迷宮無しの魔術の破壊者   作:C₆H₁₂O₆

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二部六章楽しみですね!!

閃光のハサウェイもやっと見れるので祝日が無くても頑張れそうです。(なお財布は死ぬ模様)


小さくなった君主(ロード)その4

 魔術には、魔術基盤と神秘が互いに不可欠と言う事を以前に師匠から習った。魔術基盤とは神秘があると多くの人に受け入れられ、世界に刻み付けられる規則。神秘とは魔術師の悲願、根源へと繋がる道であり、秘匿されるべきもの。矛盾しているように思えるが、世界に受け入れられない魔術は速やかに世界の修正を受けてしまう。そのため、魔術を扱うに足らない神秘───例えば天使の加護があるとか、宝石には力が宿るとか───が多くの人に受け入れられる事で魔術は世界に受け入れられる。大抵の魔術基盤は宗教や学問と言った形で土地や人の無意識に染み付き、一族相伝の魔術などには関係ないらしい。

 一方で神秘は科学の進歩と反比例して衰退しつつある。神秘が漏洩して他の魔術師も同じ魔術を扱えるようになれば根源への道が細く狭くなり、科学で再現できるようになれば神秘も薄れ魔術基盤も崩壊し、魔術として劣化する。

『だからこそ時計塔では何よりも神秘は秘匿されるべき、という考えが優先される。法政科がその象徴であり───』

 拙が以前に受けた講義を思い出していると、師匠はどんどん人混みを縫って進んでいった。長身の師匠はそうそう見失う事は無いだろうが、それでもかなり足早にどこかへと向かっていく。

「師匠、ちょっと待って下さい!」

 人混みに不慣れな自分が恨めしい。いっそ建物の屋根伝いに───。

「グレイ! こっちだ」

 思ったより近くで師匠の声が聞こえた。声を頼りに向かうと、師匠は地面に注目していた。

「なるほど……この地面の色分けが魔術を発動させる陣の代わりになっているのか」

 地面にはカラフルな色合いで境界線が曲面的に走っている。これが魔術を発動する陣の一部だとしたら、遊園地の一エリアを丸ごと用いている大規模なものという事になる。

「でも、一体何の目的でこんなところに魔術を仕掛けているんでしょうか?」

「それは魔術の種類から、ホワイダニット(どうしてやったのか)を考えれば分かる事だろうさ。地面の派手な色分けは元の土地との断絶。西洋風の建物や城は、形に意味を宿らせて西洋の魔術が根付きやすくするためのもの。そして結界の魔術は術者の身を守るものとしての使用が一般的だ」

「でも、一般の施設であるここをわざわざ魔術で守護する意味は何でしょう? 神秘は秘匿されるべきなのに」

「単純に考えるならば、守るべき何かがある、という事だろう。結界は地形にも干渉する魔術、おいそれとは移動できない何かを守るには都合がいい。とは言え、これほど大規模なものは地上からでは把握し辛い。出来るだけ高所から眺めたいところだが────」

 

 

 特に魔術とは無縁の旅行だと思っていたのに、なんだかきな臭くなってきてしまった。拙が師匠を遊園地に誘わなければ、こんな手間はかけさせなかったのに。

『イッヒヒ! 観覧車なんて時計塔に連れられた時に乗った、テムズ川沿いのやつ以来だな! もうちょい楽しそうな顔したらどうなんだ、グレイ?』

 アッドの声で内省から立ち返る。

 師匠は遊園地の全体を肉眼で確認するため、観覧車に乗っていた。前後のゴンドラには楽しそうにはしゃぐ家族や、拙と同年代の学生が乗っている。

「結界の範囲はやはり遊園地全体、境界線は遊園地の敷地か。西洋の魔術を使うためとは言え、土地との繋がりを切っているという事は、結界を維持する魔力を地脈以外から供給する必要があるはずだ。核になっているのは入口に面した島か」

「こうして高い所から見ると、色んなアトラクションや建物が並んでいて遊園地って外の街とはまるで別世界ですね」

 呟くと、師匠は目を見開いて何かに気が付いた風だった。

「……師匠?」

「そうか……循環させているから結界の効果が薄かったのか!」

 観覧車は師匠の加速する思考とは裏腹にゆったりと円軌道を辿り、頂上から下端へと向かって行った。

 

 

 全くもって考え過ぎていた。時計塔ならざる極東の地では、西洋魔術の魔術基盤は脆い。そのために大規模な結界を発動するには確固な理論に基づいたものでないといけないと思い込んでいた。

「師匠、何か分かったんですか?」

 こちらが必死に人込みをかき分けて走るのを、顔色一つ変えずに追走するグレイの質問に息を切らしながら答える。

「これ、は南米発祥で数年前に流行った、結界内の人物を操る魔術、だ。新天地に曇る眼(サンタマリア・ブルードアイ)とかふざけた名称をつけていたな」

「え?」

「コロンブスはアメリカという新大陸の発見を、自身の西廻り航路でインドにたどり着くと言う目的のために誤認した。それは現代でもアメリカ先住民の名前に残っている。その新天地への飽くなき幻想と自身の常識との背反で、結界内の人物の感情を操作する魔術だ。まぁ強固な精神の持ち主ならかからないし、ましてや魔術師なら魔術回路で打ち消せるレベルのものだ」

「でもそれなら、流行ると言う程の魔術では無いのでは?」

「この魔術の利点は、魔術基盤として世界各地にある新天地幻想────アジアから見た三神山や欧州から見たアフリカ大陸────と結びつけやすい点だ。その使い勝手の良さから、魔術使いが使うのにうってつけの代物だ」

 魔術使い。魔術を研究対象では無く単なる道具として使う者。魔術師からは一般的に下に見られる存在だが、実戦経験に裏打ちされた戦闘技術や、道具として使うが故に洗練された魔術の使用法などは時計塔でも認める者は少なくない。また時計塔の新世代(ニューエイジ)の授業には自身の魔術特性と関係なく体を鍛えたり、実践的な魔術戦闘などが組み込まれている。

 

 

「人の感情を操作すると同時に人間の体内で生産される魔力────小源(オド)────を奪う仕組みだろう。入場者数に反比例して一人当たりから奪う魔力は減るから、一般人の多く居る場所で行うのも都合がいい」

 師匠は歩みを進めながら、スタッフ専用の出入り口に近付いていった。

「こんな所を訪れる物好きな魔術師などいないという発想の転換は見事だが、観覧車からでも感知できる場所に結界の核を置いたのは悪手だな」

「でも、この中に忍び込むには人の目が多過ぎますよ」

「何とでもなるさ、レディ」

 師匠はニヤリと笑った。

「Excuse me, My apprentice is sick, where is the first aid room?」

 師匠は係員に近づき、早口でまくし立てた。

「え、えーと……?」

 係員はたじろいでいたが、しばらくすると俯いてこちらに師匠と一緒に来た。暗示にかかっているようだ。一般人に対する効果ですらムラがある魔術なら、単純に魔力を多く込めて魔術を行使することで効果の上書きをする事は可能なのだろう。

「単純だがこの手に限る」

「開錠の魔術とか……ありますよね?」

 しまった。つい講義で得た知識が口に出てしまった。

「……そんな複雑な魔術を私が扱えたなら、現代魔術科のセキュリティはもっとレベルが高くなってるさ」

 師匠は苦々しく自らの実情を答えた。

 

 

 そうこうしている内に係員は懐から複雑な形状のディンプルキーを取り出し、救護人を支えるように拙と師匠を遊園地の裏側に招き入れた。歩いて一分もしない内に救護室が見えたが、拙と師匠の目的地はそこではない。

「グレイ、アッドを使ってこの建物の構造を調べてくれ」

「分かりました。起きて、アッド」

「イッヒヒヒ! こんなところに陣取るなんて変な魔術師もいるものだな!」

 拙の魔術礼装、アッドはとある英霊の宝具を封印したもの(・・・・・・・・・・・・・・・)であり、匣の形から自在に変形する事ができる。今回は形はそのまま、倍以上の大きさになった。皮肉ばかり喋る口を大きく動かし、金属製の歯を打ち鳴らした。

「グレイ、同期しているから分かったな? 魔術礼装の真似事をするくらい楽勝だ!」

 アッドは魔力を乗せた音波で建物の形状を把握したのだ。ライネスさんのメイドゴーレムであるトリムマウ、その基となった月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)にはロープ状になって建物内の索敵すら行う事ができたと言う。久しぶりに元気になったアッドにそんな話をすると、ムキになって自分も出来ると言い張ったので、実行してみたのだ。

「動力源と思しき魔力の集中している場所は地下にあります。怪しい隠し扉とか罠は見当たらなかったです」

「やはり拠点用の結界とするには無防備過ぎる……が、一時的に発動するにしては大規模だ。一体何のためにこんな事をしているのか分からない。あまりに魔術師として非合理的だ」

「一度帰って、メルヴィンさんに聞いてみますか? 先に米花町に来ていますから、何か知ってる事があるかもしれませんし」

 今更ながらに拙が尋ねるが、師匠が返答する前に足音が聞こえた。気が付けば係員もいなくなっている。

「それよりも……答えを知っている人物のお出ましだ」

 

 高位の魔術師達が研鑽と潰し合いに興じる時計塔に身を置いているからか、もしくは他者に自身の力量を気取らせないようにしているのか、拙には目の前に立つ人物に恐怖を感じなかった。均整の取れてないぶくぶくと太った体つきをした、黒い縮れ毛の男性だ。服装もよれた作業着のようなものだし、カエルのように横に広い顔は緊張からか瞼が痙攣して脂汗をかいている。とは言え相手も魔術を扱う者、油断はならない。アッドをいつでも変形できるように構える。

「お、お前ら一体……どこの連中なんだ!? 聖堂教会か? お、俺は雇われただけなんだ! そ、それにこの魔術だって後遺症が出るような代物じゃない!」

 どもりながら彼が発したのは言い訳だった。ここまで身勝手な自供と責任放棄をした人物は見た事が無い。拙が固まっていると、師匠が前に出た。

「……申し訳ないがミスター、我々は教会の者ではない。たまたまこの地を訪れただけの魔術師と弟子だ。ここまでの規模の魔術を衆人環視の環境で行っているので、つい興味から押しかけてしまった。すまない」

 男は不機嫌そうに舌打ちをした。

「流れの魔術師が、この魔術の重要さを理解出来るはずもない。とっとと帰れ」

 師匠はかぶりを振った。

「術式の原理としては単純なものだし、十分推測可能だ。私の興味は、なぜ工房でも無い場所でこんな効果の薄い魔術を行ったのか、だ。雇われたと先程言ったが、遊園地に来る人物を支配して何になる?」

「──ッ! 何も知らない部外者風情が口を出すな。それ以上聞くなら排除する」

「……随分流暢に英語を話すな。時計塔にいた事があるのか?」

「───師匠!」

 とっさに体が動いた。アッドも複雑な変形をして盾の形状を取り、師匠を狙った風の刃を防いだ。いつの間にか相手の手には短い杖が握られていた。

「風を象徴する武器たる杖か。魔術礼装がそのままの形をしているのは逆に珍しいな」

「黙れ! 時計塔の薄汚い魔術師め。お前らはいつもそうだ、知識を求める傍ら権力にも追い縋る。術式の研究をするだけで特許料だ何だと追い立てる! ようやく離れたと言うのに追って来るのなら───消えろ!」

 

 

 どうもこの結界魔術を行使した人物は時計塔に関して良い思い出が無いようだ。まぁ時計塔がクソなのは同意するが、こんな所で暴れられてもどうしようもない。

「グレイ、彼は錯乱しているようだ、頼めるか」

「はい。止めます」

 グレイの構えている盾には、魔力を用いた砲撃機能がある。魔力を貯めるまでの時間耐える事が出来れば───。

「イッヒヒヒ! おいそこの魔術師、死ぬなよな!」

 突如喋ったアッドに彼は驚いたのか、一瞬攻撃の手が止まる。その隙に砲撃が叩きこまれた。

「だ、大丈夫でしょうか? 威力は抑え目にしたんですが……」

 彼は私とグレイがいた廊下から吹き飛ばされ、その突き当りにある部屋に飛び込んだようだ。グレイ曰くその部屋から地下に降りる事ができるらしい。

「ここは…防犯カメラの映像がたくさん表示されてますね」

「監視室と言ったところか。一般の係員も使う部屋だろうに、ここから地下に向かうのか? 今まで出会った魔術師とは違うルールで動いているように思える」

 魔術師本人から聞き出したかったが、あの状態では起こしてもまともに問答できないだろう。こうなってしまっては得るものも無い。彼がまた攻撃を仕掛けて来ても厄介なので一応手足を縛っておく。

「地下に降りて結界を壊しますか?」

「いや……どうもおかしい」

 踵を返したその瞬間、警報が鳴り響いた。

「彼が行っていた人払いの効果が切れたか。このままでは不審者扱いだ、すぐに帰ろう」

「はい」

 来た道を全力で戻るが、出口の目前で頭に衝撃を受けた。後ろを見やると、黒ずくめの服装をした人物が追撃を加えようと腕に持つ棒を振り上げる所だった。

「グ、グレイ……。逃げろ」

 どうにか言葉を絞り出すが、二度目の衝撃を感じたきり私は意識を失った。

 

 

 師匠にも分からないと思う事があったのか。拙は内心驚いていた。アドラでも相貌塔でも、自身の思い出と派閥の危機でもあったハートレスとの戦いでも、冷静に着実に、魔術師の唯一変える事のできない心を推理し、事件を解決してきたのに。

 いや、師匠が悪いのではない。拙が意識を奪う事無く拘束できれば良かったのだ。

「おいグレイ! 師匠の奴出て来てないぞ」

「え?」

 拙は従業員口から遊園地側に出ると同時に建物の屋根に無意識のうちに跳んでいた。もう夕暮れが近づいている時間で、入場客は行われているパレードに夢中だった。

「アッド、師匠はいつからいなかったの?」

「お前が出るまでは一緒にいたと思うぞ! それに戻るのはオススメしないぜ」

「でも、師匠が!」

 つい大声を出してしまう。だがパレードの音楽が止まり、こちらに濃紺の服を着た集団が近づくのを見てやっと気付く。彼らはニホンの警察官だ。流石にこの場に留まるのはマズいし、戻るなど以ての外だろう。

「……帰ってメルヴィンさんに説明して、手助けをしてもらう方が良いですね」

 後ろ髪を引かれるが、自分が出来ることは少ない。もっともらしい理屈を言葉にして自身を納得させ、遊園地の出口に向かった。

 

 

「────何たるザマだ。せっかく高い金を払っているのに、不法侵入者にのされるとは」

「返す言葉も無いが、気を付けろよ? 俺は結界の効果を受けてないんだ。魔術を使えば自然死・不審死・失踪、なんでもござれだからな」

 声が聞こえる。

「……それならその魔術とやらでこいつをどうにかしてくれ」

「いや、それは駄目だ。魔術師は死ににくい」

 この声は……敵対した魔術師か。

「だからこの薬を使う。これも神秘を消す部類の代物だろうな」

「どうでも良いが、証拠は残すなよ。警察は事件が起きてから喧しくなる」

「それならおあつらえ向きだ。便利過ぎたのか、回収されるくらいの逸品だ」

 口にカプセルを押し込まれる。魔術よりも頼りになる毒薬などあるのだろうか。確かに銃器を使う魔術使いもいたが、あれは銃弾に魔術を使っていたはずだ。

「これで一時間もしない内に服だけだ。燃やしてしまえば証拠は残らない。外にでも放っておけばいい」

「分かった。警察には事故で誤って警報が鳴ったと報告しておく」

 服だけ……体が融けるのか? そんな効果がカプセル一粒で起きるのか?

 鼓動が激しいし体が異常に熱い。背中に定着しているはずの魔術回路が蟲のように蠢く。出そうと思った悲鳴も喉がピクリとも動かない。もう私に第四次聖杯戦争の時のような幸運は無いと思っていたが、日本で死ぬとは……。

 

 

「ん?」

 心地よいそよ風で目を覚ます。

 かすかにパレードの音楽と歓声が聞こえる所から、まだ死後の世界には向かわずに済んだようだ。体から水が蒸発するような気味の悪い音がしているのが、気になるところではあるが。

 服を燃やすと言っていた人物もまだ来ていない。

「運が良かった、のか?」

 立ち上がろうとして転んでしまう。パンツもシャツもブカブカだからだ。

「なんでブカブカの服を着させられて───」

 間違いなく自分の服だ。

「とりあえず……逃げるか」

 ジャケットをマント代わりに、下着だけは何とか着用してその場を後にする。

 右往左往する内にどうにか別の通用口から遊園地に出ることが出来たが、どうにも目線が低い。

「……嘘だ」

 建物のガラスに映る姿を見て───予想はしていたが───体が強張る。

「なんで第四次聖杯戦争時の容姿になっている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)んだ?」

 元々腰まで伸ばしていた髪は膝裏にまで届きかけ、その大半が白く変化しているが、忘れもしない十年前の時と同じ背格好だ。

 人を跡形も無く融かす薬が不完全に働いたから? そもそもそんな薬があるのか? 思考がまとまらない。

「すみません、ウェイバー・ベルベットさんですか?」

「はい?」

 振り返ると、遊園地には不釣り合いな正装をした巨漢がいた。 




※補足
時計塔の秋葉原支部は仕事してないのか?
A:特許料の徴収に勤しんでます(法政科の実働部隊も少ないと思われます)。

何か空想にのめりこんで現実が疎かにって最近聞いたことがあるけど?
A:水着イベの復刻があったので……。そう言えばネタ考えてた時も水着イベ中でした(アホ)

グレイ抜きで話進められるの?
A:頑張ります、今後の自分が。


コナンメンバーを登場させたいと言ったな…あれは嘘だ。
いやマジですみません(杜撰な)プロットは立ててはいるんですが、間を埋めるとどうも話が長引いてしまうんです。

二次創作でも、自分で何かしら書いてみると、文筆で食える人ってめっちゃ凄いなと痛感しますね。
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