迷宮無しの魔術の破壊者   作:C₆H₁₂O₆

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2話投稿からもう1ヵ月経っててビビりました。
FGOのワルツコラボでシャンシャン(周回)してる合間を縫って投稿します。


小さくなった君主(ロード)その3

「え? その取材ってボクが出なきゃいけないものだったっけ?」

 参った。予定を聞き間違えていたのか、レセプションまで数時間の猶予があるはずが、大掛かりな取材とやらのせいで全く無くなってしまった。ウェイバーはこっそりガッツポーズをしているが、見逃さなかったぞ。

「メルヴィン……君はどうやら忙しいみたいだな。部屋に荷物を運び入れてもらったら、少し休ませてもらうことにする」

 極めて平静を装ったウェイバーの僕を心配する声は、しかし全く別の意味に聞こえた。つまるところ、秋葉原に行って楽しんでくるという宣言だ。車での話は途中までだったから、全てを聞き終わるまでは気もそぞろだ。ウェイバーには何か少し、お灸を据えてやりたいところだ。

「グレイちゃん」

「はい、拙に何か?」

 彼女はあまり感情を表に出さないが、ウェイバーの護衛としては優秀だ。彼女が何かしたいと言えば、ウェイバーも無下にはしないだろう。

「ウェイバーの手綱、しっかり握っておいてくれよ。無理そうだったらコレ使って」

「メルヴィンさん、そろそろ」

 くれぐれもよろしく、と言い残して彼らと別れる。

「またワトソン役を逃しちゃったかなぁ」

 メルヴィンの呟きに身内の護衛は何も答えなかった。

 

 

 師匠は部屋に着いて荷物を置くと、半日以上ぶりに葉巻に火を付けた。師匠の葉巻は一種の魔術礼装になっていて、君主(ロード)には不釣り合いなほど平凡な魔術師としての腕前を補助しているのだ。おそらく魔術回路をさらに活性化させて体力の回復をするか、ただ単にリラックスのための行為だろう。葉巻から立ち昇る煙の匂いがロンドンの集合住宅(フラット)を思い起こさせる。

 メルヴィン氏から渡された封筒には、このホテルの近所の遊園地、トロピカルランドの優待チケットが入っていた。

「師匠、メルヴィンさんから遊園地のチケットを貰ったのですが……行ってもいいですか?」

「え?」

 師匠は日頃あまり出さない、素っ頓狂な声を上げた。すぐに咳払いをして、拙に諭すように話を始めた。

「レディ、わざわざ到着早々に遊園地に行かなくても良いのではないか? 明日か明後日にでも────」

「あ、拙が行きたいって訳じゃ無くて……。ライネスさんとエルメロイ教室の人たちからメールでお土産を頼まれたんです。なんでも今日が開園記念日で、限定品が出るとか」

 師匠は露骨に嫌な顔をした。

「ライネスめ、グレイは使い走りじゃないと何度言えば──。いや、メルヴィンと私が話し込むと見越しての事か」

 どうせ変態吐血調律師(メルヴィン)は義兄上を独占するだろうから、その間の暇つぶしにでも頼む、というメールの文面を見せることなく、師匠はライネスさんの意図を推理した。

「はい。それに、エルメロイ教室の人たちにもお土産を買っていこうかと思いまして」

 師匠は葉巻の煙をくゆらせ思案しているようだった。

「そうか……では私も行こう。弟子ばかりに土産を買わせては講師の名折れだ」

 拙は頷く傍ら、師匠と一緒に出歩ける事に喜びを感じていた。

『グレイちゃん、先生とニホンに行ったって本当? いーなー私も先生と一緒に海外旅行、もといアバンチュールしたいなー! そう言えばニホンだと遊園地で観覧車に一緒に乗って告白するのが粋なんだって! フラット君の持ってきたマンガにもたくさんそんなシチュエーションあったし!』

 いや、イヴェットさんから機内にいる時に送られてきた───時計塔でシャルダン講師による代理講義を受けている最中に送ったであろう───メールは関係ない。

「イッヒヒ、良かったなグレイ。魔術絡み以外で一緒に出歩く事、好きなんだろ。ていうかグレイ、早く出してくれませんかね。時計塔にいた時もニコニコ師匠に付いて行ってるグレイさ───ふぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 スーツケースの中からでもうるさく騒ぐ自分の魔術礼装、奇妙な匣(アッド)はスーツケースを回転させて黙らせる。

「……大丈夫か?」

 師匠がこちらの顔を見ないで尋ねる。

「はい、大丈夫です」

 フードを被っているとは言え、上気した顔を見られなくて良かった。

 

 

 休日の昼過ぎ、都内最大級の遊園地であるトロピカルランドは賑わっていた。

 パンフレットによると、噴水、ジェットコースター、溶岩下りなど様々なアトラクションが5つのテーマが示された島に置かれ、島々は円状に配され互いに橋で繋がっているようだ。

「結構混みあっているな。流石に開園記念日と言うだけはあるか」

「師匠……良かったんですか? 並んで待つ事になりそうですけど」

「構わないさ。しかし四月だと言うのに暑いな」

 春先のイギリスでは曇りや雨で元々低い気温が一度程まで下がる事も多いが、こちらではロンドンだと珍しいほどの快晴。体感では一〇度前後の差がある。いつ冬木に行っても良いようにニホンの事はそれなりに調べていたので、いつも着ているマントは夏用の物を持ってきた。

「……二〇分待ちか。まぁ事前予約もしていない割には早かった、のか?」

 長髪を纏めてジャケットを脇に抱えた師匠は、若干の疲れを見せながらようやく到着した入口にそう呟いて入った。

「───ッ! 師匠」

 瞬間、場違いなまでの違和感が自分の体を包んだ。この感じは剥離城で味わったものだ。おそらくは一般の企業が作り上げ、多くの市民が楽しい時間を享受する遊園地。だが墓守である自分と魔術師である師匠は気づいた。

「極東だと時計塔や教会の支配も及び辛いからか? まさか多くの一般人が自由に入れる場所に結界を張るとは」




※補足

事件簿時空では2000年頃なので飛行機にメールは送れないのでは? と思われますが
1年足らずでガラケーからスマホへ進化するコナン時空とのクロスオーバーなので、電子機器に関しては進化している設定です。

いい加減にコナンメンバーを登場させたい……

Apoに出てきたセレニケさんは結構活躍してるはず(書く予定は今の所ないです)
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