私の名前はソフィア・ケレン。
前世の名前は根岸彰子。
地球からこの世界に転生した転生者の一人。
そんな私の第二の人生は、しょっぱなから波乱に満ちていたわ。
うとうとしながら古文の授業を受けてて、気づいたらファンタジーっぽい世界で、貴族っぽい家の娘になってた所までは良かった。
何せ、両親が美形だったし!
喜ぶとこそこ? って思われるかもしれないけど、前世で醜い容姿がコンプレックスだった私にとっては、それが何よりも重要な事だったのよ。
両親が美形なら、私も美形になるに違いない。
私の時代来た! とまで思ったわ。
なのに、生まれ変わってからたったの一年くらいで、薔薇色だと思ってた第二の人生は崩壊し始めた。
偶然手に入れた鑑定のスキルで自分を鑑定した時に『吸血鬼』なんて結果が出てきたのはまだまだ序の口。
いきなり戦争が始まって、街に直接攻め込んで来た敵国の兵士によって故郷の街は壊滅。
領主だった両親は、戦争のどさくさに紛れて襲ってきたエルフのポティマスとかいうクソ野郎に殺されてしまった。
生き残ったのは、私と従者であったメラゾフィスだけ。
そこからは、ポティマスから助けてくれたアリエルさんと白に拾われて、一緒に旅をした。
その旅の中でも色々あったわ。
白の事を、命の恩人なのに、前世の頃からの美しい容姿への嫉妬で嫌っていた醜い自分をアリエルさんに突きつけられて凹んだり。
自分の事しか考えていなくて、主君も愛する人も故郷も何もかも失って、おまけに生き残る為とはいえ、人を襲って血を飲まないと生きていけない吸血鬼にしてしまったメラゾフィスの苦悩に気づけなくて凹んだり。
私まだ赤ん坊なのに、白に虐待みたいな訓練をさせられて死にかけたり。
……ロクな思い出がないような気がするわね。
でも、この旅のおかげで少しは成長できたような気もするわ。
心もステータスも。
アリエルさんを訪ねてきた両親の仇の一人である神言教教皇との遭遇という超級の切っ掛けもあって、これから先の、この旅の後の人生をどう生きるべきか、その方針と決意がハッキリしてきたもの。
私がそんな決意をした運命の日とも呼べる日の翌日は、色々あってメラゾフィスを貧血で倒れさせてしまい。
その更に次の日に街に入れない白達の所に戻って、いつもなら一泊のところを二泊してしまったお詫びって事でアリエルさんが買い込んだお酒で少宴会みたいな雰囲気になった。
そこにしれっと交ざってた見知らぬ黒い人の存在を疑問に思いつつ、皆飲んでるのに私だけ飲めないのはなんか悔しいと思って、前みたいにちょろっとお酒を盗み飲みしたら、前と同じように気を失ったわ。
そして、起きたら一匹の豚が白い糸で簀巻きにされて転がされていた。
最初は今日の朝ご飯かなって思ったわ。
その豚は体長5メートルくらいあって、どう見ても魔物にしか見えなかったけど、この旅は人目につかない道なき道を行く事が多いから、魔物飯なんていつもの事だし。
でも、料理担当のアリエルさんがご飯を作り終わっても豚の解体に着手しなかったから、疑問に思って「あれは食べないんですか?」って聞いてみたら、すっごい複雑そうな顔された。
「ごめんね。先に説明しとくべきだったよ」
そう言ってアリエルさんが教えてくれた話によると、なんとこの豚は私や白と同じ転生者だったらしい。
昨日、酒で口が軽くなった白から情報を聞き出して回収してきたんだとか。
簀巻きにされてるのは、この豚が特殊なスキルで暴走してて、沈静化の為にアリエルさんがボッコボコにしたから。
そんなスキル使うなんてバカな奴ね。
とか思ってたら、「ソフィアちゃんも他人事じゃないからね。また羨望のレベル上がったでしょ」って言われた。
ギクッ。
「まあ、それはともかく。この子は士道くんって言うらしいよ。仲間になるかはまだわからないけど、もしそうなったら仲良くしてあげてね」
士道。
その名前を聞いて、顔が複雑な感じに歪んだのが自分でもわかった。
「何その反応? もしかして知り合い?」
『別にそういう訳じゃないんですけど……』
まだ赤ん坊で声帯が育ってないから頼ってる念話のスキルでアリエルさんにそう返す。
嘘は言ってないわ。
実際、前世でこいつと私の間に親交なんてなかった。
というか、私ボッチだったから親交のあるクラスメイトなんかいなかったし。
ただ、親交はなくても、私が一方的に意識してた奴は二人いた。
片方は、美しい容姿を妬んでいた前世の白こと、若葉姫色。
そして、もう一人が士道力也。
こいつに関しては、ただただ嫌ってた白と違って、中々に複雑な気持ちを持ってたわ。
あ、別に恋とかそういうのじゃないわよ。
あえて言うなら、同族意識みたいなものかしら。
前世の私は醜い容姿をしてて、そのせいで回りに遠巻きにされていた。
士道も高校に入学した当初は、でっぷりと太った体を気にして縮こまってる卑屈な奴だったのよ。
同じく容姿で苦労してる者同士、私は密かに士道に親近感を持っていた。
でも、太巻先生っていう相撲部顧問の先生にめっちゃ勧誘されてるのを見掛けて、断り切れなかったって感じで相撲部に入ってから、士道は少しずつ変わっていった。
最初の内は卑屈なままだったんだけど、大会か何かで結果を出す内にちょっとずつ自信みたいなものがついていって、二年に上がる頃には、デブと言われる事を誇りに思うとか言い出す程の強メンタルへと成長してたわ。
それを見た私の気持ちは複雑の一言だったわね。
同じ醜い容姿をしてるのに、私と違って自信を持って前に進んでる姿に裏切られたような気もしたし。
逆に、同じ条件で堂々としてる姿に憧れたような気もした。
どっちかと言うと、裏切られたって気持ちの方が強かったかしら。
いや、別に親交なかったから裏切ったも何もないのだけれど。
そんな感じで、嫉妬六割、憧れ四割くらいの複雑な気持ちを私は士道に持っていた。
その相手が、今は豚となって簀巻きにされて私の前に転がってる。
尚の事複雑な気持ちになるわね……。
ちょっと、この気持ちを形容する言葉が見つからないわ。
でも、士道が起きた時に見せた大泣きと決意表明を見て、複雑に絡まっていた私の気持ちは一つの答えを得た。
あの時は、いつもの白の扱きのせいで疲れ果ててたから深く考える余裕がなかったけど、落ち着いてから改めて考えてみれば、何も悩む必要なんてなかったのよ。
士道は泣く程に辛い思いをした直後に、恩人への恩返しを誓ってみせた。
私みたいに自分の事ばっかりを考えるんじゃなくて。
それは、士道の内面の美しさが出た結果だと思う。
人の本質は追い詰められた時にこそ出るってどこかで聞いた事があるような気がするけど、その理屈で言うなら、士道の本質は施された恩に全力で報いようとする善人。
私と同じであんなに卑屈だった奴が、今はこんなに綺麗な内面を得ている。
そして、私は誓った。
これからは内面を磨いていこうと。
今世の両親から受け継いだ容姿に、アリエルさん達に学んだ内面を備えた、メラゾフィスの主人に相応しい完璧なお嬢様になってみせると。
なら、目の前にいるのは、私が目指す道を一足先に踏み越えてみせた立派な先駆者。
もう、こいつに嫉妬なんてしないわ。
こいつの事も目標の一人にして頑張る。
それが私の答えよ。
……そう思ってたんだけど、動けるくらいに回復してからというもの、「肩でもお揉みしましょうか!」とか「晩飯採って来ます!」とか言って、まるで上司にゴマをする部下のようにアリエルさんに尽くす士道を見て、ちょっと考えを改めた。
あれじゃまるで小間使いか下僕じゃない。
挙げ句の果てには、命名と契約のスキルで縛ってくださいとか言い出して
士道の鑑定結果が『オークキング LV54 名前 シドウ』になってて、あいつが心の底から喜んでるのを見た時の私のドン引きっぷりがわかるかしら?
筆舌に尽くし難かったわよ。
もうあいつアリエルさん全肯定って言うか、アリエルさんの信者みたいになってて、ちょっと怖い。
一応、アリエルさんが絡まなければ人の出来た武人って感じだし、白との模擬戦の時とかは大魔物の風格みたいなのも感じるんだけど、盛大に方向性を間違えてるとしか思えない尽くす姿勢のせいで台無しよ。
あれを目標に頑張る?
考え直しなさい私。
私はもっとこう、スマートでクールな感じに恩を返すのよ。
目指せ、クールビューティー。
間違っても、あんな残念な感じにはならないようにしないと。