マスカレイド・サーガ外伝 魔女の喫茶店   作:黒井福

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どうも、黒井です。

マスカレイド・サーガ外伝、その二話目になります。

今回は美幸のキャラクターを掘り下げるような内容となっています。


彼女は仮面ライダーメイガス

 カフェ・キャスターは朝早くから営業している。

 決して有名とは言い難い美幸の店だが、それでも常連の中には朝から彼女の店に顔を出し、朝にしか出ないモーニングセットを注文している。

 

「はい、モーニングセットお待たせしました!」

 

 今彼女の店に居る客は全部で3人。サラリーマンの男性が1人に大学生の男性が1人。

 そして1人が杖を持った老人の本田 道人(ほんだ みちひと)、御年78歳である。

 

 子供どころか孫レベルで歳の離れた美幸に対し、道人は満面の笑みを浮かべてモーニングセットを受け取った。

 

「お~、ありがとう美幸ちゃん!」

「本田さん、今日は元気そうね?」

「うむ。最近は調子も良くてのぉ。それもこれも毎日美幸ちゃんの笑顔のお陰じゃ!」

「フフッ! どうも。それじゃ、ごゆっくり~!」

 

 離れて行く美幸の後姿を見送り、道人はモーニングセットに手をつける。セットの内容は美幸自慢のBLTサンドにサラダとゆで卵、そしてホットのコーヒーだ。瑞々しいレタスとトマト、そしてカリカリのベーコンが柔らかな食パンに挟まれたそれは、朝にしか食べることは出来ない。

 故に常連の客の中には、これが食べたいが為に朝早くに店に顔を出す客もいる程だ。

 

 その後、サラリーマンと大学生は早々に食べ終えると会計を済ませ店を後にし、代わりに別の客が入るカフェ・キャスター。しかし道人だけは食べ終えた後も、コーヒーを何度かお代りして店に残っていた。

 美幸はそれに対し、特に嫌なを顔一つせず笑顔で接客していく。

 

 どれ程時間が経ったか、気付けばモーニングの時間も終わりに近づき店に居るのは美幸と道人だけと言う状況。

 

 カウンター裏で食器を洗う美幸と、新聞を広げている道人。店内にはジャズと食器を洗う音、そして道人が時折新聞を捲る音だけが響いていた。

 美幸はチラリと道人が読んでいる新聞に目を向ける。そこには最近よく目にするようになった、仮面ライダーと言う名前が。

 

 仮面ライダー……仮面で顔を隠し、鎧などを身に纏って戦う戦士。都市伝説でしかなかった存在だが、例の謎の光事件以降不可能犯罪が多発するようになってから徐々に脚光を浴び始めてきた。特徴で言ってしまえば警察のGユニットが正にそれだろう。

 広義で言ってしまえば、仮面ライダーと言う言葉は彼女にも当てはまるかもしれない。彼女が変身するメイガスも、仮面で顔を隠した戦士である。言うなれば彼女が変身するのは、仮面ライダーメイガスと言ったところだ。

 

(とは言え、誰に向けて名乗ったものかしら?)

 

 美幸は基本的にメイガスとしての活動を隠している。それは彼女の家系が代々陰から人々を助けることを信条としていた為であり、魔法使いの師匠である父からも口を酸っぱくして言われて身に染み込んでいるからであった。

 何より、美幸はこうして喫茶店の店長をしている方が性に合っている。殆ど趣味の様な経営だが、メイガスとして戦っている時よりもこうして好きなジャズを聴きながら適度に店を切り盛りしている方がやり甲斐があった。

 

 とは言えだからと言ってメイガスとして戦うことを止めるかと言われたらそんな事はしない。以前棗に対してやってみせたように、彼女は元来お人好しで誰かに手助けせずにはいられないのだ。魔法の力を手に入れた経緯こそ成り行きだが、その後戦い続けてきたのは間違いなく彼女自身の意思によるものである。

 結局のところ、彼女は誰かに手を差し伸べずにはいられない性質なのだ。

 

 その時、カウンター下の水晶が景色を映しだした。人知れず放っている使い魔が、怪異に襲われそうになっている人を見つけたのだ。

 一瞬鋭い目を向けた美幸は、直ぐに何時もの顔に戻し道人に話し掛けた。

 

「本田さん、ゴメンね。私ちょっと出かけなきゃいけなくなっちゃった」

「おぉ、そうかい? ならそろそろ、お暇するとしようかね」

「本当にゴメンね? 次来てくれた時はこの分サービスするから」

 

 新聞を畳み、代金を置いて店を出る道人。去って行く席を立った彼に美幸が心底申し訳なさそうに頭を下げると、彼は朗らかな笑みで手を振り店を後にした。

 

 彼が出てから、美幸は店を一時閉店とし問題が起こった現場へと魔法で向かおうとした。

 

「とは言え、嫌じゃないけどこうもちょくちょく臨時で店閉めなきゃならなくなるのはお客さんにも悪いわよねぇ…………バイト、雇おうかなぁ? でもなぁ~…………はぁ」

〈テレポート、ナーウ〉

 

 ぶつくさとぼやきながら、美幸は魔法で転移して素早く現場へと移動した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 美幸が到着する数分前、現場では全身が岩でできた様な体の怪人・バイオレンスドーパントと2人の男が、1人の男性を囲んでいた。男性はボロボロで、その集団の近くには女性と高校生程の少女の姿が見えた。恐らくは男性の家族だろう。

 

「う、うぅ……」

「あなたッ!? お願いです、もう止めてくださいッ!?」

「お父さんッ!?」

 

 女性と少女が男性に向けて手を伸ばす。それに対し、バイオレンスドーパントは男性の首を掴んで持ち上げ2人に見せつけた。

 

「金借りといて払わないそっちが悪いんだ。こいつとその家族のアンタらには、借りた分をしっかり返してもらう」

「あなたぁッ!?」

「旦那の心配してる場合じゃないぜ、奥さんよ? アンタには旦那さんが借りた分をしっかり働いて返してもらうんだからな」

「そっちのガキもだ。2人揃って体で稼いでもらうからな!」

 

 2人の男は残された女性と少女に下卑た笑い声を上げながら近づいていく。母娘は互いに身を寄せ合い、恐怖に身を震わせていた。

 

 2人に男達の魔の手が届きそうになる直前、美幸は転移しその現場を目撃した。今にも母娘が襲われそうになっている場面を見た美幸は、即座にメイガスへと変身した。

 

〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン シャバドゥビタッチ、ヘンシーン〉

「変身!」

〈チェンジ、ナーウ〉

 

 メイガスに変身し、ハーメルケインを取り出しながらドーパント達と母娘の間に割って入る。突然目の前に現れた彼女の姿に、ドーパント達は勿論母娘も驚きに目を見開く。

 

「な、何だお前はッ!?」

「俺らの邪魔をしようってのか?」

 

 驚かされはしたが、すぐに気を取り直しメイガスを囲むドーパント達。しかしメイガスは全く動じず、ぐるりと周りを見渡すと素早くハーメルケインを振るいバイオレンスドーパントを攻撃した。

 

「て、テメェッ!?」

 

 突然攻撃された事に、バイオレンスドーパントが憤りを露にしながら鉄球の様な左手で反撃する。振るわれた拳を、メイガスはアクロバティックな動きで回避しお返しに蹴りを入れた。

 

「グッ?! こ、こいつッ!?」

 

 バイオレンスドーパントは何度も拳を振るうが、メイガスは軽やかな動きでそれを回避。完全にバイオレンスドーパントを翻弄していた。

 

「さ、観念しなさいヤクザ屋さん? 不当な取り立ては許されないわよ」

「てんめぇ……おい!? 何ボサッとしてやがる!? さっさとそいつら連れて行けッ!!」

 

 これ以上はまずいと、バイオレンスドーパントはとにかく一家を連れて行ってしまおうと部下の2人に指示を出す。それを聞いて男2人は倒れた男性と母娘に手を伸ばした。

 

「駄目よ、そう言うの」

〈チェイン、ナーウ〉

 

 一家が連れて行かれそうになるのを、メイガスは魔法の鎖で男達を拘束する事で妨害した。その光景にバイオレンスドーパントは悔しそうに唸り声をあげ、苛立ちを紛らわせるように背中を向けているメイガスに殴り掛かる。

 しかしメイガスはそれを体を回転させる事で避け、更に逆手に持ったハーメルケインで切り裂いた。

 

「うぐぁっ?!」

 

 一方的にメイガスに攻撃され続け、遂にバイオレンスドーパントはその場に膝をついてしまう。それを見て、メイガスは右手の指輪を取り換えた。

 

「さ、お会計よ」

〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉

「ハッ!!」

 

 放たれたキックストライクは狙い違わずバイオレンスドーパントを捉え、大きく蹴り飛ばした。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁッ!?」

「「あ、兄貴ッ!?」」

 

 男2人の声が響く中、バイオレンスドーパントは落下先で爆散し元の姿に戻る。倒れた取り立ての男は気を失い、近くにはバイオレンスのガイアメモリが落ちていた。

 メイガスは倒れた男に近付くと、ガイアメモリを拾い上げ握り潰した。

 

「ふぅ……」

 

 脅威を完全に排除したメイガスは一息つくと、家族に近付きその近くで未だ拘束されている男達の魔法の鎖を消した。

 

「う、お……?」

「ほら、さっさとあいつ連れて帰ったら?」

 

 メイガスは飽く迄怪人に襲われていた一家を助けに来たのであって、ヤクザの撲滅がしたい訳ではない。そう言うのは警察とかの仕事だ。一喫茶店の店主である彼女のやるべき事ではない。

 

 ヤクザの男2人は、一瞬悔しそうな顔をするも自分達では逆立ちしても勝てないと分かっているのでその場は大人しく退散する事を選択。気絶した男を2人がかりで担ぎ、その場を逃げるように去って行った。

 

 走り去る男達を見送り、今度こそ全部終わったとメイガスは再び一息つくと最後に未だ震えている母娘と2人の傍で倒れている男性に目を向けた。男性は酷く痛めつけられたのか、全身傷だらけだ。

 

〈コネクト、ナーウ〉

 

 流石に見兼ねて、メイガスは魔法で救急箱を引っ張り出すと男性を手早く治療した。出来るのは応急処置程度だったが、やらないよりはマシだろう。幸いにして骨とかは折れていないようだった。

 

「……うん、これで良し。後は病院に連れて行ってあげて」

 

 母娘にそう告げ、メイガスは一家に背を向け魔法でその場を去ろうとする。

 その背に、少女が声を掛けた。

 

「あのッ!」

「ん?」

「えっと……あ、ありがとうございました!」

「……フフッ、じゃあね」

〈テレポート、ナーウ〉

 

 魔法で転移し、店に戻ったメイガス。

 誰も居ない店に戻ると、変身を解き美幸の姿に戻る。

 

 元の姿に戻った美幸は、カウンターの椅子に腰かけつつ先程の少女からの言葉を思い出す。

 

「…………フフフッ!」

 

 別に、感謝されたくてやっている訳では無い。出来る事、やらねばならぬ事だからやっているだけだ。この店と同じ、やりたいからやっているに過ぎない。

 

 とは言え、お礼を言われて悪い気はしなかった。実は今まで、戦うのは人目を避けての場合が多かったのでこうしてお礼を言われたのは初めての事だったのだ。

 なので、混じり気の無い感謝の言葉が純粋に嬉しかった。

 

「さて! 午後からはお店も再開だし、気合入れていこうっと!」

 

 美幸は笑みを浮かべて立ち上がり、体を思いっきり伸ばして筋肉を解すと店の扉の鍵を開け、札を裏返して営業を再開した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃――――――

 

「何ぃっ!? 金も女共も取って来れなかっただとッ!? この、バカ野郎ッ!!」

 

 美幸によって追い払われた借金取り達は自分達の事務所に戻りその事を報告。その結果、上司である組の若頭の怒りを買い、バイオレンスドーパントに変異していた男が投げ飛ばされ壁に叩き付けられた。

 

「しかもお前、折角のガイアメモリまで無くしやがっただとッ!? あれ一個に幾らしたと思ってやがるッ!?」

 

 この街にはガイアメモリを流通させている組織があるのだが、その値段は高額だった。失ったからすぐに次を新しく買おう、などと言う事は早々できない。

 それもあってこの若頭は、二重どころか三重の意味で怒りを露にしていた。

 

「お前自身で落とし前付けたって構わないんだぞ、えぇ!?」

『JEWEL』

 

 若頭は借金取りの男が持っていたのとは別のガイアメモリを取り出した。見ると若頭は服や体のあちこちに宝石をアクセサリーとして身に付けていた。

 借金取りの男は若頭が取り出したガイアメモリを見て震え上がり、その場に土下座をした。

 

「す、すんませんッ!? この落とし前は必ずつけますんで、どうか勘弁をッ!?」

「……チッ!? 次はねえからな?」

 

 ガイアメモリを仕舞い、若頭は豪華な椅子に腰かける。彼が煙草を咥えると、傍に控えていた男が黙って煙草に火を点けた。

 

「で、次はどうします?」

「はぁ…………取り合えずあれだ、いい加減例の爺さんから頂戴するもん頂戴しとかねえとな」

 

 紫煙を吐き出しながら若頭がそう言うと、借金取りの男が跳ねるように立ち上がり名乗りを上げた。

 

「若ッ! それなら俺に行かせてください! さっきの失態の落とし前、必ずつけて見せます!!」

「……良いだろう、行ってこい。ただし! 失敗したらその時は……分かってんだろうな?」

 

 再びガイアメモリをちらつかせる若頭に、男は慄き唾を飲むと何度も首を上下に振り事務所を後にした。

 

 男が部下と共に出ていったのを見送ると、若頭は煙草を灰皿に押し付けて火を消す。

 考えるのは自分達の邪魔をしてきたのが何者かについてだ。

 

「……ドーパントを返り討ちにするたぁ、一体何処のどいつだ?」

「噂の仮面ライダーでは?」

「都市伝説のか?…………あり得る話だな」

 

 と言うよりそれしか考えられなかった。ドーパントと同等の脅威である不可能犯罪に対応する為、警察にはGユニットと呼ばれる存在が居る。だがそれならそうと言う筈だ。

 その名前を出さなかったという事は、邪魔をしてきたのは噂でしかない仮面ライダーと言う事になる。

 

 若頭は面倒な奴が絡んできたと、溜め息を吐くと椅子から立ち上がった。

 

「こうなったら、俺が出張るしかねえか」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!」

「は~い! ありがとうございました~!」

 

 カフェ・キャスターは午後の営業を滞りなく終えていた。相変わらず客足は盛況とは言えないが、それでもこの店を好きだと言ってくれる客たちが何人も来てくれていた。

 

 時間はもうじき夕方になろうかと言う頃。そろそろ再び客足が途絶える頃だ。この後は夜の営業を目当てにしている客が来るまで少し間が開く。

 

 美幸は少し一休み、と表の札をひっくり返し一度閉店状態にしてコーヒーを淹れて一息ついた。最近は少し客が増えてきたからか、前よりも忙しさが増している。

 しかし悪い気はしない。それだけ多くの人がこの店を気に入ってくれたという事なのだ。嬉しくない訳がない。

 

 カウンター席に座り、ジャズを聴きながら遅めのコーヒーブレイクと洒落込む美幸。その時、カウンター裏から彼女の使い魔であるプラモンスター・グレーケルベロスが飛び出してきた。

 

「ガゥガゥガゥ!」

「ッ!」

 

 使い魔の何かを警告する様な声に、何かが起こった事を察し美幸はカウンター裏に回り水晶玉を見た。

 

 するとそこでは、道人が先程美幸が追い払った借金取りに囲まれている様子が映し出されていた。それを見て美幸はエプロンを放り投げると急いで魔法でその場を離れた。

 

 半ば勢いに任せて魔法を使ったので、彼女が姿を現したのは道人と男達の間であった。光と共に姿を現した美幸に、道人も男達も面食らった。

 

「み、美幸ちゃん!?」

「な、何だお前ッ!? 何処から出やがったッ!?」

「私の事なんてどうでもいいでしょ? それよりあなた達こそ何なの? いたいけな老人を寄って集って苛めて……」

 

 道人は早くに奥さんを亡くし、息子夫婦も今は別居して1人で暮らしているだけの老人だ。そんな彼が彼らに絡まれる理由が分からない。

 

「そいつらはな、儂の家のある土地を狙ってるんじゃよ」

「あぁ、地上げ屋って奴? 闇金に加えて地上げとはね。さっきもっと懲らしめておくんだったわ」

「何だと? 訳の分かんねえこと言いやがって――!?」

「兄貴! コイツ結構いい女ですぜ! 俺らの邪魔するみたいですし、若頭への土産にしちまいましょう!」

「そうすりゃさっきの失態も許してもらえますって!」

 

 男達は美幸を頭の天辺から爪先まで眺め、下卑た笑みを浮かべた。下賤な視線に、美幸も思わず顔を顰める。

 

「待てッ!? 美幸ちゃんは関係ないじゃろッ!? お前らの用があるのは――」

「うるせえ爺ッ!? こいつは俺らの邪魔したんだ。ならもう無関係じゃねえ!」

「逃げろ美幸ちゃんッ! 儂に構うな! どうせ老い先短い爺じゃ、どうなったって構わんッ!!」

 

 道人は美幸に色々と聞きたかった。どうしてここへ来たのかとか、どうやって現れたのかとか、気になる事は沢山ある。しかしそれ以上に美幸は、血は繋がっていないが孫も同然の存在であった。何時行っても笑顔で迎えてくれ、彼の話を喜んで聞いてくれる。

 妻を失い、家族が遠くへ離れてしまった彼の寂しさを癒してくれる掛け替えのない存在なのだ。そんな彼女がこんな奴らに汚されるなど、許せる訳がなかった。

 

 必死に逃げるよう叫ぶ道人だったが、美幸はそれに笑顔と共に拒否した。

 

「悪いけど、本田さん。それは聞くことの出来ない注文だわ」

「な、何故――!?」

「私のお店を気に入ってくれた……私の料理やお茶を美味しいって言ってくれた……私の大事な店の大事な理解者を、見捨てる事なんて出来る訳ないでしょ?」

 

 何より、美幸にとって道人は最早ただの常連ではなく1人の歳の離れた友人であった。そんな彼が理不尽な暴力に晒されるのを、黙って見ている事など彼女には出来ない。

 

 逃げる気のない美幸に、男達はゆっくりと近付いてくる。それに対して彼女は、素早く懐に入り込むと肘打ちや回し蹴りで次々と男達を叩きのめす。

 

「うごっ!?」

「な、何だこの女ッ!?」

「つえぇ――!?」

 

 基本抵抗する術を持たない弱者を相手に拳を振るって粋がっていただけの彼らが、何度も実戦を経験した美幸に勝てる訳がない。

 男達は美幸を取り押さえるどころか触れる事すら出来ず1人、また1人と地面に倒れていった。

 

 これに焦るのはドーパントだった男である。この仕事は彼に与えられた最後のチャンスなのだ。ここでしくじれば、彼に後はない。

 しかし現状、彼には美幸に勝てるビジョンが見えなかった。部下は既に意識を失い、道人は美幸の向こう。周りには人質に出来そうな者も居ないと言う最悪の状況だ。

 

 事ここに至り、男は逃げる事を選択。目的を果たす事が出来ず、戻れば確実に始末されるとなれば逃げる事を選択するのは当然の事であった。

 

「畜生ッ!?」

 

 美幸に背を向けその場から逃げ出す男。別に男に恨みは無いので美幸はそれを黙って見送ろうとした。

 

 しかし――――

 

「全く、折角のチャンスもモノに出来ねえとはなぁ」

「わ、若ッ!?」

「こうなったら、落とし前はお前自身でつけてもらうしかねえな」

『JEWEL』

 

 若頭はジュエルガイアメモリを自分の左掌に挿し、その体を全身宝石の様な怪人・ジュエルドーパントへと変異させた。

 

「な、何じゃあの化け物ッ!?」

「ッ!? いけない、逃げてッ!」

 

 ジュエルドーパントの出現に驚く道人に対し、美幸は慌てて借金取りの男に逃げるよう警告しつつ駆け寄った。ジュエルドーパントの目的が分かってしまったからだ。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」

 

 美幸に言われるまでも無く、若頭が変異した事の意味を理解している男は悲鳴を上げながらその場を逃げ出す。しかし彼が離れるよりも先に、ジュエルドーパントが右手から煙を噴出し男に噴き掛けた。

 

 瞬間、男は悲鳴を上げてその体をダイヤモンドへと変えてしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ふん! ま、こんなのでもそれなりの稼ぎにはなるだろ」

「な、なんと惨い事を――!?」

 

 男だった宝石を拾い上げ、吐き捨てるように言うジュエルドーパント。道人はその行為に慄き、美幸は黙って右手に指輪を嵌める。

 

「さて、そこの爺さんにも宝石になってもらおうか。土地はその後でゆっくり頂こう」

「させると思うの?」

「あ? お前も逃がさねえぞ。邪魔してくれた礼だ。その体でたっぷり稼がせてもらう」

 

 ジュエルドーパントの物言いに、美幸は大きく溜め息を吐くと後ろの道人に声を掛けた。

 

「ねぇ、本田さん?」

「はっ!? 美幸ちゃん、逃げろッ! 警察、警察を――!?」

「今から見るもの、他の人には内緒にしてね?」

〈ドライバーオン、ナーウ〉

「へ?」

 

 美幸の言葉に道人が思わず呆ける。彼の様子に構わず、美幸はドライバーのレバーを操作して左手にチェンジウィザードリングを嵌めた。

 

〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン シャバドゥビタッチ、ヘンシーン〉

「変身!」

〈チェンジ、ナーウ〉

 

 左手をハンドオーサーに翳し、美幸は仮面ライダーメイガスに変身した。目の前の光景に道人は言葉を失い、ジュエルドーパントは彼女が自分達の邪魔をした仮面ライダーだった事に逆に納得した様子を見せた。

 

「なるほど、アイツらの邪魔をしたのはお前だったのか。お前、名前は?」

 

 名前を問われ、一瞬本名を答えそうになったメイガスだがふと思い留まった。

 気付いたのだ。仮面ライダーと名乗るべきなのはこう言う時だと。

 

「私はメイガス……仮面ライダーメイガスよ」

「ほぉ? やっぱり仮面ライダーだったか」

「そう言う事。さて、ご注文は?」

「そりゃ決まってる。そこの爺さんの土地。そして……お前自身も貰おうか!」

 

 拳を握り殴り掛かってくるジュエルドーパント。メイガスはそれを取り出したハーメルケインで弾き、お返しの斬撃をお見舞いした。

 

 しかしそれは、ジュエルドーパントの胸の宝石で防がれてしまった。

 

「ッ!? 硬い!?」

「当たり前だ! ダイヤモンドの体だぞ? そんな攻撃が効くかってんだ!」

 

 あまりの硬さにメイガスが驚いていると、ジュエルドーパントが殴り掛かってきた。メイガスはギリギリでそれを避け別の場所を斬り付けるが、何処を攻撃してもジュエルドーパントは非常に硬かった。

 

「なかなかに厄介ね……これはどうかしら!」

〈アロー、ナーウ〉

 

 メイガスは接近戦を止め、魔法の矢による遠距離攻撃に切り替えた。見た所ジュエルドーパントには遠距離攻撃の手段が見られない。ならばダメージは小さくとも、少しずつダメージを蓄積させていけば…………

 

 だがジュエルドーパントの能力は彼女の予想以上だった。全身からダイヤモンドの粒子を放出すると、それでメイガスの魔法の矢を受け止め更には跳ね返してしまったのである。

 この反撃は予想外だったメイガスは、跳ね返された攻撃をまともに喰らってしまった。

 

「うあっ!? くぅっ!?」

「み、美幸ちゃん!?」

「どうだ、女? まだやる気か? 今降参すれば、優しい客だけを取るようにしてやるぜ?」

「いっつつつ…………そんな見え透いた嘘を素直に信じてたら、お店の経営なんて出来ないわよ」

〈デュープ、ナーウ〉

 

 メイガスは魔法で5人に分身すると、ジュエルドーパントを四方から攻撃し始めた。四方八方からの斬撃や魔法の矢が、ジュエルドーパントの体に次々と叩き込まれる。

 

 だがジュエルドーパントには全くと言っていい程ダメージが入らない。ジュエルドーパントは逆にダイヤモンドの結晶を光弾の様に放ち、次々とメイガスの分身体を消してしまった。

 その光景に悔しそうな唸り声を上げるメイガス。

 

「さて、そろそろいいだろう。いい加減騒ぎを誰かが聞きつけるかもしれねえし、ここらで終わりといこうや」

「いいえ……まだまだよ!」

〈イエス! ファイヤー! アンダスタンドゥ?〉

 

 余裕を見せるジュエルドーパントに、メイガスの放つ魔法の炎が炸裂する。宝石であれば確かに炎には弱い。喰らえば一溜りもない筈だ。

 ところが何とジュエルドーパントはこれにも耐えた。体の表面には傷一つなく、放たれた炎の中を悠然と歩いてくるではないか。

 

「それならッ!」

〈イエス! ブリザード! アンダスタンドゥ?〉

 

 炎が全く効いた様子を見せない事に、メイガスは今度は吹雪を放った。忽ち先程の炎が凍り付きジュエルドーパントの周りは南極の様な氷の世界となる。

 

 そこでジュエルドーパントは気付いた。彼女の狙いは熱膨張による体の圧壊だ。急激な温度変化により、頑丈な体を崩壊させようと言うのだろう。

 

「だが残念だったなッ! この体はそんな事じゃ砕けねぇ! 何をしようが、俺の体は傷一つ付かねえんだよ!」

「いいえ、そんな事ないわ」

 

 ここまでの戦いで、メイガスはジュエルドーパントの行動を学習していた。あいつは基本、こちらの攻撃を全部受け止める。自分の体の硬さに自信を持って、相手の攻撃を避けようとしないのだ。

 それが奴の弱点だった。メイガスは別に今の攻撃で奴を倒そうとしたのではない。

 

 如何に硬くとも、宝石にはウィークポイントとなる石目と呼ばれる部位が存在する。傷はつかなくとも、そこに衝撃を受ければ簡単に割れてしまう部位だ。

 今の炎と吹雪は、その部位を特定する為の攻撃に過ぎなかった。硬い体でも、急激な温度変化が加われば弱い部位には何かしら変化が起きる筈である。

 

 そしてそれは正しかった。熱膨張に耐え切れなかった石目の部位が、僅かながら罅割れているのを彼女は見逃さなかったのだ。

 

 そう、腹部の一部分が明らかに罅割れているのを。

 

「そこッ!」

〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉

 

 石目の部位に向けキックストライクを放つメイガス。自分の弱点が分かっていないジュエルドーパントはそれを正面から受け止めてしまった。

 

「ハァァァァッ!」

「ハッ! 何度やろうが――」

 

 ジュエルドーパントの腹部にメイガスのキックストライクが直撃。瞬間、ジュエルドーパントの全身が大きく罅割れ、砕け散るように爆散した。

 

「な、何ぃぃぃぃっ!?」

「……お会計よ。お代はあなたの敗北で、ね」

 

 全身を砕け散らせ、元の姿に戻った若頭。その近くに落ちたガイアメモリを見つけたメイガスは、また使われる事がない様にとそれを踏み潰した。

 

 同時に、能力が切れたからかダイヤモンドに変えられた男が元の姿に戻った。衝撃で気を失っているのか、若頭共々動く気配がない。

 

 メイガスはそれを見て変身を解除すると、未だ驚いている道人に近付いた。

 

「本田さん、大丈夫?」

「あ、あぁ……儂は大丈夫じゃ。美幸ちゃんは?」

「私は勿論大丈夫。それで、その……さっきの奴の事なんだけど……」

 

 ここまで来て何も言わないのは流石に彼にも失礼だろう。少しでも彼の心配を取り除こうと、最低限の事だけは話そうと美幸は口を開いた

 

 だが道人は手を上げてそれを制した。彼にとって重要なのは、美幸が自分を助けてくれた事でありそれ以外の事は首を突っ込むべきではないと悟ったのだ。

 

「いやいや、何も言わんで良い。美幸ちゃんはただの喫茶店の店主で、儂は何も見なかったし何も聞かなかった。それで良いね?」

「本田さん……ありがとう」

「その代わり、一つ聞かせてくれんか?」

「何?」

 

 この状況で一体道人は何を聞くつもりなのかと、美幸は首を傾げた。少女の様に小首を傾げる美幸に、道人は何時もの人の良い二かッとした笑みを向け口を開く。

 

「…………この後、お店は何時も通り開いとるかの?」

「――――へ?」

 

 思いもよらなかった問い掛けに、美幸は一瞬何を言われているのか分からず呆けてしまう。だがそれが彼なりの気遣いである事に気付くと、美幸は堪らず噴出してしまった。

 

「……プッ! ウフフフフッ!」

「ほっほっほっ!」

「フフッ……えぇ。夜も変わらず営業してるし、明日も朝から店は開いてるわ」

「そいつは良かった。今夜は久しぶりに夜の店にも顔を出そうと思っとったからのぉ」

「ご来店、お待ちしてるわ。たっぷりサービスしてあげるから、楽しみにしててね!」

「うむ!」

 

 美幸の答えに道人は満足そうに頷いた。

 

 その後、夜には宣言通り道人が店に顔を出してきた。

 

「やぁ美幸ちゃん! 約束通り来たぞい!」

「いらっしゃい、本田さん! さ、座って!」

 

 来店した道人を、美幸は何時も以上の笑みで歓待したのだった。

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