オーク力士ですが、なにか?   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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18 知らない所で、迷宮内鬼ごっこ開催中

 アークタラテクトを倒し、そのステータスを知ってしまって失意に暮れながらも、めげずに次の強敵を求めて今日も俺は無限地獄をさ迷う。

 

 その時、気配感知に反応があった。

 何者かが凄まじいスピードでこっちに向かって来ている。

 この速度……アークタラテクトを遥かに超えている!

 求めていた新しい強敵!

 

 そうして現れたのは、いつか見たような小さな蜘蛛だった。

 そうだ!

 こいつがいた!

 前と微妙に姿が変わってる気がするが、この威圧感は忘れようがない!

 

『鑑定が妨害されました』

 

 ん?

 鑑定が失敗した。

 まあ、いつもの不具合だろう。

 そんな事より、いざ尋常に勝負!

 

 と思ったら、蜘蛛は俺の目の前で消えた。

 消えた!?

 ……渇望のあまり幻覚でも見たか?

 いや、もしかしたらテレポート的なスキルかもしれない。

 ハッ!

 もしそんなスキルがあるなら、俺もこの無限地獄から脱出できるのでは!?

 よし、早速アナウンスを使って調べ……

 

『パペットタラテクト LV77

 ステータス

 HP:10033/10033(緑)

 MP:11255/11255(青)

 SP:10044/10044(黄)

   :10988/10988(赤)

 平均攻撃能力:10200

 平均防御能力:10011

 平均魔法能力:10999

 平均抵抗能力:10000

 平均速度能力:11200

 ステータスの鑑定に失敗しました』

 

 蜘蛛の後ろからなんか来たぞ!?

 現れたのは、本当に生き物なのかも怪しい六本腕のマネキンのような魔物。

 名前にタラテクトって付いてるから、恐らくアークタラテクトとかと同系列の魔物なんだろうが、共通点が一つも見当たらない。

 

 それよりもだ。

 俺の見間違えじゃなければ、このパペットタラテクトとやら、とんでもないステータスしてるぞ。

 平均ステータス約一万。

 アークタラテクトの倍以上の数値。

 今の俺とでも充分に戦えそうな強さだ。

 

 ふ、ふふふ。

 ふははははははは!

 見つけた!

 見つけたぞ強敵ぃ!

 あの蜘蛛は逃したが、その代わりがいた!

 

 俺の命を奪い得る存在!

 俺が強くならなければならない理由になり得る存在!

 それを見つけられて、胸の中で歓喜の感情が荒れ狂う。

 今度こそ、いざ尋常に勝負だ!

 

 手をついて、闘神法と龍力を発動。

 一応タラテクト系列という事で、糸を警戒して火炎攻撃も発動。

 ステータスを底上げし、全身に炎を纏った上で突撃する。

 

 初手は的が小さくて低い事もあって、ぶちかましではなくかち上げ。

 それをパペットタラテクトはヒラリと避けた。

 かなりの余裕が感じられる回避行動。

 そりゃそうだ。

 俺もかなり速くなったが、それでもパペットタラテクトと比べれば、数値にして倍近い開きがある。

 そう簡単に当たるとは思っていない。

 根気強く攻撃を繰り返す必要がある。

 

 俺の攻撃を避けたパペットタラテクトは、ついでとばかりに片側三本の腕に握った三本の剣で俺の腹を斬りつけていった。

 皮と脂肪が裂けたが、それだけだ。

 刃は筋肉に弾かれて内臓には届かず、その傷もHP超速回復ですぐに治る。

 

 パペットタラテクトの物理攻撃力は約一万。

 対して、俺の物理防御力は約一万四千。

 上回ってはいるが、決して大きすぎる開きではない。

 それでもこれだけダメージを抑えられたのは、物理大耐性LV6のおかげだろうな。

 

 この障害物が無くて見通しのいい無限地獄では、大抵の敵に不意討ちが通じず真っ向勝負になる。

 そして、その殆どの戦いで俺は相手の攻撃を真っ向から受け止め、自分の体を武器に体当たりを繰り返してきた。

 その結果、耐性系のスキルはやたらと育っているのだ。

 これなら、眼球とかの急所を突かれない限り死ぬ事はないだろう。

 

 遠距離へ逃れたパペットタラテクトにブレスを吐いて牽制しつつ、四股踏み。

 地面を砕いて弾丸に変え、火炎攻撃で燃やして投げまくる。

 しかし、万超えの速度を持つ上に、人間サイズで地龍ラムダやアークタラテクトよりも圧倒的に的の小さいパペットタラテクトは、飛来する燃える岩の間をするりするりとすり抜けて、お返しに闇と毒の魔法を放ってきた。

 

 状態異常無効のおかげで効かない毒はともかく、闇の魔法はそれなりに痛い。

 このパペットタラテクトは、魔法系のステータスでも万超えなのだ。

 物理特化の俺と違って、全く隙が見当たらない。

 だが、この魔法連打でやられるかと言うと、そういう訳でもない。

 

 闇魔法は食らう機会が多かったせいで耐性が高いんだ。

 俺が持ってる闇耐性の上位スキルである暗黒耐性のレベルは4。

 これに魔法阻害の龍力の力も加わって、かなりのダメージをカットできている。

 ジリジリと削られてきてはいるが、鑑定に表示される自分のHPに変化はなし。

 前までなら不具合かと思ってたところだが、鑑定のレベルが上がり、『飽食』のスキルの詳細を知れた事で謎は解けた。

 

 飽食のスキルの効果は、食べて回復する赤のSPや、自動回復していくHPMPを限界以上に溜め込めるというもの。

 そして、そのストック分は鑑定に表示されない。

 つまり、今はそのストック分だけのHPで凌げているという事だ。

 むしろ、俺のHPの減りよりも、パペットタラテクトのMPの消費の方が激しい。

 

 向こうも飽食のスキルを持ってたのか、魔法を撃ち始めた直後はMPが減らなかったんだが、かなり強力な魔法をそこそこの時間連打し続けたせいで、今は少しずつMPが減っていっている。

 パペットタラテクトはMPもまた万を超えているので早々なくなったりはしないだろうが、このまま撃ち続けているだけでは奴の勝利は訪れない。

 

 それはパペットタラテクトも察したらしく、魔法を撃ちながら距離を詰めてきた。

 未だに投擲は続けているんだが、大した妨害にもなっていないな。

 やらないよりはマシ程度だ。

 

 しかし、近づいて来てくれるなら俺にとっても好都合。

 来い。

 接近戦でこそ無類の強さを発揮する力士の本領を見せてやる。

 

 パペットタラテクトが高速でジグザグに移動し、フェイントをいくつも交えて俺を惑わそうとする。

 俺は投擲すら中断し、意識を集中して仕掛けてくるだろうタイミングを計る事だけに全神経を注ぎ込んだ。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『予測LV9』が『予測LV10』になりました》

《条件を満たしました。スキル『予測LV10』がスキル『予見LV1』に進化しました》

 

 そのアナウンスと同時に、パペットタラテクトの次の動きが少しだけ見えるようになる。

 予測という不確かな形ではなく、ほんの僅かとはいえ未来を見ているような感覚。

 それが、攻撃を仕掛けてくるパペットタラテクトの動きを見切った。

 

 直前に闇の魔法を俺の足下に撃ち込んで足場を崩し、そこへ今までの加速の勢い全てを乗せて大ジャンプ。

 身長5メートルの俺の頭に届かせる為に地面を蹴り、その突きで眼球を狙ってくる。

 

 俺はそこに、炎を纏った右手での張り手を合わせた。

 足場崩しごときで、鍛え上げられた力士の体幹は揺らがない。

 完璧なタイミング。

 完璧な迎撃。

 パペットタラテクトは加速しまくったスピードのまま張り手と正面衝突し、突きに使っていた腕がへし折れる。

 張り手はそのまま腕だけでなく全身を砕くべく直進し……受け流された。

 パペットタラテクトの上半身が突きの勢いのまま独楽のように高速回転し、残った五本の腕に握られた剣を使い、回転に合わせて俺の掌を弾く事で。

 

 なんだそれは!?

 人間だったら絶対にできない、関節という概念を完全に無視した動き。

 マネキンみたいな体してるから、そういう事もやってくるかもしれないとは思っていたが、いざ実際にやられてみると予想以上に意表を突かれる。

 

 パペットタラテクトは上半身を回転させたまま、下半身で何もない空中を蹴った。

 地龍ラムダも使っていた宙を駆けるスキル。

 それを使って今一度加速し、回転の力を得た上半身で俺の首筋を狙う。

 張り手の為に振り抜いてしまった右腕の外側から。

 

 奇策を使った見事な戦法だ。

 パペットタラテクト。

 お前は強者だった。

 ステータスだけではなく、技までも紛れもない強者だった。

 

 だが、俺を倒すにはまだ足りない。

 俺は体を逸らし、剣の狙いを外して、首筋ではなく肩でパペットタラテクトの攻撃を受け止める。

 否、弾き飛ばす。

 体格と体重とパワーに任せて、強引に当たり勝った。

 さすがにこれだけ不意を突かれた状態で体重の乗った攻撃はできなかったが、パペットタラテクト自身が加速していたせいで、ぶつかった時の衝撃は結構なものになっている。

 向こうの攻撃も、急所ではなく肩に当たった程度なら深手にはならない。

 せいぜい、刃が骨に食い込んだくらいだ。

 

 対して、自分の踏み込みと回転の威力を諸に跳ね返されたパペットタラテクトは、上半身の半分が粉々に砕けていた。

 壊れた胸部の中から、掌サイズくらいの小さな蜘蛛が覗いている。

 ああ、そういう仕掛けだったのか。

 確かに、これならタラテクトと名前に付いてるのも納得だ。

 

 さあ、その壊れた体で次はどう出る?

 と思ったら、パペットタラテクトは一瞬で踵を返して逃げて行った。

 即断即決。

 いっそ見事な程の引き際の良さ。

 速度差も相まって、もう追い掛ける事はおろか投擲すら届かない。

 

 決着はつかずか。

 ならば、次に会った時こそ、撤退すらできない程完膚なきまでに叩き潰してやろう。

 その為に強くならなければ。

 ああ、やはりこの無限地獄の中で、俺に生の実感を与えてくれるのは強敵との戦いだけだ。

 もっと強く、もっと強く……。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『不遜LV3』が『不遜LV4』になりました》

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