オーク力士ですが、なにか?   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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R1 なんじゃ、この化け物オークは!?

 燃え上がれ……!

 燃え上がれ……! 儂ぃいいい!

 

「ぬぉおおおおお!!!」

 

 雄叫びを上げながら、儂は自分の全身に極炎魔法で火を付ける。

 熱い!

 熱いぞぉおおお!

 しかーし!

 この身を焦がす程の痛みこそが!

 儂を一歩魔導の真髄に近づけるのじゃ!

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『極炎魔法LV2』が『極炎魔法LV3』になりました》

《熟練度が一定に達しました。スキル『火炎耐性LV8』が『火炎耐性LV9』になりました》

 

「うひょひょひょひょひょひょひょひょ!」

 

 素晴らしい!

 長年上がらなかったスキルのレベルが、こうも簡単に上がった!

 やはり、この地獄の訓練は最高じゃな!

 遠くから九体の蜘蛛達が、儂の事をドン引きしたような目で見ておるような気がするが、きっと気のせいじゃろう!

 

 

 儂の名はロナント。

 レングザンド帝国筆頭宮廷魔導師じゃ。

 現在、儂は日の光も届かぬ世界最大の迷宮、エルロー大迷宮にて、自分で自分の服を燃やしてすっ裸になっておった。

 さすがに、ここに至った経緯を説明せねば、儂が理由もなく自分に火を付けて高笑いする変態などという事実無根の風評被害が発生しそうじゃから説明しておこう。

 

 数ヶ月前、儂はこの迷宮にてあのお方と出会った。

 『魔導の極み』というスキルを持ち、あまりにも芸術的で圧倒的なまでの凄まじい魔法を操ってみせた蜘蛛の魔物であるあのお方に。

 

 当時、儂はあのお方の討伐の任務を受け、一部隊を率いてあのお方と相対した。

 結果は、戦いとも呼べぬ一方的な蹂躙の末に惨敗。

 なんとか転移で逃げたが、生き残ったのは儂ともう一人の指揮官だけじゃった。

 

 その時にようやく、儂は自らが弱いという事を知ったのじゃ。

 それまでの儂は調子に乗っておった。

 魔族との戦いの最前線に立つ大国レングザンド帝国にて、史上最年少で筆頭宮廷魔導師となり、魔族との長く苦しい戦争を乗り越え、その末に人族最強の魔法使いとまで呼ばれるようになって。

 魔導の真髄を極めたと勘違いし、儂がおればどんな敵にも負ける事はないと思い上がっておった。

 

 その伸びに伸びた鼻っ柱が、あのお方との戦いでへし折られる。

 あのお方の魔法に比べれば、儂の魔法など児戯にも等しかった。

 それが、人族最強とまで呼ばれた儂の腕前。

 そんな事はあってはならぬ。

 儂は最強であらねばならんのじゃ。

 魔導の真髄に、誰よりも近くなくてはいかん。

 そうでなくては……。

 

 そんな思いを抱きながら、儂はあのお方が目撃されたというサリエーラ国ケレン領に、あのお方の情報を求めてやってきた。

 あのお方に弟子入りする為に!

 同僚には頭大丈夫ですかと言われ、世話係の小娘には呆れを通り越して怪生物でも見るような目を向けられたが、奴らは何もわかっておらん!

 何事も上達の一番の秘訣は、自分よりも優れた者に教えを乞う事であろうに!

 そんな当たり前の事が何故わからんのじゃ!?

 

 じゃが、結局ケレン領の街であのお方の情報を得る事はできんかった。

 そこで、儂は一旦初心に帰って、あのお方と初めて出会ったエルロー大迷宮に向かう事を思い付く。

 大人しくしていろという同僚の言葉をまるっと無視し、世話係の小娘の文句も右から左に聞き流し、転移の魔法を発動。

 そうして、儂はこの場所に辿り着いた。

 蜘蛛達が生死を賭けて鍛える、地獄の修行場へと。

 

 あのお方こそおらんかったが、ここにはあのお方の縁者と思わしき、圧倒的な力を感じる九体の蜘蛛達がおった。

 その九体が産卵によって産み出した無数の配下達と共に。

 そして、配下の蜘蛛達が行っておった訓練は、儂の度肝を抜いた。

 

 蜘蛛の一体が風の魔法を放ち、他の蜘蛛達を攻撃する。

 攻撃された蜘蛛達は避けようともせずに、魔法をその身に食らって傷を作り、別の蜘蛛の治療魔法で回復。

 いくつものグループに別れ、それぞれ違う属性の魔法でこれをやっておる。

 

 何をやっておるかと言えば、耐性スキルのレベル上げ。

 同時に、攻撃役と回復役の蜘蛛は、それぞれ攻撃魔法と治療魔法のレベルを上げる。

 MPが切れれば別の蜘蛛に役割を譲り、今度は耐性上げの一団に加わる。

 それを絶え間なく繰り返しておる。

 

 ほぼほぼ拷問のような訓練じゃ。

 しかし、その効率は恐ろしく高い。

 儂が自分に火を付けておったのは、この蜘蛛達の真似じゃな。

 他の訓練も、お互いを殺す気でやる模擬戦や、灼熱の中層に行って火耐性のレベル上げなど、死んでも構わんとばかりの過酷すぎるものばかり。

 実際、蜘蛛が多少死んだところで問題ないのじゃ。

 産卵によって、死ぬよりも早いペースで新しい蜘蛛が生まれておるのじゃから。

 

 まさに地獄。

 命を投げ出して鍛える地獄の訓練。

 これじゃ。

 これこそが儂に足りなかったもの。

 これこそが儂が更に強くなる為の方法。

 

 そう確信して、儂は今、蜘蛛の群れに交ざって生活しておる。

 幸い、拒絶はされておらぬからのう。

 ここの纏め役である九体の蜘蛛達は、まるで儂の事を見てはいけないものでも扱うかのように無視しておる。

 受け入れてもらえんかったのは残念じゃが、今のままでも蜘蛛達から学べる事は無数にある。

 強くなる為なら、魔導の真髄に近づく為なら、人間らしい暮らしなど喜んで捨ててくれよう。

 儂は人間をやめるぞ! レイガーーーーッ!

 

 

 そんな暮らしを続ける内、儂ら蜘蛛の群れは深刻な問題に直面した。

 食料不足じゃ。

 近辺の魔物はレベル上げと食料確保の為に既に狩り尽くしてしまい、今ではかなり遠出しなければ魔物に遭遇できん。

 

 その状況を打開する為に、蜘蛛達は狩り場を変えた。

 九体の蜘蛛達の転移でやって来たのは、強力な魔物達が跋扈する、前人未到のエルロー大迷宮下層。

 儂は燃えておった。

 今回ばかりは物理的にではなく精神的に。

 蜘蛛達との生活で鍛えた力が、この地でどれだけ通用するのか楽しみでのう。

 

 しかし、そんな元気も最初だけの話。

 死ぬ。死んでしまう。

 この下層は恐ろしい所じゃ。

 ステータス千を超えるような怪物がひっきりなしに襲撃してくる。

 人族でステータス千を超えられるのは、限られた英雄と呼ばれる存在のみ。

 そんな英雄を上回る力を持つ者達が、この下層には掃いて捨てる程おる。

 

 まさしく、文字通りの人外魔境。

 蜘蛛達は多少の犠牲を出しながらも、あっさりと襲撃してくる魔物を返り討ちにして食料にしてしまうんじゃが、その戦いに儂はついて行けておらん。

 儂の魔法は当たらず、当たっても大したダメージを与えられん。

 当たらないのは、魔法の発動準備に時間を掛けすぎてしまう為。

 当たっても然程効かんのは、当てようと思って威力の低い速射できる魔法を撃つせい。

 あっちを立てればこっちが立たぬ。

 今の儂では、せいぜい下層の平均くらいの魔物を相手に一対一が精一杯じゃ。

 それも倒すのにはかなりの時間が掛かる。

 

 どうにかしたいと頭を捻っておる内に、今度は他の魔物と一線を画する存在が襲撃してきおった。

 それは三体の地龍。

 地龍カグナ、地龍ゲエレ、地龍フイト。

 絶対的な力を持つ、Sランクの魔物。

 

 そやつらを相手に、儂は何もできんかった。

 何一つとしてできんかった。

 儂の魔法はこれまで以上に当たらず、通じず。

 渾身の最上位魔法ですら、龍の体に傷一つ付ける事も叶わんかった。

 

 しかし、蜘蛛達はそんな地龍すらもあっさりと沈めた。

 

 さすがに配下の蜘蛛達では儂同様、何もできずに蹴散らされておったが、纏め役である九体の蜘蛛達は違う。

 あのお方を彷彿とさせる力で地龍を圧倒し、本気すら見せずに簡単に仕留めてみせた。

 その時、九体の蜘蛛達の魔法行使をこの目で見た事により、そこに真似る事ができる確かな技術を見つけて興奮はしたが、やはり痛感させられるのは儂の弱さよ。

 

 儂は弱い。

 本当に弱い。

 この先どれだけ地獄のような努力を重ねようとも、あのお方はおろか、さっきの地龍達にも届かんじゃろう。

 じゃが、こんな弱い儂程度が人族最強の魔法使いと呼ばれておる。

 

 人の限界。

 それを感じざるを得ない。

 儂のようなただの人間と、あのお方のような人外の化け物の間に横たわる、あまりにも分厚く高過ぎる壁。

 己がその壁を乗り越える姿を、儂はどうしても想像する事ができんかった。

 

 そして、そんな儂の認識に最後のトドメを刺す存在が現れる。

 

 唐突に、本当に唐突に、すぐ近くからとてつもない威圧感が放たれる。

 あの地龍達ですら霞む、圧倒的な強者の気配。

 それが何の予兆もなく出現した。

 

 ガタガタと震えながら振り向いた先におったのは、一匹の豚の魔物。

 オーク。

 その体長は5メートル程。

 地龍に比べれば小さいが、人からすれば充分な巨体じゃ。

 あの大きさであれば、恐らく最上位種のオークキングじゃろう。

 

 オークキングは確かに強い。

 じゃが、その危険度はせいぜいAランク。

 あのお方はおろか、地龍よりも格下。

 儂ですら、頑張れば単騎で討伐できる可能性がある程度の魔物。

 それがオークキングだった筈。

 間違っても、あんな化け物ではない。

 

 恐らく、突然変異であろうな。

 タラテクト種の突然変異と考えられておるあのお方と同じような。

 つまり、目の前におるのはあのお方と同質の存在という事になる。

 

 その強さがどうしても気になって、儂は鑑定を使った。

 鑑定は相手に不快感を与える為、魔物などに使えば襲いかかってくる事が多い。

 あまりにも危険な行為じゃったが、この畏れを含んだ好奇心には勝てんかった。

 

 そして、儂は垣間見る。

 人の手では対処不可能と言われる力。

 危険度オーバーSランク、神話級の領域を。

 

『オークキング LV44 

 ステータス

 HP:20998/20998(緑)+2000(詳細)

 MP:3561/3561(青)+2000(詳細)

 SP:13555/13555(黄)

   :17435/17435(赤)+2000(詳細)

 平均攻撃能力:20310(詳細)

 平均防御能力:22798(詳細)

 平均魔法能力:1903(詳細)

 平均抵抗能力:24000(詳細)

 平均速度能力:10024(詳細)

 スキル

 「HP超速回復LV10」「魔力感知LV1」「術式感知LV3」「MP高速回復LV4」「MP消費大緩和LV4」「魔力操作LV1」「魔神法LV1」「魔力付与LV4」「大魔力撃LV1」「SP高速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「破壊大強化LV10」「打撃大強化LV10」「衝撃大強化LV10」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「大気力撃LV10」「神龍力LV3」「龍結界LV4」「火炎攻撃LV10」「体術の天才LV10」「鉄壁LV10」「投擲LV10」「射出LV6」「空間機動LV3」「集中LV10」「思考超加速LV1」「予見LV6」「並列思考LV4」「記録LV4」「命中LV10」「確率大補正LV10」「鑑定LV8」「気配感知LV10」「危険感知LV10」「動体感知LV5」「熱感知LV3」「空間感知LV1」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「帝王」「外道魔法LV6」「影魔法LV10」「闇魔法LV1」「不遜LV10」「飽食LV10」「物理大耐性LV9」「炎熱無効」「水流耐性LV4」「暴風耐性LV2」「大地無効」「雷光耐性LV2」「氷結耐性LV1」「光耐性LV9」「暗黒無効」「重大耐性LV5」「状態異常無効」「酸大耐性LV7」「腐食大耐性LV9」「気絶無効」「恐怖無効」「外道耐性LV8」「苦痛無効」「痛覚無効」「暗視LV10」「五感大強化LV10」「知覚領域拡張LV10」「神性領域拡張LV3」「天魔LV1」「天動LV10」「富天LV10」「道師LV7」「韋駄天LV10」「力士LV10」「禁忌LV3」「n%I=W」

 スキルポイント:3600

 称号

 「悪食」「暗殺者」「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「血縁喰ライ」「龍殺し」「覇者」』

 

「なっ、あっ……!?」

 

 絶句。

 絶句して声が出んかった。

 物理系ステータス二万超えじゃと!?

 低く見える速度とて、それでも一万を超えておる。

 唯一、魔法能力だけは儂と大差ない数値じゃし、魔法系スキルに至っては壊滅的じゃから、あのお方と違って尊敬する気には欠片もならんが、とんでもない化け物である事は疑いようがない。

 あのお方と同じn%I=Wという謎のスキルも持っておるし、間違いなくあのお方の同類じゃろう。

 

 何より恐ろしいのは、その耐性の高さ。

 無効まで至っている耐性も多く、そうでないものも軒並み上位スキルと化しておる。

 歩く要塞などというレベルではない。

 儂の渾身の最高火力を食らって無傷じゃった地龍カグナですらかわいく見える。

 あれを貫ける攻撃手段が儂には思いつかん。

 なんじゃ、この化け物オークは!?

 

 それでもあのお方なら!

 あのお方なら、この化け物にも勝てる筈!

 そう信じる儂の前で、オークと九体の蜘蛛達との戦いが始まった。

 人の立ち入れぬ、人知を超えた真の強者同士の戦いが。

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