マスカレイド・サーガ外伝 魔女の喫茶店   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は折角なのでウィザード要素のある話にしてみました。


守る為に

 その日も、カフェ・キャスターは穏やかな午後を訪れた客に提供していた。最近増えてきた常連から、初めてこの店を知ったり立ち寄った一見さんまで様々な客が思い思いに過ごし、一時の憩いの時間を満喫して帰っていく。

 

 その中には棗の姿もあった。あれからと言うもの、棗はちょくちょくカフェ・キャスターに足を運んでいた。普通に学校帰りにティータイムを楽しむ時もあれば、参考書を持ち込んで紅茶やコーヒーを片手に勉学に励む時もあった。

 美幸は店の一画に陣取り日が沈むまでの間、冷めかけた飲み物片手に受験勉強に励む棗を邪魔に思う事も無く優しく見守っていた。元より混雑する事のない店だ。寧ろここが落ち着くと思ってくれているのであれば、その方が彼女にとって嬉しい。

 

 何より、棗が受験勉強に励んでいる姿は真剣そのものだ。自身の目標、夢か何かに向って真っ直ぐ進もうとする様子に、美幸は親近感の様な物を感じずにはいられない。

 

 だからだろうか。客の少なくなった店内で時々頃合いを見ては、彼女にサービスで飲み物の差し入れなんかをしてしまうのは。

 

「あ、すみません。ありがとうございます」

「気にしないで。それより勉強は順調?」

「はい。この間の模試も良い所に行けましたし、この分なら狙った大学にも合格できそうです」

「良かった。……ところで前から気になってたんだけど、棗ちゃんは将来何を目指してるの?」

 

 棗の受験勉強に対する熱意は相当なものだ。それは見ていれば分かる。それほどの熱意、ただ良い大学に合格すると言うだけでは説明がつかない。きっと何か理由がある筈だ。

 

 そう思って何気なく美幸が訊ねてみると、棗は何処か遠い目をしながら答えた。

 

「約束……してるんです」

「約束?」

「はい。まだ小さかった頃ですけど、幼馴染の子との約束……お医者さんになって、沢山の人を救うって言う……」

「その子……今は?」

 

 幼馴染との約束と言う棗の顔がほんのり赤く染まっているのを見て、美幸は甘酸っぱい何かを感じて思わず聞いてみた。

 

「さぁ? 子供の頃に私が引っ越しちゃって、それ以降一度も会っていないので……連絡も取れてないですし。でも約束だけは今も覚えてて、だから……」

「そっか……」

 

 そこまで聞くと、美幸は棗の肩を優しく叩いた。これ以上話を聞くのは無粋と悟ったのだ。肩を叩いたのは棗の話を中断させるのと同時に、彼女の想いに対するエールでもあった。

 

「何時か再会できると良いわね……その幼馴染の子と」

「はい!」

 

 これ以上は勉強の邪魔になると、美幸はカウンターの裏へと戻り、彼女が離れると棗は勉強を再開した。

 

 その後棗は空が赤く染まるまでをカフェ・キャスターで過ごし、程よい時間になったのを見ると受験勉強を切り上げた。

 

「それじゃ、ご馳走様でした!」

「は~い! また何時でも来てね~!」

 

 棗が店を出ると、店内には美幸ただ1人。美幸はジャズが流れる店内で洗い物をしながら、先程の棗との会話を思い出していた。

 

「約束、か…………ふふっ」

 

 先程の目標を語る棗の姿に微笑ましさを感じ、美幸は思わず笑みを浮かべる。きっと棗は、その約束を交わした相手の事が好きなのだろう。どんな相手なのかを聞く事はしなかったが、あれは間違いなく恋をしている顔だ。となると、約束の相手はきっと男の子だろう。

 そんな男の子との約束を守り、再会の時を夢見て勉学に励み目標に向かって突き進む。きっとそれが棗にとっての生きる上での“希望”なのだろう。そうであるなら、以前初めてこの店に来た時の余裕の無さも納得できた。

 

「希望…………希望、か」

 

 思えば自分の希望は何だろうかと、美幸は洗い物をしながら1人考える。

 

 魔法使いの家系に生まれ、幼い頃から魔法使いとなるべく学び、大人になって儀式を受けて魔法使いになって…………。

 

 独り立ちして各地を転々として、最終的にここ神多品市で喫茶店を営む事になった。何故喫茶店なのかと言われたら、実はちょっと憧れがあったりしたのだ。小さくても自分の店を持ち、飲食を人々に提供する喫茶店の店主になる事を魔法使いとなる為の勉強と鍛錬の合間に夢見ていた。

 この店の内装や古いレコードプレイヤーも、彼女の趣味によるものだ。

 

 そんな趣味全開の店を持ち、喫茶店の店主として時折訪れる客にコーヒーや紅茶、様々な手料理を提供して。

 思えば彼女はそれだけで満足だった。例え客足が悪くとも、来てくれた客が自分のコーヒー等を満足そうに口にしてくれるのを見たら、それだけで彼女の心は満たされた。

 

 それが、美幸にとっての希望なのだろう。この店に訪れて、美幸の店を気に入ってくれた人達の笑顔こそが希望なのだ。

 

 そこまで考えた時、カウンター下の水晶玉が景色を映しだす。見ると茜色に染まった街で、棗を含む複数の人達が異形に襲われている。それを見て美幸は素早く店を閉店状態にするとエプロンを脱ぎ捨て指輪を嵌めた。

 

「私の希望、失わせる訳にはいかないわ」

〈テレポート、ナーウ〉

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 それは本当に突然の出来事であった。棗がカフェ・キャスターを後にして街中を歩いていると、突然近くのマンホールが吹き飛び中から無数の岩の様な身体をした怪人が這い出てきたのだ。

 怪人は近くに居た人を片っ端から襲い、手にした槍で刺し殺したりした。その光景に棗も他の人達と一緒に逃げ惑った。

 

 だが怪人は彼女達が逃げた先のマンホールからも姿を現し、棗を含んだ多くの人々は追い詰められてしまった。

 

「あ、あぁ――――!?」

 

 追い詰められた多くの人々と共に、棗は恐怖に震えていた。じりじりと近付いてくる怪人――グール――が持つ槍の穂先は、逃げ遅れて殺された人々の血で赤く染まっている。

 今から自分の血もあの槍を彩る色彩になるのだと思うと、恐怖のあまり目の前が暗くなってくる。

 

「誰か……助けて――!?」

 

 誰にともなく棗の口から零れた願い。彼女が願いを口にした瞬間、グールが槍を振り上げ彼女に突き立てようとし――――

 

「撃てッ!!」

 

 出し抜けに無数の銃声が鳴り響き、グールの表皮が火花を上げた。突然の事に棗を始めとした追い詰められた人々は悲鳴を上げる。

 

「きゃっ!? な、何々ッ!?」

 

 耳を塞ぎ周囲を見る棗の目に、近付いてくる鎧を着た無数の人影が見えた。青い装甲にオレンジの複眼を持つ鎧の戦士――――警察の特殊部隊『Gユニット』のG3部隊だ。先頭を行く仮面ライダーG3が1人とその後ろからG3と微妙に細部が異なる装備のG3マイルドが5人、主武装である銃器『GM-01 スコーピオン』を手にグールの群れに殴り掛かった。

 

 6人のG3とG3マイルドによる銃撃はグールを下がらせるには十分な威力を持ち、特に攻撃が集中したグールはその場で爆発して消滅した。

 そしてグールの包囲が崩れると、G3部隊は棗たち市民とグールの間に割り込み、彼女らを守りながらグールとの戦闘を開始した。

 

「総員、民間人の退避を援護しつつ未確認生命体を攻撃! これ以上は絶対にやらせるな!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 G3部隊は棗たちを守りながらグールを銃撃し、接近を許さない。時折弾幕を抜けて槍の攻撃範囲にG3部隊を捉えるグールも居たが、訓練を受けた精鋭であるG3部隊の隊員は格闘術でねじ伏せ至近距離からの銃撃で返り討ちにした。

 

 G3部隊の活躍でグールの群れは着実にその数を減らしている。最初20体は居たグールも、今はその数を半分以下にまで減らしていた。

 

 その様子を美幸は離れた物陰から眺めていた。最初彼女がメイガスに変身して棗たちを助けようとしていたのだが、その前にG3部隊が突入して来てグール達を倒していったのを見て思い留まった。魔法使いの出番が必要無いなら、それに越した事は無い。

 

 だがグールは所詮尖兵に過ぎない。あいつらには取りまとめをしている上位の存在が居るのだ。グールを相手に出来ているからと言って油断はできない。

 

 果たして、彼女の懸念は正しかった。

 

 グールとG3部隊が戦っている場所のすぐ近くにあるビルの屋上から何かが飛び下りてくる。飛び下りてきた何かは、グールとG3部隊の間に着地した。

 

「な、何だ?」

「警戒しろ!」

 

 突然降ってきた存在に、G3マイルドの1人が怪訝な声を上げるが隊長と思しきG3は警戒を促す。

 

 着地の瞬間の土煙が晴れると、そこにはグールとは異なる異形が佇んでいた。

 顔は額にコブラの装飾を付けた幅広の仮面の様な顔、対して首から下は背中に翼のある二足歩行のライオンの様な歪な容姿。それを一言で言い表すとすれば、エジプトでピラミッドの傍に存在するスフィンクスが最もしっくりくるだろうか。

 

 その振ってきた異形――スフィンクスファントムは、周囲のG3部隊を見渡すとハテナマークの様な杖を掲げた。

 

「問題……」

「何?」

「お前達は、背後の人間達を守れる……マルか、バツか?」

 

 突然の問い掛けに、隊長のG3は一瞬戸惑いながら答えた。

 

「そ、そんなもの……マルに決まっている!」

 

「正解は――――」

 

 G3の答えに対し、スフィンクスファントムは杖の先端に魔力を集束させた。それが大技の前兆である事を察した美幸は、彼らを援護すべく変身しながら物陰から飛び出した。

 

「変身ッ!」

〈チェンジ、ナーウ〉

 

「バツだ!」

 

 美幸が仮面ライダーメイガスに変身した直後、杖から稲妻が放たれG3部隊に襲い掛かる。メイガスは彼らの前にギリギリで立ち塞がると、スフィンクスファントムの放った稲妻を障壁で防いだ。

 

〈バリヤー、ナーウ〉

「ッ!? な、何だ?」

「何ぃっ?」

 

 G3部隊もスフィンクスファントムも、突然乱入してきたメイガスに困惑した様子を見せる。だが相手が魔法使いであると理解したファントムの方は、杖を構え彼女に警戒を向けた。最早G3部隊など眼中にない。

 

「貴様、魔法使いか……この街に居るという噂は聞いていたが……」

「そう言う事よ。それよりファントムが出張って来るって事は……この中にゲートが居るって事で良いのかしら?」

 

 ファントムは魔力を持つ人間『ゲート』が絶望した時に生まれる。メイガス達魔法使いは、そのファントムを抑え込む事が出来た者達だ。

 世に生まれ出たファントムは、人間社会に溶け込み仲間のファントムを増やすべく高い魔力を持つ者を絶望させるべく暗躍している。美幸達魔法使いが陰に隠れながら戦っているのも、ファントムがゲートを絶望させないように見張る意味があった。

 

「答える必要は無い」

 

 スフィンクスファントムはそう言うが、グールが減らされてから態々出てきた事を考えるとまず間違いなかった。今彼女の背後に居る一般人の中に、ゲートが必ず居る。

 

〈コネクト、ナーウ〉

 

 メイガスはハーメルケインを取り出し、スフィンクスファントムへと斬りかかる。振り下ろされた刃を、スフィンクスファントムは杖で防ぐと彼女から距離を取りグール達を嗾けた。

 

「問題。私はこの場から逃げる事が出来る。マルか、バツか?」

「バツにしてあげるわ!」

 

 迫るグール達を、メイガスはハーメルケインで次々と切り伏せる。G3部隊も困惑しながら、肌感覚でメイガスが敵ではない事を理解し民間人を守る為グールとの戦闘を再開した。再び響き渡る銃声の中、メイガスは舞うような動きでハーメルケインを振るいグールを倒していく。

 

「はっ!」

 

 残り僅かなグールの群れを突破し、その奥に控えていたスフィンクスファントムへと肉薄するメイガス。だがその時にはスフィンクスファントムは杖に魔力を再び集束させ終えていた。

 スフィンクスファントムはその杖をメイガス……の後ろに向ける。

 

「正解は――」

「ッ!? いけないッ!!」

「マルだ!!」

 

 相手の意図に気付いたメイガスは強引に進路を変更した。

 その杖の先は、故意か偶然か民間人に対する守りががら空きになっていた。G3部隊はまんまとグール達により彼らから引き離されてしまったのだ。

 

 彼らも気付いた時にはもう遅く、スフィンクスファントムが杖から放った稲妻は棗たち民間人に向って飛んで行き――――――

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?…………ぐぅ――」

 

 彼らに直撃する寸前、間に割って入ったメイガスが背中でスフィンクスファントムの稲妻を受け止めた。背中を焼かれ悲鳴を上げるが、彼女はその場を動かずスフィンクスファントムの稲妻から棗たちを守り抜いた。

 

「ふっ、さらばだ」

「ッ! 待てッ!!」

 

 メイガスに大きなダメージを与え、厄介な魔法使いからの追撃を防げたと見てスフィンクスファントムは翼を広げて空へと逃げ去って行く。それに気付いたG3部隊は、残りのグールを全て倒した事もあって逃げるスフィンクスファントムを撃ち落とそうとスコーピオンを向け引き金を引いた。

 放たれる無数の銃弾を、しかしスフィンクスファントムは全て避けて飛び去ってしまう。まんまと逃げられた事に、隊長のG3は悔しそうに地団太を踏んだ。

 

「くそっ! 逃がしたか……しかしあれは一体――?」

 

 何か知っているとしたらそれはメイガスしかあり得ないと、G3は背中から煙を上げながらその場に膝をついている彼女に近付いた。

 苦しそうに肩で息をするメイガスに、一番近くに居た棗が心配して声を掛ける。

 

「あ、あの……大丈夫、ですか?」

「はぁ、はぁ……だい、じょうぶよ……。気にしないで……」

「で、でも……」

 

 見るからに大丈夫ではない。何とか自力で立ち上がったメイガスは、しかし足元はふら付き今にも倒れそうだ。それだけあの稲妻が高威力だったという事で、彼女が守ってくれなかったらと思うと想像もしたくない。

 

 それでも何とか自分の足でその場を離れようとするメイガスに、G3が声を掛けた。

 

「待ってくれ。君は一体誰だ? あの未確認生命体の事を何か知っているのか? 何か知っているなら、君の治療も兼ねて我々について来て教えて欲しい」

 

 名目上は情報収集だが、その実内心では彼女の治療を第1に考えていた。彼女がいなければ最初のスフィンクスファントムの一撃で部隊は全滅していたかもしれないし、民間人への被害も大きくなっていた筈だ。それを身を挺して守ってくれた彼女に、彼らは少なくない感謝をしていた。

 メイガスはそれに気付きつつ、しかし魔法使いの秘密を可能な限り守る為彼らに全てを教える事は避けた。

 

「ゴメンね、申し出はありがたいけど……そうも言っていられないの。ただ、アイツはまた必ず現れるわ。警戒……怠らないで…………この子達を守ってあげて…………それじゃ」

〈テレポート、ナーウ〉

 

 メイガスは最低限必要な事を伝えると、魔法でその場を離れた。一瞬で消えた彼女に、G3も棗も驚きを隠せない。

 

「消えた!?……まるで魔法だな」

「魔法……」

 

『そ、魔法。頑張って勉強してる女の子が、少しでもリラックスしてくれるようになる魔法よ。どう? 少しは気が楽になった?』

 

 G3が何気なく呟いた魔法と言う単語に、棗は行きつけの喫茶店の女店主の顔が浮かんだ。しかしそんな馬鹿なと思い直し、一先ず命が助かった事に安堵の溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 魔法で転移したメイガスは、店に戻るなりその場に倒れ元の姿に戻った。

 

「ぐぅっ!? い、つつつ……」

 

 倒れた美幸はその場で呼吸を整え、ある程度落ち着くと自力で立ち上がって近くの椅子に腰かけた。

 

「はぁ……はぁ……やられちゃったなぁ、まさかゲートに被害が及ぶ危険を冒してあんな事するなんて」

 

 ファントムは基本ゲートを殺さない。殺してしまってはファントムが生まれないからだ。だから死への恐怖や苦痛を与える為に痛めつける事はあっても、一撃で致命傷になるような攻撃は基本人間に対してはやらない。やるとすれば確実にゲートではないと分かっている場合だ。あの場であんな攻撃をすれば、下手をすればゲートが死んでしまっていた。そう思っていたが故に、美幸は反応が遅れてしまったのである。

 

「とにかく今は、休まないと……誰がゲートか分からないし、次に備えないと、ね」

 

 美幸は痛む体を引き摺って店先に「本日臨時休業」の看板を立てると、店の奥に引っ込み居住スペースにあるベッドに倒れ込んだ。

 

 ベッドに倒れた瞬間、限界が来たのか美幸は意識を手放した。

 

 意識を手放す直前、彼女が考えていたのは絶対にファントムの好きにはさせないと言う決意と、今日も店を臨時で閉めてしまう事への心残りであった。




という訳で第3話でした。

今回は前後編です。誰がゲートで、ファントムがどのようにゲートを絶望させようとするのかは次回をお待ちください。

それと原作者のバインさん曰く、マスカレイド・サーガにおいてはグールくらいならG3の装備でも対抗可能だと言う事なのでこのようになりました。折角のG3部隊、活躍させないと面白くないですしね。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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