人間とデジモンが共存する国家に辿り着いた彼らが巡り合ったのはとあるグラウモンが営むパン屋・ギルモンベーカリーだった。
こちらの世界でも名物となっているギルモンパンを舌鼓しつつ、彼らは目的地の大使館へと向かう。
――その実、新しい出会いがすぐ傍にあった
デジタルワールド:コスモス、拠点都市ハップル。
ヨウトとエリヤの二人はコスモス大使館と呼ばれている建物へとやってきた。
建物内部に入ると多くの人間とデジモン達が行き交っており、忙しそうにしている様子が伺えた。
「すっげぇ、デジモンと人間がこんなにいるのか」
「まだまだ発展途上だって聞いていたけど、それでもいっぱいいるんだよね」
「しっかし、忙しそうだな。とりあえず受付の人達に聞くか?」
あまりの忙しそうな光景にヨウト達は受付カウンターへと向かおうとする。
そんな二人の姿を遠くにいたある人物が見つけた。茶髪と耳朶に傷がある耳が特徴的な彼は行き交う人々を掻い潜って近づいていく。
やがてヨウト達の傍まで近づくとハッキリとした声で訊ねてきた。
「あの、もしかして貴方達はディーハンターの方から聞いたチームロムルスの人達でしょうか?」
「えっ、ああはい。オレ達がチームロムルスの者ですが」
声をかけられたヨウトが振り向くと、そこにいたのはスーツを着こなした一人の年若い青年。
自分達より少し年齢が上のような印象を受ける彼は、帰ってきた答えに安堵の様子を見せた。
「よかった。この時間は人が多くやってきて込むから大変なんですよね。巻き込まれる前に合流出来てよかった」
「ご丁寧にどうも。ところであなたは?」
「どうも、今回視察の件で担当者をさせてもらいます
お辞儀をするエリヤに対し、茶髪の青年――『雨原ヒロ』は丁寧に名乗った。
ヨウトとエリヤの二人は慌てて背筋を伸ばし、緊張しながら挨拶した。
「ど、どうも初めまして! オレ、チームロムルス所属の乱獅子ヨウトです!」
「同じく如月エリヤです! 本日はお招きいただきありがとうございます!」
「ああ、大丈夫ですよ。そんなに緊張しなくても」
余裕ある大人な雰囲気のヒロに対して、畏まってしまうヨウトとエリヤの二人。
まるで憧れの目上の人に会ったように緊張する彼らをヒロはにこりと笑った表情を浮かべた後、彼らを連れてとある部屋へと案内する。
中の部屋に入ると、そこにはヒロと年が近そうな他の二人がいており、若干言い争うような会話が聞こえてきた。
「たっくしっかりしなさいよにしっち! 何時までビビってるの!」
「だって仕方ないだろう!? チームロムルスって言ったら僕達の世界じゃあ何件も事件を解決しているっていう他の追随を許さないほど強いチームなんだろう!?」
「それって会えるのが楽しいって意味なんでしょ! しっかりしなさい!」
「ああそうだよ、今僕はとっても緊張しているよ! こんなのお気に入りアニメの発表くらいだよ!?」
片方は白に近い銀髪をした青年、スーツ姿から覗かせる片手にはなぜか包帯が巻いている。
片方は茶髪の美人の女性であり、女性物のスカートタイプのスーツを着こなしている。
彼ら二人は部屋に入ってきたヒロ達の姿を見つけると、さっそく美人の女性の方が声をかけてきた。
「ああ、貴方達ね。人間の世界からやってきたチームロムルスって」
「え、ええっと、私達がチームロムルスの者です」
「ふふっ、緊張はしなくてもいいわ。私は月見ルリ。広報担当になるのかしら。貴方達ね、視察に来た子達って。歓迎するわ」
美人の女性――『月見ルリ』と名乗った彼女は、挨拶をしながら握手の手を差し伸べる。
慌てながらもエリヤは求められたルリの手を握り返し、会釈をした。
その一方で平静になった銀髪の男は一つ咳ばらいをしながら自己紹介を述べた。
「えー、ごほん……システム担当をしている西上院キヨシロウだ」
「ど、どうもはじめまして」
「まあ観光気分だと思ってコスモスを楽しんでくれたまえ。あと、サインをしてくれ。ココへ来た記念にする」
先程のビビった様子から一変して、銀髪の男――『西上院キヨシロウ』は自信満々な態度を露にする。
ヨウトとエリヤの三人に挨拶を終えた三人はヒロの隣へ並び立った。
共に揃った三人の姿に何処か感動を覚えて生唾をゴクリと飲み込むヨウト達……まるで尊敬に近い感情を抱きながら、一同は部屋に置かれたソファーへ席についた。
差し出された御茶から湯気が立つ中、ヒロは訊ねた。
「まずはどうたった? コスモスのハップルは?」
「そうですね、いい街だと思いました。まだやることが多いのは確かですが、これから発展するのが楽しみです」
「ああ。オレ達もみんなと頑張ってこのハップルを、ゆくゆくはこのコスモスを人間とデジモンが仲良く共存できる国として作っていきたいんだ。まあ、やることは多いんだけどさ」
「国を作る、か」
エリヤが答えた言葉を聞いて照れくさそうに語るヒロ。
壮大な夢を語る彼の姿を見てエリヤは脳裏にて自分の事を振り返った。
――チームロムルス、
作り出すは英雄伝説、といったキャッチフレーズとも言える異名の通り、数々の戦いを勝ち抜き、勝利をものにしてきた。
だが、その実態は勝利こそすれど苦戦を強いられる事は多く、華々しい勝利とは程遠かった。
時には敗北した経験もした、挫折もした、どうしようもなく打ちのめされた事もあった……。
せめて他の強豪から追い抜かれないように影ながらの努力をしているのが精いっぱいだった。
そうまでして目指すものはなんでもない、前へと進む
デジモンと人間の国家を作るために頑張る彼らに比べれば、ただライバルの追いつくために自分はなんてちっぽけな存在と意識させられる。
自分の事を恥じようとしていると、そこでエリヤの片手を温もりに包まれた。
エリヤがチラリと見ると、ヨウトが自分の手を握っているのが分かった。
彼はボソリと呟いた。
「恥じることなんざねえよ」
「えっ?」
ヨウトの呟いた言葉にエリヤは驚く。
彼女の事などお構いなしに、ヨウトはヒロ達へと口を開いた。
「貴方達の叶えたい夢の為にも、オレ達チームロムルスもデジモンと人間の共存のために活動していきます」
「活動って?」
「今のオレ達の世界は問題が多い。デジモンの力を悪用するデジモン事件やトラブルを一つでも多く解決していく。それはきっと貴方達が目指している未来へと繋がっていけると思うから」
ヒロへと真っ直ぐ視線を向けるヨウト。その姿を見てエリヤがとある事を思い出した。
確かに敗北や挫折も多かった。
それでもエリヤ自身がチームロムルスとして挑み続けられたのは一重に自分のかけがえのない
まるで数多を照らす太陽のように、光を示してくれた少年……その彼に追いつくべく、また共に歩くべく、エリヤは何度でも立ち上がった。
自分は太陽の光を受け取って輝く月のように、前に進む彼と共にあるように。
その事を思い出したエリヤは嬉しそうに微笑む。
その様子を見て、ルリは何かを察するとにんまりとした表情を浮かべる。
「なぁるほどねぇ。彼らが視察に来たのは正解だったようね」
「何を言っているんだい月見さん」
「なぁにこっちの話よ。気にしないで」
ルリの愉快そうな表情をに疑問符を浮かべるキヨシロウ。
生粋の天才と言えど乙女の恋心を見透かすことは容易ではない。
そんな最中、一同がいる部屋へ何人かのデジモンが入ってきた。
一体はクラゲの様なボディの頭部に被ったような水色と桃色の人型のデジモン。
もう一体はふわふわな黄色の毛に覆われた大きなウサギのようなデジモン。
そして白い体色を持つ小さな体を持ったトリケラトプスのような顔のデジモン。
三体のデジモンはヒロ達の名前を呼んだ。
『ダーリン、調整終わったわさー。そっちはちゃんと接待してるかさー?』
『ルリ、紅茶の茶葉買ってきたよ。新芽のダージリンだよ』
『ヒーロー、パン、買ってきたぞー』
「あれ、君って」
やってきたデジモン達を見て、ヨウトは白いデジモンが抱えているものに反応した。
その手にはギルモンベーカリーと書かれた紙袋があり、中からはパンのいい匂いが香っている。
今振り返れば、ココへ来る時のギルモンベーカリーで別れ際に見かけたデジモンだと思いだした。
白いデジモンはヨウトとエリヤの顔を見比べると、目を輝かせながら喜んだ。
『おー、てらてら! ヒロが言ってた強いヤツ!』
「てらてら? オレ達のことか?」
『おや、アンタ達チームロムルスじゃん! ダーリンの夢中な相手がここにいるさ!』
『ルリ達のお客様か。お取込み中のようだったね』
「いいや、構わないですけど……貴方達は?」
チームロムルスの姿を見て驚くクラゲのデジモンと白いデジモン。
唐突に現れた自分達にウサギのデジモンは会釈をすると、それぞれ挨拶を交わした。
『ミーはジェリーモン!
『僕はアンゴラモン、ルリのバディデジモンだよ』
『オレ、ガンマモン! ヒロの弟!』
クラゲのデジモン――『ジェリーモン』。
ウサギのデジモン――『アンゴラモン』。
白い小さなデジモン――『ガンマモン』。
三体のデジモンはヒロ達のバディと名乗った後、ガンマモンがヨウト達の方へ訊ねた。
『なぁ、てらてらの相棒、いるのか?』
「オレ達の相棒?」
「もしかして会いたいの?」
『ウン!』
まるではしゃぐ子供のように元気に頷いたガンマモンを見て、ヨウトとエリヤは仕方がないなぁと言わんばかりに苦笑する。
デジヴァイスを翳してコロナモンとルナモンを呼び出すと、ガンマモンは目を輝かせて黄色い声上げた。
『うぉおー!』
『うぉっ!? なんだお前!?』
『オレ、ガンマモン! デジモン!』
『見ればわかるわよ……って、きゃっ!?』
出てきていきなりはしゃいでいるガンマモンの姿にコロナモンは驚き、ルナモンは呆れた様子を見せる。
そのままガウマモンは二体にじゃれつかん勢いで飛び掛かった。
二体がガウマモンを相手している横でヨウトとエリヤは思わず吹き出してしまう……そんな彼らにヒロは笑って訊ねた。
「どうだい? 緊張は解けたかな?」
「あ……そういえばいつの間にかリラックスしていた」
「というかヒロさん、口調が……」
「ああ、これか。仕事のこともいつも敬語を意識しているんだけど、今はいいかなって。だって楽しそうにしている君達に堅苦しくするのも失礼と思ってさ」
苦笑を浮かべるヒロは先程ガンマモンから受け取ったギルモンベーカリーのパンが詰まった紙袋を近くのテーブルに置く。
中のパンを取り出し、キヨシロウとルリは食事の誘いをかける。
「さぁ、立ち話もこのくらいにしよう。もうちょっとしたらコスモスの事を教えてあげる。楽しみにしてくれ」
「そうね、昼食いかがかしら? ギルモンベーカリーのパンは絶品よ」
キヨシロウとルリの二人は自分の目当てのパンを手に取って見せ、嬉しそうな表情を浮かべる。
先程味わったパンを見せられて、エリヤは呟いた。
「行きでそこのパン屋食べたんだけどなぁ」
「まあいいじゃんか、エリヤ。美味いもんは何度食べても美味いんだから」
ヨウトは席について渡されたこんがりと焼かれたカレーパンを受け取り、勢いよく被り付く。
美味しそうに食べるそんな彼の様子を見て、仕方がないなと言わんばかりに笑いながらエリヤは隣に座り、食事にありついた。
その傍らではガンマモンが自分のチョココロネをコロナモンへと分け与えたり、アンゴラモンが注いだ紅茶をルナモンが受け取り、ジェリーモンがデジタルワールド:コスモスにおけるうんちくを聞かせるといった光景が繰り広げられた。
デジタルワールド:コスモスでのヨウトとエリヤの話は、まだまだ続きそうだ。