錆兎ちゃん(♀)と直感義勇さん   作:Moa

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水の神童、無欠の世代

瀬尾葉子という女。

彼女は錆兎の命を救った水柱だが、最終選別で彼女の命を救ったのが師から贈られた狐面である。

 

初日で壊した。

 

だから救われた。鬼の攻撃、頭部への衝撃を丁度吸収してくれたのだ。粉々にしてごめんなさいと彼女は謝ったが、師は生きて戻っただけで良いと涙を流した。それもそのはず、選別を乗り越えられた弟子は彼女しかいないのだから。

 

いつか助けた子が選別を受けに行くと聞いて葉子はちょっくら顔を出してみたところだった。

「私以来の生き残りになれるといいんだが」

 

「瀬尾さん!」

「時間が空いてたから見に来たよ」

空いてたというのは厳密には嘘だ。多忙な柱がなんとか空けたというのが正しい。

「よろしくお願いします!」

 

葉子はすぐに気づく事となる。

―この子たち、強い。

錆兎の一撃の力強さ(十三歳の膂力じゃない。そういえば女の子だという事を忘れそうになる)。義勇のお手本のような型(私がこの完成度に達したのはいくつの時だ?)。真菰の素早さ(これでまだ本調子ではないとは)。

 

総評。

「十三の私より強いよ君達。余程の事がなければ生き残れるはずだ。戻ってきたら私の継子になりな、面倒見てやる」

「で、でも(嫌な予感がする。心配だ)」

義勇は何か躊躇しているように見える。

「嫌ならやめておくけれど」

「いえ、嬉しいです」

「そうかい」

葉子は三人の頭を順に撫でる。

 

「狐面が私の代わりに厄を引き受けてくれた。君達にとってもそうであることを願うよ」

 

「私は運が良かっただけだから」

自嘲する葉子に錆兎は反論する。柱は運だけでなれるものじゃない、葉子の努力の賜物だと。

「そうかい。錆兎は優しいね」

こういう子たちが育てば未来も少しは安心できると葉子は感じた。

 

 

***

 

ついに始まった試練。

『鬼のはびこる山で七日間生き残る』という条件を美しい女性から説明される。

 

 

生き残ればいいとはいえ錆兎は黙って隠れ続けるつもりはなかった。例え命を捨てる覚悟の人間だろうと見捨てられなかった。使命に燃えていた。

その熱意は義勇も同じだったようでひとつ提案された。

「錆兎、俺と一緒に行動してほしい。一日目だけでいい」

確かに一人よりも気心知れた仲との方が安全だろう。断る理由はない。しかしそれなら。

「終わるまで一緒に」

「いや。一日目だけでいい」

どうして。義勇は時々不可解な言動を見せる男だった。口数の少なさも相まって何を考えているのかわかりにくい。

ただ、一つだけわかっていることがある。義勇の謎言動に従って悪い事にはならないという経験則だ。

「仕方ないな」

 

 

 

先に進むとサラサラ髪の男が鬼と対峙していた。今の彼に三体同時は荷が重いか。軽く切り捨てて次へ。

 

「助かった」

感謝の言葉が胸を暖める。

 

 

 

次々と障害を排除していく。この調子ならまず負ける事はないだろう。

 

何事もなく一日目の夜を終えた。

 

じろじろ見られるのは苦手だが義勇の視線は別だ。錆兎は安堵の中眠りに落ちていた。

 

 

***

 

 

目を覚ますと義勇が消えていた。

それだけなら生理現象によるものか、しばらくしたら戻ってくるだろうと思ったのだが。

 

錆兎が肌身離さず身に着けていたはずの狐面もなくなっていることに気づいた。

 

「どこに消えた」

 

盗まれたのかとも思ったが、それにしては理由が思い当たらない。他に優先度の高いものはあっただろうにこの面だけをというのは不可解だ。

いくら義勇でも先生が作ってくれたお守りは盗まないだろう。

「……流石にないよな?」

 

 

 

ふと真菰の言葉を思い出した。

 

―お守りってね、持ち主の代わりに壊れるんだって。

 

初日で面を割られた姉弟子のことを思い出す。彼女の面は頭蓋の代わりに粉々になった。

 

 

 

これは警告だ。何の厄を避けてくれた? 錆兎は面があったはずの空間を撫でた。

 

警戒は続けるが足を止める理由になるはずもなく、義勇を探しながら鬼を斬り続ける。

 

見つからないまま最終日が訪れた。

 

「もうどこかで死んでるとかじゃないよな」

狐面の警告がどうにも悲観的にさせてしまう。

 

 

物音が近づく。人が走ってきた。一日目に会ったサラサラ髪の男だ。追われているのか。ならば後続の鬼を斬ろうとするも予想外の答えが返ってきた。

彼は必死の形相でこう言った。

 

「冨岡が危ない」

 

無数の手が生えた巨大な鬼と戦っている。その言葉を聞いて錆兎は駆け出した。

 

 

 

 

***

 

 

さて、少し時間を遡る。

義勇は別行動で鬼を狩っていた。

 

「こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ」

鬼の外見に油断していた男。

その後あっさりと危機に陥っていたので義勇は颯爽と現れて鬼を斬り落とした。この程度の鬼であれば頸を斬った瞬間灰になる。

「油断大敵だぞ」

とだけ告げる。

「い、生き残るだけなら余裕そうだな。俺は安全に出世したいんだ。適当に生き残って下山するぜ」

男の肩に手を置く。

「錆兎一人を犠牲にしてか?」

不思議と言葉が流れ出てきた。

 

「あいつ一人だけ死ぬなんてありえないだろ。逆ならまだしも」

肩を強く握る。

「いっ……なにっ……しやが」

「慢心は実力差を覆す。気をつけろ」

このくらいでいいか。手を離す。男はガクガク震えていたが義勇は無視して先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして義勇は出会った。鱗滝への復讐に執着し狐面をつけた者を皆殺しにしたと豪語する鬼と。

 

「そうか」

『これ』が誰も戻らなかった理由か。

平静を装う義勇の内心は怒りに満ちていた。

 

 

異形が腕を振り下ろす。

 

その腕は、『消えた』。

 

全てを打ち消す静の奥義の原型。しかしそれは僅か十三の身体と連続戦闘で疲弊した刀に負担のかかるものであったらしく。

 

刀が、折れた。

 

「……あ」

 

「静かなガキ、美味そうだな」

 

一瞬の隙。手を、足を、頭を掴まれる。外から圧縮される苦痛に意識が遠ざかる。

 

痛くて、苦しくて、何もわからなくなる。

 

待て今頭を潰すと言ったか。

 

思考が高速で駆け巡る。

 

『余程の事がなければ生き残れるはずだ』

『私は運が良かっただけ』

彼女の言葉は全て正しかった。

 

錆兎は大丈夫だろうか。

 

初めて出会ったとき錆兎が何故かとても懐かしく感じた。

選別前日はとても怖かった。二度と錆兎に会えなくなる気がして。そうか、この予感も合ってたのか?

 

「姉さん?」

悲しげに微笑む姿が見えた。謝らなきゃ。守れなかった事。俺がもっと早ければ。

 

「俺もそっちに」

「諦めるな!」

今のは。錆兎の声だ。

 

「死ぬなと言ったのはお前だろう! 先に逝ってどうする!」

 

―水の呼吸 弐ノ型 水車

 

鬼の腕が斬り飛ばされる。解放された身体が宙に浮く。地面にふわりと落ちた。

 

「俺の親友に触るな」

その日義勇は、錆兎の殺意を初めて目の当たりにした。

 

 

 

 

錆兎と鬼の一対一を義勇は見ている事しかできなかった。

全身が痛むが、それでも刀さえあればまだ戦えるというのに。

 

鬼の発言は二人を怒り狂わせるには充分すぎるものだったが、義勇が一番許せなかったのは『親友の目の前で食らってやろう』などとほざいたことだ。

 

歯嚙みしている所に救いが差し伸べられた。

「俺の刀を使え!」

助かった。義勇はすかさず加勢に向かう。

確か『適当に生き残って下山するぜ』など言っていた男だがこの際何でもいい。

 

錆兎は義勇にとって一番の親友だ、息が合うのも当然。

守りに長けた義勇が錆兎に向く腕を数度飛ばす。その分錆兎が攻めに集中できる。

 

戦況が、さらに有利に働く。

 

「助けを呼んできた!」

続々と集まってくる。サラサラ髪の男、村田の功績だ。今の自分ひとりで足手まといなら、もっと連れて来ればいい。

 

鬼は頸を斬らねば死なないが、他の部分を負傷させれば部位再生のため頸への防御を疎かにせざるを得ない。硬くて斬れないなら柔らかくしてしまえばいい。

 

俺達は一人じゃなかった。

 

錆兎が刀を振る。届け。妨害する腕を義勇が止める。守れ。

 

師匠の、兄弟子達の仇を討て。怒りを止めるな。

 

錆兎の刀がついに鬼を捕らえる。

 

―水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

 

それは荒々しく流れ、目標を完全に貫通した。

 

 

歴史が、変わった。

 

***

 

屋敷に不思議な高揚感を与える声が響く。

 

「何人生き残ったかな」

「今回は全員」

そうか、駄目だったのか。生還者なしの回も何度かあった。

「それは残念だ」

「いえ……全員生き残りました」

「何だって」

 

四半が残れば優秀とされる中で前代未聞の全員生還。鬼殺隊の主、産屋敷耀哉はその奇跡を喜んでいた。

 

その奇跡は二人の神童を抜きにしては語れない。宍色の少女と狐面の少年がほとんどの鬼を狩っており、参加者の大半は彼らに救われたという。

そして彼らが救った者が今度は二人を救う側に回った。鬼が持たぬ力、人の団結だ。

 

 

「未だ空白が目立つ柱の席。そのうち二つは決まったかもしれないね」

 

手を取り合った奇跡の原動力達は、後に『無欠の世代』と呼ばれる事となる。

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