猿の群れが通り過ぎるのを待ち、奴らが見向きもしなかったおかげで無事だった巨猿達の亡骸を残さず食らってから俺は歩き出した。
嫌な事に、猿の群れと進行方向が被っている。
悩ましいところだが……ここは、このままの方向に進もう。
この大空洞で壁際の道を離れる訳にはいかない。
こういう広すぎる上に目印のない場所を歩くと、左右の歩幅の違いか何かで、いつの間にか円を描いて戻って来てしまうみたいな話をテレビか何かで見たような気がする。
だからと言って壁際を逆走するのもダメだ。
今まで通った道は、大体しらみ潰しに調べて記録のスキルによる脳内マッピングに刻んでいる。
まだマッピングの済んでいない場所まで行こうと思ったら、結構な距離を引き返さなくてはならない。
歩くだけで化け物とエンカウントするこの下層において、無駄な移動は命取りだ。
これがのっぴきならない事態、例えばアークタラテクトや地龍アラバから逃げる為とかだったら、俺も方針を変える。
しかし、この先にいるのは一匹一匹は弱い猿の群れ。
相手にしたくない連中ではあるが、他の化け物達に比べれば遥かにマシな相手でもある。
断言しよう。
無駄に歩くよりは猿の後を追いかけた方がマシだ。
という訳で、今まで通り壁伝いの移動を再開。
何日もかけて代わり映えのしない景色の中を歩き、途中にいた魔物を倒して経験値と食料にしていく。
そうしてレベルが3に上がった頃、割と近くでかなりデカい爆発音みたいなものが聞こえてきた。
「!?」
すっかり下層に馴染んだ今ならわかる。
あれは下層の平均レベルを超える化け物の仕業だ。
しかし、アラバとかに比べれば今の爆発音はショボい。
もしかすると、この先にいるのは、化け物の中では下位の奴なのかもしれない。
……行ってみるか。
化け物連中は強いが、その分倒せた時の経験値も膨大だ。
下位くらいなら今の俺でやってやれない事はない筈。
加えて、こっちは向こうの存在を把握してるのに、向こうは俺の存在に気づいていない有利な状況でもある。
よし、行こう。
いつもの如く、隠密系のスキルをフルに使って先を急ぐ。
そうして進めば、すぐにその存在の姿が見えてきた。
『地龍カグナ LV26』
そいつは、まさかのアラバと同種の地龍。
ずんぐりとした体躯を持つ、四足歩行の巨大な龍。
だが、アラバに比べればレベルが低い。
出会い頭に一発不意討ちかましてこっちのペースに持ち込めば倒せるかもしれない。
下層で揉まれて強くなった今、そうと決めたら即座に実行に移せるくらいの決断力は手に入れた。
俺は即座に手をついて、慣れた姿勢から地龍カグナに突撃をかます。
しかし、カグナは不意討ちを食らう前に、隠密系スキルで気配を消してる筈の俺を見つけ出し、迎撃のブレスを放ってきた。
やっぱり、一筋縄ではいかないか……!
だが、ブレスの威力はアラバとは比べ物にならない程弱い。
俺は腕を体の前で交差させ、それを盾にしてブレスを防ぎながら無理矢理突っ込んだ。
地龍のブレスは恐らく土属性だ。
そして、俺はアラバにボコボコにされた時、生き残る為に大量のスキルポイントを使って土耐性を強化している。
スキル進化して大地耐性になる程に。
それに元から頑丈な俺の耐久力を合わせれば、この程度のブレスは効かん!
ブレスを突き破ってカグナに突撃をかます。
これにはさすがの地龍も驚いたようだが、カグナは冷静に俺のぶちかましを頭突きで迎撃した。
重い!?
硬い!?
カグナの頭とぶつけ合った額に痛みが走る。
なんという硬さと重量。
これで人型なら横綱を目指せそうな才能を感じる。
だが、
「!?」
カグナが目を見開きながら大きく首を仰け反る。
今の攻防、当たり勝ったのは俺だ。
カグナの体は身長4メートルの俺より遥かにデカい、山のような巨体。
体格でも重量でも負けてる。
だが、パワーは俺の方が上だ。
加えて、頭と頭でぶつかるという状況は相撲の立ち合いに近い。
より有利な体勢と角度でぶつかる稽古は死ぬ程積んできた。
力士にぶちかましで勝負を挑んだのが間違いだったな!
頭が弾かれて、首が上に仰け反ったカグナに向けて、俺は即座に追撃を放つ。
少しでもダメージを増やす為に火攻撃を両手に纏い、既に発動中の気闘法、気合いと何らかのエネルギーを込める事で攻撃の威力を上げる気力撃と合わせて、下から突き上げるような強烈な一撃をカグナの胸元にお見舞いした。
火炎諸手突き!
その攻撃でカグナの硬い鱗がヒビ割れ、その巨体が突き上げられて浮き上がった。
俺は即座にカグナの右前足を取り、ぶん投げる。
一本背負い!
カグナの山のような巨体が宙を舞い、背中から地面に叩きつけられて地面が粉砕した。
その体勢からでもカグナは慌てず、即座にゼロ距離からブレスを撃ってきたが、腕を盾にして軌道を逸らし、足を踏ん張ってその場で耐える。
そして、そのまま下にあるカグナの頭に向けて、いつもの潰し張り手。
カグナの角をへし折り、その衝撃で地面が割れる。
さすがに効いたのか、カグナが苦し気に呻いた。
行ける!
勝てる!
成し遂げられるぞ、龍殺し!
倒れて動きを封じられたカグナに向かって、張り手の連打を浴びせかける。
逃がして仕切り直しになったら、次にここまで有利な状況に持ち込めるチャンスはいつ来るかわからない。
ここで決める!
「!?」
しかし、その瞬間、危険感知のスキルが警鐘を鳴らした。
咄嗟に張り手をやめて、危険を感じてチリチリする首筋を守るべく腕を上げる。
直後、その腕に切り裂かれるような痛みが走り、重い攻撃を食らった事で、俺はカグナの側から弾き飛ばされた。
力士の誇りにかけて倒れる事なく横槍を入れてきた奴を睨み付ければ、そこには両腕からブレードのような物を生やしたスマートな体型の龍が居た。
『地龍ゲエレ LV24』
新しい地龍。
しかも、さっきの攻撃を見る限りスピードタイプ。
相性最悪だ。
俺も韋駄天とかのスキルのおかげか大分素早くはなったものの、それでも速度は未だに下層の中堅レベル程度。
巨体と巨重を持つ身としては速い方だと思うが、やはり特別優れている訳ではない。
更に、遠距離攻撃手段に乏しいという弱点も解消できていない。
投擲のスキルで誤魔化してはいるが、そんなもんが通用する相手じゃないだろう。
あのスピードで翻弄されて一撃離脱を繰り返されたら勝てない。
だが、さっきまでの攻撃でカグナは既に随分と弱ってる。
ゲエレの攻撃を無理矢理耐えて突撃し、カグナにトドメを刺す事くらいならできるんじゃないか?
そう思っていたら、またしても危険感知に反応あり。
側面遠距離から強烈なブレスが飛んできた。
『地龍フイト LV11』
また新たしい地龍!?
3対1だと!?
いや、だが、まだだ!
フイトは他二体に比べてレベルが低い。
倒す事はできなくても、突破する事なら……
『地龍ラムダ LV30』
なんか、また新しい地龍が現れた。
四体目。
しかも、レベルで言えばアラバに匹敵する大物。
地龍四体が、一斉に俺に向けてブレスの発射準備に入る。
…………。
戦略的撤退!