戦闘も何もない日常回的なアレですが、読んでやってください。
デジタルゲートの示す光のトンネルを抜けると風が花の匂いを運ぶ。
独特の甘さが鼻孔をくすぐると、閉じていた目をヨウトとエリヤは開いた。
横を向けばそこは花一面が広がる光景……色とりどりの花々が咲き誇り、まるでそれが異邦の地からやってきた二人を出迎えるようだった。
見る人によっては絶景かもしれないその光景に二人は感動すら覚えた。
「綺麗だね」
「ああ、綺麗だ」
「どうやらこの花畑はフローラモンやパルモン達がオレ達の世界にある花の種を埋めて育てたんだって」
「そっか。きっと丹精に育てたんだろうね。きっと名所になるんだろうなぁ」
「ねぇヨウト、あとで見て回ろうよ。この世界にいるのはまだまだ時間あるし」
「たっく仕方ないな。連れられてやるよ」
彼らの目の前に広がっているのは、一面に広がる花畑。
その向こうの空にて浮かぶ巨大な都市の光景があった。
列車型のデジモン・トレイルモン(
ガタンゴトンと揺れを刻みながら、都市へと続くレールに沿ってヨウト達を乗せたトレイルモンは向かっていった。
~~~~~
数日前。
とある喫茶店へジェイに呼ばれたヨウトとエリヤは、彼から言われた要件を聞いて声を揃えて聞き返した。
「「デジタルワールド:コスモス?」」
「そ、お前達には視察をしてもらってほしいんだ」
声を揃えて視察する所を名を上げて疑問符を浮かべる二人に、ジェイは告げた。
三人が座るテーブル席を通路を挟んでカウンター席に座るコロナモンは注文したオムそばを食べながら、話に出てきた単語を聞き返した。
『
『違うわよコロナモン。デジタルワールド:コスモスだよ』
『ああ、あれか。宇宙の方か』
オムそばの焼きそば部分を頬張るコロナモンに対し、その隣ではルナモンがグラスに注がれたゆであずきを美味しそうに飲んでいる。
テーブルの上で湯気を上げているカフェモカをチラリと見ながら、エリヤはジェイへと訊ねた。
「私達は名前だけなら知ってるんですけど、そもそもデジタルワールド:コスモスってどんなところなんですか?」
「まず、デジモン達が住むデジタルワールドがあるってことは知っているよな?」
「はい……でも、デジタルワールドって他にもあるんですか?」
未知の可能性を秘めた存在であるデジモンが生まれたデジタルワールド……そんな凄い世界が他にもあることに信じられないとエリヤは表情を隠し切れなかった。
彼女の浮かんだ質問に対して答えたのは、カウンター席で座るバアルモンとミネルヴァモンが答えた。
『このリアルワールドとも、俺達がやってきた従来のデジタルワールドとも違う別次元にできたデジタルワールドなんだ』
『そうそう、なんでもデジタルワールドの中でも量子コンピューター顔負けの凄い演算能力を持ったすごーいデジモンがね。別の次元に新しいデジタルワールドを作ったそうなのよ』
『未だ未開拓の地だが、多くの人々とデジモンが共に手を取り合い暮らすために頑張っている』
「はい、珈琲とココアお待ち」
『感謝する、桜井殿』
『ありがとうございますー!』
"桜井"と呼ばれた唇の髭が目立つ男性から差し出された注文の品を受け取るバアルモンとミネルヴァモン。
二人がさらっと説明した事を少しして理解したヨウトとエリヤは驚いた表情で感じた事を口にした。
「待った、デジタルワールドを作ったって……要するに世界を一つ作ったってことだよな?」
「さらっと流しちゃってるけど、私達人間にとっては途方もない凄いことだよ?」
「驚くよな? しかもつい最近の出来事なんだぜ? 驚いて当然だよなぁ」
「「ええっ!?」」
ジェイの更なる事実を聞いて、ヨウトとエリヤは声を揃えて驚いた。
世界の一つを作ったというとんでもない話に、二人は開いた口が塞がらなかった。
――その一同の様子を、和風メイド姿で聞いていたバイトの奏ミユキは思わず呟いた。
「最近、さらっと世界の秘密のような凄い事聞いたようにおもえるんですが。コウヤさん」
「なあに、デジモンと人間が関わるんだ。必ず何かは起きるよ」
ミユキは先程注文の品を出した髭の男性の事を"コウヤ"と呼び、複雑な感情を含んだ苦笑を浮かべる。
それを大して気にせず男性――桜井コウヤは、喫茶店・一番星の営業を続けるのであった。
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時間は戻り、新世界【デジタルワールド:コスモス】。
『拠点都市・ハップル』と呼ばれるこの世界の都市にやってきたヨウトとエリヤは街の様子を見回した。
そこは西洋・欧州をイメージとした建物が並んでおり、異世界にも関わらず何処か親近感を感じた。
「拠点都市ハップルか。最初にコスモスが降り立った人達が作り上げた街だよな」
「なんでハップルって名前なの?」
「ハップル望遠鏡ってあるだろ? あそこからとられたそうな」
ヨウトはエリヤと共にジェイから手渡された資料の本を読んでいた。
二人の傍では羽根を生やした馬の様な姿を持ったデジモン・ペガスモンやユニモンが馬車を引いて働く姿や、近くの食事処で人間から差し出された団子を食するボコモンとネーモン、服屋を営んでいるべタモンとエレキモンの二体。
中には旅行をしている模様のゴツモンとパンプモンといった他の世界からやって来た旅行客の姿もあった。
色々な住人達がこのデジタルワールド:コスモスにいる事を実感した二人は、顔を見合わせてお互いに呟いた。
「ふふっ、まずは何処から見て回ろうかな。大使館向かうにはまだ時間あるし」
「まずは美味い所から回ろうぜ。名産物、気になるだろ」
にっこりと笑うエリヤにヨウトは元気そうな笑顔で返すとハップルの都市を歩いていく。
道すがら進んでいくと、とあるお店に目がついた。
そこはデジタル文字と人間世界の日本語で"ギルモンベーカリー"と書かれていた。
パン特有の香ばしく美味しそうな匂いを嗅いで興味を惹かれた二人は立ち寄る事にした。
店に立ち寄ってみると、丁度店から橙色の体躯が特徴的な竜のような見た目のデジモンが出てきた。
その手には先程焼き上がったであろうパンがトレーに運ばれていた。
『さぁさぁ焼きたてだよー。外はカリっと中身はふんわり美味いぞー』
「デジモンのパン屋なのか」
「あれってグラウモンよね。橙色のグラウモンって珍しいよね」
ヨウトとエリヤはベーカリー店にて働くデジモン・グラウモンに対して呟いた。
本来の赤いグラウモンとは異なる橙色の体色をしたグラウモンは頭にバンダナ、胴体にはエプロンがつけられていた。
いかにもパン屋らしい恰好をしたグラウモンに興味津々のヨウト達……すると二人の視線にに気づいたグラウモンが声をかけてきた。
『おや、ココじゃ見慣れない人間だが別の世界のお客人かな』
「ああ、はい。そんなところです」
「オレはヨウト。こっちはエリヤ。俺達、ちょっと用事があって人間の世界からコスモスまでやってきたんです」
『なるほど、そういうことか……ああ、私はギルモンベーカリーの店長ことグラウモンだ。よろしく』
挨拶を交わしたグラウモンは納得した表情を浮かべる。
彼らの事情を何となく察したグラウモンは彼らを店内へと案内した。
店の中にはカレーパンやメロンパンといった人間達にとってなじみ深いパン達が商品として並んでいた。
どれも美味しそうなパンにヨウトは提案をした。
「せっかくだし小腹満たしに買っていくか」
「そうね。食べ歩きもいい物ね。グラウモンさん、何かおすすめある?」
『それならコスモスで取れた小麦で作ったギルモンパンだ。人間の世界で師匠から教えてもらった自信作だ』
グラウモンがおすすめしてきたのは、何処か竜の顔を模したパンだった。
それはグラウモンと深いつながりのある成長期デジモン・ギルモンの顔を模したものであり、何処か愛嬌があると思えたからだ。
それを二つ……否、コロナモン達の分もいれて4つほど買うと、近くカフェテラスにて軽食をとる事にした。
『はむはむ、美味い!』
『ギルモンパン、とってもおいしい!』
『だろう?』
シンプルで素朴ながらもあまりの美味しさにコロナモンとルナモンは舌鼓をする。
自信作であるギルモンパンの感想を聞いて、自慢げに胸を張るグラウモン。
その一方で、同じ席に座るヨウトとエリヤの二人はバディデジモンと同じく美味しそうに頬張っていた。
「うーん、確かに美味しいなこれ」
「そうだね、とっても美味しい……あ、今思い出したけどこのギルモンパン何処かで聞き覚えあると思ったら、あの人が作ってたパンだよね」
「うちの高校に来ているパン屋さんだっけか? ああ、そういえばあの人のバディってギルモンだったなぁ」
「もしかしてあのギルモンからとったのかな……意外と世界って狭いんだね」
ヨウトとエリヤは自分達の人間世界にて『ギルモンパンを作っていたパン屋さん』の姿を思い出す。
なんでもギルモンを相棒をしていた凄い人と言われており、もしかしたらグラウモンの師匠というのは彼かもしれない。
そんなこんなで食べ終わろうとした所、一体のデジモンがお客として現れた。
コロナモン達と同じく小さくて白い体躯とトリケラトプスのような顔が特徴的なデジモンで、黄色のつぶらな瞳でグラウモンを捉えると挨拶を交わす。
『おー! グラウモン!』
『おや、ガンマモンか。またヒロさん達の昼食のお使いかい?』
『おう! ルリもキヨの分も買いに来たぞ! サイキョーのパン、あるか?』
『チョココロネか。勿論だとも、他にもあるぞ。頑張る子供達へサービスするから見て生きなさい』
グラウモンは『ガンマモン』と呼ばれたそのデジモンとの会話をすると、彼を店の中に招き入れた。
彼ら二体のやりとりを目にしながら、ヨウトはエリヤへ話しかける。
「時間も丁度潰れたし、そろそろ大使館へ向かうか」
「うん、行こう行こう。きっと待ってるよ」
二人は関へと立ち上がり、食したパン分の通貨をグラウモンへ渡した後、ギルモンベーカリーから去っていった。
大きく手を振るグラウモンを背に向けて、拠点都市ハップルの街並みを楽しみながら"コスモス大使館"なる目的地へ向かっていた。