オークキングと喧嘩別れしてから、またしばらくの時が経ち。
俺は未だに無限牢獄を抜けられずにいた。
もう嫌だ。
もう限界だ。
俺はいつまでこの無限地獄を味わい続けなければならないんだ。
そろそろ発狂する自信があるぞ。
ああ、太陽の光を浴びたい。
誰かとお喋りがしたい。
安心してぐっすりと眠りたい。
美味い物をたらふく食べたい。
相撲で鍛えた筈の精神がヒビ割れ、その割れ目から願望と渇望と欲望が止めどなく溢れてくる。
よくない精神状態だ。
そして、よりにもよってそんな時に、俺は出会ってしまった。
『地龍ラムダ LV30 ステータスの鑑定に失敗しました』
俺をこの無限地獄に叩き落としてくれた元凶の一角に。
わかっている。
俺が苦しんでるのはこいつのせいではない。
悪かったのは、命を賭けた生存競争に負け、逃げるしかなかった弱い自分だ。
しかし、わかっていても、この胸の中に積もりに積もった憤りは晴れない。
筋違いなのは百も承知。
八つ当たりである事も百も承知。
こんな事を思う自分の愚かさとて百も承知。
それでも、この積もりに積もった憤り、発散しなければおかしくなりそうなんだ。
悪いがこの気持ちの全て、お前にぶつけさせてもらうぞ。
《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV9』が『矜持LV10』になりました》
《条件を満たしました。スキル『矜持LV10』がスキル『不遜LV1』に進化しました》
「ブォオオオオオオオ!!!」
本能のままに咆哮を上げ、それでも力士としての矜持で戦いの初めには手をついて、その体勢からいつものぶちかましをラムダに向かって放った。
ラムダは俺のぶちかましに脅威を感じたのか、カグナのように受け止める事はせずに、バックステップで距離を取る。
立ち合い変化か。
やはり地龍の戦い方には、他の魔物にはない明確な知性を感じる。
後ろに下がると同時に、引き撃ちのようにブレスを放ってくるラムダ。
だが、その攻撃は俺には殆ど効かない。
俺に備わっていた土耐性の上位スキルである大地耐性は、前回地龍四体に集中砲火を浴びた事で大きく熟練度を稼ぎ、その後の遭難生活中に俺自身が大量レベルアップした事でスキル熟練度レベルアップボーナスが加算され、遂に『大地無効』という土属性によるダメージを完全に防ぐスキルへと進化したからだ。
それでも、地龍のブレスには土属性だけじゃなく無属性っぽい純粋な破壊エネルギーでも混ざってるのか、ダメージ0にはならなかった。
しかし、ダメージの大部分をカットした事には変わりない。
この程度ならかすり傷だ。
同じくスキルレベルが上がってるHP超速回復ですぐに治る。
俺はお返しの攻撃を叩き込んでやるべく、その場で強烈な四股踏みをして地面を砕いた。
今の俺のパワーなら、こういう事もできるのだ。
そして、砕けた事でいくつもの岩石へと変貌した元地面の一部を掴んで、ラムダに向かって投擲する。
岩石は、凄まじい速度でラムダに向けて飛んでいった。
大量にレベルアップしたとはいえ、未だに俺の速度はラムダには及ばない。
純粋な追いかけっこになったら勝算は薄いだろう。
だからこそ、俺の唯一の遠距離攻撃であり、地味にスキルレベルをカンストさせている投擲と命中のスキルが大活躍する。
投擲でのダメージはそこまで期待していない。
恐らく、ラムダの防御力はカグナと同等かそれ以上。
岩なんぞより遥かに硬い。
自分の体より遥かに柔い物体をぶつけられたところで、大したダメージなんて入る訳がない。
だが、かなりの速度が出ているこの投擲攻撃が直撃すれば、多少なりとも体勢くらいは崩せる筈だ。
その隙を突いて接近し、がっちり掴んで捕まえるのが俺の狙い。
パワーだけなら、俺は前に戦った時点でカグナよりも上だった。
あれから大幅にレベルを上げた今、接近しての取っ組み合いになれば、俺は地龍にすら勝てると確信している。
明確に見える勝ち筋を狙って、俺は投擲を繰り返す。
ラムダは投げつけられた岩を素早く動き回って避け、謎のスキルで空中を蹴って宙を舞いながら避け、時にブレスで迎撃し、時に俺への反撃まで放ってきた。
俺も
ブレスでは効果がないと気づいたのか、俺への攻撃に使われるのは、闇を固めたような球体の射出だ。
恐らく、闇の魔法。
俺も使い方がわからなくて死蔵させてるとはいえ、一応は魔法のスキルをいくつか持っているので、この世界に魔法があるのは知っている。
ラムダは俺と違って魔法をちゃんと使いこなし、それを俺への攻撃に用いてきた。
いくつもの闇の弾丸が俺の体を撃ち据える。
だが、得意技のブレスと違い、地龍であるラムダにとって、闇の魔法は本来なら専門外なんだろう。
威力はブレスと比べ物にならない程弱い。
闇属性にそこまでの耐性は持っていないが、この程度なら素の防御力で充分に防げる。
《熟練度が一定に達しました。スキル『闇耐性LV8』が『闇耐性LV9』になりました》
ダメ押しのように上がる闇耐性。
これで完全に、食らうダメージの量を自動回復による回復量が上回った。
ラムダの攻撃は俺に通じない。
だが、俺の攻撃も今のところラムダに当たっていない。
手詰まりとまでは言わないが、戦いは一種の膠着状態に突入した。