オーク力士ですが、なにか?   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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20 オークキングVS魔王アリエル

「ブォオオオオ!!!」

 

 初手。

 俺はいつものぶちかましではなく、燃える掌による諸手突きを選択した。

 理由は単純、相手が小さすぎるからだ。

 俺の身長は約5メートル。

 対して、目の前の少女の身長は150センチもないだろう。

 俺の腰よりも遥かに低い。

 そんな小さい的に頭からぶつかるというのは現実的じゃない。

 デカすぎるというのも考えものだ。

 

 しかし、デカさは重さ。

 重さは強さ。

 俺の体重という名の質量の暴力が、万を超えるステータスの速度に乗って少女に叩き込まれる。

 物理無効のスキルのせいでダメージは入らないだろうが、衝撃によって吹き飛ばす事は可能だ。

 それによって体勢を崩し、有利な状況で火炎攻撃のダメージを叩き込む!

 

 そんな俺の目論見は、少女が軽々と俺の諸手突きを両手で止めた事で破綻した。

 

「ッ!」

「おぉ、やるね。ステータス以上に強く感じたよ。力の入れ方と体の使い方が上手い。さすが力士」

 

 俺の全体重を乗せたフルパワーでも、少女は小揺るぎもしない。

 この前の蜘蛛達ですら、張り手の直撃程度でそれなりの手応えがあったというのに。

 掌の炎も、まるでダメージを与えられている様子がない。

 まさに怪物。

 

 だが、立ち合いを制された程度で終わりはしないぞ!

 俺はゼロ距離からブレスを吐いて少女にぶつける。

 当然、こんなもんが効く相手じゃない。

 俺のブレスは威力が低いし、何より少女には俺と同じ大地無効がある。

 どうにも俺のブレスは地属性っぽいから、本当に毛ほども効かないだろう。

 それどころか、少女は口を開けて俺のブレスを飲み込んでしまった。

 さっき鑑定に成功した『暴食』のスキルの効果。

 ありとあらゆるものを食らい、自らのエネルギーへと変換するスキル。

 ブレスまで食うとは雑食の極みだな。

 

 しかし、元々ブレスを吐いた目的はダメージではなく目眩ましだ。

 この程度の企みは当然バレてただろうが、やらないよりはいい。

 それに、少女は俺の攻撃を全て叩き潰して勝つつもりなのか、先手はこっちに譲ってくれる。

 まるで横綱相撲だ。

 だったら貰うとしよう、金星を!

 

 ブレスが互いの視界を遮っている内に、感覚を頼りに少女に受け止められていた腕を動かす。

 更に腰を落としながら、少女の腕の外側を滑るようにしてまわし……はないので、仕方なく腰を右手で思いっきり掴む。

 少女が「ひゃ!?」という可愛らしい声を上げたが、構わず技を仕掛けた。

 

 上手投げ!

 相撲の王道とも言える技で少女を投げる。

 いくら力が強かろうと、その見た目通りの体重の軽さであれば、投げ技には耐えられない筈。

 

 その目論見すら、目の前の化け物は容易く粉砕してみせた。

 動かない……!

 見れば、少女の足が見えない何かに引っ掛かったかのように、不自然に空中で停止していた。

 これは、空間機動のスキルの応用か!?

 かつて地龍ラムダやパペットタラテクトが使っていた、何もない空中を足場にするスキル。

 最近になって取得可能スキル一覧が見れるようになった事で、よくやく俺も取得できて効果が判明したやつだ。

 

 空間機動の効果は、赤のSPを使って空中などに見えない足場を作り、それを踏みつける事でどんな場所でも移動可能になるというもの。

 この少女は今、その見えない足場を足の甲で引っ掛かけて突っ張り棒のように使っている。

 こんな使い方があるとは。

 転生して数年(?)程度の俺と違って、スキルの扱い方に年季の入った熟練の技を感じる。

 もしかしたら、この少女は見た目通りの年齢ではないのかもしれない。

 

 だが、それが何だ!

 あらゆる面で劣っている事など百も承知。

 それでも勝ちたい。

 それがどれだけ不遜な考えだろうと、ただ勝ちたい。

 今の俺にとっては、それだけが生き甲斐なんだ!

 

 上手投げを耐えられた反動を利用し、今度は左手で少女の肩を掴み、逆側に思いっきりぶん投げる。

 極端な体格差やまわしの有無などによって本来の形とは大分違ってしまったが、これぞ幻の決まり手、呼び戻し!

 重量級ですら宙を舞うド派手な様から、別名「仏壇返し」とも呼ばれる大技。

 力と技の両方を高度な次元で兼ね備えていなければ使えず、そのあまりの難易度から幻の決まり手と呼ばれた技。

 だが、心技体の全てがベストコンディション状態の今の俺なら使える!

 

 上手投げから呼び戻しという連続の投げ技に耐えきれず、バキバキと少女の足を固定していた空間機動の足場が壊れる音が聞こえた。

 よし!

 このまま倒して、上から火炎攻撃の連打を……

 

「ブゴッ!?」

 

 突如、腹部からとんでもない衝撃が襲ってきた。

 痛覚無効のおかげで痛いとは感じないが、その代わりに焦燥感のような別の危険信号で、自分の体がどれだけのダメージを受けたのかを教えてくれる。

 そうじゃなくても、HPが一気に三割くらいゴリッと減ったので、かなりのダメージを食らった事は明らかだった。

 

 何をされたのかはわかってる。

 殴られた。

 呼び戻しで体勢が崩れていたにも関わらず、少女は体を捻って空間機動を発動。

 自分の後ろの空間を蹴って、その勢いで俺の手を振り払い、懐に潜り込んで腹に拳を叩き込んだのだ。

 

 その攻撃のあまりの威力に、俺の体が大きく後ろへと弾き飛ばされる。

 だが、意地でも倒れないし膝もつかない。

 すぐに今までの激闘で地面が砕けて出来た足下の岩に手を伸ばし、気力付与と魔力付与と火炎攻撃で強化してぶん投げた。

 

「結構本気で殴ったんだけどな……」

 

 何か囁きながら、少女は暴食のスキルで岩を補食した。

 俺は岩を目眩ましにして突進し、炎を纏った連続の張り手を少女に向けて繰り出す。

 乱突き、百烈張り手!

 MPSPを使ってステータスにバフをかける闘神法、魔神法、神龍力。

 一撃の威力を上げる大魔力撃、大気力撃。

 防御力を上げる龍結界。

 全て惜しみなく使う。

 温存なんてしてたら、ダメージを与えるどころか体勢を崩す事すらできない。

 

 そんな俺の全力を、少女はやはり真っ向から粉砕する。

 俺より遥かに強く遥かに速い拳の連打で、俺の張り手を迎撃した。

 少女の拳とぶつかった掌が悲鳴を上げ、張り手で相殺できなかった分は体に直撃するから、尚の事酷いダメージを受ける。

 手数を重視している分、さっき腹に貰った一撃よりは軽いのが唯一の救いか。

 

 それでも、食らい続ければかなりのHPを持っていかれる。

 HP超速回復がカンストしてなかったら、とっくに全てのHPを削り切られて殺されていただろう。

 そう思うくらいのダメージを既に食らっていた。

 

 加えて、一発拳を受ける度に体が後ろに弾かれる。

 体勢を崩すどころか、こっちの体勢がどんどん崩されていく。

 よろめけば、その隙に強打か連打をしこたま叩き込まれて終わりだ。

 力士としての意地で、死んでも体勢を維持し続けるしかない。

 しかし当然、それだけでは勝てない。

 このままなら、ジリジリと敗北に向かっていくだけだ。

 

「ブォオオオオォオオオォォオオ!!!」

 

 現状を打破すべく、俺は拳を食らいながら無理矢理前に出た。

 被弾は増えたが、多少なりとも圧力をかける事はできてる筈だ。

 実際、そんな俺を叩き潰す為に、少女の拳が激しさを増す。

 だが、攻撃が激しくなるという事は、雑になるという事だ。

 少女はステータスやスキルが強いだけじゃなく、格闘術も尋常じゃなく上手いので、技に生じる乱れは僅かなもの。

 しかし、そのほんの僅かな技の乱れの中にしか、俺の勝機はない!

 

 不利な打ち合いを続けながら隙を探った。

 そのタイミングで、俺に奇跡が起こる。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル『物理大耐性LV9』が『物理大耐性LV10』になりました》

《条件を満たしました。スキル『物理大耐性LV10』がスキル『物理無効』に進化しました》

 

 生まれた時から下層の化け物どもに体でぶつかり続けて鍛え上げた物理耐性が遂にカンスト。

 それによって、物理耐性は目の前の少女も持っているチートスキル『物理無効』へと進化した。

 これで少女の拳は効かない。

 どれだけ強い力だろうと、物理攻撃である以上、このスキルを貫通する事はできない筈だ。

 

 無論、少女の強みは物理攻撃だけじゃない。

 鑑定LV10まで持ってる以上、俺が物理無効を取得した事はすぐにバレて、魔法攻撃主体に切り替えてくるだろう。

 だが、スキルが進化した直後のこの瞬間だけは、さすがのこの少女でも対応が遅れた。

 

 腹にめり込んだ拳を、物理無効のスキルを盾に、踏ん張る足に力を込めて完璧に防いだ。

 今まで当たる度に俺を弾き飛ばしていた拳が完全防御された事で、少女が僅かにたたらを踏む。

 殴っていたサンドバッグが突然壁に変わったみたいな状態だ。

 想定していた手応えと違い、想定していなかった反動がいきなり来れば、どんな達人でも虚を突かれる。

 

 俺はそうして一瞬だけ硬直した少女の頭を、上から思いっきり叩きつけた。

 素首落とし!

 予想外の衝撃第二弾により、地面にうつ伏せでめり込んで倒れ込む少女。

 ようやく体勢を崩す事に成功した。

 それも、これ以上ないくらい理想的な形で。

 

 倒れた少女の背中に、容赦なく火炎張り手の連打を叩き込む。

 張り手の衝撃で起き上がるのを阻止し、火炎攻撃でHPを削る。

 止まるな!

 限界まで打ち続けろ!

 最高のタイミングでのスキル進化という奇跡によって到来した千載一遇のチャンスだ。

 こんなチャンスは二度と来ない。

 ここで少女のHPを削り切らなければ、俺の勝利はない!

 

 無我夢中で張り手を繰り出し続けた。

 少女のやたら露出度の高い服の背中部分が燃えていく。

 しかし、鑑定に表示される少女のHPに変動はなし。

 恐らく暴食のスキルで蓄えられているだろうストック分すら削り切れていないという事だ。

 もっと! もっと打ち続けろ!

 

 地面が抉れて陥没し、体力ゲージである黄色のSPがなくなっても打ち続けた。

 黄色のSPが切れると、体は息切れ状態になる。

 それでも無理矢理動けば、今度は赤のSPが減っていく。

 赤のSPは総体力だ。

 これを切らせばエネルギーが枯渇して餓死してしまう。

 そして、赤のSPを回復する手段は食事しかなく、他のステータスと違って自動では回復しない。

 戦闘中に回復させる事はまず不可能。

 

 それでも俺は打ち続けた。

 どの道、ここで止まれば復活した少女にやられて死ぬ。

 選択肢なんてない。

 例え、さっきから危険感知が凄まじい勢いで警鐘を鳴らしていようとも、それを無視して攻撃し続けるしかないのだ!

 

 しかし……やはりどう足掻いてもこれは無理攻め。

 最善を尽くしたという自負はある。

 むしろ、奇跡によって最善以上にやれたという自信もある。

 だから、俺の敗因はたった一つ。

 

 ━━目の前の敵が、次元違いに強すぎた。

 

 圧倒的な格の違い。

 シンプルに実力が違いすぎる。

 ただ、それだけの話。

 

 少女を中心にして闇の魔法が放たれる。

 暗黒無効を持つ筈の俺にダメージを通す闇の魔法。

 恐らく、あの九体の蜘蛛達も使っていたと思われる深淵魔法。

 その威力に耐えきれず、俺は少女の上から弾き飛ばされてしまった。

 

「……うん。正直、君を舐めてたよ。予想以上だった。誇っていいよ。君はシステム内最強のこの私に本気を出させたんだから」

 

 見れば、少女の両拳が深淵の闇を纏っている。

 俺が少女の物理無効を突破する為に火炎を纏ったように、少女は俺の物理無効を突破する為に闇を纏ったという事か。

 その姿を見て悟る。

 もはや、勝機は万に一つもないと。

 

「行くよ」

 

 それでも、俺は退かない。

 最後の最後まで全力を尽くして戦って散る。

 それが力士としての最後の誇りだ。

 

「ブォオオオオオオ!!!」

 

 炎を纏った張り手と、闇を纏った拳がぶつかり、一方的に炎が押し負ける。

 闇は俺の体を抉り、物理無効も暗黒無効も貫通して大ダメージを与えた。

 闇の拳を食らう度に体が吹き飛ぶ。

 俺のHPが尽きかけると、少女は何故か一気にトドメを刺さずに、ゆっくりと歩いて距離を詰め、俺のHPが回復するのを待ってから攻撃を再開した。

 それが何度も何度も繰り返され、━━俺は遂に、大の字になって地面に倒れた。

 

「フゥ……フゥ……」

 

 負けた。

 完敗だ。

 もう体が動かない。

 HPもMPも黄色のSPですら回復しない、本当の意味での限界。

 だが、それ以上に背中に感じる地面の冷たさが、俺に敗北を強く意識させた。

 

 俺はこの世界に転生してから、実は一度も倒れた事がなかったのだ。

 膝をついた事すらない。

 相撲では、土俵の外に押し出されるか、足の裏以外が地面についたら負けだ。

 転生してから何度も逃げてきた俺だが、足の裏以外を地面につける事だけは一度もなかった。

 そうなる前に逃げていただけとはいえ、それだけが今世の俺が唯一誇れる事だった。

 まあ、投擲の為に地面の岩を掴んだり、張り手で地面を砕いたりはしたんだが、あれはノーカンという事で。

 

 その誇りすら砕かれたのだから、本当の本当に完全敗北だ。

 だが、やるだけやった。

 全てを出し尽くした。

 悔しくはあるが、後悔はない。

 

 その時、自分の中でずっと張り詰めていた糸が切れる感覚がした。

 そして、どんどん意識が薄れていく。

 気絶無効と状態異常無効のおかげで、気絶も睡眠もしなくて済む筈なんだけどな。

 自動回復系のスキルも機能してないし、スキルの発動を維持するだけの力も残ってないという事なのかもしれない。

 なら、尚の事満足だ。

 

 ようやく終われる。

 ようやく、この無限地獄から解放される。

 闘争心すら燃え尽きた今、心の中に湧き出てくるのは、今まで圧し殺していた苦しみと、それらから解放される喜び。

 とても穏やかな気持ちで、俺は目を閉じた。

 

「もしこれが相撲だったら、先に地面に倒れた私の負けだったね」

 

 意識を失う直前。

 そんな言葉と共に、とても小さくて温かい手が、俺の頭を優しく撫でてくれたような気がした。

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