強く。
もっと強く。
ただただ強く。
パペットタラテクトやあの小さな蜘蛛との戦いを求めていた頃からしばらくが経った。
最近の俺は調子がいい。
迷宮から出たいとか、この無限地獄から抜け出したいとか、そういう雑念がどんどん消えていく。
辛さや苦しさまで消えていき、心の中に残るのは、戦いへの渇望と強くなりたいという純粋な想いのみ。
無心で目の前の敵を倒し、稽古に励む。
雑念がなくなった事で、俺の動きはどんどん研ぎ澄まされていった。
闘志は胸の内で静かに燃え、思考は暴虐に支配される事もなく、どこまでも澄んでいる。
その状態で数多の魔物を倒した事で、レベルも随分と上がり、ステータスも存分に育った。
鑑定のレベルも8に上がり、遂に、遂に現在取得可能なスキル一覧が見られるというチートスキルへと進化したおかげで、今までの自分に足りなかったスキルを粗方揃える事にも成功。
いざという時の為にある程度のスキルポイントを温存したかったのと、使ってみてどうにも性に合わなかったという理由で魔法関連をバッサリ切り捨てたりもしたが、些細な問題だ。
心技体。
どれを取っても、今の俺はベストコンディションだと断言できる。
だからこそ、少し前にあれ程の強さを持った超強敵を九体も同時に相手取って生き残れたのだ。
前にも何度か見かけた小さな蜘蛛とそっくりな姿をした、九体の蜘蛛の魔物。
奴らは強かった。
これまでに出会ったどんな魔物よりも。
鑑定は『鑑定が妨害されました』という表示が出て使えなかったが、戦ってみた感じ、単純なステータスなら数値にして俺の倍近くはあっただろう。
あの戦いでは配下に打撃を与えた事で退いてくれたが、あのまま戦い続けていれば、いずれ俺の方が先に力尽きていた可能性が高い。
俺が知らなかっただけで、世界にはまだまだあんな強い奴らがいるのだと思えば、俺は所詮井の中の蛙だったという事がよくわかる。
かつて、これ以上強くなる必要があるのかなどと思っていた未熟な己が恥ずかしい。
武の道は果てしなく長く、極めるまでの距離はあまりにも遠い。
もっと鍛練を重ねなければ。
そう思って今日も稽古に励んでいた時、━━突然危険感知が過去最大の音量で警鐘を鳴らした。
あの九体の蜘蛛達ですら比較にならない強者の気配。
それが、すぐ近くにいきなり現れた。
逃走は……不可能だな。
恐らく、既に捕捉されている。
これだけの強者が、大人しく逃走を許してくれるとは思えない。
大魔王からは逃げられないという事だ。
ならば、迎え撃つのみ。
元より逃げるつもりもない。
これ以上逃げてどうなるというのか。
逃げて生き延びたところで、また当てもなく無限地獄をさ迷うだけ。
ならば、力士として誇り高く戦い、その果てで潔く散った方が何倍も幸せだ。
無論、戦うからには負けるつもりは毛頭ないが。
そして、気配の主が俺の前に現れる。
「おー、直接見てみるとホントに化け物だね。鑑定する前からわかるよ。白ちゃん以外にこんな子がいるなんて冗談キツいなー……」
懐かしい、とても懐かしい言語で話す強敵。
その姿は、年端もいかない少女のようだった。
前世の俺よりも若い、十代前半程の姿をした少女。
だが、あれ程焦がれた他者との会話も、予想外の敵の容姿も、俺の心に僅かなさざ波すらも起こさなかった。
雑念の全ては静かな闘争心に飲み込まれて消えていく。
頭に残る思考はただ一つ。
この強敵の倒し方のみ。
その情報を求めて、俺は鑑定を使った。
『鑑定が妨害されました』
「お、鑑定か。いいよ。特別に見られるようにしてあげよう。それで戦意喪失してくれるなら話が早くて助かるからね」
少女がそう言った瞬間、鑑定結果に変化が生まれていく。
《熟練度が一定に達しました。スキル『鑑定LV8』が『鑑定LV9』になりました》
神がかり的なタイミングでの鑑定のレベルアップ。
それによって表示された少女のステータスは……
『オリジンタラテクト LV139 名前 アリエル
ステータス
HP:90098/90098(緑)
MP:87655/87655(青)
SP:89862/89862(黄)
:89856/89856(赤)
平均攻撃能力:90021
平均防御能力:89997
平均魔法能力:87504
平均抵抗能力:87489
平均速度能力:89518
スキル
「HP超速回復LV10」「MP高速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「魔力精密操作LV10」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「大魔力撃LV10」「SP高速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「破壊大強化LV10」「打撃大強化LV10」「斬撃大強化LV8」「貫通大強化LV9」「衝撃大強化LV10」「状態異常大強化LV10」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「大気力撃LV10」「神龍力LV10」「神龍結界LV10」「猛毒攻撃LV10」「強麻痺攻撃LV10」「毒合成LV10」「薬合成LV10」「糸の天才LV10」「神織糸」「操糸LV10」「念力LV10」「投擲LV10」「射出LV10」「空間機動LV10」「連携LV10」「軍師LV10」「遠話LV10」「眷属支配LV10」「産卵LV10」「召喚LV10」「集中LV10」「思考超加速LV6」「未来視LV6」「並列意思LV4」「高速演算LV10」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV10」「隠密LV10」「隠蔽LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「帝王」「鑑定LV10」「探知LV10」「昇華」「外道魔法LV10」「火魔法LV8」「水魔法LV10」「水流魔法LV5」「風魔法LV10」「暴風魔法LV10」「嵐天魔法LV10」「土魔法LV10」「大地魔法LV10」「地裂魔法LV10」「雷魔法LV10」「雷光魔法LV8」「光魔法LV10」「聖光魔法LV2」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「毒魔法LV10」「治療魔法LV10」「空間魔法LV2」「重魔法LV10」「深淵魔法LV10」「大魔王LV10」「矜持LV5」「激怒LV9」「暴食」「簒奪LV8」「休LV9」「堕淫LV4」「物理無効」「火炎耐性LV5」「水流無効」「暴風無効」「大地無効」「雷光無効」「聖光耐性LV8」「暗黒無効」「重無効」「状態異常無効」「酸無効」「腐蝕大耐性LV7」「気絶無効」「恐怖無効」「外道大耐性LV6」「苦痛無効」「痛覚無効」「暗視LV10」「万里眼LV10」「五感大強化LV10」「知覚領域拡張LV10」「神性領域拡張LV3」「天命LV10」「天魔LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「天道LV10」「天守LV10」「韋駄天LV10」「禁忌LV10」「命名LV2」』
……強い。
強すぎる程に強い。
それが俺の感想だった。
だが、それだけだ。
戦意を喪失して諦めるという選択肢はない。
むしろ、これだけの強敵に挑める事は幸せである。
気力充分。
俺はいつものように手をついて戦闘開始のタイミングを計った。
「ありゃりゃ? 私のステータス見て、戦意が欠片も衰えないってどういう事?」
少女は少し困惑しているようだ。
だが、隙は一切見当たらない。
その時、いつだったかにも感じた、嫌な視線を向けられた時のような不快感を覚えた。
「あー、なるほど。『不遜LV10』。これのせいか。道理で話も聞かずに臨戦態勢な訳だよ……。白ちゃんといいソフィアちゃんといい、なんで私の知ってる転生者は悉く大罪に手を出すんだろ……」
少女は何故か苦々しい顔になった。
今何か聞き捨てならない単語が聞こえたような気もしたが、それも湧き出す闘争心に飲まれてすぐに忘れる。
「こりゃ、一度徹底的に叩きのめしてあげないとダメかな。いいよ。かかって来なさい。気が済むまで相手してあげるからさ」
そう言って、少女は両手を広げた。
隙だらけの構え。
宣言通り、好きにかかって来いという事だろう。
なら、素直にお言葉に甘えて、全力でぶつからせてもらうとしよう。
俺は格下で、少女が格上。
番付にして横綱と幕下くらいの開きがあると考えていい。
番付一枚違えば家来同然、一段違えば虫ケラ同然なんて言葉もある。
その言葉に従うならば、少女にとって俺は虫ケラ以下だ。
少女には傲る資格が充分にある。
勝って金星をぶん取らなければ、その傲りを後悔させてやる事もできない。
ならば、やってやるだけだ。
俺は地面を蹴り、少女に向かって突撃した。
実力差からして、これが生涯最後の戦いになる可能性も高い。
それでも俺は後悔しないだろう。
さあ、いざ行かん。
はっけよい!