ヒロアカ転生人格変貌   作:七瀬一五

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 仕事中に浮かんだので書いた。


プロローグ
最悪の転生先


 気がついたら私は水槽の中にいた。

 周りを見渡すと同じような筒状の水槽が大量にあり、その中にあるどの生物も人の形をしていなかった。

 最初は、『水槽の脳』という考えは間違っていなかったのでは?などと馬鹿なことを考えていた。

 

 けれど、私がそう考えるのも無理はなかった。

 私の周りの水槽に浮かんでいる生物は、全て脳が剥き出しになっていたからだ。

 

 (まるで『ヒロアカ』に出てくる脳無のようだ)

 

 そう考えた時、私はおかしなことに気がついた。

 私は一度()()()はずなのである。

 死因は交通事故だった。何てことのないつまらない死に方だ。日本だと三時間に一回は起こっているありきたりな末路。それによって、私の四肢は裂け、骨は折れ、内臓はシェイクされ、人間スムージーとなって無様にこの世を去った、はずであった。

 

 (なるほど……これが俗に言う異世界転生、しかも漫画に転生するタイプのヤツか)

 

 この世界がヒロアカの世界であることは間違いなさそうだ。しかし、それならば私にも『個性』と呼ばれる超能力的なスゴい力が宿っているはずである。

 

「ん……んー」

 

 しかし、私がどんな能力を持っているかわからない。というよりは確かめる術がない。

 今の私の身体は、厳重に拘束されているからだ。四肢は指先に至るまで鋼のようなもので固定され、口には呼吸器がつけられ、うめき声しか出すことができない。しかも、何かしらの薬が投与されているらしく、手足に力が入らない。

 どうしたものかと悩んでいると、近くで話し声と足音聞こえてきた。

 

「オール・フォー・ワン!」

「ドクター。そんなに興奮してどうしたんだい?実験に何か進展があったのかい?」

「『実験番号105』が意識を宿した!」

「意外だね。あの個体は一番成功率が低い個体だと考えていたよ」

 

 話を聞くに、私の名前は『105』と言うらしい。そして、聞く限りでは私の実験は成功すると思っていなかったらしい。恐らく、この肉体が死んだ瞬間に私という魂が入り込んだのだろう。

 全く……死体ならもう少しマシな物があったろうに。

 

 そんなことを考えていると、私が浸かっている水槽の水がなくなっていた。ついで前方が開き、外の空気を肌でかんじた。正面に圧を感じるがあまり前を向きたくはない。けれど、仕方ないので顔を上げる。

 

「おはよう『105』」

 

 そこに居たのは『悪』だった。

 確かに私には前世の記憶がある。オール・フォー・ワンがどのような人間かはある程度知っていた。

 

 しかし、実際に相対した瞬間に悟ってしまった。全身を固定されているため、顔はよく見えないがそれでもわかる。

 この人間のドス黒い悪意が……

 

「……良い眼をしている。僕の名前はオール・フォー・ワン、少し気分がいいから今から君にする実験を説明してあげよう」

 

 そんな私の心情を知ってか知らずかどう考えても嫌な予感しかないことを言いやがった。

 

「今の君の肉体には複数の個性が入っている。実験の負荷に耐えるための補助的な物だが、大体の人間はそれだけで廃人になってしまう。それだと少し効率が悪くてね。だから、最初から廃人になる前提で改造することにしたんだ。そしたら、君に意識が宿った」

 

 なるほど。脳無が開発されておらず、まだオール・フォー・ワンの顔がのっぺらぼうになってない。ということは、少なくとも原作が始まる5年以上前だと考えられる。

 

「最初はとても驚いたが、同時に愉快な実験が頭に浮かんだ」

 

 私は全然愉快じゃないけどな。

 というか、さっきからオール・フォー・ワンの横でニヤニヤしているハゲが不気味である。

 

「僕の持っている多数の個性、その中には使えないどころか僕自身にも被害が及ぶ危険な個性。それを、君に()()()()

 

 ………は?

 

「確かに『105』に意識が宿ったことは喜ばしい。けど、よく考えてみたら意識ある兵隊を制御するのはいささか骨が折れる」

 

 ちょっと待て。

 

「それだったら普通に仲間にしてから改造した方が手っ取り早いし、何より楽だ」 

 

 何を、言っている。

 

「そんなわけで、今から君に個性をあげよう。意識と呼ばれるものは希薄になり、性格も変わるかもしれない。もしかしたら死ぬかも」

 

 待て待て待て待て!

 

「じゃあ、始めるよ」

 

 ゆっくりとオール・フォー・ワンの手が『105』に近づいていく。なんとか拘束が抜け出そうともがいているが、できるはずもない。

 

 『105』と呼ばれる少女に手が触れ、オール・フォー・ワンの個性が発動する。

 

「っ…!あァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 個性による肉体の変貌で、口を塞いでいた呼吸器が壊れ、少女の絶叫が実験室に響く。地獄の業火で焼かれているかのような痛ましい悲鳴。

 

 (ああああああああああああ!私?俺?私は誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?誰?自分は…誰だ!?)

 

 臓器移植をされた人間の趣味嗜好が変わった。そうした事例がこの世には存在する。中には、性格が変わった人間もいるという。

 

 では、臓器よりも人間と深い関係にある個性を移植するとどうなるのか?

 答えは簡単だ。

 

 (私が、私でなくなる……意識が、意思が、他の意識と混ざっていく……私は……誰?俺は……私か?)

 

 自分を認識できなくなり、自我が崩壊し、廃人となるのだ。オール・フォー・ワンの場合は『個性を奪う個性』という特徴故に、強固な精神力を持っている。それに加え、精神を強化する類いの個性によって人格の汚染を無効化していた。

 

「あっ…がっ…!あっ、あァァァァァァァァァ!私は、私はァァァァァァァァァ!」

 

 しかし『105』は無効化することはできない。彼女の今の状況は、軽自動車にニトログリセリンをぶち込むようなものなのだ。

 

 肉体は再生と崩壊を繰り返し、髪からは色が抜け、自我は分裂と統合を重ねている。10分ほどその状態が続いた。

 

 やがて、『105』は静かになった。

 

「心臓が停止したようじゃな。こやつはどう使いますか?」

 

 心電図は一本線が浮かび、ドクターは死体をどのように使うかの指示を仰いだ。

 

「そうだねぇ…」

 

 オール・フォー・ワンは特に落胆することもなく、彼女の再利用の方法を口にしようとした。

 

 その瞬間。

 

「……酷いことを…言うものだ」

 

 死んだはずの『105』が口を開いた。生物学的にも完全に死んでいるはずの彼女が。

 

「…これは驚いた。死んでいるというのに生きている。それに、自我が残っているとは…」

 

 オール・フォー・ワンは珍しいことに本当に驚いていた。ドクターは20秒ほど止まっていたが、興奮したように喋り始めた。

 

「素晴らしい!!あの量の個性を全て受け止るとは…!『105』よ!お前は今、この時をもってワシらにとって最高の素体となったんじゃ!早速おまえを使った実験を…」

 

 水を得た魚のように言葉を吐き出すドクター。彼女が死んだ原因の半分を占めているというのに、まるで自分の子供を褒めるかのように話している。

 

 それを聞いた『105』は少し呆れたような顔をし、口元に笑みを浮かべた。

 

「残念だが実験は中止だ」

「は?」

「貴様は(わたし)が殺すからなぁ!」

 

 その言葉と同時に、彼女は拘束具を強引に弾き飛ばした。その衝撃によって割れたガラスの破片を素手で掴み、ドクターの喉元に凶器を突き立てようとする。

 

「『転送』」

 

 だが、オール・フォー・ワンがそう呟いた瞬間に彼女はこの場所から消えた。残ったガラス片が腰を抜かしたドクターの白衣の上に落ち、彼の命まであと少しであったことを物語っている。

 

「ふぅ…危なかったねドクター。僕が個性を発動するのがあと数秒遅かったら死んでいたよ」

「す、すまぬ。ワシのせいで大事な実験体を逃すことになってしまって…」

 

 オール・フォー・ワンが使った個性は『ランダム転送』というものだ。その名前の通り、自身が認識したものをランダムにどこかに飛ばすという能力だが、相手に触れずに発動できるという特性上1日に一回しか使うことができない。また、転送する場所は使用者を中心とした半径30km以上の自身が行ったことのない場所。という欠点を持つピーキーな個性である。

 

 ドクターの謝罪を聞き、少し考え、彼はおかしなことを言い出した。

 

「いや、例えドクターが殺そうとしなくとも判断は変わらなかっただろう」

「それはどういう……?」

 

 困惑するドクターだが、その疑問はすぐに解けることになる。彼を尻目にオール・フォー・ワンは愉快そうな笑顔を浮かべる。

 

「これからもっと面白いことが起こるぞオールマイト」 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「…どうやら殺し損なったらしい」

 

 『105』の呟きが夜の虚空に響いて溶けていく。眼下には星屑をぶちまけたような街の灯が広がっている。どうやら彼女が転送されたのは大都市のビルの屋上らしい。

 

「さて、これからどうするべきか。いや、その前に服だな」

 

 水槽に浮かんでいた彼女が服を着せられていたわけがない。『105』の病的なほどに白い肌は、全身余すことなく夜空に晒されていた。

 

「『変容』」

 

 ()()()()()()個性を発動させ、服を作る。胸元から順に布が生成されていき、彼女が最も好んでいるある制服がこの世界に誕生した。

 

「実際に着るとこんな感じか……中々悪くないな。むしろとても我に似合っている」

 

 白いシャツに黒いネクタイ、その上にスーツのような軍服。純黒のロングコートにカギ十字のエンブレムが入った軍帽。

 彼女が着ているのは、世界で最も有名な軍服のひとつである『ナチス親衛隊将校』の制服だ。

 

「しかし、改めて考えるとおかしなことになったものだ」

 

 この世界を認識してから多分一時間も経っていないというのに展開が早すぎる。実験のせいで痛覚は消え、私は(わたし)でなくなってしまった。

 簡単に言うと、今の(わたし)は前世の記憶を持っているだけの人格破綻者だ。前世の頃ならば、あのハゲを殺そうとは思っても実行には移さなかっただろう。それに、眼下に広がるこの街を跡形もなく破壊したいという衝動が押さえきれない。

 

「全くもって度しがたいな……」

 

 自分ながら最低な思考だと自嘲する。だがまあ、色々あって既に(わたし)には良心と呼ばれるものはチリ程度にしか残っていない。

 よって、この街を破壊することに決めた。

 

 そうと決まれば、考えなければならないことがある。(わたし)の名前だ。前世の知識によれば、この世界にはヒーローと呼ばれる個性の使用を法的に許可された正義の味方がいるらしい。そして、彼らにはヒーロー名というコードネームがあるとのこと。

 

 ならば、彼らと戦うことなる(わたし)にも名前が必要となってくるだろう。今は(ヴィラン)名だけだが、ゆくゆくは本名が欲しいものだな。

 

「目的なき破壊…人々の虐殺…軍服…ナチス…あっ…」

 

 そうだ良い名前があるじゃないか。かつて、独善的な正義の末に結成され、民間人の殺人、虐殺、抹殺を請け負った悪名高き軍隊。

 その名も

 

移動虐殺部隊(アインザッツグルッペン)……」

 

 数多の個性の集合体にして、たった一つの欲望によって悪を成そうとする人間。

 

「そんな(わたし)にピッタリじゃないか」

 

 これは、王道の物語ではない。

 

 これは、覇道の物語ではない。

 

 これは、破壊の道を欲望のままに突き進み続ける『破道』の物語である。

 




 ちなみに彼女がいた実験場は、病院の地下にあるものです。
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