蛙が口から唾を吐き出してくる。
これがさっき俺の背中を焼いた攻撃だろう。
スキル獲得のアナウンスから察するに、酸と毒の複合攻撃。
当たれば滅茶苦茶痛い。
俺はそれを避け……ない!
さっき蜘蛛から逃げる為に走ってて気づいたが、俺の足はそんなに速くない。
生まれつき結構な脂肪を持ってる割には遅くもないが、ここには俺より速い魔物が大量にいた。
そして、目の前にいるのは如何にも身軽そうな蛙。
これを相手に回避に徹していたら勝ち目が見えない。
だったら、攻撃直後の隙を狙って最短距離で突撃する!
腕を盾にし、唾を突っ切るようにして、強引に蛙に突撃をかます。
俺の動きが予想外だったのか、攻撃動作の直後という事もあって、蛙は硬直していた。
その体に全力のぶちかましを食らわせる。
俺は生まれたてのオーク(幼体)だが、オークの生態なのか既に1メートル弱くらいの身長と、その体積に見合った体重がある。
そして、蛙の大きさも俺と似たようなもんだ。
同じ体格の奴から体重の乗った体当たりを食らえば、当然よろめく。
そうしてよろめいた蛙の体に、俺は組み付いた。
まわしはないので、蛙の両前足の付け根に手を入れる。
そこから全力でぶん投げた。
すくい投げ!
相撲だったらこれだけで勝ちなんだが、これは生死を賭けた戦いだ。
投げるだけではなく、ちゃんとダメージを与えるようにしなければならない。
俺はすくい投げの勢いで、蛙の頭を思いっきり地面に叩きつけた。
更に、その上から地面と挟み込むような張り手。
衝撃の逃げ場がないその一撃は蛙の頭を叩き潰し、その命を終わらせた。
討伐完了。
決まり手、潰し張り手ってところか。
そんな技、相撲にはないけどな。
というか、そんな殺し技が神聖な武道である相撲にあって堪るか。
しかし、これからは相撲を殺しの技として使わなければ生きていけない。
我が恩師、相撲部顧問の太巻先生、お許しください。
だが、何はともあれ初勝利。
そして、初の獲物だ。
殺したからには食わねばならぬ。
空腹は割と限界だし、食わないという選択肢はない。
見るからに毒物だが、餓死するよりはマシだ。
アナウンスによると、さっき毒耐性というスキルを獲得したみたいだし、死にはしないだろう。多分。
という訳で、頂きます。
!?
不味い。
とてつもなく不味い。
滅茶苦茶苦いし、それどころか痛い。
《熟練度が一定に達しました。スキル『毒耐性LV1』が『毒耐性LV2』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『酸耐性LV1』が『酸耐性LV2』になりました》
スキルレベルが上がる程に不味い。
だが、力士は体が資本。
食わなければデカくなれない。
これは成長の為に必要な事なのだ!
そう思わないと心が折れそう。
あ、体が資本と言えば、蛙の攻撃を二発くらい思いっきり浴びちゃったんだがどうしよう。
オークの皮膚が強靭だったのか、そこまでのダメージにはなってないと思うが、治るのかこれ?
治らないんだとしたら相当マズイんだが。
《熟練度が一定に達しました。スキル『HP自動回復LV1』が『HP自動回復LV2』になりました》
あ、大丈夫っぽいな。
意識してみると、ほんの少しずつだがダメージが回復してるのを感じる。
アナウンスによると、HP自動回復というスキルのおかげか。
獲得ではなくレベルアップって事は、多分最初から持ってたんだろうな。
オークって、もしかして結構強い種族だったのか?
なんて事を思った瞬間、少し遠くの方で轟音が聞こえてきた。
ビクッとしてこっそりとその方向を見れば、翼の生えたライオンみたいな奴と、巨大な蜘蛛が激闘を繰り広げていた。
蜘蛛はさっきの奴よりは一回り小さいが、それでも体長10メートルはありそうな巨大蜘蛛だ。
翼の生えたライオンもかなりデカい。
そんな重量級同士の戦いだというのに、その戦闘はあまりにも速く、そしてあまりにもバカげた規模の戦いだった。
ライオンが口からブレス的な何かを吐き出せば地面が爆発し、それに対抗して蜘蛛が突撃をかませば岩壁が爆ぜる。
今の俺じゃ、巻き込まれただけでひき肉にされる事間違いなしの次元違いの攻防。
あんな化け物がポンポン出てくるとか、ここはどんだけ大魔境なんだ。
ここは逃げよう。
今度こそ戦略的撤退だ。
あれに挑むのは早すぎる。
さながら相撲始めたばかりの初心者が、恐れ多くも横綱に挑むくらい早すぎる。
そろりそろりとその場を離れ、俺は安全そうな場所を探して洞窟の中をさ迷う。
だが、どこに行っても化け物ばかり。
気を張り詰めながら警戒してコソコソしてる内に『気配感知』『隠密』『無音』『集中』などのスキルが取れてしまった。
安全な場所が中々見つからないから寝るのも一苦労。
更に、食べられるのは弱い魔物ばっかりで、そいつらは大抵が毒持ちなので毎回の食事が苦行だ。
『悪食』なんて称号まで貰って、初めて称号なんてシステムを知ったよ。
それらが合わさって、凄まじい速度で俺の精神がすり減っていく。
俺は思った。
早急に強くならなければ死ぬと。