ラスとヘンリーと   作:なす94

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「まあ、そんなわけで第一印象最悪だったわけだ」

 

 長くも短くもある沈黙のあと、いきなり明るい声をだした。

 

「だけど、な。まあ、そんなのはガキの妬みだ」

 

「一番何より嫌いだったのは……」

 

 

 言葉を切ってじっと俺の目をあわせる。

 

 

「お綺麗なところだ」

 

 

 低くガラガラの声が響いた。そのザラッとした響きが自分の波長とあってしまい、ドキッと胸が高鳴る。

 

「手が止まってるぞ」

 

 はっと気が付いたら、いつの間にか手から章印を離していた。

 自分がいかにこの話の虜になっているのか、見せ付けられてしまった。

 こいつは早く続きを聞きたがっているのを知ってて焦らしている。

 

 明らかに楽しんでいるヘンリーに舌打ちして、先を促すように作業を再開した。

 

「綺麗な奴ってさ、尊敬するけど、一緒にいるときついんだよな」

 

 近づくほど自分がいかに汚いか判ってしまう。相手が綺麗なほど自分が醜く見えてしまう。

 

「アイツは究極だからな。たまったもんじゃないぜ」

「だから、オレはアイツが大っ嫌いだった」

 

「……」

 

 沈黙が流れた。深刻な顔した俺の額にデコピンが舞い降りた。

 

「っテ」

 

 突然の不意打ちに、額をさする。

 

「図星だな」

 

 目を開けると視界いっぱいにニヤッと何でもお見通しの笑顔があった。

 図星も何も、自分でも良くわからなかった気持ちを的確に言い当てられた感じだ。

 俺は素直に頷くしかなかった。

 

 やっぱりなと、ヘンリーは頷いた。

 

「まあ、そう気に病まないことだな。お前のその感情は変なわけじゃないさ」

「自信持てってのも変な気もするが、しっかり目を逸らさずに胸張って見据えていろ」

 

 その点、お前は大丈夫そうだな。と大っ嫌いと言い切ったラスを見て楽しそうに笑った。

 

「いつか、答えが出るさ」

 

 そういってコリンズの親父は満足したように作業を続ける。

 あれ? なんか話が打ち切られた? 

 

「おい」

 

 んー? なんだー? と下を向いたまま作業を続けたまま返事が返ってきた。

 

「何で『大っ嫌い』から『親友』になるんだ?」

 

「何だ、それも聞きたいのか?」

 

 当たり前だ。

 

 意外そうな顔をみて本気で話す気がなかった事が分かった。

 これからが聞きたい話だというのに

 ここまで話しといて、肝心なところを話さない気か。

 

 なんとしてでも聞き出してやろうと、有無を言わせないようにまっすぐヘンリーを見た。

 ラスの催促にヘンリーはシャッとサインを一つ描いて羽ペンをコトリと置いた。

 

「お前、アイツの事好きになりたいんだな」

 

「違う!」

 

 カッと頭に血が上り、自分でも驚くほどの大声が出た。

 イスが音を立てて倒れ、たたかれた机から本が数冊落ちインクがこぼれた。

 

 すぐに自分の過剰な反応に後悔した。

 

 剥きになったことが恥ずかしくて、チラッと相手を伺うと

 全く驚いた様子もなく、いつもより明るい緑がゆらゆらと光を揺らしていた。

 

「お前、かわいいな」

 

 クックックッと笑われ、顔が赤くなった。

 

「違うって言ってるだろ!」

「わかったわかった」

「わかってねーよ!」

「わかってるよ。誰も、『強がり』なんて言ってないだろ?」

 

 かわいいって言っただけでとニヤッと笑われて、何も言えなくなった。

 

 コイツの言葉は、目を背けたい気持ちを的確についてくる。

 必死で否定するが、この否定をどうやってこいつに表現すれば伝わるのか分からなかった。

 乱れた息が元に戻らなくて、それどころか湿ってきてるのを感じ、唇をかんだ。

 

「お前なんか嫌いだ」

 

 キッと負けないようににらみ返してやったら、またニヤッとあの笑顔が帰ってきた。

 

「悪かった。まあ落ち着いて座れよ」

「語ってやるよ、オレのトップシークレット」

 

 

 

 *****

 

 

 

「いいか、誰にも言うなよ。特にリュカにはな」

 

 そう念を押されて話が始まった。

 

 なぜ大嫌いから大好きになる出来事をそんなに隠したがるのか分からなかったが、

 こいつの性格上言わない方が身のためだと思った。

 

 いざ話がはじまるかと思いきやなかなかしゃべりださず、何やら言い渋っている。

 

「ところでお前、オレ等が誘拐されてた10年間何してたか知ってるか? 」

 

 ああ、そのことか

 

「奴隷……」

 

 本人から聞かされたわけではないが、子供には教えるべきではないとオジロンとサンチョが語っているところをたまたま聞いてしまった。

 

「そうか、知ってるのか」

 

 うーむと手をあごにあてるコイツは何を考えてるのかわからなかったが

 自分の中で納得するものがあった。

 

 

「奴隷仲間だったからか」

 

 俺のつぶやきに頭を振った。

 

「奴隷になったおかげで仲良くなったわけじゃないからな」

 

 そうなのか? 首をかしげる。

 

「まあそれもあるんだがそんな単純な話でもないんだ」

 

 

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