迷宮無しの魔術の破壊者   作:C₆H₁₂O₆

2 / 25
小さくなった君主(ロード)その2

「おはようウェイバー! どうだい憧れのニホンに再び来た気分は──うぶろぉぉぉ」

 半日以上のフライトでの疲れを、賦活させた魔術回路で取り去ろうとしていたら、吐血するナニカが私たちを出迎えていた。

 白髪で色素の薄い整った顔立ちをした、見るからに虚弱そうな男。彼こそが多忙な師匠をわざわざ極東の日本にまで招待した悪友──メルヴィン・ウェインズ──だった。人の往来の激しい空港だが、彼が人払いの魔術を行使しているおかげか彼の盛大な吐血に気付く存在は、拙たちの他には誰もいない。

 

「別に空港にまで来る事は無かっただろ、最初に向かうとメールを送ったのに」

 慣れた様子の師匠だったが、メルヴィン氏が興奮した口調で吐血したまま師匠に寄って来たのには反射的に仰け反ってしまっていた。

「いち早く事の顛末を知りたくてねえ。ああそうだ、迎えの運転手もウチの人だから特に暗示とか掛けなくて良いから。派閥闘争にならない範囲で満遍なく教えてくれよ、ウェイバー」

 

 彼は師匠がエルメロイ派の君主(ロード)代理になってからも、師匠の事をウェイバーと呼び続けている。なんでも君主(ロード)を譲り、何者でも無くなった時のためだとか。魔術師にとって毛嫌いされる師匠の事を、方向性はおかしくとも想ってくれている人がいる。

「嬉しいはずなのに…やっぱり何か複雑な気持ちです」

「ん? 何か言ったか、グレイ?」

「い、いえ…何でもないです」

 

英国でも馴染み深いベントレーのリムジンに乗って空港を出ると、すぐに高速道路(Motorway)に入った。メルヴィン氏の話では、三〇分もせずに目的地に着くらしい。車内では二ヶ月前に師匠が辿った、先代の近代魔術科部長であるドクター・ハートレスとの対決の顛末について話に花を咲かせていた。

「結局、僕が知っているのはアルビオンに向かうまでのそれとない粗筋と、魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)を手配した時に君の顔なじみを乗車させた事くらい。でも結末はライネス嬢から聞いてしまった。なんて事だろう! ミステリ小説の後ろのページをそれとなく見たら犯人が逮捕されるシーンだったようなものだ──ごばぉぉぉ」

 

 メルヴィン氏はこの飄々とした態度とは裏腹に、時計塔の三大派閥の一つである民主主義派の筆頭、トランべリオの分家の出だ。表の世界でも高名な貴族で通っており、師匠が言うには彼の実家は国内での不動産業の他にも手広く貿易業を営んでいるとのことだ。

「(時計塔は十三の学部とそれを束ねる十二の君主(ロード)、そして三つの派閥で構成される。貴族主義派、民主主義派、中立派だ。君はまだ気にする必要は無いだろうが、学部や派閥の対立に気を付けるようにしたまえ)」

 師匠は拙を時計塔に連れてきた当初、自分が過ごす魔術師の住処をそう説明した。幸いにも師匠が教鞭を採る現代魔術科では、新興の魔術師や他の学部から爪弾きにされた生徒などが参加しているので、学部や派閥による対立は少ない。

 

 

「その時にライネスから全部聞いておけば良かっただろ……。順を追って話すとだな──────」

 

 突然、高速道路の遮音壁を越えるような高さの白銀のタワーが目に飛び込んできた。話の流れを切るのも構わず師匠に尋ねる。

「師匠、あれってベルツリータワーですよね?」

「どこかの財閥が観光目的で世界一高い塔を建築したと聞いたが、あれだったのか。流石に大きいな」

「そう、そしてもうすぐ秋葉原を通るよ」

「! メルヴィン、すまないが途中で──」

「そしたらウェイバー帰ってこないだろ? まずホテルに着いてからだよ」

 

 その後まもなく、リムジンは滑るように米花サンプラザホテルの駐車場に入っていった。




最初は飛行機内で事件に巻き込まれる話を書こうかと思いましたが、止めました(リンボ並感)
次回は事件に巻き込まれるはず。

コナンの劇場版OP風の紹介にあらすじを変更したいけど、それやると今投稿している話全部見なくて良くなるジレンマ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。