「都内全域の防犯カメラ映像に映っていない?」
「はい。駅やバス停の防犯カメラにも、ロード・エルメロイⅡ世は映っていませんでした」
「ビルを跳びまわって移動しているって事ですか? 仮にも
時計塔の秋葉原支部は不可解な現状を理解しきれないでいた。君主ともなれば
ロード・エルメロイⅡ世の友人であるメルヴィン・ウェインズから話を聞くという案は出たものの、彼は時計塔の三大貴族の一つ、トランベリオの分家の出身だ。出来るだけ丁重に質問をする必要がある。
「あの……」
「何です?」
「
「そ、そんな───最悪に最悪が重なったような奇跡が、何度も起きるはずがありません」
一人のスタッフが放った妄言が、手狭な会議室を狂乱に包み込んでいく。
「(何だか私がいない間に、面白い事になっているようね……)」
昨日ウェイバーに忠告をした化野は、それなりに愛しい後輩に差し入れを届けようとして部屋から漏れ聞こえる声を聞き、話題に乗り遅れたことを実感した。
「ようやく取材対応が終わったわい。さて皆の者、特急
すでに東京駅を出発した列車内、八号車の客室にいたコナン達に、次郎吉氏が宣言した。
「この列車、最初は長野に停車するんですね…私てっきり静岡辺りかと思ってました」
前方に向かって移動する傍ら、蘭が次郎吉氏に尋ねた。
「呵々…富士山も良いが、春先となるとやはり旬の桜。少しばかりこの列車の運行日程が遅れてしまったからのう、今でも桜が見頃の観光地となると長野か、東北かの二つに一つ。儂が選んだんじゃ」
「静岡の桜の開花時期は三月の下旬くらい。今見に行っても遅咲きの品種があるくらいで、最盛期には及ばないしね…って伯父さま、この列車って運行ルートが決まっているんじゃ無かったの?」
「季節ごと、都道府県ごとに行先には決まっておるが…その時々の最高の景色を観光する事にこそ意味があると思っておる。よって行きと帰りが東京駅である事以外のルートは直近で決めるんじゃ」
行先も日程も列車側に任せるというプランで人気が出るのだろうか、とグレイが考えていると、車両を移動する際に、次郎吉氏が連結部のドア脇に設置されたカードリーダーにカードをかざしていた。そのカードはグレイにも見覚えがある。客室に入る時、園子から渡されたルームキーだ。
「これで各客室や車両間の出入りを管理しておる。厳重過ぎるかも知れんが、少しばかり仕掛けがあるのでな」
開いた扉を通り、隣の七号車を通り過ぎて六号車に一行は向かった。六号車は車両の後ろ半分がかさ上げされた構造の食堂車となっていて、かさ上げされた場所の床下には食材の冷蔵庫があるようだった。車両のほぼ全てのスペースに、両側の窓に向かって二人掛けのテーブルと椅子が配置されていた。
「この食堂車では、入れ替わりで各客室の乗客が各地の旬の食材を食する事が出来るんじゃ。しかも後ろを見てくれ、厨房付きじゃ! 作り立ての料理が味わえるぞ」
七号車からここに入る時に通路が狭まっている箇所があったが、そこがどうやら厨房だったようだ。
「確かに豪華だけど…景色を楽しむ感じだし、キッドが予告状を出すような感じじゃ無いね?」
「コナン君!」
「江戸川君の言う事も一理あるわ。私達は厚意で列車旅行できると思っていたけど、実際はキッドの予告に対応するために列車に同乗させてもらっているんだから…何を盗もうとしてどんな対策をしているのか、それが気になってしまうんでしょう」
「なーんか灰原さんって急に大人びた事言うわね…」
コナン達の会話を横目に、グレイは豪華な列車の内装に目を輝かせていた。
「し、ウェイバーさん……
「まあ、そうだな。後は事件さえ起こらなければ、解毒薬の効果を落ち着いて見られるんだが……」
この数日間で数々の事件に巻き込まれたウェイバーの声には、実感がこもっていた。
一行は隣の五号車に移動した。五号車は列車全体へのエントランスの他に、ラウンジとしての機能も有していた。車両前方にあるバーカウンターには、様々な酒が並んでいた。
「このバーには儂が世界各地に冒険した際に飲んだ酒や、日本各地の美味い酒が並んでおってのう…いや、この面子で語ってもウェイバー君達にしか分からんか。小童の言う通り、キッドの目当ての場所に向かおう」
次郎吉氏は先頭車両に向かって歩みを進めた。途中通過した客室は、エクストラスイートという最上級の部屋らしく、コナン達が滞在しているスイートとは異なり二階建て構造になっているらしい。
「さて、ここが問題の一号車じゃ」
「…展望車だね。それと…」
「宝石の展示室……?」
コナンとグレイが簡潔に車両内の状況を述べた。車両の前方から天井方向にかけては曲面構造の大型の窓が配置され、進行方向の車窓の眺めを楽しめるようになっていた。一方で後方部分には、ダイヤモンドをはじめとした宝石類がガラスケースの中に並んでいた。
「あれ? でも確か宝石って…」
蘭が日光の差し込む中で宝石が展示されている事に違和感を覚えていると、
「窓が多いこの車両だと、当然直射日光が入りやすい。宝石でも真珠とかの有機的なものは日光で退色する危険性があるけど、無色透明なものならそのリスクも低い。美術品でも退色するリスクの高い絵画に比べれば、この環境で飾るんだとしたらまだマシなのかな……。次郎吉さん、この中の宝石を盗むって予告状が届いたんですか?」
ウェイバーがフォローを入れた。
「そうじゃ。車両基地から東京駅に動かす際に、運転席に置いてあったらしい。まぁ対策は講じておる」
「ねぇ蘭、もうすぐランチの時間よ。後はガキんちょと伯父さまに任せて、私達は食堂車に行きましょ?」
一号車の各所を見て回るコナンと次郎吉氏を見かねて、園子が蘭とグレイの手を取って八号車に向かった。
「ちょっ…園子! コナン君、哀ちゃん、ウェイバーさん、先に八号車に向かってるね」
取り残されたウェイバーと灰原は、どちらも肩をすくめた。
「彼女、いつもあんな感じなのか?」
「ええ、テンションが高くて大変。とりあえず今日の夜までは自由時間としましょう…昼食後から体調不良のフリをしておいて」
「分かった」
二人もコナンと次郎吉氏を置いて、八号車へと歩みを進めた。
昼食を堪能した後、長野駅に停車した六連星から降りた乗客は、駅前に停車してあるバスに乗り込んで観光地を巡った。その中でウェイバーはバス観光の途中から顔色を
「風邪気味にするのは阿笠博士の薬を使うわ。早く着替えて」
「ウェイバーさん、防音の魔術? って用意出来てる?」
「バスルームで着替えるよ……グレイ、君のバッグに入れておいた護符に魔力を込めれば防音の効果が表れるはずだ。君が発動させてくれ」
数分後、手足共にブカブカの服を着たウェイバーがバスルームから出てきた。
「まず
灰原がケースから何の変哲もない錠剤を三つ取り出した。備え付けのペットボトルに入ったミネラルウォーターで飲み下すと、十分としない内に背筋に寒気が走った。
「ウェイバーさん、寒気とかある?」
「かなりね。まさか薬で病気を再現するとは……容易く人を殺める毒は魔術と科学の境が曖昧だった時代からあったけど、風邪みたいな微妙な症状を意図的に引き起こすのは、魔術による呪いの分野だと思ってた」
現代の科学には魔術に勝るものもある、とウェイバーは思っていたが、この分では魔術的な薬師や呪術師がある日突然廃業するかも知らない。
「じゃあ本番ね…グレイさん、防音の魔術を発動して。これから大騒ぎになるだろうから」
サディスティックな笑みを浮かべた灰原が命じた声に、グレイはライネスの姿を重ね合わせた。
もうちょい続きを書きたかったのですが、日付ギリギリ投稿から脱却したいので
今回はここまでと言う事で……
感想・評価お待ちしてます