錆兎ちゃん(♀)と直感義勇さん   作:Moa

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ここすき一覧(気に入った文章をダブルクリックすると投票できる機能)見てたんですけど、早速「もちもちである。」に投票されて笑った。お陰でとても筆が進みました。今までで一番長いと思います。

皆様のお陰で5000UA到達することができました。ありがとうございます。
こっそり感想受付設定を非ログイン可に変更してみました。

【注意点】
・さび&まこの名字捏造(鱗滝姓ではありません)
 ・これやるか悩みに悩みましたが、原作完結してるしそもそもサイコロステーキ先輩魔改造ルートの時点で今更だったね。



隊服要件定義

「お、丁度いいくらいの縫製係がいるじゃねえか」

西塔は隊服が破れたので新調してもらいに来たところだ。服が壊れるのはある意味幸運。服だけで済んだのだから。

 

しかし西塔が目の当たりにしたのは縫製係の前田が錆兎に胸倉を掴まれている姿だった。

「何だこの胸元は! 人体の急所を何だと思っている!」

錆兎に乳房がまろびでそうな隊服を渡したのがきっかけらしい。西塔は震えた。よくもまあ水柱相手にそんな事ができるものだ。前田よ、冨岡義勇が怖くないのか。

 

前田という男、実力は確かなのだが問題児であった。やたらと女性陣に扇情的な衣類を着せたがるので「ゲスメガネ」と呼ばれている。

「色気ある服、そりゃ好きか嫌いかと言えば好きだけど。よりによって柱にそれやるか?」

下心も理解はできる。この西塔という男は鬼殺隊の中でも俗物側の人間、そうした服を着た女性を見れば心が躍るのは仕方のないことだ。

ただ錆兎を恋人になんて考えられないだけで。何故なら西塔は鬼殺隊の中でも命は惜しい側の人間だからである。

 

 

錆兎に掴まれながらも前田はめげずに自作の隊服を語り続けている。

「出るとこ出た体型に良く似合っておりますよ」

「それは鬼を斬るのに役立つのか?」

この様子である。他の女性であれば「破廉恥ですと怒る」とか「黙って燃やす」とかそういう反応になりがちで、前田もそういうのを目当てにしていたが当てが外れた。錆兎は女の身体をした女でない何かだ。少なくとも西塔はそう認識している。

 

とはいえ合理的な理由があれば錆兎は何も言わない。

例えば真菰のスカートスタイルは自身の強みである速度を活かすために足を軽くする目的がある。

そして胸元を開ける例がないわけではない。自身の特殊体質を利用してあえて軽い傷を負う事で鬼の動きを鈍らせる奴がいた。それはそれで自分の身体を大切にしろという話になるのだが。

 

「とても似合って」

「機能性の話をしているんだが?」

逃げられない。

「それに俺には似合わん。世辞は必要ない」

西塔はこんな状況に入っていけるはずもない。

破損してから届くまでの間に着る予備もあるので後で鴉にでも伝言を頼めばいいかと一旦帰ろうとしたその時。

 

「西塔!」

名前を呼ぶんじゃない前田。

「お前がいたか。西塔はこの隊服についてどう思う」

錆兎の問い。答えを間違えれば地獄を見る。

「露出度を下げた方が防御力が上がると思うぜ。水柱様は危険な任務も多いからな、備えあれば患いなしって奴だ」

「そうか。そう言ってくれると思った」

 

「後は動きやすさだな。胸がはみ出ないか気にして動けないのは論外だ」

「ですが」

「分かったな?」

露出度を下げた服を作りますと約束させて錆兎はその場を後にした。

 

 

 

それを確認して西塔は本題に移る。前田に新服調達依頼をしにきた。

勿論仕事だからやるが、よければ別件で頼まれてくれないかとのこと。

「別件か、報酬次第だな」

西塔は金で動く男である。入隊理由も給金目当てだ。

「露出度が低くて似合う服を考えてほしい」

「悪いがそれは無理だな」

そんなものに関わる勇気はない。西塔はさっさと帰り支度を始める。

 

「発想力の申し子、西塔様にしか頼めないのです」

こういうときだけ様をつけられてもだな。

「呼吸が不得手なら罠でも何でも使えばいいという発想の転換、素晴らしい限りです」

工夫してる奴なら他にもいるしその観点なら胡蝶妹の方が凄いと思うぞ。

「流石は無欠の世代の中でも長く生き延びてきたお方。水柱様の他にいらっしゃいますかそんな方?」

村田、完全に忘れられていた。不憫。

 

結局西塔は褒美と褒め殺しと泣き落としに負けた。

「俺が考えた事は秘密にしろ」

「勿論ですとも」

「要は肌が出てなけりゃ良いんだろ?」

西塔はニヤリと笑って前田に耳打ちした。

 

「露出度を下げて防御力を高めろ」「動きやすさを重視」の二点。

要望通りのものが完成した。前田は西塔の発想を絶賛した。要望通りではあったのだ。

 

 

帰り際、西塔は同期の村田と出会う。椿油で髪を整えているらしくいつもサラサラだ。

「西塔! 柱の訓練の話聞いたか?」

「どうせ俺達には関係ない事だろう?」

「それがあるんだよ。試験官主催で水柱の打ち合いを見せてくれるらしい。参加自由だ」

「俺は遠慮したいぜ。静の水柱様が怖い」

「冨岡ってそんなに怖いか?」

同意は得られなかった。

「村田は気に入られてんだよ」

いくら同期とはいえ気軽に冨岡と呼び捨てにする勇気、西塔にはなかった。

 

「行かなかったら殺されるか?」

「流石に人間は殺さないから安心しろって。西塔の工夫、冨岡は見てるだろうし」

平凡な村田としては西塔が罠なり特殊な武器なりを利用する発想は評価しているのだ。西塔の武器は刀だけではない、本命はからくりに近い。刀鍛冶に発想を伝えて作ってもらったのだとか。「弱いがやたら数が多い」ような鬼に特に効果を発揮する。特技はそこそこの鬼を倒して下山する事です。

「休んでも変な事にはならないと思うぞ」

村田ならそうだろうが。

「まあ見に行くか」

 

***

 

きっかけは真菰の一声だった。

「ちょっと二人に協力してほしい事があるんだけど」

 

新人教育の一環として真菰は水柱の試合を見せる事を提案した。

「屋敷に呼んで稽古してるとこ見せるだけだから二人にはあまり負担かからないと思うんだ。ダメかな?」

「構わない」

「俺で良ければ協力しよう」

「ありがとう。二人とも大好き」

隊士の質を上げる努力は惜しまない。相手がついていけるギリギリの強度で指導できる真菰は得難い人材であった。

『前』の世界線では隊士になれず散ったが霊となっても的確な指導力を見せた。それが生き残り成長したのだから推して知るべし。

 

ということで真菰の企画が始まった。参加できるのは新人に限らない。やる気のある者は誰でも歓迎だ。

意気揚々と申込むもの、以前別の柱に指導を受けて挫折したから遠慮したい者、その他多忙で出られない者など多数だった。

 

 

そして当日。

既に屋敷は人で溢れていた。訓練に熱心な者が多いのは良い事だ。真菰の功績である。

 

「……冨岡義勇」

流水(ながみ)錆兎だ」

雫石(しずいし)真菰です。今日は水柱の稽古を見て学んでもらおうという企画なんだ。よろしくね」

「あれ? 鱗滝じゃないんですね」

その姓に参加者の一人は不思議に思ったようで。

「どこかで『鱗滝姉妹』って呼ばれてるのを聞いたような記憶があって」

「そんな呼ばれ方してたんだ。知らなかった。鱗滝さんのところで姉妹のように育った二人って意味で本当の姉妹じゃないんだよ」

「言葉を削りすぎでは」

「義勇はもっと削るから」

 

 

さて、今日の錆兎だが見慣れない服を着ていた。

いわゆるボディスーツである。全身をぴっちりと覆うので露出度は低い。動きやすさも問題ない。要件定義には合致している。

しかし錆兎は自覚していなかった。この世には露出しない艶やかさというものがあることを。引き締まった体型をこれでもかと押し出している。膨らみがよくわかる。

 

新衣装で登場したところ義勇に怒られた。

「何だその目障りな服は」

言い方。

「隊服の試作品だ」

義勇の「目障り」発言も本当は「目のやり場に困る」と言いたいのだがこれが伝わっていない。普段の錆兎は義勇の言いたいことを高精度で理解できるのだが色恋沙汰が絡むと途端に翻訳の精度がガタ落ちする。完全に無意識だ。

 

「義勇が嫌ならやめておくが、今日はこれで我慢してもらってもいいか?」

「その服を作ったのは誰だ」

「前田」

「わかった。着替えてこい」

「もう皆集まってるし待たせるわけにもいかないだろう」

「頼む。理由は説明できないが」

その言い方をされると弱い。義勇は一見すると不可解な行動で人を救う男だ。彼がそこまで言うなら仕方ない。せっかくのボディスーツだがお披露目が一瞬で終わってしまった。

 

錆兎が着替えに戻っている間、真菰は面白いものを見たという顔で義勇に視線を向ける。

「それどういう予感? あの服何がダメなの?」

「言えない」

真菰はヤキモチなんでしょ、他の人に見られたくなかったんだと詰め寄ってやりたいところだったが「あまり冷やかすのもどうかと思うよ」という亡き師匠の声が聞こえたのですんでのところで発言するのを止めた。真菰は未だに義勇と錆兎は無自覚な相思相愛だと思っている。そこだけはあくまで親友派の瀬尾と意見が合わなかった。

 

錆兎がいつもの中性的な隊服で戻って来たので早速開始する。

 

 

やる事は単純明快。

錆兎が攻撃して義勇が守る。ただそれだけの応酬だが、見て真似る事は学びとなる。

新人にはちゃんと見る事すら難しい速度の剣。目指すべき場所がそこにあった。

「今日の義勇、なんかいつもより気合入ってるね」

「俺の服が余程気に入らなかったんだろう」

とは錆兎の見解である。

 

 

錆兎の攻撃が静寂の後に弾かれた。

「今の見た? 義勇を象徴する技なの!」

真菰は二人の稽古に解説を入れていく。

「新しい型なんだって。できるなら真似してもいいよ」

いや無理。一同、心の声が一致した。

 

型の連続使用で疲労が溜まった所に錆兎の攻撃が届いた。豪快な荒波が直撃する。どちらも譲らない。

 

 

攻防が一段落したところで義勇が口を開く。

「次は欠損想定訓練がしたい」

「義勇! それは卑怯だぞ!」

と言いながらも対の水柱たちは左手で木刀を手に向かい合う。

利き腕が負傷しても逆の手で戦闘続行する為の訓練だ。今回は単純で左手同士の打ち合い。

普段は五分五分の勝負だがこれだけは義勇の圧勝である。出会った時から両利きだったのだからその差は大きい。

最もそれで諦める錆兎ではないが。

 

「なら次は岩を斬る事にしよう」

普通の岩では弱いので特注に用意された試し切り用の的がある。要するに岩というのは鱗滝さんの修行をリスペクトした比喩表現だと思っていただければよい。

「分かった」

先ほどは義勇の得意分野に誘導されたので今度は錆兎が攻撃力勝負に持ち込む。これは流石の錆兎であった。

 

今見ている者の多くは「なんかすごい」という段階だがそのうち凄さを具体的に理解できるようになるだろう。

この強度の稽古を続けられている事が、そもそも普通でないのだ。

 

やがて公開訓練は終わり。

「これで今日はおしまい。また機会があればやるかもだから見に来てね」

帰って訓練頑張ろうと思う人が出ればそれで成功。またひとつ質の上昇に貢献したのであった。

 

ところで風の噂に聞くと、ボディスーツの件で前田と西塔が絞られたりしたらしい。

前田自体は約束を守ったのだが西塔が一般隊士に「あの服考えたの西塔?」と聞かれて態度で隠せなかったのが原因だ。肝心な所で詰めが甘い。

義勇が静かに怒っていた。あのような服を見せるなと。




【コソコソ噂話】
キメ学の瀬尾さんは義勇の隣の家に住んでる幼馴染(恋愛的な進展は一切ない)。
西塔くんは焼肉店の息子。いずれはチェーン展開して出世したいのだとか。
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