いつも通りに手をついて、突撃。
当たれば大ダメージの必勝の一撃。
だが、それが当たる事はなく、アークタラテクトは目にも留まらぬ凄まじい速度で俺のぶちかましを避けた。
「!?」
な、なんて速さ!?
目で追うどころじゃない。
気づいたら目の前から消えていた。
そして、直後に感じる激痛。
振り返れば、背後から俺の肩に牙をめり込ませるアークタラテクトの姿が。
一瞬で背後を取られて攻撃された。
しかも、牙から何かが流れ込んでくる。
多分、毒だ。
《熟練度が一定に達しました。スキル『状態異常耐性LV5』が『状態異常耐性LV6』になりました》
「!!!」
痛みを堪え、毒に耐え、アークタラテクトの顔に手を伸ばして投げようとする。
しかし、アークタラテクトはするりと牙を離して距離を取り、そこから糸を飛ばしてくる。
痛みと毒で動きが鈍ってる上に、進化して多少速くなったとはいえ、力や頑丈さと違って特別優れていない速度では避けきれず、成す術もなく糸が全身に絡まってくっつく。
この糸、滅茶苦茶頑丈だ!
もがいてももがいても脱出できない!
「ブッ!?」
そうして動きの止まった俺の体に、凄まじい衝撃。
多分、アークタラテクトによる体当たりを食らったんだろう。
自分の十八番を敵に使われた。
しかも、まだ動けない俺に、アークタラテクトは糸の上から毒の牙を打ち込んでくる。
「!!!?」
《熟練度が一定に達しました。スキル『HP自動回復LV4』が『HP自動回復LV5』になりました》
レベルアップしてくれたスキルのおかげで少しは耐えられてるが、このままだと何もできずに死ぬ!
まさかこいつがここまで、ここまで強いなんて!
完全に誤算だった。
迫り来る死の気配に背筋が凍り、進化して伸びきっていた鼻っ柱が完全に折られる。
なんとか、なんとかしなければ!
《熟練度が一定に達しました。スキル『集中LV6』が『集中LV7』になりました》
とりあえず糸だ!
この糸をなんとかしないと動く事すらできない。
糸をどうにかできるものと言えば……火!
頼むスキルポイント!
応えてくれ!
なんか火を起こせる攻撃!
火攻撃!
《現在所持スキルポイントは60300です。
スキル『火攻撃LV1』をスキルポイント10000使用して取得可能です。
取得しますか?》
滅茶苦茶高い!?
だが必要経費だ!
取得!
《『火攻撃LV1』を取得しました。残りスキルポイント50300です》
そして、発動!
その瞬間、俺の全身に火がついた。
火攻撃ってそういう感じなのか!?
あっつい!?
丸焼きになる!
豚の丸焼きになる!
上手に焼けました~って幻聴が聞こえてきた!
だが、俺が丸焼きになったおかげで、糸もまた焼き切れた。
これで動ける!
しかも、アークタラテクト自身も火が苦手なのか、俺が自分に火をつけたと同時に離れてくれた。
チャンスは今しかない!
戦略的撤退!
俺は丸焼きになりながら、アークタラテクトに背を向けて逃げ出した。
危険感知をフルに使って、最大限背後を気にしながら。
幸い、火のついた獲物を補食する気はないのか、アークタラテクトは追って来ない。
そのまま前と同じように結構な距離を走り、なんとか逃げ延びる事に成功した。
た、助かった……。
《熟練度が一定に達しました。スキル『疾走LV1』を獲得しました》
逃げた先で岩の陰に隠れ、一息ついてさっきまでの自分を振り返る。
完全に調子に乗っていた。
恥ずかしい。
なんというか、進化して気が大きくなってたのと、空腹で理性が薄れてたのと、あとなんかよくわからない胸の内から溢れてくる感情のトリプルパンチで暴走してたんだ。
こんな事になるのは精神が未熟な証拠だ。
力士として、神事である相撲を取る者として猛省せねば。
10000ポイントもかけて取得した、使えば丸焼きになるスキル火攻撃。
これを戒めとして、深く胸とステータスに刻んでおこう。
……ところで、豚の丸焼きの香ばしい匂いに釣られて、他の化け物が来ないか心配だ。
さすがに、ここまで弱った状態じゃアークタラテクトよりワンランク下の奴に襲われただけで死ねるぞ。
《熟練度が一定に達しました。スキル『無臭LV9』が『無臭LV10』になりました》
あ、無臭のスキルがカンストした。
これは命拾いしたかもしれない。
どうやら今日の俺は運が良いみたいだ。
……いや、こんな所に豚として転生してる時点で運が良い訳ないか。