「コナン君の知り合いの子供達が霊地で失踪したって? それでこれからコナン君と調査に行く? ウェイバー……折角体を元に戻す手がかりを掴んだのに、また事件に首を突っ込んで」
外出の用意をする間にメルヴィンに電話をかけると、それなりに忙しいだろうにすぐ出てくれた。呆れたような口調だったが、その声色には喜びが感じられる。メルヴィン・ウェインズと言う男は、人が困難に向かって突撃するのを見るのが大好きな性分なのだ。
「分かっている……でも彼の友人が巻き込まれている。それに、彼に現場に向かうのを止めるよう説得するのは難しい」
我ながら無茶な言い訳だ。
「というか、
自分でも薄々気が付いていた事を言われてしまった。若返ってしまったと言う境遇が同じであるからか、はたまた一見無茶な目的を果たそうとする姿勢か、もしくは若者特有の傲慢さか、そのどれもかが理由か分からない。だが、ウェイバーはコナンに対して、自分との親近感を抱いてしまっているのは事実だ。
「……かもな。でもメルヴィン、お前が僕のために用意してくれている護衛には手助けを求めないよ。いい機会だ、グレイと向き合ってみようと思う」
「分かったよ。グレイちゃんにはそれとなく話しておく」
「恩に着る」
携帯電話を置くと、メルヴィンはホテルの一室に向かった。ダブルの広い室内には、キャリーバッグが二つだけ置かれていた。
「全く……弟子に向き合う前に少しは心配してやりなよ、ウェイバー」
師匠が病院に行くことになってからまだ一日しか経っていない。それでも、拙にとっては数日間も離れ離れになっているように感じられた。
「イッヒヒヒ! だからってあの痩せぎす狐みたいな師匠の言いつけを守って、ホテルから出ないで高い所から街を見てるだけってのは臆病過ぎやしないか? マジで愚図グレイになっちまうぞ」
「……そうだね、アッド」
幼い頃から傍にいたアッドの言葉も、今の拙にとって心に響くものでは無かった。ホテルのルーフトップバーが解放されていたので、ガラス張りの壁に背を預けながら、師匠と別れたトロピカルランドを見ていた。
「(師匠……無事だとは聞きましたが、元気で戻って来られるのでしょうか? またいつものように無精髭生やすまでゲームしてそのまま眠って、講義をする時にはキチンと身支度を整える、そんな日々が過ごせるでしょうか?)」
グレイが手慣れた動きで、誰にともなく祈りを捧げようとした時、メルヴィンが現れた。
「あぁ、ゴフッ……グレイちゃん。ここにいたんだね、ちょっと……良いかな?」
メルヴィン氏は拙を座席に座らせると、カラフルな色の飲み物の入ったグラスを二つ、持ってきてくれた。
「すみません、拙は……」
ライネスさんは師匠を連れてパーティーに行く時には、嗜むと言う言葉を超えるほどワインを飲んでいた。ただ拙にとっては、お酒の類は得意では無かった。
「どっちもノンアルコールだよ。僕もこれからママと話さないといけないしね」
「……ありがとうございます」
「それで……僕は君に話をする前に、謝らなくちゃいけない」
ハンカチで吐血を拭いながら、メルヴィンは頭を下げた。
「何を、ですか?」
思わず声が震えてしまう。もしかしたら師匠は────。
「ウェイバーだけどね、ピンピンしている。病院に行ったと言うのは嘘なんだ、ごめん」
一瞬、聞き間違いかと思った。ただ目の前の自称ウェイバーの一番の親友は、飄々とした口調でそのまま話しを続けた。
「いやあ確かに元気ではあるし手足の一つも欠けてないけど、君の前に姿を現すには少しばかりショックがあるかなとは僕も思ったしね。それにウェイバーも会うのを遠慮していたから居候先を紹介してあげたんだけど、そこでも色々と事件に巻き込まれてしまってね。でまあ、いよいよ君の助けがいるみたいだから、感動の対面をする前にちょっと現状報告をしておきたいと思ってね」
「……師匠は、無事なんですね? 拙に会わないでいたのは、ショックを受けるかもと遠慮していただけなんですよね? その居候先と言うのはどこなんですか? 安全な場所なんですか? と言うかなんでまた事件に巻き込まれてるんですか?」
「待った待った、そんなに一度に質問しても答えられないよ。順番に話すから────」
そこからの話は拙にとっては驚きだった。魔術についてもまだ学んでいる最中なのに、全く思いもよらない科学の力によって師匠が若返ってしまうなんて。
「それで僕のママの会社との取引があって、名探偵の毛利小五郎ともつながりのある、阿笠博士のお宅にウェイバーを少しの期間居候させてもらえないかと頼んでみたのさ。そうしたら────」
話に夢中になっているメルヴィン氏から少し離れた所に、以前見かけたことのあるボディーガードが立っていた。断られる事を予想しつつ阿笠博士と言う人物の住居の場所を尋ねると、快く教えてくれた。メルヴィン氏の話の続きを聞いてみたい気持ちが無い訳では無いが、今は一刻も早く師匠の無事を確かめたい。
「それでウェイバーときたら魔術もあまり使えないのに、真犯人が魔術師だって暴いちゃったんだよ。しかも一人で『あなたが犯人だ!』をしに行くし……ってあれ? グレイちゃん?」
「彼女なら先程エレベーターで地上階に向かいましたが……」
従者の言葉を聞いてメルヴィンは天を仰いだ。
「それとなく伝えるとは言ったけど……これはちょっと、焚きつけ過ぎちゃったかなあ」
すぐに廃墟の中に入るのをウェイバーに止められたコナンは、彼と共に廃墟の周囲を観察してした。
「何か見えるかい、コナン君?」
「もうちょっと…高さが…あれ、看板かな?」
二人の身長で塀を越して内部を見るのには高さが足りないので、肩車をして覗いていた。傍から見ると滑稽な恰好ではあるが、仕方が無い。
「看板?」
「うん、医院の文字が見えたよ」
「個人病院……表の顔として医者をやっていた? いや……廃墟になった病院に、土地を持たない流れの魔術使いが住み着いたのか?」
「ねぇウェイバーさん…そう言えば聞いてなかったけど、魔術師って表の顔が必要な仕事なの?」
コナンの素朴な疑問は、グレイを時計塔に時計塔に招いた時にされた質問と似ていた。
「仕事と言うと違和感があるんだよな。そうだな……先祖代々の研究を続けている研究者、みたいな感じかな」
実際にはその研究の終わりは無く、どんどん研究に必要な物が消えていく、なんで続けているのかと言いたくもなる状況であるのだが。
「そうか…研究を続けていくためにはお金が必要だろうから、そうやって仕事をやる必要があるんだね。じゃあ、時計塔って実際には…」
「魔術師達が自分たちの派閥を広げて、研究に必要なヒトやモノやカネを集める場所さ。若手を育てる学校と言うのも一つの側面ではあるけどね。まぁ組み分け帽子は無いけど」
コナンはがっかりした表情を隠さなかった。
「……話を戻すと、在野で研究を真面目にやるのなら、表の顔は必要不可欠って事。でもそんな事をする存在が、建物の外見がボロボロになるまで放置するとは考え辛い」
「
根源を追い求める事に興味が無く、それ以外の手段として魔術を使う存在。そんな魔術使いの中には様々な理由から、各地を転々とする者もいると聞く。簡易的な拠点として作って、後々建物ごと破壊して痕跡を消すつもりなのかもしれない。それなら寂れた外見と問答無用の迎撃にも一応の説明が付く。
「その可能性はある、ってくらいかな。────来てくれたみたいだ」
ウェイバーは空を見上げていた。つられてコナンも上を見ると、住宅の屋根から誰かがこちらに向かって飛び降りてくる所だった。
「お待たせしました! ししょ、う?」
灰色の薄手のマントのようなものを羽織った、ウェイバーと大して背丈も年代も変わらないような少女が、ウェイバーをまじまじと見つめて固まっていた。
次回でFile3は完結、グレイが合流したのでアクション多めでお送りする予定です(文章力が足りるとは言ってない)
感想お待ちしてます。