迷宮無しの魔術の破壊者   作:C₆H₁₂O₆

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ホワイトデーイベントからのボックスイベントと怒涛の勢いでしたね……



インターミッション
その1


 時は少し遡り、古美術商殺人事件が()探偵の毛利小五郎(もうり こごろう)の推理によって一応の解決を見た後の事。毛利探偵とその娘、蘭。そして居候の江戸川(えどがわ)コナンの三人は中華料理屋で夕飯を食べていた。

 

「え? コナン君、今日も阿笠(あがさ)博士の家に泊まるの?」

「うん、博士の発明品のテストをお願いされてて…本当は夕方までには終わるはずだったけど、事件に巻き込まれちゃったから…」

「ケッ! 発明ってもあの爺さん、役に立つんだか立たないだか分からんモノばっかり作ってるじゃねぇか」

 小五郎のおっちゃんは既にビールの瓶を一つ空けていて、口髭を泡で白く染めながらくだを巻いていた。

「まぁ…泊まりに行っても良いが、きちんと宿題やれよ」

「はーい」

 笑顔で調子よく答えたが、内心穏やかでは無かった。

「(あの箪笥の刀傷…引き出しの位置を正しく合わせると、吉田の文字になる。斬られた小角氏のダイイングメッセージなんだろうが…確たる証拠を集められないまま津久井氏が連行されてしまった…)」

「もう! 飲み過ぎよ、お父さん! いくら調査料取りそびれたからって…」

 

『───そして近江屋に滞在していた坂本龍馬と中岡慎太郎は凶刃に倒れてしまった。しかしその首謀者については今でも諸説あり───』

 ふと、店の天井から吊り下げられてるテレビの内容が気になった。

「!…ちょっとトイレ行ってくる!」

 トイレに駆け込み、高木刑事に電話をかける。数コールもしない内に応答があった。

 高木刑事は交友───この言い方だと誤解を受けるかも知れないが───がある刑事の1人だ。見た目は小学生である自分との関りのきっかけは、やはり事件との遭遇だった。小五郎のおっちゃんの元上司でもある目暮警部と同じく捜査一課の刑事であり、いつもは目暮警部に同行している。今回は見かけなかったが、別件でもあったのだろう。

「どうしたんだいコナン君? 今日も毛利探偵が事件を解決したって聞いたけど…」

「うん、その事なんだけど…もしかしたら別の人が犯人かもしれないって、おじさんが」

「えぇ!? どういう事だい?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…考えてみれば当然の事だった。確かに現代においては数少ない日本刀を扱える職業ではあるだろう。しかし、試し斬りを行わなかったり竹入り畳表で行ったりなど、実際に何かを斬ると言う事においては流派によってバラバラだ。仮に吉田氏の流派が型稽古のみだとしたら…

「つまり小角氏の死因は頭の裂傷だとしても、即死には至らなかったかも知れない…そう言う事だね?」

「うん、そして小角氏はダイイングメッセージを箪笥に遺した…それに気づいた吉田氏が部屋中を刀傷だらけにしたのかも…っておじさんが言ってたよ。この写真を見て」

「箪笥の引き出しの刀傷を繋げたんだね…確かに、吉田って文字になってる。目暮警部に確認してみるよ!」

 数分の後に伝えられたのは、不可解な捜査の流れだった。

 津久井氏は任意での事情聴取でも殺害を否認しており、拘留して証拠を集めるか、という方針でいたらしい。しかし、小角氏の妻から離れにあった美術品が紛失したとの連絡が届いた事で、殺人よりも空き巣容疑での立件を目指す事になったようだ。つまるところ、この事件は捜査一課の手を離れたらしい。あまりに横紙破りな措置だったが、高額な美術品を小角氏が収集していた事もあって目暮警部は不承不承で受け入れたようだ、とも。

「それで三課の友人に聞いてみたんだけど…吉田氏が雲隠れしたらしくて、今はそっちの居所を探っているみたいなんだ」

「雲隠れ!? 事件後すぐに姿を消したって事は…」

「多分…毛利さんの最初の推理が間違っていたのをいい事に、真実が明るみに出る前に逃げた可能性が高いね。でも…毛利さんだけのせいって訳じゃ無いから、そこは伝えておいてくれないかな」

「……分かった。ありがとう、高木刑事」

 もう少し時間があれば、死亡推定時刻や出血の多さから、この結論をあの場で導き出せたかも知れない。だとしても、あの場で小五郎のおっちゃんを眠らせるのは不可能だっただろう。

「(博士の家に転がり込んできた、あのウェイバーって学生さん。悪い人じゃ無さそうだけど、結構話しかけてきたからなぁ…あの場でやろうものなら服部(はっとり)以上に厄介だったろうし、あの人を探偵役にしようとしても、声のデータ無かったし…)」

 コナンは煩悶としながら食事を終え、阿笠邸へと帰路についた。

 

 

「おぉ、コナン君か。お帰り」

「コナン君? 君のこと新聞で見た事があるよ。僕はメルヴィン・ウェインズ、阿笠博士とは取引していてね。ちょっと商談に来たんだけど、こんな予想外の場所で小さな名探偵に会えるとは光栄だ」

 阿笠邸に着いたコナンに話しかけてきたのは、黒いマスクをつけた、白髪で色素の薄い肌の外国人だった。ウェイバーとは異なり、流暢な日本語を話していた。

「ええと…商談って事なら僕は地下室に行ってるね。二時間くらいで戻ってくるから」

 挨拶もそこそこに地下室に向かう。以前ノックもせずに扉を開けたら手ひどく言われたので、三回ノックしてから扉を開ける。

「上の来客人の素性なら、もう調べたわよ…恐らくは無関係でしょうね」

 部屋の中でパソコンと向き合いながら言葉を発したのは、灰原哀(はいばら あい)だった。

「そうか…ウェイバーさんの事は?」

()()()()()()()()()()…しかもあんな風体じゃないし。不思議よね」

「は? 灰原…それが分かったのはいつだ?」

「昨日の夜だけど? でも何故か疑う気にならないと言うか…」

 あまりの油断に灰原の座っている椅子を回転させて体ごと自分の方に向けさせた。

「分かって言ってんのか? 灰原以外にもAPTX(アポトキシン)4869を研究できる奴がいないとも限らないんだぞ!」

「まさか…データも消したし研究は劇的には進まないはず───まさか、この副作用を引き当てたって言うの? そんな事が───」

「俺の勘でも、ウェイバーさんは悪い人じゃ無さそうだ…だけど万が一って事もあるしな」

「でもね、もし彼が組織の一員だったのなら…昨日今日で襲撃に遭ってもおかしくないわ」

 

 時間を見計らって地上階に戻ると、ウェイバーさんも帰宅していた。メルヴィン氏とは話があるようで、すぐに自室に向かっていった。彼らの話を聞ければ何かしらの材料にはなると考えたコナンだったが、部屋の音はほんの少しも漏れ聞こえてこなかった。

「(流石に話し声が何も聞こえないってのは…変だよな)」

 訝しんでいると、唐突にドアが開かれた。ドアに体ごと耳を付けていたコナンはよろけて室内に入ってしまった。

「と言う訳で部屋の音に聞き耳立ててたコナン君! APTX4869の事について、改めて聞かせてもらえないかな?」

「(部屋の物音一つ立てずに会話をし、APTXの事も知っている…)ウェイバーさんにメルヴィンさん…あんたらは一体?」

 驚きを隠せずにコナンは彼らに尋ねた。

「僕達はね…魔術s──おぼぉぉぉぉ!」

 メルヴィン氏が何か言おうとした瞬間、彼の黒いマスクから大量の血が溢れた。




この話は前話のコナン視点ではあるのですが、事件ごとにFile~と章立てしたいこと、これを前話に追記すると、それだけがボリュームが大きい話になってしまう事から
インターミッション(事件と事件の間の休憩)として、File~から外した話としました。

相変わらず月一投稿ですが、次回は事件(になる予定)です。

誤字報告ありがとうございました。
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