それが生徒たちの前に突然現れた。
「
「ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
確かに
何せ利がない。それに高確率でプロヒーロー多数在籍している。どう考えてもデメリットしかない。
「しかし数が多いぜ…!どう軽く見ても百はいる」
ならば利があれば?多くの
オールマイトという特大の邪魔者の殺害。それに協力する
「侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが…!」
だが、生徒達とて混乱するだけの子供ではない。
「現れたのはここだけか学校全体か…何にせよセンサーが反応してねぇ。ってことは向こうにそういう事が出来る“個性”がいるってことだ」
八百万が警報装置の有無を聞き、その情報から轟が今の状況を他の生徒に伝わるように話している。
「校舎と離れた隔離空間。そこに
まとめられた情報は、生徒たちが絶望的な状況に置かれている事を如実に示していた。だが、
「13号避難開始!学校に電話を試せ!センサーの対策も頭にある
相澤は時間稼ぎのために
「上鳴おまえも“個性”で連絡を試せ」
「っス!」
その最中、夜神はじっと一人の脳無を見ていた。
「刹那?」
彼女の横にいる耳郎が声をかけるが、夜神は反応しない。それほど注視している対象は、原作にいないはずの謎の細い奴である。翼がある事から飛行能力を擁している事くらいしか予想できていないが、何のために作られたかを彼女は理解していた。
「(私だろうな)」
デカイ脳無はオールマイト特化である事は知っている。であれば、アレは私を倒す事に重きを置かれた脳無だ。
便宜上は特殊脳無と呼ぶとしよう。奴の目的は恐らく唯一自由に飛行可能な私の妨害だ。
制空権は正義だ。高度は有利状況に他ならない。故にこそ、やろうと思えば空から鉄の雨を降らせられる私のために細脳無は作られたのだろう。
まぁ、嫌がらせも絶対に兼ねているがね。
「(問題は奴がいつ動くかだ)」
もし彼女が生徒という立場でなければ、今すぐにでも特殊脳無を八つ裂きにするために突撃しているだろう。だが、脳無の力を知っているが故に目を離す事もできなかった。
プロといえど二体の怪物を相手にすれば無事では済まない。生徒の避難時間を稼ぐ事も、脳無2人が相手では1分保たせることすら難しいと知っていからだ。
「刹那!」
「あぁ…わかっている」
しかし、生徒であるなら先生に従わなければならない。
夜神は耳郎に手を掴まれたことで、ようやく避難しようという考えを固めた。どうせ阻止されるのだから、黒霧が襲ってきた時に逃げると同時に特殊脳無を仕留めよう。
そう結論づけて入り口に向かおうとした瞬間。視界に捉えていたはずの特殊脳無の姿がブレた。
「まさか…!」
不快な羽音が聞こえた先に目をやれば、怪物はすぐそばまで迫っていた。その時間は瞬きよりも早く、夜神の変化速度と同等。いや、それ以上だった。
「(化物が!)」
それに加え、いつの間にか両腕が凶器へと変化していた。蜂の針のように鋭く、鋼鉄さえ貫けそうな生物的な槍。それが2人の心臓を狙うように動いていた。
「離れろ響香!」
「え?」
反応できたのは夜神だけだった。
すぐに彼女は掴まれていた腕を強引に振りほどき、危険が及ばぬように耳郎を突き飛ばした。
そして、瞬時に刀を振り抜き細脳無の片腕を斬り落とした。それだけでは止まらず、彼女は返す刀で残った腕も斬り飛ばそうとする。
「■■■■■■■!!!」
「ぐっ…!」
だが、その前に細脳無の槍が彼女を貫いた。
肉が一瞬で抉られ、骨が砕ける嫌な音が聞こえる。血が止めどなく溢れ、辺りに鮮血が撒き散らされた。
やがて胴を貫通し、赤黒い液体にまみれた槍が彼女の背中から生えた。
「ガハッ…」
内臓の損傷によって多量の吐血。
一瞬の攻撃によって甚大なダメージを負った夜神。常人ならとっくに死んでいるような傷だが、彼女は死なない。
「■■■■■■!」
そんな事実に気づかず、仕留めた際の合図の声を出す特殊脳無。そして、別の生徒を殺すために彼女の胴から腕を抜こうとした。
「
「■■■?」
しかし抜けない。
見れば再生した夜神の骨が怪物の腕に食い込んでいた。無理やり抜こうとするが、そのせいで細脳無の腕が裂けていく。だが、それでも怪物は意に介さず強引に千切って抜いてしまった。
「速やかに殺そう!『機械励起』」
細脳無の腕が抜けたと同時に、夜神の全身は瞬時に機械へと変貌した。その姿は入試の時に一度だけ見せた彼女が本気を出すための肉体。
紫電が周囲に迸り、彼女の肉体からは機械の重苦しい音が響く。同時に赤黒い霧が夜神の周囲を漂い始めた。
「向かえ」
霧は彼女の一声で黒い刀に形を変え、細脳無へ撃ち出された。数十本の刀が一瞬で加速し、刃の雨となって怪物に向かってゆく。細脳無は避けるために一息で数十mほど後方に飛んだが、それよりも速く怪物に迫った。
「■■■■」
だがしかし、殺到する刃は細脳無に着弾しようとした瞬間、まるでその身体を避けるように軌道を変え、後方に逸れていった。
そして、怪物の背後で急速に勢いを失った刃が重力に従って落下した。
「(奴め…ここまでやるか…!)」
目の前に現象に夜神は目を見開いた。
それはそうだ。避けられたのでも防がれたのでもなく、攻撃が彼女の意思に反してその軌道を変えたのである。しかも、逸れただけでなく勢いも殺された。
「(過剰スペックもいいところだ)」
重力操作に近い能力。
それも、あの速度からして自身にも適用できる個性。それに加え、切断された腕がいつの間にか再生していた。
重力操作、超速再生、虫羽、肉体変化、硬質化、最低でも五つの個性が搭載された危険極まりない脳無。
「イレイザーヘッド!私の友人を頼む」
それを確認した夜神はすぐさま決断した。
すなわち眼前の特殊脳無の破壊。それのみに全神経を集中せねばならぬ事態であり、周囲に気を回す余裕がないという事を示していた。
「待て夜神!」
「静止は聞けない。星に連なる者の守護は
「ふざけた事を言ってる場合じゃない!」
夜神は相澤の言葉には一切従わなかった。
それどころか三対の機械的な翼を生やし、追撃に向かおうとしている。
「刹那!」
「大丈夫だ響香。死を超克した私に恐れる者は何もない」
オールマイト以外はな。
あれは逃げる事すら許されぬ平和の具現化だ。
例えるなら核兵器に完璧な制御装置がついてジェット機以上のスピードを持った完成されたヒーロー。
AFOには魔王という慢心から来る甘さはあるが、あれに油断という言葉はない。最終的にはパワー特化が一番面倒で強いのだ。まぁ、私という存在を知りながら死柄木弔の教育に使うというAFOもそれそれで厄介極まりないがね。
「けど…!」
「いつものように戻る。祈ってくれ」
その言葉は夜神の心からの本心だった。
彼女は自分が死ぬとは欠片も思っていない。この場にいる誰よりも夜神刹那という人間は強い。
だが、耳郎は不安が止まらなかった。彼女が死んでしまうような何処か遠くに行ってしまうような嫌な予感。
「…わかった。でも、死なないでよ」
それでも、彼女は避難を選んだ。
耳郎は夜神に背を向けて出入口に向かっていった。
「了解だ…。イレイザー!停学だろうが退学だろうが受け止めるが今だけは見逃してくれ!」
彼女は叫ぶ。
自身の教師に許可を求めるため、生徒という立場であるが故に。最初の攻防はやり返しただけであり、未だに膠着状態は続いている。
だが、それは今にも崩れそうだった。
相澤1人では無理と言わざるを得ない状況であり、猫の手も借りたいほど逼迫してた。故に、彼女ほどの個性を持つ者がいれば現状は幾分かマシになる。
「…駄目だ!」
しかし、それは教師である彼にとって看過できることではない。たとえ勝てる見込みがなくとも、夜神が高い戦闘能力を保持しているとしても、相澤に教え子を巻き込む選択肢はない。ただ、例外として自らの命を守るための戦闘行為はやむを得ないとして認めてはいる。
だが、まだ子供である彼女が自分から戦いに向かうことは教師以前に大人して許可できなかった。
「ククク…だろうな。貴方であればそう言うと思った」
そして、それを夜神も理解している。
彼女は未来を知る者であり、同時に過去を見た者だ。彼が信念を持った尊敬すべき教師である事はわかっている。
「だが聞かぬ」
「夜神…!」
その上で、全て無視した。
彼の怒りや心配を混ぜたような声を聞きながら、彼女は嗤う。イレギュラーである彼女は自身が守られる存在だとは考えていない。
それ故に、夜神はこの場において独善的だが合理的な行動を取ることにした。
「私が囮だ。イレイザー」
夜神は言い終わるやいなや、特殊脳無に駆けるように飛んでいった。同時に、自らの右腕を刀ごと特異な形へと変貌させてゆく。
肘から先が刀を固定する柄のように仰々しく変化し、刀身その物が長く広く分厚く改造された。刃の構造も蛇腹状に組み変わり、何本もの特殊合金性ワイヤーが内部を繋いでいる。
「(構築完了)」
彼女が作り出した武装は、おおよそ創作でしか見ないような奇怪な物だった。歴史上のどこにも存在せず、一から百まで架空の剣。
刀剣としての剛性と鞭のような柔軟性を持ち、節々に分かれた刀身によって二つの特性を併せ持つ武器。
「
駆ける夜神は、兵器の構築が完了すると高く飛びあがった。背中の翼から青い炎を噴出し、地面より20mほど離れた空中で
眼下では、彼女を撃ち落とすために遠距離攻撃のできる個性持ちが夜神に視線を向けていた。自身の身を守るために自己判断で攻撃しようとするが、弾は発射されない。
「(そうだ。それで良い先生)」
狼狽える
その一瞬のうちに遠距離攻撃持ち全員が彼によって気絶、あるいは捕縛された。それ以外の
「やはりプロは違うな」
数があろうと所詮はチンピラ。私という囮がいたとはいえ、ほんの数十秒でこの場にいる
イレイザーからは親の仇というぐらい睨まれているが結果は上々。雑魚といえど脳無との戦闘でうっかり殺してしまったら面倒だからな。
ただ、そこいらのチンピラが束になろうとプロの敵ではない事は彼らもわかっている。だが、ここまで早く片付けられるとは流石に予想していないだろう。現に死柄木弔は苛立ちを隠せていない。
頭を激しく掻きながら夜神を睨み付ける彼は、それでも次の行動を脳無たちに伝えている。その隙に、イレイザーが彼を捕縛するために駆ける。
「
それを見計らって、彼女も
「(さあ、どう出る?)」
空からは化物のような大刀で突撃する夜神。
地上からは厄介な個性持ちのプロヒーロー。
ついでに脳無はイレイザーの個性によって万全には動けない。であれば、死柄木の取る行動は1つだけだ。
「黒霧!」
その声に従い、彼は一瞬で夜神の前方にワープゲートを出現させた。
「(来たか!)」
音速に近しい速度で突撃する彼女は止まれない。
いや、そもそも夜神に速度を落とすという選択肢はなかった。今回の事象では彼女は多くに関われない。特殊脳無の撃破は必要だが、死柄木弔や黒霧の捕縛は自らの成すべき事ではないと考えている。
だがしかし、ヒーローとして
「広い空だ」
結果は成功。
彼女は訓練施設の上空800mに転送された。訓練施設が豆粒に見えるほどの高度であり、大規模な戦闘が行われても気づかれる事はない。
「さて、私がワープされたという事は響香たちも転送されたであろう」
夜神の呟く通り、ワープゲートに突っ込んだ直後に生徒の大半は黒霧によって様々な場所に送られた。ゲンサクと同じようにバラけ、ゲンサクと同じ者が元の場所に残されている。
「であれば貴様とは気兼ねなく戦える」
彼女をワープしただけでは不十分な事は
「■■■■■■■!!」
異形の肉体を持ち、雑音のような雄叫びを上げる化物。元が人間だったとは思えない姿を見れば、流石の彼女でも哀れみすら覚えた。だが、ここにいるのは両方とも人でなし。破綻した精神を持つ少女と壊れきった精神を持つ怪物だ。
「我らは異物。故にこそ名乗ろう」
両者に違いはなく、どちらも元となった人格は完全に消滅している。
「我が
言うなれば彼らは動く死体。
彼女の名乗りに意味はなく、意義もない。
「いざ尋常に勝負!」
「■■■■■■■■■!!!」
ただ夜神の気分が上がるだけである。
【特殊脳無】
体長4mの細く歪な肉体を持つ存在しないはずの脳無。無機物と自身に作用する重力操作が可能らしく、スピードに特化している。また、四つの複眼で相手の動きにも高い精度で対応可能。