月に一本とか言ってて月末まで出さないのはちょっと自分でも駄目だなと思います……
「いやぁまさか若返ってホテルに来るとはねぇ……マンガみたいだ。でも眉間の皺とか君主の重責とか取れて気が楽に見えるよ、ウェイバー」
はたしてトロピカルランドで姿形を変えたウェイバーを保護したのは、メルヴィンの従者だった。彼らによってトロピカルランドから米花サンプラザホテルへとウェイバーの身柄は移送されたのだった。
「ともかく、トロピカルランド内で魔術師と戦闘になり、離脱に失敗して気が付くと若い頃の姿に変わっていた、と言う訳なんだね?」
メルヴィンはウェイバーの姿を見るなり爆笑し、そしてようやく事情を冷静に分析するに至った。魔術刻印も診てもらったが変化はなく、本当に外見のみ十年近く巻き戻った事になる。
「気楽でいられるか! まぁ……分かっている範囲で言えばそう言う事だ」
「本人の前で言うのもなんだけど、若返るなんて本当に信じられないな。しかも魔術じゃないって?
「メルヴィン……分かってるとは思うが、自他共に違和感なく外見の変化や肉体年齢の逆行を行使する魔術なんて並大抵にできる事じゃない。それに不意の遭遇とは言え、魔術師の口封じに確実に殺す手段を用いないのも変だ」
メルヴィンの従者が着替えを持ってきてくれた。どこから用意したのか知らないが、白い長袖シャツに黒いパンツ、緑色の薄手のセーターだった。ついでに白く───宿っていた魔力を消費してしまって───変化した髪も、今までと比較すれば短く切り揃えられた。
「凄いな、まるで十年前のウェイバーそのままだ」
メルヴィンが口にハンカチを当てながら謎の感動をしている。吐血によってハンカチは赤黒く変色しているが、いつもの事なので指摘はしない。
「ふざけるのも大概にしてくれ。それで、相手の正体は分かったか?」
「もちろん調べているところさ。霊地を遊園地にした物珍しい魔術師なんてすぐに分かるだろうし、僕のウェイバーをこんなにも面白──酷い状態にしただけの報いは受けさせるつもりだ」
「恩に着る。……グレイは?」
「もう落ち着いて部屋にいるよ。それだけの手強い魔術師が相手なら、彼女の助けは必要じゃないかな?」
確かにその通りだ。代理とは言え
「いや……こんな姿で会っても
メルヴィンは内心を見透かすように微笑んでいた。グレイはこの笑顔を気味悪がっていたが、腐れ縁の自分にとっては慣れたものだ。
「おっともうすぐレセプションだ。……事情の説明くらいは自分でしろよ、ウェイバー」
メルヴィンは携帯電話と、何か後端がやけ肥大化しているペンを投げ渡してきた。
師匠の保護をメルヴィン氏に頼み込むと、こちらが思っているよりも迅速に動いてくれた。ひょっとしたら平気な顔をして帰って来るんじゃないかとホテルの部屋で一人待っているが、来訪を告げるノックはここ数時間鳴っていない。
ふと、無機質な発信音が部屋に響いた。備え付けの内線電話だ。
「……はい」
「グレイか。すまなかったな」
「師匠……ご無事、でしたか。すみません、逃げることに夢中になってしまって師匠を守り切れませんでした」
無事に戻ってきてくれただけで私の心は安心感に満たされた。でも、師匠の護衛を十分に務めきれなかったことは、多分ずっと反省するべき事柄になってしまうだろう。
「師匠、今どちらにいるんですか?」
「……メルヴィンの部屋だが、これから魔術にも知識のある病院に向かう。治療に数日かかる見込みだから、完治してから会おう」
「え……そんなにひどい状態なんですか? 今からではお力にならないとは思いますが、お見舞いも……駄目なんですか」
「身元を隠して入院するからな……すまないが、そろそろ行く。ホテルの部屋は数日分予約しているからそこで待っていてくれ」
師匠の声に少し違和感を覚えたが、電話越しだからだろう。師匠にそのようなサポートを行えるのはこの場においてはメルヴィン氏だけだし、師匠の親友である彼を信用する事しか、今の私にはできない。
「分かりました……お待ちしてます」
グレイは機械で老化させた声に、怪しさを指摘しなかった。指摘する粗が無いほど、録音した自分の声を自在に操作できるのだろう、このペン状の機械は。
「前に来た時も栄養ドリンクに驚かされたけど……それ以上だな」
「その商品の海外展開が、このレセプションが開かれた理由なのさ。ボイスレコチェンジャーって言うんだけどね」
レセプションの途中、吐血で中座してきたメルヴィンから説明を受けた。
「風変わりな街の発明家が発案したものでね。面白そうだから権利を買って玩具として売ることにしたんだ」
玩具にかける技術にしては異様に高度な気もするが、触媒や呪体を蕩尽して僅かな成果を得る魔術に比べれば、量産できる分効率的だ。
「その発明家に話は通しておいたから、当面の住処にしてくれ。インターンの学生って事にしておいたから」
「おい! 一般人を巻き込むような真似はするな。これはあくまで個人的な行動だ」
「ウェイバー。刻印のチェックに下手人の調査。それに君の救出だって、僕の善意でやる事だ。少しは僕のお願いを聞いてくれても良いんじゃないか?」
そう言われるとこちらは抗弁できない。親友としての誼で度々サポートを受けているが、その実ライネスの方から金銭的なお礼をしている。そしてそれはウェイバーが返済すべき借金として加算されていくのだ。
「……その発明家の家に少しの間泊まるのが、お前のお願いなのか?」
「まぁ、そう言うことになるかな。本当は僕がワトソン役を買って出たい所だけど、グレイちゃん程の直接的なサポートは出来ないし。それにこちらからも護衛を少し送るから、魔術的な心配はしなくて良いよ」
その発明家の家というのは、隣にある洋館も含めて、周囲の住宅とはかなり異なる雰囲気を醸し出していた。壁の大半がガラス張りで、曲線的な造りをしている。住宅よりも展示場や研究施設のような見た目であった。ドアをノックすると、恰幅の良い初老の男性が顔を覗かせた。頭頂部が禿げ上がり、丸眼鏡をかけ、いかにも発明家という風貌だ。彼は流暢な英語で話しかけてきた。
「おぉ、君がウェイバー君かな? メルヴィン氏から話は聞いているよ…」
「はい。ウェイバー・ベルベットと申します。数日間ですが、よろしくお願いします」
「これはご提寧に…
家の中は吹き抜けで開放感のある造りになっていた。
「見た目よりも広いですね」
「まぁ色々機材を運んだりするからの…それに地下室もあるから、ゆっくり過ごせると思うぞ。君は二階の部屋を使ってくれ」
「二階ですね、分かりました。彼は……お孫さんですか?」
「いや、彼は隣人の家族の子供でね…もう一人、預かっているんだ。
「へぇ……よろしく、コナン君」
そうウェイバーが話すと、彼は振り向いた。
小学生にしては整った容姿、後頭部にはくせ毛が生え、彼もまた眼鏡をかけていた。
「うん、よろしく。そういえばお兄さん…イギリスから来たでしょ。あっちじゃOKでも日本だと煙草吸えるのは二〇歳からだからね」
彼もまた英語で返答したことにも驚いたが、その後の内容には更に驚いた。
「……あれ? どこから来たかって話していないはずだけど?」
「さっき博士と話しているときに、二階のことfirst floorって言ってたよ。それに服からも煙草…葉巻かな、吸っている人は匂いに鈍感になるけど、そういう匂いがするからね…」
チッチッチッ、初歩的な事だよ、と彼は人差し指を振りながら得意そうな顔で語る。
「君は一体……?」
彼は不敵な笑みを浮かべながら自己紹介をした。
「江戸川コナン、探偵さ」
ようやくStay/nightで言うところの運命の夜まで来ました。
これから探偵と魔術師がどのような変遷を辿るのか、ご期待ください。
周年の福袋でモルガンが引けたらいいなぁ……(現実逃避)