小さくなった君主(ロード)その1
イースター休暇も半分を過ぎた頃の事だった。魔術協会の総本山にして魔術師達の学院、時計塔の一室では兄妹が談笑していた。
「そうだお兄様。私は日本に行くよ」
そう言ったのは、細く真っ直ぐな金色の髪、陶器人形のような白い肌に整った顔立ちの美少女だった。鮮やかな青色の瞳は、兄と呼んだ相手をサディスティックに見つめている。
「……唐突だな。とはいえ若いうちに見識を広めるのは良い事だ、行ってくれば良いさ。ついでに土産を頼んでも良いか? アドミラブル大戦略の新作が出てだな────」
黒い長髪で年齢以上の皺を眉間に蓄え、不機嫌そうな顔をしているその男は、紅茶をすすりながら答えた。この二人に血縁の繋がりは見受けられない。
「おや、良いのかい? てっきり、私も行くとか言い出すと思っていたけれど。若い頃の無茶をした地を訪れるのが恥ずかしいのかい?」
「いい加減にしてくれ、ライネス。エルメロイの次期
パチパチと義妹──ライネス・エルメロイ・アーチゾルデ──は手を叩いた。
「そうだともお兄様、権力闘争と派閥の足の引っ張り合いこそが時計塔の醍醐味さ。とはいえ、行くのはこんな要件なのだけれどね」
義兄──ロード・エルメロイⅡ世──はライネスから封筒を受け取り、中身を検分した。中には五枚の紙があり、一つは自分宛のメッセージカードだった。
『久しぶりだね、ウェイバー。僕の表での仕事がニホンにも支社を出すことになってね、レセプションがあるんだ。ここ数ヶ月はずっとニホンにいて、君にも来て欲しい。ほら、前にゲームの発売がどうこうって言っていたし、
君の親友メルヴィン・ウェインズより』
彼はゆっくりとした動きでカードを折りたたみ、目を伏せて呟いた。
「……
「おいおい義妹にそんな汚い言葉を聞かせないでくれ。派閥が異なるのに交友関係を築いたのは兄上じゃないか」
「アイツが善意で誘っていたとしても、この機会を利用してくる輩がいないとは限らない。招待状は三人分あるから私とグレイで行く、君は辞退したという事にしておいてくれ」
ライネスはヒラヒラと航空機のチケットを揺らしながら、らしくもなく悔しがっていたが仕方がない。エルメロイⅡ世は急いで
「お帰りなさい師匠。何かあったのですか、そんなに急いで」
自分の部屋には灰色のフードを目深に被る銀髪の少女がいた。ゲームや魔術関連の書籍で乱雑な室内をテキパキと清掃している。
彼女はグレイ。エルメロイⅡ世の内弟子であり、エルメロイ教室の生徒でもある。
「グレイ、私は日本に行く事になってしまった。一緒に来てくれるか?」
グレイは本を整理する手を止め、小さいがはっきりとした声で答えた。
「はい。では拙は、荷物をまとめてきます。でも、ニホンのどこに行くんですか? もしかして──」
「いや、違う。悪友から誘われただけだよ。」
エルメロイⅡ世は気楽に、目的地の名前を口にする。
「行先は日本の首都、東京の米花町だ」