は、先が見通せない程に広大な空間が広がる大空洞のような場所だった。
これまでに何度も似たような場所に足を踏み入れ、そこから伸びる脇道に入って探索してを繰り返してきたが、ここに来てまたしても現れた大空洞を前に心が折れそうになる。
あれだ。
迷路の別れ道の先に別れ道があって、その先にまた別れ道があったみたいな感じだ。
これを一つ一つ探していかないといけないのだから気が滅入る。
だが、脱出の為には頑張るしかない。
気を奮い立たせて攻略開始。
迷宮攻略の基本に沿って、右側の壁伝いに進む。
しばらく進んだ所で、いつも通り魔物に遭遇した。
『バグラグラッチ LV14』
割とよく見かける、口がワニみたいになった巨猿だ。
巨猿と言っても今では俺の方が遥かにデカいんだが、もう一種類の猿と区別する為に今でも巨猿と呼んでいる。
巨猿がこっちに気づいた。
隠密系のスキルは常時使っているのに、俺に気づく魔物は結構いる。
野生の勘というのは凄いものだ。
大体の奴は、鑑定を仕掛けた瞬間に気づく。
……まさか鑑定のせいじゃないだろうな?
いやいや、まさか。
鑑定にこれ以上の外れ要素があって堪るか。
でも、鑑定だからなぁ。
とか思っている内に、巨猿が俺に向けて飛び掛かってきた。
迎撃準備はとっくに整っている。
いつもの手をついた体勢から、近づいてくる巨猿へ向かって、カウンター気味の突き起こし。
俺の突き出した両腕が巨猿の体を捉え、その一撃だけで巨猿の体からバキバキという、人体ならぬ猿体が壊れる音が鳴り、それっきり巨猿は動かなくなった。
だが、まだ終わりではない。
『バクラグラッチ LV11』
『バクラグラッチ LV9』
『バクラグラッチ LV4』
『バクラグラッチ LV7』
『バクラグラッチ LV13』
……………
………
…
ここに居たのは巨猿一匹ではなく、巨猿の群れだ。
こいつらは下層の中では比較的弱い魔物だからか、群れで行動している事が多い。
今回の群れは10匹と少し。
それが全て俺に襲いかかってくる。
俺は自らの戒めの象徴、10000ものスキルポイントを使って自分を丸焼きにしたスキル、火攻撃を発動。
前は全身についた糸を焼く為に発動したせいで豚の丸焼きになったが、今回は両腕だけに火を纏う。
普通に熱いし痛いが、これはアークタラテクトとの再戦を想定すれば鍛えておかなければならないスキルだ。
幸い、自動回復と耐性でダメージは相殺できているので、自滅の可能性はかなり低い。
俺は燃える両腕による連続の張り手で巨猿の群れを迎え撃つ。
正面から向かってきた一塊で向かってきた三匹を、横薙ぎの張り手で纏めて吹き飛ばす。
しかし、その隙に身軽さを活かした他の巨猿に左右から囲まれた。
俺は左腕を体の前で盾にするようにかざし、足に力を込めて左へと突進。
右側から迫ってきた奴らを振り切りつつ、左側から迫ってきた奴らにぶちかましを食らわせる。
左側の巨猿を何匹か焼き潰した後、くるりと体を反転させて、再び全ての巨猿を前方に捉える。
そいつらに向けて、俺はすぐ近くにあった大岩を片手で持ち上げ、火攻撃のスキルによって岩にも火を付けて投げた。
《熟練度が一定に達しました。スキル『投擲LV3』が『投擲LV4』になりました》
俺の怪力で投げられた燃える岩は、その質量で残りの巨猿全てを叩き潰して戦闘終了。
残念ながらレベルは上がらなかったが、得るものはあった。
相撲ではありえない多数の敵を相手にした戦闘経験。
相撲にない動きにして、現状唯一の遠距離攻撃手段である投擲のレベル上げ。
それらと相撲の動きを合わせて使い、少しずつ相撲をこの世界で通用する戦闘スタイルへと変えていく。
あの地龍アラバにはまだまだ届かないが、少しは様になってきたんじゃないか?
どんな敵との戦いも無駄ではない。
こうして俺は少しずつ強くなっていくのだ。
相撲という武道に励んでいた者としても、大自然で弱肉強食のサバイバルに挑む一匹の生物としても、強くなる事は嬉しい。
しかし、そんな俺でも相手にしたくない奴らはいる。
「!」
気配感知によって大量の生物の気配を感知し、それが覚えのある気配だと気づいた瞬間、俺は反射的に身を隠す。
隠密系と迷彩のスキルをフルに使って背景と同化する俺の前を、何十匹もの猿の魔物が通り過ぎていった。
『アノグラッチ LV6』
『アノグラッチ LV2』
『アノグラッチ LV8』
『アノグラッチ LV7』
『アノグラッチ LV2』
『アノグラッチ LV8』
『アノグラッチ LV4』
『アノグラッチ LV9』
『アノグラッチ LV3』
『アノグラッチ LV1』
『アノグラッチ LV2』
『アノグラッチ LV8』
………
……
…
頭が痛くなる程の情報量。
前に一回やり合った事のある猿の魔物、その別の群れだ。
さすがに、広範囲攻撃手段を一つも持っていない身であの数は相手にしたくない。
しかもあいつら、倒しても倒しても戦意を失わず、群れが全滅するまで狂気に満ちた目で特攻を仕掛けてくるからなぁ。
あれは悪夢だった……。
できる事なら二度と関わりたくない。
見た感じ、あの猿の群れは既に臨戦態勢に入っている。
見定めた獲物を狩りにいくんだろう。
狙われた奴はご愁傷様だな。