迷宮無しの魔術の破壊者   作:C₆H₁₂O₆

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月イチ投稿出来ませんでした。
と言うより執筆ページに向かう余裕が無かったです……年度末恐るべし。


特急六連星 その5

「───ッ……」

「解毒薬を飲んでそろそろ二十分…体が灼けるようでしょう? 無理して喋らなくても良いわ。これからもっと酷くなるし」

 師匠は客室のベッドに寝かされて、汗をかいて苦しそうに呼吸をしている。一見すると熱にうなされているようだった。

 だがこの症状は意図して引き起こされたもの。師匠を元の姿に戻すため、今もベッドの傍で様子を見ている灰原さんが計画し、師匠も了承して行っている事だ。

「解毒薬の効果が出るの、ちょっと遅くないか?」

 黒縁メガネをかけた少年、江戸川コナンが呟いた。

「私たちと違って彼は20代後半…代謝も落ちているし、時間がかかるのも当然よ」

「そうか…グレイさん、防音の結界って長時間使えるんだよね?」

 コナン君がただ見守っているだけの拙に尋ねてきた。

「は、はい。以前師匠がメルヴィンさんと阿笠さんの家でやった『神殿』と似た仕組みで……私の魔力を使いますけど、激しい消費では無いので……半日程度は維持できます」

「───グ、ァ……」

 呻いていた師匠が、突然起き上がって心臓を押さえ始めた。

「師匠!?」

「グレイさん落ち着いて!」

 師匠の周囲には湯気が立っていた。

「客車の空調は効いている、のに……なんで」

「体が通常では考えられないくらい高温になるのよ。APTXの解毒効果は出ているわ」

 直後、師匠の咆哮が客室に響き渡った。

 

 

「法政科のミス化野(あだしの)とは不本意ながら顔見知りだけど、君は彼女の後輩なのか……それで、空港にいた私を捕まえて何の用かな?」

 ウェイバーの予想通り、法政科から接触があった。思っていたよりも強引だったが。

「ロード・エルメロイを知っていますか? 亡くなった先代についてではなく」

 化野の後輩を名乗る女性の視線を受けて、()の評価を滔々と語る。

「もちろんだとも。現代魔術科の若き君主(ロード)魔術の破壊者(マギカ・ディスクロージャー)……まぁ色々言われてるけど、一目置かれる人物なのは確かだ」

「通り一遍の評価ですね。彼とは第四次聖杯戦争の前から関係があったそうですが」

 なるほど。私と彼の交友関係から攻めるようだ。

「確かに。彼に資金援助をして聖杯戦争への参加を手助けしたし、帰還後に彼が教室を買い取る手助けもした。彼には多額の金を貸している身だったけど、彼がロード───正確にはライネスちゃんの名代───になるタイミングで彼女から貸し手を纏める目的で返済された。ここら辺の金の動きは、法政科なら探れるだろうね」

「ええ。また貴方は、魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)のオークションにも途中参加していますね? 私は……金だけでなく、貴方とロード・エルメロイが派閥を超えた交友関係があると考えています。その上で、彼が最近イギリスから日本に来たことについて、貴方は何か関係していますか?」

 これは驚いた。時計塔の秋葉原支部はおそらく彼の足取りを掴めていない。彼を直接捕えて聞けば済む事を私に聞いていて、しかも推測を重ねた回りくどい尋ね方をしている。事実関係を突き合わせて確認しているという訳でも無さそうだ。

「関係しているとも。()()()()()()()()()()()()()()()。でも、そこまでだ。確かに招待したし出迎えもした。レセプションを行うホテルに泊まるよう言ったし、彼もそれに頷いていた。しかし……彼はレセプションには姿を現さなかった」

「は?」

「私もそこまで機械に明るくない。街中の防犯カメラや、電子的な記録を改竄するのには手間がかかる。確認してみると良い。私の言葉には嘘偽り無いと分かるはずだ」

「そ、そこまで言い切りますか」

「言い切るとも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 狼狽えつつ視線を外した女性は、ちらと壁を見やる。壁の向こうにいる同僚と情報交換をしたのだろうか。

 

「帰国の便には間に合いそうです。朝から空港にいたのは、こうなる事を予見していたんですか? それとも……」

 空港まで向かう車内で珍しい事があった。大抵の事を黙って見ている従者が尋ねてきたのだ。

「私はね、()()()()()()()()()()()()()()でありたいと思ってるんだ。ロードなんて肩書にのしかかられてる()じゃない。そして今、ウェイバーは時計塔から離れた地で、若返った姿になってその肩書から解き放たれてる。そんなウェイバーの立てた策に乗らないなんて、私の存在に関わる。そうは思わないかい?」

「はぁ……そう仰られるのなら」

 従者の呆れるような返答も、今は心地良い。ウェイバーはまた私の前に渋い顔をして戻ってくるという、そんな確信がある。

「(また私が最後まで当事者でいられなかった、というのは残念だが)」

 

 

「師匠! 大丈夫ですか、師匠!」

 耳元で悲痛な叫びが聞こえる。グレイの声だ。

「レディ、そんなに悲しまないでくれ……なんとか生きている」

 安心させようと出した声は、驚くほど掠れていた。

「師匠……灰原さんの解毒薬、効いて良かったです」

「効いた……のか?」

 上体を起こしてみると、格段に視点が高くなっていた。

「これは……」

 解毒薬を飲む前はブカブカだったパンツやシャツが、今では手足にフィットしている。

「効いて安心したわ…効果の持続時間を計るから、後はお願いねグレイさん」

「は、はい。一時間間隔で体調に変化が無いか聞いて、メールを送ればいいんですね」

 視線を動かすと、コナンと灰原は客室を出ようとしていた。

「もう行くのか?」

 引き留めるつもりは無かったが、素っ気なさを感じた二人に声をかけた。

「ちょっと前に蘭姉ちゃんと園子が尋ねてきたんだ。体調が悪そうだから灰原と一緒に看病してたって言ったけど、ずっといたらウェイバーさんが重症だと勘違いして下車させられそうだし」

「そうね。江戸川君は蘭さんと一緒の客室だから、早く戻って一緒に寝たいだろうし?」

 からかう灰原に、コナンは言葉少なに

「バーロ、そんなんじゃ無ぇよ」

 と答えるだけだった。

 

 蘭の部屋に戻ると、園子がベッドに座っていた。パジャマ姿で話し込んでいた園子が、悪びれもせずに、

「蘭と恋バナ続けたいから私の部屋で寝てくれない?」

 と言った。

「ま、まぁ良いけど…」

 ウェイバーさんに何か異変が起きたら、灰原が部屋を抜け出して対応する算段になっていた。それならいっそ、自分と同部屋の方が融通が利くだろう。

「話が分かるじゃんガキんちょ。灰原さんにもよろしく」

 渋々灰原のいる客室に向かう。一応ノックしてから入ると、灰原はソファに座っていた。

「あら、こんな時間に何の用?」

「うっせ」




メルヴィン退場、ウェイバー(エルメロイⅡ世)復活と、打ち切り間近みたいな展開になってますが
終わるに足る理由をまだ見つけてないので、多分続きます。

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