原作よりも爆破の扱いが上手くなっている。過去の経験から爆破の威力を細かく調節できるように努力を重ねた。
結果、今ではペットボトルのキャップだけを吹き飛ばすという芸当も可能になった。
「…んじゃ次の英文のうち間違ってるのは?」
ヒーロー養成学校と言っても、別に全ての授業がヒーロー関連というわけではない。
「おらエヴィバディヘンズアップ!盛り上がれー!!」
午前は必修科目・英語などの普通の授業である。
「(ウム。普通にわかりやすい普通の授業だな)」
壇上に立っているのはボイスヒーロー『プレゼント・マイク』。雄英に在籍している先生が全員ヒーローとは言え、普通に授業をしているのは何とも形容しがたい気分になる。
「(有名人が特別授業を毎回しているような感じと言えば良いだろうか)」
ただ、人間は慣れるものである。夜神以外にもそう考えている者もいるだろうが、三日ほど経てば日常として認識するだろう。
◆◇◆◇◆◇◆
午前の授業が無事に終わり、大体の生徒が楽しみにしている昼食の時間がやって来た。
「白米に落ち着くよね!最終的に!!」
大食堂にて料理をするのはクックヒーロー『ランチラッシュ』
「安くて量があって美味い。学食は良いものだ」
私が頼んだのは300円の唐揚げ丼だが、かなりしっかりと味付けをされていた。特にタレと乗っている半熟卵が美味しい。唐揚げはほとんど衣だったが、この値段でこの量が食えるのは学生の財布に優しいな。
「…それにしては食べ過ぎじゃない?」
耳朗の言う通り、夜神は既に唐揚げ丼を四杯ほど食べ終わっている。その上で、まだ食事を終わらせるつもりが微塵もないのだ。
「安くて美味いからな」
金ならヤクザ関係で稼いでいるから、別に学食で節約する必要はない。そもそも、私は食べる必要がない。だが、食事というは人生に彩りを与えてくれる。
「人は無駄を楽しむと言うだろう」
「食事は無駄じゃなくない?」
「…それもそうか」
それに、学校の食堂の飯はやけに美味しい気がするからな。作っている人間がプロヒーローシェフなのもあるが、学食にはそれ以上の味を感じる。
「なぁ、響香のオムライス少しもらえるか?」
「いいよ。けど、刹那なら普通に買えない?」
「これも青春の一つだ。ほら、唐揚げ一個やるから一口くれ」
「マジ、やった」
学生という身分がスパイスになっているのか。これは永遠の謎だな。
「ウム。中身はほぼ米だがオムライスも美味いな」
「ウチ明日の昼食は唐揚げ丼にしよ」
まぁ、確実なことは家で作ると何故か微妙な味になるということだけだ。
◆◇◆◇◆◇◆
そして、午後の授業はお待ちかねのヒーロー基礎学の時間だ。
「わーたーしーがー!!」
教室で座って待っていると、聞き覚えのある声が廊下から響いてきた。それは、ヒーローを目指す者なら絶対に間違いようのない絶対的な自信に満ち溢れた声。
「普通にドアから来た!!!」
入ってきた人間、予想通り誰もが知っている男だった。
彫刻のような筋肉に真っ赤なスーツ。前髪が二本の角のように立っているオールバックの金髪。陰影の濃い顔。
No.1ヒーロー『オールマイト』その人である。
「オールマイトだ…!すげえや、本当に先生やってるんだな…!」
ある者には驚嘆を与え。
「
ある者には感動を与える男。
クラスにいる全員は、オールマイトが来るとわかっていた。しかし、わかっていたからと言って憧れの人間が目の前にいたらテンションは上がる。
「(かくゆう私も興奮を抑えきれない)」
何せ10年前の私は、あのヒーロースーツを着たオールマイトに倒されたのだからな。あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。
再会の記念に、後で写真を一緒に撮ってもらおう。
「ヒーロー基礎学!文字通りヒーローの素地を作る為に様々な訓練を行う課目だ!!」
そういえば…10年前はかなりのヒーローを殺したが、その時は学生も動員されたのだろうか。だとすれば、彼らにとっては良い経験になったはずだ。実戦に勝る経験はないからな。
「早速だが今日はコレ!!」
そんなことを夜神が考えている間に、オールマイトはさらりと授業の説明を終えた。トップヒーローは授業のスピードも早いのである。
そして、声と共に出された札には『BATTLE』と英語で太く書いている。
「戦闘訓練!!」
初回の授業からいきなりである。他の高校なら説明だけで最初は終わるが、雄英は違う。
「戦闘…訓練…!」
「そしてそいつに伴って…こちら!!」
オールマイトの声に従い、教室の壁が動き出す。中から出て棚には番号が振られており、幾人かの生徒はそれに何が入っているかを理解した。
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…」
ここまで言えば誰でもわかるだろう。ヒーローが着用する仕事着にして、その者を表す象徴。ヒーローを目指す若人ならば、絶対に一度は妄想したであろう物を。
「
ヒーローの代名詞。
「「「おおおお!!」」」
歓喜する生徒たちにコスチュームが入ったケースが配られ、何人かはちょろっと開けて確認している。どんなコスチュームかは知っているが、実物は早く見たいものなのだ。
「(結構アレな注文をしたが、通っているだろうか)」
夜神は自身のコスチュームにシンプルながら複雑なデザインの刺繍を入れるように頼んである。ついでに、造形が難しい小物をいくつか注文していた。故に、簡略化されている可能性もなくはない。
「(まぁ、いざとなれば羽織っている軍服で良いか)」
生徒全員にコスチュームが行き渡ったことを確認すると、オールマイトは迅速に指示を出した。
「着替えたら順次グラウンド・
「「「はい!!」」」
それに従い、生徒たちは逸るように更衣室に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆
そして五分後。各々が自身のコスチュームを身に纏い、グラウンドに姿を現した。
「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!!」
ある者は特撮ヒーローのような仮面を被り。
「自覚するのだ!!今日から自分は…」
ある者は柔道着にしか見えないコスチュームを着用し。
「ヒーローなんだと!!」
ある者はシンプルながら一目で戦闘服だとわかる物を着ている。
「さあ!!始めようか有精卵共!!」
自身のなりたいと考えたヒーローの形が、それぞれのコスチュームに表れている。オールマイトの言うように、形から入るというのは重要なことなのだ。
「(ふむ。緑谷出久のコスチュームはゲンサクと少し変わっているな)」
では、目指したいヒーロー像のない夜神はどのような格好をしているかというと。
「(オールマイトの髪型を模したマスクを被っていない。それに、爆豪勝己のコスチュームも全体的にスリムになっている)」
軍服である。
入試や学校生活と同じように白いコートに軍帽。あまり普段と変わらない夜神の趣味が出た格好だ。
「(性別が変わった影響だろうか。腕の手榴弾型の機構も細くなっているように感じられる)」
しかし、明確に戦闘服だとわかる点がいくつもあった。
「刹那…それっでガチの刀?」
「いや、最初は本物にしようとしたんだが断られてしまってね。模造刀さ」
まず、腰には左右合わせて六本の特殊金属でできた非殺傷の刀を差している。モデルは軍刀と言われる物で、六本の刀はそれぞれデザインが異なっていた。
「先も丸くなっているから突いても刺さりはしない。おまけに装飾品をつけすぎてね。一本あたり1kgある」
「うわ」
「凄いだろ。響香も一本いるか?」
「いらない」
しかも、軍刀を見せるために刀は重ならないようにしてある。鞘は専用のホルスターに固定され、合計重量は片側だけで4kgもあるのだ。これだけでも相当に邪魔そうだが、彼女の装飾はこれだけではない。
「刹那の服装を見る度に思うけど、今回は流石に趣味出しすぎじゃない?」
「失礼な。それを言ったら響香こそヒーローというよりロックミュージシャンのようではないか。よく似合っているが、私と同じくらい趣味は出てるぞ」
耳朗響香のコスチュームは、白のシャツに黒のジャケットと黒いズボンというシンプルな物である。ただ、別にロックの趣味が出たというほどではない。
強いて言うなら、首のチョーカーと目元に描かれた雫のペイントぐらいだろう。
「いや、絶対にあんたより趣味は抑えてる。というか刀だけでも装飾過多なのに上半身がそれ以上はヤバいよ」
「それはほら、ヒーローは目立った方がいいだろ?」
「限度があるでしょ…」
話を戻すが、夜神のいつも羽織っているコートは大体腰までの長さである。しかし、戦闘服の時に着用する物はオーバーコートという膝下まである逸品なのだ。おまけに、軍服には金色のチェーンがあしらわれている。
「軍帽はシンプルだぞ」
「じゃあこの帽子に描かれてる『帝』は?」
「…私は
「嘘こけ」
もちろん軍帽の漢字も金色である。
白い軍服に金色の装飾。ヒーローという感じはしないが、間違いなく正義だとわかるコスチュームだ。
「だが、似合ってるいるだろ?」
「…そうだね。癪だけど似合ってるよ」
「だろう!」
あと(別に必要はないが)防御面もしっかりしている。拳銃程度ならマントで防ぐことができるが、その分重さは普通の倍になってしまった。
故に、軍帽1kg、マント16kg、軍服上下合わせて14kg、軍靴2kg、装飾品3kg、刀六本8kgの合計44kgというとんでもない重量になっている。
「ヒーロー科最高」
「わかる」
ただ、目立つといっても大体の男子の視線は八百万や麗日に向いている。ピッチリしたスーツは、この前まで中学生だった人間には刺激が強いので目が奪われるのはしょうがない。
「良いじゃないか皆!カッコいいぜ!!」
生徒同士の雑談が静かになったところで、いよいよオールマイトの授業が始まる。
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
と思いきや、生徒から質問が飛んできた。
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!」
それを予期していたかのように、オールマイトは滑らかに答える。
「
今日が初授業のオールマイトは、質問の答えも50個くらい用意してるのだ。流石トップヒーロー。
「監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会。真に
監禁か。そういえば私もされたことあったな。
…いや、あれ監禁かな?確かに定義としては合ってるが何か違う気がする。まぁ、良いか。
「君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知る為の実践さ!ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
ヒーローには手加減が必要だ。確かに殺しがOKなら彼らは今よりもっと敵を倒し、この世界を平和にするだろう。しかし、殺戮を行った時点でヒーローはただの処刑人へと変わる。
かつて、中世において騎士道精神が生まれた理由は勇気や名誉、誇りを守ることが良い事という風潮を作ることであったと言われている。戦場における悲惨な『なんでもあり』を抑制するという狙いがあり、それは今でも変わらない
殺人という一線を越えないことで、ヒーローは民衆から英雄だと認められるのだ。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「どこまで鎮圧行為だと認められる?」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか…?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントヤバくない?」
とは言っても大体の人間は殺人を選択肢には入れないし、ある程度の手加減は身に付いている。
「んんん~聖徳太子ィィ!!」
故に、対人戦をいきなりやることの驚きはあれど、それに対しての疑問はないのだ。
そのため、ルールに対しての質問が一斉にされオールマイトは急いで懐からカンペを取り出した。
「いいかい!?状況設定は『敵』が『アジト』に核兵器を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしている!」
やけにアメリカンな設定だと生徒たちは思ったが、実はマジでアメリカで起きたことがある事件なのだ。しかも四回も盗まれているのである。
怖いねアメリカ。
「『ヒーロー』は制限時間内に『敵』を捕まえるか核兵器を回収する事。『敵』は制限時間まで核兵器を守るか『ヒーロー』を捕まえる事」
そして、説明が終わるとまた懐から何かを取り出した。
「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「適当なのですか!?」
くじ引き箱である。
それを見た飯田天哉は思ったことを叫んだが、気にしている人間は恐らく彼一人である。
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事も多いし、そういう事じゃないかな」
「そうか…!先を見据えた計らい…失礼致しました!」
そして、飯田天哉の声に緑谷が答えた。納得できる回答だが、多分オールマイトはそこまで考えていない。なんなら緑谷の発言にちょっと感心している。
「いいよ!!早くやろう!!」
だが、そんなことは言わなければバレない。なので、オールマイトはささっとくじ引きを始めた。
「む、私はDか。響香は?」
「ウチはGだね」
「ふむ。そうか」
ゲンサクとの差異がないか聞いてみたが、そもそもそんな細かい所まで覚えていなかった。私に残った記憶は大雑把な情報だけなのである。
「(しかし、まさか爆豪勝己と一緒のチームになるとは…)」
ゲンサクで、彼女は飯田天哉とペアだったはずだ。恐らくこれは、私が41人目としてクラスに入ったせいだろう。
だが問題ない。小さな差異だ。むしろ、彼女を知る良いチャンスになったと考えればいい。
「同じチームの夜神刹那だ。よろしく」
「チッ…爆豪勝己だ」
手を差し出してみたが、払いのけられてしまった。そんなに嫌われるようなことをした覚えはないのだがね。
「つれないな。これから一緒に苦楽を共にする仲間ではないか」
「うるせぇ…てめぇは何か気に入らねぇんだよ」
こちらに向ける彼女の視線には、明らかに敵意が混じっていた。嫌うどころの話ではなく、恨みとかそういう類いの感情を私に抱いている。
「(ふむ。10年前に私の兵士にトラウマでも植え付けられたのだろうか)」
『
何しろ、兵士達の目を通して見る荒い画像でも
「(兵士には私の血液が微量だが混じっている。爆豪勝己が私の兵に恨みを持っているなら、この反応も納得だ)」
治崎が言うには私と兵士は似ているらしいからな。死体と似てるのというのは妙な気分だが、奴のことだから嘘はつかんだろう。
「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!」
右手は『HERO』と書かれた箱。左手は『VILLAIN』と書かれた箱にオールマイトは手を突っ込んだ。どうやらこっちもくじ引きで決めるらしい。
箱から手を抜くと、左手にはA、右手にはDと書かれた玉を握っていた。
「Aチームがヒーロー!Dコンビが
原作と違い、Aチームは緑谷と麗日と飯田の3人になっていた。なので2対3となり、Dコンビが少し不利である。
「敵チームは先に入ってセッティングを…」
「待ってください先生!!」
それに気にせずオールマイトが始めようとすると、飯田天哉が待ったをかけた。
「3対2ではAチームの方が有利になってしまいます。再考をお願い…」
「いや、問題ないさ飯田天哉」
確かにDコンビの方が数字の上では不利だ。
「しかし実戦ならまだしもこれは訓練だ。数の差で勝利したとして、どちらにも学びはない!」
「認識が違うな飯田天哉。私は夜神刹那。完璧な兵器であり、不完全な生命体だ。数ごときに負けはしない」
「だが…」
「ならば絶対に私を敗北させる自信があるのか?」
夜神の個性が規格外だということは飯田もわかっている。わかった上で公平を期すために提案した。
「…そうだ」
「そうか」
真面目過ぎるな。まぁ、そこが彼の美点でもあり弱点だ。私の強さを間近で経験した上で言ってくるのだから、こちらも誠意で応えねばな。
「なら、この勝負で勝った方の意見を尊重するというとはどうだろうか?これから先、毎回この会話をするのは無駄だ。故に、この訓練で決めよう」
ここが私の妥協点だ。別に驕るつもりはないが、私はカッコよくて強い。1人が相手なら苦戦せずに勝つことができるが、二人なら負ける可能性が出てくる。
それに、二人がかりで私に負けたとしても糧にはなる。ヒーローは連携が大事だからな。きっと良い経験になるはずだ。
「わかった。それと、俺の勝手な申し出を了承してくて感謝する!」
そして、その意見に飯田天哉も納得したようだ。クラス41人という事実は変わることはない。彼も同じようなことを考えており、夜神との相違はこの訓練からかその次からかという違いしかない。
「先生!お時間を取らせてしまい申し訳ありません!」
だが、授業を滞らせたのは事実である。
飯田天哉はオールマイトに身体を向けると、腰を90度に曲げてきれいな謝罪をした。授業を中断したのだから、これぐらい謝るのは当然だと彼は考えている。
「No problem!!生徒同士で解決できたんだから褒めたいぐらいさ!では、敵チームは先に入ってセッティングだ!5分後にヒーローチームが潜入でスタートするから他の皆はモニターで観察するぞ!」
しかし、それを気にするオールマイトではない。
いつもの笑顔を見せながら生徒を褒める。今日が教師としての初仕事であるオールマイトにとって、怒るか怒らないかの線引きはまだ掴めていない。
なので、危険過ぎる行動やクラスの和を乱す行為などに怒ろうと考えた。故に、もしも先ほどの会話がヒートアップしたならオールマイトはすぐさま止めただろう。
「飯田少年と緑谷少年と麗日少女は敵の思考をよく学ぶように!これはほぼ実戦!ケガを恐れずに思いっきりな!度が過ぎたら中断するけど…」
説明はすぐに終わり、夜神たちDコンビは五階の核が置かれた場所で配置についた。わかりやすく『TAEDOPONG』と書かれたハリボテが中央に置いてあり、障害物は意図的に増やされたであろう柱だけである。
「爆豪勝己。作戦を立てよう」
「…俺が迎撃でてめえが防衛だ。異論はねえよな」
「あぁ、それでいい」
「………」
「………」
二人の会話は秒で終わった。
夜神は作戦を考える時の会話で、多少なりとも爆豪の内面を知れたら良いと思っていた。なので、もう話す必要がないとしても彼女は口を開く。
「爆豪勝己。一つ聞きたいことがある」
「作戦に不満でもあんのか?」
「いや、そんな下らぬ事は言わないさ。なに、せいぜいヒーローが来るまで楽しい会話でもしようかとね」
実際、彼女の作戦を夜神は素晴らしいと考えている。
なぜなら、この訓練において迎撃するための通路が彼女にとっては狭いのだ。夜神にとって邪魔な壁や天井は壊す物。とてもじゃないがビルの方が保たない。
おまけに、爆豪の方が小回りが利く。故に、彼女が防衛に徹してくれた方が自分も動きやすいと考えたのだろう。
夜神へと態度こそあれだが、彼女なりにちゃんと考えた上での作戦なのだ。クラスメイトの実力を把握し、嫌悪感を抱いている相手にも指示を出す。言動とは裏腹に、爆豪の思考は冷静そのものであった。
「必要ねぇ」
「そうか。では、勝手に聞くとしよう」
「チッ…好きにしろ」
ふむ。何を聞こうか…共通の話題といったらヒーロー関係を質問するべきだろうか。いや、ここは私自身のルーツを話して警戒心を解いてもらおう。
もちろん真実は告げずに都合の良い所だけだがね。
「『都市喰らいの夜』」
「…!」
「あの事件から今年で十年になるらしいな」
彼女の言葉に爆豪は動揺した。だが、夜神はその事に全く気づいていない。むしろ、自分に興味を持ってくれたかな程度にしか感じていなかった。
「で、それがどうしたってんだ!」
「そう急くな。あの事件では様々な物が失われた。資源、時間、未来、そして人間」
爆豪にとって十年前の事件はトラウマその物。それ故、自然に彼女の語気は強くなってきた。
「爆豪勝己。貴様は
「っ…!」
夜神にとって、この言葉に意味はない。ただの会話の始点ぐらいにしか思っておらず、ぶっちゃけ気分で言っただけである。
だが、それは両親を自らの手で殺めた爆豪勝己にとって特大の地雷だった。
「てめぇは…」
「ん?」
夜神刹那は知らない。
まさか自身の兵士が彼女の家族を殺し、何気なく言った言葉が彼女を激怒させてしまったことを。
「てめぇは何を知ってやがる!!」
一瞬の激情の後、爆豪は個性を使って思い切り夜神を殴った。グシャリという金属が潰れるような音を出しながら、彼女の顔面は衝撃波によって砕けてゆく。顎が割れ、眼球が潰れ、血が滝のように地面に垂れた。
「…なぜ?」
そして、その損傷から数秒後。夜神はまだ疑問符を浮かべていた。彼女にとって、爆豪にいきなり殴られる理由はない。
だが、気づいた。
「(どうやら私は彼女の触れられたくない場所に土足で入り込んだらしい)」
私が原因なのは分かる。あの事件のせいだとしても私が悪い。しかし、どうして怒っているかはまだ不明だ。
「答えろ!!」
「(さて…どうするか)」
こうして夜神の爆豪へのファーストコミュニケーションは失敗した。しかし、会話して数分で殴られることはコミュニケーションとは言わない。
ただの丁寧な挑発である。
【軍刀の鍔の装飾】
・卍型が一本
・普通のが一本
・鍔がないのが一本
・十字になっているのが一本
・卐の片側だけのが一本
・上の刀と対になってるのが一本
※最後の二本は鍔を合わせると卐になる。故に、夜神は普通に断られるかと思っていた。なぜ通ったかは謎である。