迷宮無しの魔術の破壊者   作:C₆H₁₂O₆

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2部7章の後編出るまでには書き終わるだろ……って思っていた自分がほんのちょっとだけいます。いました。


特急六連星 その3

「さて。これで全員キッドの変装では無い事が明らかになった訳じゃな」

 両頬を赤く染めた次郎吉氏が話を切り出した。次郎吉氏はリムジンに乗ったウェイバーらの頬をつねったが、最後につねられた園子が、

()()()()()()()()()()()()()って事もあるのではなくて!?」

 と、ぐうの音も出ない正論を述べて、彼の両頬を思いきり引っ張ったのだった。

「でもさぁ…いつもだったら次郎吉さんの方から挑戦状を出したり、大々的に公表してから予告状が届いたりしているのに、なんで試運転の時に予告をしてくるんだろうね」

 コナンの疑問に次郎吉氏は呵々と笑った。

「儂の考案した設備に恐れをなしたのであろうよ…後で見てみると良い」

 次郎吉氏の口ぶりでは、キッドを捕まえるのはもはや確実な事となっているようだった。

「何だかとても白熱した対決をしているようですけど、僕らが同行しても良かったのですか?」

 ウェイバーの質問には園子が答えた。

「良いの良いの。日本縦断の旅なんてそうそう出来る事でも無いし…折角観光しに来たんだから、楽しまないと損よ。もちろん私はキッド様目当てだけど…」

「キッド()……? 怪盗なのに敬称を付けて呼ぶんですか?」

 グレイの口を突いて出た疑問に、園子が目の色を変えて答えた。

「そりゃそうよ! あの闇夜に浮かび上がる純白の姿! クールな顔立ちにマジックショーでもやっているかのような華麗な立ち回り! 誰だってファンになっちゃうわよ」

「は、はぁ……そうなんですね」

 グレイはとにかく頷いた。隣に座っている灰原は、キッドについての話をして以降、周囲との関りを断つかのようにイヤホンをして、スマートフォンでサッカーの試合を見ていた。

 

 ニ十分もしない内に、一行の乗った車は東京駅に到着した。

 ガラス張りの高層ビルが乱立する中にある、二階建ての駅直結の建物は巨大な白いルーフが特徴的だ。リムジンを駅前のロータリーに停めると、次郎吉氏はここで降りるように言った。

「儂は記者会見に出るから反対の丸の内口に向かうが、お主らはこのまま列車に向かっていてくれ。迎えもそこにおる」

「分かったわ伯父さま。それじゃあお先に」

「うむ」

 手早く降りた園子は、迎えに来たスーツ姿のスタッフと言葉を交わしていた。コナンや蘭、灰原もそれに続いた。

「コナン君たちとは殆ど初対面なのに…招待してくれてありがとうございます」

 ウェイバーが改めて礼を述べると、次郎吉氏は呵々と笑った。

「これも何かの縁と言うもの…あの小童がわざわざ頼むのなら、お主らも只者では無いと見込んだだけの事よ」

 まぁ儂の一方的な期待じゃが、と続ける次郎吉氏にウェイバーは、

「なるべく努力はしてみますよ……」

 とだけ答えた。ただ薬の効果を確認するだけの列車旅だったのに、怪盗の予告状なんてものは想定外にも程がある。

「(まぁ僕は探偵でも無いし、もちろん警察でも無い、ただの魔術師なんだけど)」

 ウェイバーは内心で言葉を繋げながら、グレイと共に車外に出た。

 

「師匠、ここって東京駅なんですよね? ガイドブックで見たレトロな駅舎と形が随分違うんですが……」

 グレイはウェイバーにした質問は、灰原が先に答えを口にした。

「貴女が見たのは次郎吉氏が向かって行った丸の内口の駅舎ね。こっちは八重洲口って言うの。それと…また師匠って呼んでるわよ、グレイさん」

「す、すみません、灰原……さん。その、鈍臭くて」

「別に構わないけれど、不自然に思われないように演技してくれると助かるわ…あの推理オタクと来たら、当初の目的放り投げてキッドに夢中の様子だし?」

 当て付けるような言葉に、コナンはむっとした表情をして

「バーロー、目的放り投げてなんかいねーよ…ただキッドが来るとなると、()()警部も乗り込むとか言いそうなんだよなぁ…」

 と、一抹の懸念を口にした。

 

 

 同時刻、秋葉原にある時計塔日本支部では、ロード・エルメロイⅡ世の捜索に行き詰っていた。

「四日前にトロピカルランドに入ったのは、防犯カメラからの映像で確認取れています」

「そこから出た記録は?」

「ありません」

「警察側から街中の映像を貰っていますが、足取りが消えています」

 トロピカルランド内で魔術師による小競り合いがあった事も確認が取れている。そこには争った形跡があったものの、死体やケガ人はいなかったのだ。ロード・エルメロイⅡ世の足取りがそこで途絶えた以上、昨日の工房跡地の爆発について追及のしようが無いのだ。

「仕方ないですね……交友があるとされるメルヴィン・ウェインズ氏も来日しているとの事ですし、彼に話を聞きましょう。もしかしたら匿っているのかも」

 化野(あだしの)先輩に良い所を見せる、そんな魔術師らしからぬ気持ちを原動力に、ノーリッジの後輩である彼女は、徹夜明けの体と脳を更に酷使するのだった。

 

 

 東京駅の地下ホームに案内されたコナン達一行は、停まっている列車の流麗な外観に目を見張っていた。

 速度を第一とする新幹線のような細長い流線形ではないが、曲線を多用したデザインの先頭車両は、曲面に沿って大きな窓が連続して配されていた。それに続く客車は長方形や正方形の窓が模様のように散りばめられていた。列車で移動をする間に寝泊まりする、と言うよりも、観光拠点として列車を用いているようだった。

「以前に乗った魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)とは違いますけど、趣があると言うか……近代的ですよね、ししょ……ウェイバーさん」

「あれもある意味観光列車ではあったけど、今回乗る列車の方が霧の国とか巡らないし安全だと思うな……」

 十両編成の車両の中央、五号車にある両開きの扉がスライドして開いた。そこがエントランスのようだ。

「園子様とご友人様一行ですね…後方八号車のスイート寝台車、計三室をご利用ください」

 乗務員に案内された客室(コンパートメント)は、ソファベッドが二脚置かれた開放感のある部屋だった。トイレとシャワー室はベッドの反対側に配置されているようだった。

「ここがウェイバーさんとグレイさん、隣がガキんちょ達と蘭、その隣が私、部屋割りはそれで問題なかった?」

 園子の指示にコナン達が頷くと、

「じゃあまた後でね」

 と言って客室に入っていった。蘭もそれに続いて、

「それじゃあウェイバーさん。また何かあったら呼びに行きますね」

 と言ってコナンと手を繋いで客室に姿を消した。

「じゃあグレイ、とりあえず待つとするか」

「はい、師匠」

 

 前日の夜に師匠と拙が受けた説明は、大雑把なものだった。

「今回参加する鉄道旅行…食事の時間以外は客室にずっといても、スケジュール上は問題無いの。それを利用して、一日目の夕食後に薬を服用して、効果を見る事にするわ」

「その間ウェイバーさんは風邪を拗らせた、って事にして安静にしていて欲しいんだ。オレと灰原はお見舞いの体で、交代しながら経過観察するよ」

 大雑把な説明に、師匠も代案を示した。

「最初から、解毒薬を飲んで向かうのはどうだ? その方が自分の身元も明らかだし、不都合は少ないんじゃないか?」

「もちろん最初はそれで行こうと思ってたわ…でもまだ効果の度合いが分からない以上、今の姿を主体にして動いた方が、服用量変えただけで中身は江戸川君や私用のものと変わらないし、変化が無かった場合のリスクが少ないと言えるわ」

 それに、と灰原は笑みを浮かべて言葉を続けた。

「魔術で認識をある程度ごまかせるのなら、尚更その方法をとった方が、良いと思うけれど。グレイさんはどう思う?」

「その……拙は、これから先も解毒薬に頼って、元の姿に戻って生活するをするんだったら、ちゃんと調整された薬を飲んで欲しいです」

 一般人のいる手前、奇妙な函(アッド)は喋り出そうとしない。とは言えゴトゴトと籠の中で優しく揺れていた。

「グレイも賛成するのなら、僕が拒否する意味は無いな。その方法で行くとしよう」

 

 コナン達が客室に入ってから数分の内に、人気が無かったホーム上に取材陣が並び立って騒がしくなった。そして写真撮影が終わると、幸運にも車内の取材を勝ち取った数少ない記者や鉄道会社の関係者などが、乗務員に案内されて客室へと向かって行く足音やキャリーケースを転がす音が微かに聞こえた。

『全員乗車したようじゃな』

 客室の天井から聞こえる声は次郎吉氏のものだった。車掌に代わって出発の合図をするとの事で、声色からも期待が感じられる。

『それでは…観光特急列車六連星(むつらぼし)、出発進行!』

 発車メロディーが流れたが、車体の揺れは殆ど感じない。写真に撮られるのが嫌で閉めていたカーテンを開けると、窓に移る景色はどんどん後ろに流れていた。




事件の舞台が出てくるまで3話ってどうなってるんだコレ……



活動報告の機能を活用して進捗を出したりとかしてみたいです。
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