聖杯戦線はバーゲストとヘラクレスが活躍してくれましたね。
「そう言えば…向かいのお宅のチワワも、最近いなくなったとか言ってたわね…」
「なるほど…ありがとうございます」
「えぇ? その子の秋田犬もいなくなったのかい? 僕の場合はね───」
「お話ししてくれてありがとう、お兄さん」
「お隣さんの飼ってる猫、つい最近マンションの掲示板に捜索中って貼り紙してあってさ…僕のペットもいなくなっちゃうんじゃないか不安で不安で」
「その貼り紙って何日くらい前からあったんだ?」
「聞き込みによると、連れ去られているのは沢井さん家の秋田犬だけじゃ無いみたいですね…」
少年探偵団が沢井の自宅周辺の家庭に聞き込みをしたところ、複数の家庭で飼育してたペットが同時期のうちに連れ去られている事が分かった。
「でも、犬や猫をそんなに連れ去るなんて事…あるのかな?」
歩美の疑問に、元太も追従した。
「そうだよな、ペットの窃盗団なんてカッコよく無ぇし」
「いえ、もしかしたら…そう言う人達が犯人かも知れません。秋田犬は二歳半と言ってましたし、まだまだ取引できる年齢です」
光彦はランドセルから丸めた筒状の物体を取り出して広げた。
「あ! それ博士のタブレットだよね? 学校に持って行っちゃいけないって言われてたのに!」
歩美の注意も、謎の答えに思い至った
「まぁまぁ…元太君、歩美ちゃん、端を持ってくれますか?」
光彦は紙のように薄い画面に周辺の地図を表示させた。
「この周辺は町の境が入り組んでいるので、所轄もバラバラです。聞き込みで分かった、沢井さんの犬も含めた四件の失踪は丁度、各所轄に一つになるように分散されていました。初動捜査の時点で組織的なものと分からなければ、逃げられると思っての事かも知れません。一度沢井さんにこの事を報告しましょう…歩美ちゃん、お願いできますか」
「え? 光彦君と元太君は?」
「僕らはここら辺でペットを捕まえておける場所が無いか探してみます」
蛮勇とも取れる発言に、流石の元太も躊躇した。
「なー、ホントに俺らだけで行くのか? 何も持ってきてねーぞ。犯人がいるかも知れねーし、バットでも持っていった方が…」
「元太君。ペットが連れ去られてから長い場合で四日は経ってます。少しでも証拠を見つけた方が、警察に話すときにも役立ちます。それに…いつもコナン君ばかり取り上げられてますしね…たまには少年探偵団ここにあり、と言う所を見せないと。さぁ行きましょう元太君」
名誉を求める欲と少しばかりのコナンへの対抗心を持って、沢井の自宅からほど近い廃墟を見つけた光彦と元太は、その正しく廃墟と呼ぶべき異様な外観に息を呑んだ。
凹凸のある瓦が敷かれた急な勾配の屋根が特徴的な二階建ての瀟洒な洋館であったのだろう。だがそれは人が住み、手入れの行き届いた状態のものであり、今となってはその面影は建物全体の形でしか伺えない。壁には蔦が生い茂り、周囲を囲う煉瓦造りの塀も、一部が崩れたり穴が開いたりしている。そこから敷地内に入ってみると、庭園の手入れもされておらず雑草が伸び放題だった。
「…凄くぼろっちいな。な、中に入ってみるか?」
唾を飲み込んだ元太が、強がって言った言葉は光彦の耳には入っていなかった。それどころか光彦は、地面を見て何かを探していた。集中のあまり元太から離れていってる事にも気付いていないようだった。
「元太君…これを見てください…動物の骨ですよ。しかもこんなにたくさん…ネズミ? いや、それならもっと小さかったはずですね…となると」
「…ッ! おい光彦! 窓の所見たか? 誰かいたぞ!」
「何ですか元太君、大きい声出して…」
所々鎧戸が落ちてしまっていて、窓ガラスがそのまま露出している箇所がいくつかあった。光彦はそこから内部を見ようとしたが、夕焼けの屋外よりも室内が暗いせいか、見る事は叶わなかった。
「誰かいたんですか? 何かの見間違いとかじゃ…」
「本当に見たんだよ! 長い髪の白髪のバアさんが歩いてたんだ」
「高齢女性がこの事件の犯人…? 沢井さんの秋田犬を抱えて連れ去れるとは思えませんね…って元太君?」
「うるせー! 俺があのバアさんから話聞けばいい話だろ? こんな寂れた所に住んでる訳無いだろうしな」
元太が洋館の正面入り口に向かって駆けだして行くのを、光彦はただ見ているだけであった。
「ってあれ? 鍵かかってるぞ光彦!」
白く大きなドアを押し引きして騒ぐ元太に、光彦はやれやれと言って調子で合流しようとした。
「そりゃあそうですよ…普通は廃墟と言っても、誰かに簡単に侵入できないようになってます。とりあえず、真新しい動物の骨がいくつかあったので、それも含めて警察に…元太君?」
さっきまで騒がしくドアの周囲にいた元太の姿が無い。その代わり、ドアがキィキィと軋む音を立てていて、内側に向けて開いていた。
「───ッ! げ、元太君? どこいっちゃんたんですか?」
放置され各所が錆びついていたドアが急に開いて、転倒してしまったのだろうか。そう考えを巡らした光彦だったが、開いたドアから見える室内の景色は、電気の付いてない事と夕日が差し込む事も相まって、薄暗い赤色に見えた。それがまるで何かの動物の体内のようにも見えてしまって、本能が警告しているのも構わずに室内に向かって歩みを───。
「何してるの光彦君? 元太君は?」
背後から呼び止められる。我に返ると、開いた扉から室内に足を踏み入れるところだった。振り返ると、心配そうな顔をした歩美がいた。
「えっ? あぁ、歩美ちゃんですか…。ええと、元太君は…どうもこの中に入ってしまったみたいで…」
「探さないの?」
「もうすぐ日も暮れますし…コナン君か、警察を呼んでも良いと思いますよ。たくさんの動物の骨があったんです。もしかすると───」
少年探偵団には、阿笠博士から腕時計型ライトが支給されている。それを点灯させて、歩美は光彦の言葉を待たず、廃墟に入って行った。
「団員は大切な仲間だもん、助けないと…」
すれ違いざまにそう言われ、光彦は一瞬後悔した。だが、恐怖を感じて留まった事は間違ってないと考え直し、歩美を説得しようと振り返った。
「こ、この建物は何か変なんです! 出ませんか? ねぇ、歩美ちゃん? 歩美ちゃん?」
また、じぶんのめのまえで、いなくなって、しまった。
以上が、廃墟の外の塀でうずくまっていた光彦を、安心させながらに聞いた経緯だった。
「分かった…光彦はもう帰れ。不安なら博士の家に行ってても良いぞ」
光彦をなだめて帰し、薄暗くなってきた夕方───逢魔が時と形容するのも頷ける────の廃墟前には、コナンとウェイバーだけが残った。
「それで、魔術師が関わってるかも…って本当なの?」
コナンの問いかけに、ウェイバーは返答を少し躊躇った。
「……話を聞く限りでは魔術師の工房───つまり秘密基地みたいなものだ───の攻撃的な防御が働いたようにも思える。動物の骨は、魔術の触媒として使う場合もあるし、ここに魔術師がいてもおかしくはない」
躊躇った理由としては、元々
「で、どうするの?」
「もう少し待っててくれ、弟子を呼んだんだ」
「弟子?」
同時刻、阿笠邸の呼び鈴が鳴らされた。光彦が来るであろうと連絡を受けていたので、手が離せない状況の博士に代わって、灰原が応対しようとドアを開けた。
果たしてそこには、フード付きの灰色のサマーコートのようなものを着た銀髪の少女がいた。歳は元の姿の灰原と同年代くらいだろうか。目鼻立ちの整った顔と白い肌、イギリスの地方訛りのある話し方から、イギリスに住んでると言っていたウェイバーの関係者であろうと、灰原は考えた。
「メルヴィン氏から連絡を受けて来ました。こちらに、ウェイバー・ベルベットがいると聞いたのですが……ええと、その」
「彼は今外出中よ。すぐに会う必要があるなら案内しても良いけど?」
「いえ……場所さえ教えてくれれば、自分で行きますので」
焦っているような、嬉しいような、そんな声色の彼女に、灰原はポケットにしまっていた予備の犯人追跡メガネから、ウェイバーとコナンの位置を特定する。
「ここから南東に直線で1キロくらいにある廃墟よ…って分かりづらいわね。ちょっと待ってて、ルートを表示した地図をプリントアウトしてくるから」
「それだけ分かれば大丈夫です。ありがとうございます」
彼女の方からドアを閉められ、灰原がドアを開けると、灰色が印象的だった彼女の姿は、もうどこにも無かった。
次回か次々回でこのエピソードは完結予定です。
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