アークタラテクトとの激闘、そして豚の丸焼き事件から幾星霜。
俺はあの日以来謙虚さを取り戻し、コツコツとレベルを上げ、技を磨きつつ、いい加減この大魔境で精神をすり減らすのが嫌になってきて、出口を求めてさ迷っていた。
いや、本当にいい加減限界だ。
コツコツと鍛えてきたおかげで、今なら多分丸焼きになる覚悟さえあればアークタラテクト相手でも勝ち目があるくらには強くなれたと思う。
俺をここまで強くしてくれた環境に感謝もしている。
だが、本当にもう限界なのだ。
一応、俺もそこら辺にいる連中には、完全な不意討ちでも食らわない限り早々負けない。
隠密のスキルもカンストし、派生して生えてきた『迷彩』のスキルも着々と育ち、感知系のスキルのレベルも順調に上がってる現状、不意討ちを食らう事も早々ないだろう。
最近スキルポイントで取った『五感強化』のスキルで感覚も鋭くなってるから、魔物が近づいてくればすぐにわかる。
しかし、たまに遭遇するここの平均レベルを大幅に超えてる本物の化け物達と戦えば話が別だ。
特に、この前やり合った地龍アラバとかいう奴。
あれはヤバい。
今の俺じゃ勝てる気がしなかった。
ステータスではそこまで劣っていなかった筈だ。
だが、技術が違いすぎた。
まるで現役の関取の胸を借りて稽古をつけてもらった時のような感覚。
あれは自分の体を完璧に操り、鍛え上げたスキルとステータスをも完璧に操る、正真正銘の達人ならぬ達龍だった。
俺のような、まだスキルやステータスというものに馴染みきれず、まわしも付けていない人外相手の戦い方が身についていない未熟者とは違う。
奴こそが、この世界に置ける本物の強者。
いつかは超えたいと思うが、それ以上にあんな化け物といつ遭遇するかわからない状況というのが怖すぎる。
前回はブレスで吹き飛ばされた事が逆に幸いし、上手い事距離を稼げたおかげで逃げ切れたが、次に会えばただの豚肉として美味しく頂かれてしまうだろう。
さすがに、それは嫌だ。
おまけに、そういう事態がいつ訪れるかわからないので、ロクに眠る事もできない。
正直、これが一番辛い。
ベッドなんて贅沢な事は言わないから、せめて、せめて化け物に怯える事のない場所で寝たい……!
その一心で、俺は出口を求めてさ迷っている。
スキルポイントを使って『記録』というスキルを取り、頭の中で割と正確なマッピングをしつつ徘徊しているが、未だに全体像が欠片も見えないこの洞窟は本当になんなんだ。
頼むから、もう少しヒントをくれ。
《熟練度が一定に達しました。スキル『鑑定LV2』が『鑑定LV3』になりました》
ああ、鑑定のレベルがようやく上がったか。
期待なんてとうの昔に消え失せていたが、それでも一縷の望みに賭けて使い続けていた鑑定。
そこそこ長い事使ってきて、ようやくレベル3か。
先は長すぎる。
とりあえず、半ば惰性で自分を鑑定。
『ハイオーク LV14』
……レベル表記が増えた。
うん、進歩だ。
確かに進歩はしている。
それ以上は何も言うまい。
しかし、レベル14か。
アナウンスのおかげで知ってはいたが、レベル10で進化しなかったのが少し意外だったな。
まさか、進化がハイオークで打ち止めって事はないと思いたいが……
『ハイオーク:オークの上位種』
「ブヒッ!?」
おお、久しぶりにちょっと驚いた。
これは、もしかして鑑定で出てきた情報を更に鑑定したのか?
これは思ったよりも使えるかもしれない。
俺は一欠片の期待を胸に、そして期待を裏切られる覚悟をしっかりと決めて、洞窟の壁を鑑定した。
『エルロー大迷宮の壁』
「!!」
来た!
来たぞこれは!
念願の現在地についての情報だ!
早速、エルロー大迷宮という単語を二重鑑定。
その後、そこら辺に居た魔物やら何やら鑑定した結果、色々とわかってきた。
まず、ここはエルロー大迷宮という大陸と大陸を地下で繋ぐ世界最大の迷宮であり、現在地はそのエルロー大迷宮の下層であるという事。
そうか、世界最大の迷宮か……。
道理でやたらと広い訳だ。
そして、エルロー大迷宮下層は強力な魔物が多数生息してるらしい。
道理で化け物がそこら中に居る訳だ。
この環境がこの世界の平均じゃなくて良かったが、そんな所に転生させられた身としては堪ったもんじゃない。
絶対に脱出してやる。
この情報で希望が持てた。
確認できる限りだと、エルロー大迷宮には今居る下層の他に中層と最下層があるらしい。
なら、上層だってきっとある筈。
そして、そこには地上への出口だってある筈だ。
エルロー大迷宮は大陸と大陸を地下で
繋いでるんだったら、地上への出口が必ずある。
そう信じて突き進もう。
差し当たって、目指すべきは上層。
上り坂を見つけたら迷わず行くべきだな。
そんなもん、ここまでの道のりで一つも見てないけど……。
やっぱり、先は長い。
あ、前方に獲物発見。
『グレータータラテクト LV18』
因縁のアークタラテクトの下位種と思われる蜘蛛だ。
最初の頃に、翼の生えたライオンと戦ってるのを見た奴だな。
悪いが弱肉強食の野生に染まってきた今、正々堂々真っ向勝負なんてやってやらんぞ。
野生では、不意討ちも含めて持てる手段全てを使って生き抜く事こそが誉れ。
だからこそ、戦う相手に敬意を込めて全力の不意討ちをさせてもらう。
隠密系のスキルで気配を隠した俺は、そっと手をつき、最も慣れ親しんだ体勢からの踏み込みによって、グレータータラテクトに全力のぶちかましを決めた。
無防備な横腹に、アークタラテクト戦の失敗を踏まえて速度も鍛えてきた俺の突進がクリティカルヒットし、グレータータラテクトは胴体をひしゃげて絶命する。
《経験値が一定に達しました。個体、ハイオークがLV14からLV15になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『気闘法LV4』が『気闘法LV5』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『体術の才能LV8』が『体術の才能LV9』になりました》
《スキルポイントを入手しました》
《条件を満たしました。個体、ハイオークがオークジェネラルに進化可能です》
おお、遂に来たか二度目の進化!
今回はレベル15だったんだな。
ハイオークで進化が打ち止めじゃなくて良かった。
よし、前回の失敗を活かして、岩壁でも掘って巣穴とバリケードを作ってから進化するとしよう。
ん?
「!」
不意に、嫌な視線を感じた時のような不快感が襲ってきた。
なんだ今のは?
気になって視線の方向を見てみると、一匹の小さな蜘蛛が居た。
蜘蛛は驚いたように凄いスピードで逃げていく。
なんだったんだろうか……。
というか、俺は蜘蛛とよく縁があるな。
もちろん、悪い意味で。
まあ、気にしても仕方ない。
今は進化の為の巣穴を作るのが優先だ。
俺は小さな蜘蛛の事は忘れ去り、仕留めたグレータータラテクトを確保しながら、いい感じの巣穴を掘れそうな場所を探した。