錆兎ちゃん(♀)と直感義勇さん   作:Moa

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そうだね、17歳だね

胡蝶カナエ、17歳。冨岡義勇の奇行に巻き込まれた。

 

物陰からぬっと出てくるなり無言でカナエをじっと見つめる。義勇が無口なのはいつもの事だが圧が凄い。見つめられたのが西塔辺りなら悪夢に出てきかねない所だ。

 

「ええと、何か用かしら?」

柱としての任務に関する事か、それとも怪我の治療に関する話か。

「大事な話がある」

「場所変えた方がいいかしら」

「いや、ここでいい」

そして冨岡義勇は。

 

「胡蝶カナエ、俺の傍にいてくれ」

爆弾発言を繰り出した。

「ええ……えっ!?」

義勇が真面目な顔で頼み込むのでカナエは戸惑っていた。これって告白? でも対の柱、錆兎さんとお付き合いしているんじゃなかったかしら。

 

カナエは心優しいと評判の女性だが、だからこそ言うべき事は言える女である。

「冨岡くん、浮気は良くないと思うわ」

「俺は浮気していない」

「そうなの?」

「本気だ」

「でも錆兎さんはどうするの」

「錆兎は関係ないだろう」

「お付き合いしているんでしょう?」

だって肩が触れ合いそうな距離で話していたから。近いのよ。

「違う。錆兎は親友だ」

義勇の思考回路を解説するとこうだ。

近々カナエに危険が訪れる予感があるから気をつけてほしい。

何故浮気の話になるか分からないが、浮気というのは交際相手がいる場合に使う言葉である。交際したい相手はいてもしている相手はいない。

カナエが危ない目に遭ってほしくないと本気で思っている。

しかしこの内面は胡蝶カナエに伝わっていない。行間を読むとかそういう次元ですらないので当然だ。

 

説明をすっ飛ばしすぎである。

 

愛の告白と認識したカナエは悩んで。

「返事は少し待ってもらえるかしら」

判断を保留にした。

「分かった。出来れば早く欲しい」

 

 

 

誰が聞いていたのか噂は瞬く間に広がり蝶屋敷にて。

 

「姉さん! 冨岡さんに告白されたってどういう事」

しのぶが問い詰める。その横ではカナヲが立っている。カナヲはいつもの微笑みを浮かべていた。どうすればいいかわからない状態だ。

「それがね、突然のことで私にも分からないのよ」

カナエは首を傾げる。

「あの人は絶対駄目」

しのぶは猛反対である。

「駄目かしら?」

「姉さんより大事な人がいるのに告白するとか許せない!」

「まあまあ落ち着いて。冨岡くん、錆兎さんと付き合っているわけじゃないんですって。本気で告白してるって言われたわ」

「え、嘘でしょ」

「嘘をついているようには見えなかったのだけれど」

もし本気でカナエを恋人にしたいというのなら。

「冨岡さん、女心を理解してなさすぎません?」

他の人とちょっと距離が近すぎるのはどうかと思うの。

「姉さんそれでいいの?」

「正直ちょっともやもやする部分はあるわね」

「絶対やめておくべきよ! 姉さんを大事にしてくれる人じゃないと!」

 

「カナヲはどう思う?」

末の義妹にも聞いてみたところ。

「……恋愛、よくわからない」

とのことであった。

 

***

 

水屋敷には対の水柱と真菰が暮らしている。

 

 

錆兎が庭で鍛錬に勤しんでいると真菰が飛んで帰って来た。

「聞いてよ錆兎! 義勇が『花柱に告白した』って噂になってる!」

第一声、これであった。

「米寿が教えてくれたの」

ベイジュとは瀬尾葉子付きだった鴉の名だ。ちなみに雄。瀬尾が名付けた。長生きしてほしいという想いを込めて八十八歳の祝いを意味する名を与えたのだ。しかしその願いと裏腹に米寿は何人かの主を転々としている。つまりはそういう事。

呪いでも何でもないよくある話。

 

「義勇が……告白……?」

それにしても告白。告白か。

相手の胡蝶カナエは花柱であり、慈愛の剣士であり、『無欠の神童』と同い年でもある。ちなみに神童と同い年の世代には新人教育の場に革命を起こした真菰をはじめとして、鬼への殺意は随一の不死川実弥(この調子ならもうすぐ柱になるだろう)や変幻自在の蛇こと伊黒小芭内(彼も数年以内には柱になる未来が見える)など有望な人材が集まっている。同い年ではないがこの世代に煉獄杏寿郎も含める解釈もある。

さて、才色兼備のカナエに告白とは。

「何考えてるんだろ。酷いと思わない?」

「酷いかはともかく戻ったら本人に聞いてみた方がいい」

別に『酷い』とは思っていないが錆兎の中で義勇と色恋沙汰がどうにも結びつかない。鬼を斬るのに夢中で恋愛する余裕はなさそうだ。そういう所は不器用な奴だ。

そもそも本当に告白したのか? そこがまず疑問であった。

 

「錆兎は義勇が他の人と付き合ってもいいの?」

「俺があれこれ口を出す事でもないだろう」

胡蝶カナエは美人で優しくて強くて魅力的な女性だ。彼女に親友を託すことになっても後悔はしない。はずだ。

「お互いが望むなら俺が止める理由はない」

「錆兎……」

どういう感情の顔なんだ真菰。そのため息は何だ。

 

「それに義勇も恋人ができたら少しは話下手が治るかもしれない」

「彼女さんに任せきりになって悪化するかも」

「一理あるな」

 

錆兎は二人が結ばれる姿を想像してみる。

「夫婦の門出には俺も呼ばれて、親友をよろしく頼むという話をする事になるだろう」

「かわいそう」

「めでたい事だろう」

「なんでもない、続けて」

「義勇は口下手だから何かの度に妻を悲しませてその度に相談に来るかもしれない。その時は俺が説明してやらないとな」

「ありそう」

「安産祈願の為に奇行して気味悪がられたり」

「うん、想像できる」

「俺が見ておかないと義勇は何するか分からないからな。夫婦円満の手伝いはしていくつもりだ」

「ちょっと寂しそうだね錆兎」

「寂しくしているつもりはないが」

「仕方ないよ、義勇が他の子と付き合ったら今みたいに一緒にはいられないだろうし」

それは錆兎が考えた事のない視点だった。

「そうなのか」

「義勇が錆兎ばかりと一緒にいたらお嫁さんの方が気にしちゃう」

難儀なものだ。

 

「まあ『付き合ってない』ってのは見てればわかるよ。それでも周りが勝手に不安になっちゃうものなんだよ。だから二人で出かけるのも難しくなると思う」

錆兎の胸を微かな違和感が通り抜けていった。

二人の関係に終わりが来るなら先にどちらかが死ぬ事だろうと思っていた。

 

「どうして俺は女の身体なんだろうな」

昔から、いわゆる女性らしさを身に着ける事に興味がなかった。柔らかい曲線へと変化する身体がどうもしっくりこない。かといって男だと言い切ることもできなかった。

「それでも錆兎は錆兎だよ」

「そうだな。……胸が邪魔になるのはどうにかならないのか」

もちもちである。

「えー何それ! でも錆兎なら許せちゃう! ずるい!」

まあその何だ、何とは言わないが真菰は控えめであった。

 

 

「それにしてもさあ、『俺の傍にいてくれ』なんてどうしてあんな熱烈な愛の告白しちゃうかな」

「告白? 何の話だ」

義勇がひょっこり顔を出した。帰ってきてたのか。

 

「わ、おかえり。『胡蝶カナエに告白した』って噂になってるよ。ほんと何してるの義勇」

「告白とは何の話だ」

「そりゃもちろん愛の告白に決まってるでしょ」

「記憶にない。少し話したがそれだけだ」

何が何だか分からないという顔の義勇に錆兎が解説を要求する。

「カナエに言った言葉は覚えてるか?」

「ああ。……傍にいてくれ、と」

原因それじゃねえか。

「なんでそんな事言ったの」

「17歳だから」

「え?」

いやそんな『風が吹けば桶屋が儲かる』みたいな説明されても。なお静の水柱は至って真面目である。

「カナエが17歳の時に何か予感があるって事か」

「一言で理解できる錆兎は何者なの」

「錆兎は錆兎だろう」

「そうだけどそうじゃなくてね」

真菰は考えるのをやめた。

 

「カナエが危険だという声が聞こえる」

要するにまたいつもの直感らしい。

「分かった。気にかけておく」

この直感、出てくるタイミングに規則性がないのも悩みどころだ。今回は予告がある分だけマシかもしれない。

 

 

「そのうち義勇が女の人に刺されないか心配」

「俺は柱だが」

「そこらの女に刺される程弱くない、って意味だな」

錆兎の解説は相変わらず頼もしい。

「知ってるけどそういうことじゃなくて。普通の女の人だったら口説いてると思われるよそれ」

義勇は言葉選びが致命的に下手だった。

「顔がいいから困るんだよねえ」

嫌われそうになるたびに錆兎が訂正するのはいつもの事だが今度は逆方向か。思わせぶりな態度まで身に着けてしまうとは。中間はないのか中間は。

黙っているから誤解される。喋っても誤解される。詰みだ。

 

「錆兎は俺を理解している」

「知ってるよ? 他の女の人が誤解するかもって話してるの」

「錆兎がいる」

「また俺に説明を頼ろうとしてるのか!? 少しは自分の言葉を使え」

「無駄だ」

俺が話しても悪化してしまうからという意味だ。

「どうするのよこれ」

 

 

なお、胡蝶カナエには「気持ちは嬉しいけど冨岡くんにはもっと相応しい相手がいるもの」と断られた。紛らわしくて非常に申し訳ないが愛の告白ではないことを補足しておいた。錆兎が。

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