泣き疲れた士道くんが静かに寝息を立て始めた。
気絶無効と状態異常無効のせいで気絶も昏睡もさせられず、不遜の精神汚染のせいで降伏もしてくれないこの子を無力化する為に、魂の力が尽きかけるまでボコボコにしてしまったので、今はかなり弱ってるのだ。
こうして、すぐ気絶してしまうくらいに。
スキルやステータスは、魂の力を使って発動を維持されてる。
耐性とかの常時発動系スキルや、鑑定とか思考加速とかのMPSP消費なしで発動できるスキルも、実はこの数値に表記されない魂の力を使って発動してるのだ。
HP自動回復とかで回復する分を引っ張り出してる源泉もそこ。
だから、ボコボコにして回復を待ってまたボコボコにしてっていうのを、魂の力が尽きるまで繰り返せば、全てのスキルの発動を切る事ができる。
そうやって気絶無効のスキルを切ってから、私はこの子を簀巻きにして拉致って来たって訳だ。
不遜のスキルも一回切れて、更に一回気絶したおかげで平常心に戻ってくれたからよかった。
起きてる間に不遜をオフにする事もできたみたいだし、割と最善の結果だと思う。
これで、これ以上の過剰な経験値を詰め込まれて破裂するって事もない筈。
ギュリエに見せたら、「そこそこ魂が傷付いてはいるが、通常の成長スピードに戻せば問題ないレベルだろう」って言ってたし。
体と同じで、この子の魂はかなり頑丈な方だったみたいだ。
まあ、不遜の最上位スキルで、不遜なんかとは比べ物にならない『傲慢』持ってる上に、更に他の支配者スキルとか邪眼系とか魔法系とか毒系とか種族固有スキルとか詰め込んでケロッとしてる白ちゃん程じゃないけど。
うん。
あの理不尽の権化と比べちゃいけないね。
とはいえ、オフにしたところで精神汚染は止まらないから、正気を保ってる間に『外道耐性』を伸ばさないといけない。
精神汚染は魂への攻撃と言える。
だから、魂への攻撃に対する耐性である外道耐性を伸ばしていけば軽減できるのだ。
スキルポイントがそこそこ残ってるみたいだし、全部使ってでも外道耐性をできるだけ伸ばしてもらおう。
最上位の外道無効が取れれば尚良し。
というか、外道無効は自傷耐性上げしてでも近い内に取ってもらう。
そう何度も暴れられたら、さすがに困るから。
静かに眠る士道くんを、私は複雑な気持ちで眺めた。
そこに白ちゃんとの戦いを生き残った四体のパペットタラテクトの内の二体、不思議ちゃんのリエルと元気娘のフィエルがやって来て、士道くんにちょっかいを出し始める。
こらやめなさい。
フェエル、頭持って揺さぶらないの。
さっき頭撫でてた私の真似なのかもしれないけど、ステータスも弱体化して物理無効も切れてる今の士道くん相手だと、首が折れるか頭が千切れかねないから。
リエル、鼻に指突っ込むのやめなさい。
確かにオークの鼻って目立つ場所だけど、だからってなんで指突っ込んだし。
あれか?
ト◯ロの鼻こちょこちょしてたメイの気分か?
こちょこちょどころか鼻フック状態になってんじゃん。
二人を追い払って残りのパペット二人、しっかり者のアエルと気弱で大人しいサエルに任せる。
騒がしいパペット達を、疲労困憊で今にも死にそうなソフィアちゃんが煩わしそうに見ていた。
そんなソフィアちゃんを支えつつ、士道くんにチラチラと心配そうな視線を向けるメラゾフィスくん。
他の皆を完全無視して食事に夢中になる白ちゃん。
でも、いつもより若干食べるスピードが遅いから、士道くんに何かしら思うところがあるのかも。
旅のメンバーの反応はそんな感じ。
パペット達は思うところなし。
ソフィアちゃんは自分の事だけで精一杯って感じだけど、明確に拒絶する意思もなさそう。
メラゾフィスくんはさっきの男泣きというか、決意表明を聞いて、心配そうな視線を向けるくらいには好感を持ったっぽい。
白ちゃんはいつも通りわからん。
うん。
これだったら旅に連れて行っても問題なさそうだね。
不遜の精神汚染さえどうにかなれば、むしろ地雷と問題だらけの他のメンバーよりよっぽどまともそう。
なんだけど、私は結構複雑な気持ちだった。
だって、この子ってばクイーンの眷族の仇だし。
百歩譲ってそれはいい。
生存競争の中での話だし、あとこう言っちゃうと凄く薄情なんだけど、クイーンやパペット達直属の眷族と比べちゃうと、その下のクイーンを介しての眷族達はどうしても思い入れが薄い。
基本育児放棄してる子達だし、生存競争でめっちゃ減っていくし、共食いでも減っていくし、酷い時はクイーン自らおつまみ感覚で食べちゃう子達だし……。
あれ?
そう考えると、士道くんより私やクイーンの方が眷族達に酷い事してね?
ネグレクト……いや、これ以上考えるのはやめとこう。
しかも、さっきの大泣きの内容を聞くと、先に手を出したのは眷族の方みたいなんだよね……。
この子をあんな泣かせる程に追い詰めた一因は私の眷族な訳でして。
そんだけ追い詰めたくせに、今は恩人扱いされて「このご恩は一生をかけてお返し致します!」とか言われちゃった訳でして。
マッチポンプみたいで罪悪感がヤバい。
うん。
士道くんが起きたら、そんな感謝する必要ないよって言っとこう。
眷族がやらかした事も謝っとこう。
あの大泣きっぷりを見ちゃうと、生存競争の中での話だからって開き直る気にもなれないわ。
それにしても、あんなに泣くとは思わなかったなー。
いや、あれが正常な反応か。
平和な世界で生きてた高校生が、いきなり魔物に転生して、いきなり化け物の巣窟に放り込まれて、脱出の目処も立たずに、たった一人で一年以上もさ迷い続ければ、精神に異常の一つや二つきたして当然だ。
本来なら上げるのが凄い大変な筈の不遜のスキルがカンストしちゃってるのも、環境のせいが大きいと思う。
きっと、この子は戦う以外に生きる理由を見出せなかったんだ。
闘争心に身を委ねる事でしか、精神の均衡を保てなかった。
だから戦いにのめり込んで、戦う事しか考えられなくなって、戦いと殺戮を求める不遜の精神汚染が進んで、スキルレベルがカンストするまでに至ったんじゃないかな。
そうして精神汚染で塗り潰して圧し殺してきた苦しみが、一旦正気に戻って恐怖無効のスキルまで切れた今、一気に心の防波堤を突き破って溢れてきたと。
「可哀想に……」
私はもう一度、眠った士道くんの頭を優しく撫でた。
そんな状況で命があっただけでも凄いし、精神が壊れきらなかったのは尚凄い。
この子は決して弱くない。
むしろ、かなり強い子だと思う。
同じ環境でケロッとしてた、どこぞの精神力オリハルコンな蜘蛛が例外なだけだよ。
やっぱり、あれと比べちゃいけない。
判定基準が白ちゃんに寄ってたから、大泣きした士道くんを見て意外なんて感想が出てきたんだ。
よくない。
これはよくない。
私は改めて、白ちゃんは例外なんだと心に刻んだ。
全く。
ギュリエが白ちゃん並みの転生者とか言うから、色眼鏡で見ちゃったじゃないか。
まあ、それも強さだけを見ればあながち間違ってなかったけどさ。
いやホント、マジで強かったわー。
地面に倒されたのなんていつぶりだろ?
ステータスじゃ劣るとはいえ、真っ向勝負なら誇張抜きに白ちゃんと互角以上だったよ。
二人が戦った場合、耐性スキルてんこ盛りのせいで白ちゃんの主力攻撃はほぼ通じず、近づけば相撲技術で組み伏せられて終わる。
いくら白ちゃんでも、泥沼の持久戦を覚悟しないとこの子は倒せないんじゃないかな?
士道くん、恐ろしい子……!
しかし、そんな恐ろしい子を回収できたのは良かった。
酒で口が軽くなったギュリエから話を聞いて、酔った白ちゃんを更に酒で釣って情報を吐かせた上に転移まで使わせて回収に行った訳だけど、その判断はグッジョブだったと言わざるを得ない。
さすがに、こんな強い子をクイーンも地龍ガキアも亡き後のエルロー大迷宮には置いておけないからね。
あそこは特別な場所なんだから。
それにもしも、士道くんが眷族のやらかしを差し引いても尚、私に恩を感じてくれたのなら、かなり心強い味方になってくれるかもしれない。
私はこれから魔王としての活動を本格的に開始する。
魔族を率いて人族に戦争を仕掛け、多くの戦死者を出し、システムが死者達から回収するエネルギーで世界を、あの人を救う為に。
過酷な戦いになると思う。
敵に回す人族を率いてるのは化け物ダスティンだし、ポティマスのクズだって何もしてこないとは思えないし、白ちゃんというド級のイレギュラーは湧いてくるし、味方の筈の魔族もまずは恐怖政治で支配するところから始めないといけないし。
うわ、改めて並べてみると、これなんてクソゲー?
それでも、やるしかないんだけどさ。
そんなクソゲーをクリアする為にも、強力な味方は一人でも多い方がいいに決まってる。
私相手にあれだけ善戦してみせた士道くんが味方になってくれるなら、ホントに頼もしい事この上ない。
眷族への恨みが先立っちゃった時は……考えたくないなー。
白ちゃんみたいな地雷をもう一人抱えるのはごめんだぜ。
その白ちゃんに関しては、全力で抱き込む事に決めた。
クイーンやパペット達の仇ではあるけど、殺せないんだから仕方ない。
謎の不死身っぷりの秘密さえ解き明かせればどうにかなるかもと思ってたけど、いざ解き明かしてみれば、そのカラクリは「どうやって攻略したらいいんじゃボケェ!?」って感じだったし。
だから、白ちゃんともう一度敵対するのはNG。
抱き込んで味方にできる可能性に賭けるしかない。
あーあ。
ただでさえ四面楚歌な状況の上に、厄介事ばっかり拾ってくるとか、最近の私は呪われてるのかな?
ないわー。
後日、目を覚ました士道くんに土下座も辞さない覚悟でごめんなさいしたら、逆に眷族を倒しちゃった事をまさかの土下座返しで謝られた。
切腹も辞さないってくらいの、鬼気迫る謝罪だった。
どうやら、士道くんは親兄弟を殺したという眷族にそこまでの恨みは抱いてなかったらしい。
私への謝罪の方が優先順位高いくらいに。
本人は「親兄弟って言っても、一緒に居た時間は三十分もなかったので」って言ってたけど、その時間奪っちゃったの私の眷族だよね?
恨まれてないのは良かったけど、複雑ぅ。
そんな感じで、謝ればいいのか怒ればいいのかよくわからない複雑な関係の仲間が一人、私達の旅路に加わった。
更に後日、この一件で私に信用されてないと感じたのか、契約の上位スキルである召喚や命名のスキルの効果を知って、それで縛ってくださいとかマゾみたいな事言い出した士道くんにちょっと引く事になるのは別の話。
第一章 迷宮編 完!
ここから先は息抜きらしく気が向いた時に書きます。
そして、私はオリジナルに帰ります。
アディオス!