あ、因みに前回のイベントではメルトだけ出ないと言う珍しいタイプの爆死をしました。
廃墟屋敷殺人事件 その1
本来ならばこの事態を引き起こした犯人である黒ずくめの組織を追いたいところだが、流石に小学生が昼間から街中を出歩くのは不自然だ。
事件解決の手段として、居候をしている毛利小五郎の探偵としての名声を高める事に注力する一方、
「それで、本物の魔術師と会ってみた感想は? 平成のホームズさん?」
「まぁ、オレの知らない世界があるっつーのは事実だろうな…」
帰りの会が行われるまでの休み時間に、隣席の灰原が話しかけてくる。昨夜メルヴィン氏とウェイバーに詰め寄られた結果、灰原を伴って四人で話をする事となったのだ。
灰原は話をする直前、時計塔のウェブサイトでウェイバーの不自然な経歴を見つけた時から、ウェイバーに対する警戒心が消えて放心状態となっていた。
「魔術師……と言っても信じられないだろうからね、ちょっと待って」
「おい、メルヴィン! それは……」
吐血したメルヴィン氏がヴァイオリンをケースから取り出すのを、ウェイバーは制止しようとしたようだ。
「まぁ良いから」
言うが早いかメルヴィン氏がヴァイオリンを弾き始めた。讃美歌のような曲を自由に弾いているようだが、聞いている内に室内の雰囲気が変わった。ただの客間が、教会や寺社の内部のような厳粛さを醸し出しているのだ。ふと照明以外の眩しさを感じて部屋見上げると、クローゼットの上に置かれた、阿笠博士が参加したゴルフコンペの賞品であるカップが光り輝いている。
「どうだい、
神殿、言い得て妙だと思った。魔術師が実在するとは思ってもいなかったが、ヴァイオリンの演奏だけで室内の雰囲気を激変させるのは、ただの奏者であっても並大抵の技量ではない。
「……讃美歌は天使を想起させ、その天使への信仰による力は、杯として照応する賞杯に注がれる。言葉で誘導するのが常套だけど、流石だな」
ウェイバーがたどたどしい日本語を止めて、流暢な英語で呟いた。
「うんうん……これで神殿は出来たし、そこのレディへの対処は君に任せるよ。エルメロイの名前を知ってたのなら時計塔のサイトを見ていたって事だろうし、多分一般人に閲覧できないページを見ちゃったんだと思うよ」
ウェイバーは先ほどからリアクションが薄い灰原に目を向けた。
「時計塔や魔術に対する疑問を消す洗脳に、数日間病気で寝込む呪いか……どちらも魔術師なら抵抗できる軽度なものだな。問答無用で殺しにかかる類じゃなくて本当に良かった。これなら手持ちの礼装でも解呪できそうだ」
あまりに聞き慣れない単語が連続した事もあって、混乱からありきたりな質問をしてしまった。
「呪いって…パソコンの画面越しにでも出来るものなの?」
「今時の魔術師はスマホだって使うさ、いつまでもずっと羊皮紙の本を扱ってる訳じゃない」
ウェイバーはそう答えてから灰原の額に手を当てて、何事か呟いていた。すると、今まで感情が稀薄であった灰原が声を上げた。
「江戸川君? 私は地下室にいたと思うのだけれど…どうして客間の前で彼らと対面しているのかしら」
「灰原、お前…ついさっきの事を覚えてないのか?」
ウェイバーはしゃがみ込んで姿勢のまま、灰原の目を見て問いかけた。
「君は時計塔のウェブサイトを見ていただろう? そして恐らくだが……クラッキングを仕掛けたのでは? 一般人が閲覧できるページにはあんな仕掛けはしていないはずだ」
「それは…」
口籠る灰原だったが、視線を外さないウェイバーに根負けしたのか、頷いて語り始めた。
「教員名簿のデータベースを探ったわ…時計塔の講師、ロード・エルメロイⅡ世──エルメロイ家の名代であり実際の名前はウェイバー・ベルベットだと言う──貴方の事を」
「これは驚いた……こんなに可愛らしいレディが時計塔にクラッキングを仕掛けるなんて、とんだ才媛だ」
「そ、それで…メルヴィンさん達はどうして
これ以上灰原の事を調べられるのは不味い。黒ずくめの組織だけでも厄介なのに、APTXの製作者だと分かったら、事と次第によっては魔術師にも狙われるかも────。
「恐らくだけど、ウェイバーがその薬を飲まされたんだよ。魔術的な攻撃かとも思ったけどそんな痕跡は無いし、裏社会でそんな薬が無いか探ったら、『人体を跡形もなく消す薬』が一時期出てすぐに消えたって話があったんだ」
怪しいと思っていた人物が被害者だと、メルヴィン氏はいとも簡単に言った。
「へ?」
「ウェイバーさんも薬を飲まされた、ですって? 一体誰に?」
「恐らくは僕と諍いを起こした魔術師だ。大抵魔術で決着を付けるものだけど……消耗していたからか、そんな夢みたいな薬に頼ってしまったんだろう。結果として、不完全な効果しか発揮しないで生き残る事が出来た訳だが」
頭をかきながら恥ずかし気に語るウェイバーだったが、魔術師にとっての理屈などどうでもいい。
「そんな! APTXの効果…いえアポトーシスの制御不良による生体の消滅は、九〇%以上の確率で起こっていたはずよ! そう何例も都合よく幼児化するなんて…あっ」
しまった、と口を手で覆う灰原だったが、メルヴィン氏は薬についての関係者で無ければ出てこない言葉を聞き逃さなかった。
「君の幸運にはいつも驚かされるねウェイバー。そんな冗談みたいな薬を服用した少年に会えるだけじゃなく、その関係者にまで会えるなんて」
「いや…私はその、えっと…」
「…それで、ウェイバーさんはどうしたいの? オレは自分の体をこんなにした犯人を見つけたい。でもウェイバーさん達は、解毒が出来ればそれで良いんじゃないの?」
その質問は、ウェイバーに悩みを与えた。自らの手で事件を解決して犯人を暴くよりも、化野辺りにその魔術師の拘束と解毒薬の入手を頼んだ方が、貸しにはなるが楽なのではないか。その一方で、自分をこんな姿に変えた報いは受けさせたいと言う気持ちも少なからずあった。
「追って行った先に僕の体を縮めた奴がいる。やり合うための手段は少なからずある。なら、誰かに任せてこの舞台から降りるなんて事は出来ない」
だが口を突いて出た言葉には、無鉄砲さと意地が同居していた。まるでこの見た目通りの年齢の頃の言いようで、外見に精神が引っ張られてしまったのかとも思ったが、それが偽らざる本心だった。
「なら、協力関係って事になるのかしらね…本当に魔術師なのかはキチンと検証したい所だけれど」
灰原の言葉に、メルヴィンもウェイバーも頷いた。手を差し出すと、ウェイバーも握り返した。
「ほんの少しの間だろうけど……よろしく、コナン君」
「こちらこそ、ウェイバーさん」
ふと、少し遠くの席の会話が気になった。
「ねぇ光彦君、元太君…歩美、ハイキョ屋敷見つけちゃった」
隣席とその机に腰掛ける男子に話しかけているのは、活発そうな風貌のおかっぱ頭の女子、
「廃墟ですか…色々と問題になる事もあるようですね」
小学校一年生とは思えない知的な返答をしたのは、そばかす顔で髪を真ん中分けにした男子、
「なぁ光彦、ハイキョって何だ? 食いもんか?」
頓珍漢な返答をしているのは、小学校一年生にしては大きな体の五分刈りの男子、
「そんな訳無いでしょ元太君…。廃墟って言うのは、誰も住まなくなった建物の事です。雨風が凌げるからって不審者が無断で住んでしまったり、建物が壊れそうなのに誰も手入れしなかったりして問題になる事もあるんです」
「へー」
「それでね…その家はおとぎ話に出てくるような洋館で、若い男の人が独りで住んでいたんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったんだって」
「怪しいですね…少年探偵団として調査するべきだと思います! それで歩美ちゃん、その廃墟はどこにあったんです?」
「エトウさん、って家で…米花町の二丁目二十一番地にあるの」
コナンは頭を抱えた。話を聞いていた灰原は、笑いを堪えているようだ。
「場所も分かってるならすぐ行けるな! コナン、灰原! 少年探偵団、出動だ」
丁度こちらに話を振ってきた。流石に自分の家を廃墟扱いされて、家探しまでされるのは気が引ける。
「元太、光彦…その番地に見覚えないか? 博士ん家の隣だよ…たまに手入れする人がいるみたいだから、言うほど廃墟って訳じゃ無いと思うけどな…」
「え、そうなんですか? ちょっと調べてみますね…確かに、博士の家の隣ですね。遊びに行く時に気付かなかったとなると、本当にボロボロで寂れている廃墟とは言い難いですね」
「それに廃墟と言っても誰かの持ち家だから、無断で入ったら不法侵入になるわよ…阿笠博士がまたゲームを作ったから、今日はそれを遊んでみたら?」
無料でゲームが出来ると聞いてはしゃぐ彼らを見て、二人の心は少しだけ安らいだ。
前々回、インターミッション、そして今回と、2日目の夜を擦り過ぎだろ! とは自分でも思います。次回からはタイトルにある事件が始まる(はず)
それはそれとして、感想お待ちしてます。